161.デジタルオカルトブーム3
監督は冷蔵庫を寺に運び終え、車で妻と帰宅する。
「低性能の冷蔵庫、どっこも売り切れだよ。1週間は冷蔵庫を使わない飯になるよ、覚悟しな!」
「ひ、ひええ」
テレビ局がどこからか見つけてきた、オーダムという潰れかけの寺の男。怪談話を得意としており、それがテレビ局から大金を積まれ、械霊漫談家として一躍時の人となった。
「あんたの作業用のパソコンもお寺で見てもらったら、ウイルスかもしれないし、霊の仕業かもしれないし、今までウイルスの仕業と思っていたことも械霊の関与を否定できません。供養して廃棄しておきますよ?だってさ」
「おいおいおい、何を勝手な」
なんだなんだ?!この世の中の極端な思考の傾きは?!そういえば・・・ベッケンが昔、政府により宗教が弾圧された国の話をしてたな。宗教が何もなくなったところに・・・どん!と宗教が入り込んだら、爆発的な広まりを見せたとか。
デジタル機器の発展で、アナログ機器による心霊写真も、幽霊の声がする録音も、なにもかもなくなっちまった反動だってことか??
新幹線や車の管理までアナログに戻すと政府が言い始める始末、ウイルスや別の要因での不具合が霊と見分けがつかないから弾圧するなんて、どっかの歴史の再来じゃあねえか。
発展途上国にお古を高値で売り付けていた業者が大急ぎで商品回収をしているとも聞く。
「えー。ここで緊急速報です。オーダム氏の寺が炎上し、中から身元不明の遺体が」
ラジオからの声に驚く監督。
「ありゃー。やっぱりあの寺はインチキだったんだねー。械霊を供養したと見せかけて後進国に家電を横流しして儲けてたって話だよ、天罰だねえ」
おいおいおい。さも昔からあった常識のように械霊の話をするな、つい最近の言葉じゃないか。いや、これがいつからあるか、なんかよりも・・・今どれだけの人が言っているか。それしか判断基準にしていないんだろうな。
「あんたのその持っているラジオも集積?回路?だかなんだかついてないだろうね、ってあれ?電気は械霊の魂みたいなもんなら、機械全部使うのが」
監督は妻の独り言を聞きながら、ベッケンへの電話は欠かさなかった。しかし、ふと。オカルトに戦えと無責任に言ってしまった自分に怒りが湧いていた。
同時に、ここまでになると誰が予想できたかと。自分を擁護して心を落ち着かせていないと耐えられなかった。
ベッケンと連絡が取れぬまま数日、監督の住む地域だけでも集合住宅で火災、一酸化炭素中毒が発生していた。
「お、おいおい。械霊の仕業がどうのなんて関係ねえじゃねえか、こりゃあ人災だよ」
「・・・・。かといってあんた。周りを無視して電気を使い続けて見な。『頑張って』生活レベルを下げて耐えしのいでいるのに不安や根本的な問題がいつまでも解消されない・・・ルールを守っていないやつがいる、探し出せってなるだろうよ」
監督は妻の愚痴を聞くと、我に返ったように安心した。
「は、はは。俺ゃぁてっきり、オマエは械霊にゾッコンなのかと思っちまってたが、冷静さを欠いていたのは俺の方だったか」
大柄の女性は監督の背中を強く叩き続ける。
「戦争や幽霊や、学力や生まれ持った格差や。そんなの関係なく、一番怖いのは人間なんだよ。とりあえずは・・・皆が落ち着くまで昔の生活方法をあたしらが教えて回るしかないね」
「そ・・・そうだな。手洗い洗濯、フライパンで飯盒。1か月経って備蓄された食品がなくなったらどうなるやら」
「火事場泥棒にも注意だねえ。俺は悪いことしているけど悪いことをさせる世の中が悪いから俺は悪くない、出てくるよ、気をつけな」
監督は嫁に頷きつつもベッケンへの電話を再開するのだった。




