156.ファジー
撮影前のゴタゴタとは打って変わり、なんだったら収録はいつもより順調に進んだ印象だった。
「生き物により目の構造は異なり、特に昆虫の目の構造は今後の人類の進化、ハイテク機械への応用に期待が持たれています。特にトンボの目は面白く、脳にあたるコンピューターが個々を管理できるようなれば・・・・」
ベッケンはスポットライトを浴びながら黒い魔法使いの姿で白い仮面をつけ暗闇の中語る。
監督が合図を行い、ジェットスモークの煙に光が当てられる。
AD達がゆっくりと陰から団扇を使い煙を奇妙な動きに変化させる。
ドライアイスのスモークマシーンが足元に雲の床を作り、ベッケンはゆっくり雲を切るように歩く。
「・・・・という、話です。そのものが平面か立体物か、目から得ている情報は多いのに処理しきれなかったり、処理しきれる脳を持っていたとしても、処理落ちしないよう、スコトーマで脳を守っていたり・・・・」
テーブルに置かれた龍のオブジェクトを取り上げる。
「と、処理しきれない情報があるかと思えば、得た情報を誤認する。エッシャーのだまし絵が注目する場所により錯覚が起こる画としてとくに有名です。グレゴリー氏のインテリジェントアイで登場したホロウマスク錯視を応用したこちらをご覧いただきましょう」
ベッケンの後ろのスクリーンに人物の映像が写される。隣にはスポットライトを浴びた大きなルービックキューブが天井から吊るされている。
「ジェリーアンドラス。独創的な奇術を生み出したことで有名ですが、その中でも目の錯覚を利用したものが非常に興味深い」
竜を撮影しているカメラが左に動くとカメラに合わせて竜が首を左に動かす。
「イリュージョンドラゴンや首振りドラゴンで話題になったもので、アンドラス氏がマーチンガードナーに祝いとして・・・・」
監督が合図を出し、団扇を扇いでいたADたちが扇ぎをやめる。
新人ADと先輩ADが会話する。
「でも、なんの役に立つんですこれ?」
「なんの役に立つかわからないのが面白いじゃん」
「ええ」
「ってベッケンさんに言ったら、わかるわかるって褒めてもらえたけど、ゲームの中で平面のものを表示したら立体物に見えるってそれだけで容量減らせるし、」
「減らせるし?」
「カメラで見ても立体に見えて動いて見えるってことは、そうロボットが認識してしまう可能性もあるわけで、応用次第じゃ、印刷された目で目の認証突破出来たり、奥行きがあるように見える立方体の錯覚物体なんて、相手が攻撃する際に必要以上の消費をしてくれる可能性が」
「それ、ベッケンさんが言ってたの?」
「あぁ、変態だよな」
ベッケンは竜をテーブルに置き晴れていく煙の中話す。
「目に見える物体の奥行きを認識できない、目に見えないもの、心やそれに関係する気持ち。組織の大きさ。金。過去にした過ち。描く未来の自分。ホロウマスク錯覚は目だけに起こっていることなのか」
カメラが切り替わりベッケンの横顔になる。
「それでは次のファジーを見ていただきましょう」




