160.デジタルオカルトブーム2
二人だけが残されたスタジオに駆け寄る男が一人。
「はあ、はあすいません。い、今更なんですが胡蝶蘭を、ああ、すいません。バイトが時間を間違えてまして、松本・・・隆幸様?」
「もう撮影は終わっているのに、お礼を言う時は遅れたと言わないようにするから、口裏は合わせろよ」
「へ、へへ。ベッケンさんすいません。ファンです。いつも見てます」
握手を交わした後、ベッケンは男に手を差し出す。
「いいから、誰からの華なんだよ」
「RUFUS、外人のファンですかね??へへ」
監督は不愉快そうな顔をしたベッケンを恐々宥める。
「・・・・なあ?監督?言っただろう?花屋ぁ。華が届く時間ん、遅れたのはぁお前たちのせいじゃあないぃ」
(あいつら、自分たちの祝いのように当てつけで華を・・・くそ)
後日、ベッケンの最後の放送ともあって・・・・更に巷で噂さ始めたモノの確認のためか、視聴率は驚異の数字を叩き出した。
ベッケンの演技を見て驚きの声を上げるルーファス。それに共鳴して反応を見せるデバイスたち。
オカルトの解明を生業にもしていたベッケンの最後の放送は、奇しくもデジタルが引き起こす怪奇現象を後世に残す、不本意な記録となってしまったのだった。
「OSやソフトウエアで中身が書き換えられるコンピューターが生き物?中身が最初とは違うのです。仮に生きていたとしても魂があるなど」
「人間も細胞が入れ替わり続けているから成長をしたり怪我が治ったりします。半年で全ての細胞が入れ替わると言われている人間のほうが1年アップデートされないパソコンよりも中身が入れ替わっていると思いませんか?」
「えー。機械の声が聴ける最先端デバイス。電流の供給具合、処理速度からお使いの機械の機嫌がモニターに顔文字で表示されます」
「機械は電気がなくては生きられません、生命の源です。すなわち古代雷が神様として・・・・」
「オーダムさんの御寺では機械の供養をされているそうで」
「ガーーー!!カ!!カツ!!そうですとも、帝釈天様のお怒りは我が宗派でのみ解決できるもの、ガーーー!!カッ!」
「カイコや犬、家畜が人間に都合のいいものが残されたように、帝釈天様が機械に身を移し、我々人間の中で機械に都合のいい人間のみを選別する日が迫っているのです」
監督は新聞を見つつ、ベッケンへ電話をかける。
「今日も・・・ベッケンは電話に出ず・・・か。確かに新聞記事に世間の反応は薄かった。しかしベッケンの最後の放送から、その記事が再評価され新聞賞を受賞、そこからじわりじわりと械霊特集が増えていった。ベッケンが認めた械霊の正体に迫る、なんて反ジョブズの運動家まで加わって、知能のあるコンピューターの放棄まで言い始める始末」
「あんた、新聞見ながらブツブツ言ってんだい、手伝っておくれよ」
妻に大声で怒鳴られる、監督。
「なんだなんだ?」
廊下に出ると監督の妻は大きな冷蔵庫を指差す。
「夜中、怖い音を鳴らして困ってるだよ、これから・・・・」
「修理なら業者が取りに来てくれるだろうから、俺たちが持っていく必要ないんじゃないか?」
「なーにいってんだよ、そこらへんの業者に頼んだら供養せずプレス。このままじゃ祟られるだろ?他の機器に乗り移られたりでもしたらたまったもんじゃない。故障してないにしても清めるために寺に持ってくんだよ、気にし始めたら疲れてしかたない、供養しなくていい低性能な冷蔵庫を買っておくれよ、そのほうが経済的だよ」
高性能な機器には「清め済み」と書かれた札が貼られ、貼られていない機器には「清め供養不要」と家電量販店は異様な光景に包まれていた。




