159.デジタルオカルトブーム1
「機械の霊・・・械霊」
観客の幾人かは手に持ったスマートデバイスを握りしめる。強く握ったのを躊躇して優しく撫で直すものもいた。
「お、おい。ベッケン。そんなもの本当に・・・」
ベッケンの椅子に手を当てる監督に振り返りざま睨みを利かせる。
「わからない、わからないと思う事さえも・・・考えさせられた時点で存在を認知したことになる」
「・・・・考えては駄目・・・ということか。しかしこりゃあ」
監督はベッケンに言葉を託す。
「ああ、絶対防御不能な、呪いだ」
ベッケンは笑ながら俯いて続ける。
「知ってしまったが最後、寝ている間も過去でも未来でも存在する脅威になっちまう、生きていたら自分じゃない誰かが話している声や字を見てしまったら呪いは再発しちまう」
「・・・・この公開インタビュー自体をなかったことにするか?」
ベッケンは腕組みしながら宙を仰ぐ。
「黙っていろ・・・は逆効果だ。広まる」
ベッケンと監督が小声で話すのをインタビュアーや観客の数人が見始める。
「科学的根拠がない心霊はイカサマだ、それでは科学から生まれた彼らの魂や心の存在は一体、否科学も宗教の一部ならば、」
「昔のテレビは叩くと直ることはありました、人間にもサボったりしているものに喝を入れると、」
「みなさんならわかりますよね?そうです、そうです、」
「デバイスが高音になって爆発する事件がありました、感情が高ぶると人間も体温が上がり、」
白井の独壇場は続く。
「さあベッケンさん、知恵があるものは心を持つ、心を持つものは魂がある、魂があるものは死後の世界がある、現代のフーディニーと呼ばれる貴方の見解をお聞きしたい、どうでしょうか?」
監督はベッケンを見る。
「ベ、ベッケン・・・」
ベッケンは息を少し吸うとあっけらかんに答えた。
「どちらでもいいんじゃない?死んでから死んでからのことは考えたらいい。定義の問題だから」
白井はあっけにとられたがすぐに持ち直す。
「そうですね。・・・・・その通りです。言葉が一人歩きされてしまうと、とても怖いことになりますからね」
ベッケンは不快そうなシワを眉間に作り、白井のほうを笑顔で見る。
「そうです、そうです。一人歩きするほどの言葉はそもそもいつか誰かが広めてしまうものですから」
白井はベッケンに頷きながら続ける。
「あー。その通りです。械霊もどこのだれがいつ言い始めたかさっぱり分からず、わたしもチャールズバベッジから研究を始めているところ・・・」
二人の会話を遮ったのは、インタビュアーの女性だった。
「はい、それでは予定より早いですが、これで公開インタビューを閉めたいと思います。ベッケンさん、御来場のお客様ご協力感謝致します」
足早に現場を去る二人。白井とルーファス達もスタジオの外へ進む。
「こりゃあ、あの二人が面白おかしい記事を書いちまったら、すぐさま日本中にブームを起こす新しいオカルト素材になってしまうんじゃないか」
「すぐさまか・・・・俺は違うな」
「流行らんってことか?俺なんてもしかしたらってすぐ想像を働かせてしまったのに」
「あえて著作権フリーにしたんだ、いつ、誰が言ったかわからん、得体のしれない怖いもの、誰かが言ってた知らないけど、よくわからない、みんな言っている、知らないんですか?尾びれ背びれがついていくだろうな」
ベッケンは確信があるように続ける。
「ゆっくり広まった、大きなデマを否定するように、整理整頓する役として・・・やつは再び現れる」
監督はそれを聞くと、ベッケンの背中を叩き、激励する。
「ならまあ、そのときはまたベッケン様大活躍ってことだな、はっはっは、ってあれ?」
「そう・・・だな。需要があれば、だがな」
監督はニヤニヤしながらベッケンを叩く。
「なんだあ?やる気じゃねえのか?まぁそれなら安心だ、はっはっは」




