150.ルーファス
別スタジオに移動しながらベッケンは自分の両腕を見る。
黒い長袖のローブに隠された、目視できない鳥肌を想像する。
「ジェリーアンドラスが亡くなり、もうかなりの時が経った。思えばあの人の考えたマジック以外のトリックアートは・・・それこそ今皆が挙って遊ぶVRにも応用されているんだろうな」
ジェリーアンドラス(1918~2007)
日本では特にマイザーズミラクル、リンキングピン、ゾーンゼロで有名な奇術師。住まいには発案されたトリックアートが多くあり、宙に浮いて見える画や奥行きの錯覚を利用した立体物、ペーパードラゴン(振り返るドラゴン)の制作でも有名。
「CGや撮影技法、表現で映画が発展する中、舞台や生で映画を超える挑戦をし続けたクリエーターの先輩方。また、不思議に見えるもの、凄いと体感できる基準が変わるときがやってきたわけか」
ベッケンは空の手からトランプを出す。両手を揃えトランプを出す。
「島田さん、天海さん。VRの世界でもこの生み出されたアイディアが新しく生まれ変わるかもしれないですね、あぁ、他人事じゃ駄目だ。自分ができる何かをしないと・・・ってそんな完成されたVRの世界なんて俺が生きている間に完成しねえか」
通路の角からADが現れ、ベッケンのマイクの位置を整える。
「はぁー。まーた独り言を言ってこの人は。とりあえずマルチタスクできるからって声に出しながらウロチョロせずに、目の前の仕事を先に片づけちゃってくださいな」
「前みたいに検索した情報だけを喋られても番組にならないから、今回も駄目なんじゃないの?逆にズバズバ種を言い当てて、視聴者が手品を楽しめないと面白くないだろうし?まず、ちゃんと手品の工程を会話して進められるかだよなぁ」
ベッケンがスタジオに入ろうとドアに手をかけると、ドアを通り抜ける大きな声がベッケンの耳に入った。
「嫌です!種明かしするよう見破って手品を見る対決なんて!!」
ベッケンは眉間にしわを寄せ、大きな声のほうをじっと見る。
ロボットアームが取り付けられた横に、ポツンと古めかしいパソコンモニターが1台椅子の上に座らされていた。




