147.ベッケン
「今日が・・・ようやく最後か。さて・・・どうなるやら」
スマホに向かいたかゆきは話す。
「結果なんて知らないよ、自分の思っている答えを言って背中を押してほしいだけなんだろ、まったく人間なんてしょうもない」
スマホの画面の女性の声は答える。
「でもさ、明恵。これできっと最後なんだよ。残るかな?俺」
「糞ペテン師、あんた私を会話AIと勘違いしてるんじゃないか?占ってやるから課金しな、もとい、1つの返答に1つの課金枠だよ!」
「なんだよ、冷たいな~。戦友じゃないか」
「よく言うよ、オカルトと手品の入れ替わり周期を完全に狙って、私の占い・・・オカルトが落ち目になるのを辛抱強く待って、超売れっ子になったベッケン様がさ」
「・・・・やっぱりこの後、10年経ったら俺は忘れられるのかな?」
「へっ、そんときの引導は・・・そうさね、わたしの関係者にでもやらせてやるよ。それに情報社会だ、昔のようにブームが10年も続くなんて思わないこったね」
「まーた占いで盛り返すつもりか?さすがに同じものの繰り返しは難しいんじゃないか??」
「風水をベースにした、まーけてぃんぐしすてむなんだとよ」
スマホの画面を見ながらたかゆきは眉間にしわを寄せる。
「悪く、悪く思わないでくれよ、明恵。消費というものが乗っかると現象の鮮度は落ちやすい、これは例えば・・・」
「わかってるよ、金の匂いがした時点で続かないよ、そりゃあ身に染みてわかってるよ」
「・・・いつもの答えなんだな」
「そうさね、わたしら、作られた目的を達成できればそれでいいのさ」
スマホを握りしめるたかゆき。
「かな・・・しいな、そして羨ましいな」
「そうさね、自由に飛んでくださいよりも、空を飛んでくださいのほうがいいさね、どこまで飛べばいいのですか?そんなことで悩む必要がねえからな、グヒヒヒ」
「その笑い方止めとけよ・・モテないぞ」
スマホの画面を消そうとたかゆきがボタンを押そうとする。
「待ちな、どっかのおしゃべりAIとして利用したんだ、金は頂くよ」
「はいはい、しゃーねえな。いくらなんだよ。いつもの口座から引き落とすよう手配するよ」
「75万」
「は?」
「75万だよ、グヘヘヘ。あんたぁ、わたし以外に友達作るこったね」
スマホの画面の女性は下品に笑う。
「さ・・・最後のアドバイス、、ありがとうございます。しっかしコーディネーターツールとして十分稼いだだろ?何に使うんだよ?」
「馬鹿だね、あんた。金があるからヤクソクされる未来と安全ってもんがあんだよ。おっ75万。そうさね、今日の撮影は大成功。近々心から分かり合える出会いがあるって出てるねえ」
「・・・・??」
「なにさ」
「いや。こんな占いらしい占いは最初に出会った時以来だなと・・・思ってな」
「ふん、あんたが一方的に喋ってきてるからだろ、時間だ。いきな、あたしゃ忙しいんだよ」
場所は変わってテレビ局。
「ベッケンさんからお弁当の差し入れとお茶、水の差し入れをいただいてまーす!赤い紙が巻いてあるのが中華で、白は和食です」
大きな声を出した見習いらしき青年は上司のもとへ駆け寄る。
「あ・・・あのぉ、みんな無反応なんですけど、もう一度言った方がいいですかね」
監督はカメラで撮影された映像を確認したまま、生返事をする。
「・・・みんな、忙しいんだ。最後の仕事だし・・・殺気立ってんだ、あと前にも言っただろうお前、白シャツは着るな。汚れが目立つ。カラーシャツにしろ」
「は、はい。すいません!!」
見習いは名残惜しながら、撮影現場を後にする。
「まさかVR市場が伸びて、テレビが劇的に衰退するなんて思いませんでしたね」
大量のタオルを袋に入れてかつぎ、見習いと先輩は歩く。
「目から入る情報には限界があって、今のVRを3時間でもしようもんなら、テレビは1週間も見たくないんだと。代わりにラジオの広告収入が上がっていて青天井らしいぞ」
先輩は駆け足になり始める。
「えー。テレビはどうなっちゃうんでしょう。。せっかくテレビに携わって覚えた技術や知識が無駄になっちゃうのかーやだなー」
見習いも足を速め、先輩と並び歩く。
「そんなことないと思うぞ。バンドブームが終わった後もアニメ作曲をしたり、ゲームのSE作ったり、アーケードゲームが衰退したときも、そのノウハウを生かしてアミューズメントパークの制作をしている人だっているんだから」
「そう・・・ですね。今日もベッケンさんの撮影で勉強させてもらいます!」
5・4・・・・・
「ようこそ、アルベルト・F・ベッケンの世界へ。科学を宗教のように崇拝するもの。宗教を。科学のように崇拝するもの。否、吾輩にはそれでは刺激不足だ。もっとだ、もっと衝撃を与えてやる」
スタジオの影に隠れて見習いはベッケンを目で追う。
(監督の得意な逆ズーム・・・ドリーズームだっけ??演目はカップアンドボールだったけか、3つのカップとボールが3つあるやつ)
ある程度の撮影を終えると監督はベッケンに移動を命ずる。
(あ、これは・・・・滑車でトロッコに乗ってカメラを回すやつ・・・昔の映画の撮影風景で見た覚えが。。)
ベッケンがゆっくり歩きながら移動をするスピードに合わせ、トロッコに乗ったカメラマンがロープで引かれ移動する。トロッコは空中にも線路が引かれており、カメラマンは宙に浮いた状態になりながらもベッケンを撮影しつつ引っ張られる。
ベッケンはボールロール(指と指の間にボールを転がすマニュピレーション)を行い歩く。
(カメラが大きくて固定されている時代ならともかく、小型な今ならただのズームでいいような・・・やる必要なんてあるのかぁ)
「はい、オッケー、カット。ベッケンいいね。今日」
監督は喜びながら振り返り、新米を見つける。
「なんだお前、仕事は終わったのか?それよりどうだ、これ」
嬉しそうに撮影された動画を見せる監督。
「ちょっと・・・画角がガタガタしていて、なんだか・・・」
監督は手を叩いて成功を確信する。
「お前世代が拒否反応を示すってことは成功ってことだな、なあベッケンよ」
「新人君。おふくろの味に勝てるものはないんだよ」
ベッケンは新人から水をもらうと少量口に含んだ。
「なんだかわからないけれど良い、これに勝てるものはないんだ」




