155.いただきます、さようなら
監督、ベッケン、ルーファスの前に白いマオカラースーツの男が現れる。
男が姿を見せるなり、ベッケンは男の名を口に出す。
「白井・・・さん」
白井はジロッとベッケンを足元から舐めるように見はじめ、腹のあたりで首をそらした。
ベッケンはルーファスのモニターに手を置きながら、白井から目をそらさない。
「監督さん、無茶を言ってすいません。わたしたちのファンの作家がどうしても今回の企画をしたかったようで」
にんまりと微笑んだ白井は監督と握手を交わす。
「あ、ああ、な、なるほどですな。して、本日はどういった御用件で?」
「いやぁ、なに。ルーファスが生でベッケンさんのトリックをみたいと言っていたからね。それの付き添いですよ。観覧席が取れないか知り合いの作家に確認したら、あれよあれという間に共演するというとんでもない話になっていましてね」
ベッケンは白井を笑顔で見る。少しでも不満な気持ちが顔に出ないよう、しっかりとした笑顔を作り続ける。
(相変わらずペラペラと口から出まかせを言いやがる。この企画はかなり前から聞いていた。いつでも訂正するチャンスはあったはずだ。何が目的だ・・・)
ベッケンはふと我に返る。
(いや。こいつは昔からそうだった、意味なんてないんだ。興味が ある ない。ただそれだけ。興味がなくなったらどんなに儲かっていようと、どんなにさっきまで親しかった人だろうと関係なく終わらせる男だ)
「わたしはルーファスに言ったんですよ?もう終わる男のショーなど見た所で仕方ないと」
監督はルーファスのモニターを叩きながら声を荒げる。
「なんだとてめえ。ベッケンは・・・確かに当時ほどの熱狂はないが、年配層には根強いファンがいるんだぞ!」
「監督」
「味のしないガムはもう食品ではありません。それとも飲み込むおつもりか?」
苦笑する白井に監督は怒りをぶつける。
「あんたはベッケンに興味ないようだが、ルーファスくんは興味があるからここにいる。あんたとは違い見る目がある優秀な人工知能だな」
「・・・まぁ。絶品であることは認めよう。ルーファスくんいくぞ」
廊下を曲がり、観覧席に・・・ルーファスと白井は消えていった。
ギャグマンガのようなアッカンベーをする監督。ベッケンはそんな監督を見ながら吐き捨てるように言葉を出す。
「笑顔の家」
監督はベッケンの顔色を見て、話を続けていいと判断して続ける。
「笑顔・・・の家。優秀な子供たちを輩出しているという孤児院」
ベッケンは笑ながらトランプ遊びを始める。
「父、が笑顔になるよう育ててもらった恩を返せって施設だな」
「さ、さすがにベッケンよ。穿った見方をしすぎじゃあないか?」
二人はゆっくり歩き出すと撮影スタジオのほうへ向かう。
「だろ?そこが上手いんだ、あの人は。必ず慈善を盾にして批判するほうがイカれているやつと防御をしながら、自分の興味のあることをする。カンフー映画ブームの時はカンフーを。オカルト漫画のときは魔除けグッツ。清涼飲料ブームの時は清涼飲料を。ラーメンという言葉が流行ったときはラーメンを。出版ブームの時は本を。ゲームが流行ったときはゲームを」
「二匹目のどじょう、しかもブームの引き際も分かる男・・・か」
「だからブームそのものに興味がないとも言えるし、自分がなれない、作り出すに異常なまでの執着心がある、いつでも2番3番・・・5番、しかもそれが上手くいってしまう」
「そういえばとある歌手が笑顔の家出身だと告白していたとき、インタビューで白井が答えてたな。彼女の才能は素晴らしい。彼女を育てたのは私だから、あの歌は私が作ったも同然ですって」
「俺がみたインタビューだと、彼女とは親しくよく話をして遊び食事も共にしました。今は彼女以上に彼女の歌を歌っていると自負しています。彼女の歌というよりは私の歌と言ってもいいほどでしょう、とか言ってたぞ」
「自分に言い聞かせるように唱えてるのか、誰だってなにかをマネたり演じたり、反発しているだけで自己決定なんてしていないで動いているのかもしれねえってのに」
「自分は特別、他人には褒められるがほしい能力や結果は得られず。叶えたいことは叶えられず」
―――――
「博士、ベッケンさんと知り合いだったって本当だったんだね」
ルーファスはモニターのみになり、観客席に座る博士の膝に乗せられる。
「こらこら、本当だったって聞くってことは父さんの言うことが嘘だと思っていたことになるだろう?」
「あ、あ、、あ、ごめんな、さい」
「いいよ。いつもみたいに怒ったりはしないよ。さぁルーファス、よく見ておきなさい」
「はい。いただきます」




