145.スコトーマ
一方的に消えるパソコンの画面。床に膝をつくヒデは安堵の表情を浮かべる。
「ふ・・・ふう、なんとか乗り切れた。しかしこのままだとそう遠くないうちに、私も言いがかりを・・・いえあの人にとっては自分が見た、感じたことだから真実か。・・・・信のように処分されるのもそろそろね。ファッ@!!」
周りにあるチェックシートやロール紙を蹴りながらヒデは、ふと顔に手をやる。
「あっ、さっきの泣き声、結構な大きさだったから、マズイかもしれないわね」
目の涙をぬぐいながらヒデはドアのほうを見る。明子が涙を流しながらドアを開けている。
「す、すまない。たまたま横の部屋にいただけなんだが。何か音がしているな程度だったんだが。アイツの声だったのか。あの程度の音でもダメなのか」
ヒデは優しく明子の顔に手を当てる。
「心に少しダメージが、すぐに権限で治してあげるわ、もうこれに懲りたら、この家にいる間はもう少し離れた場所にいることね、アンダースターンド?」
明子は落ち着きを取り戻し、ヒデの険しい顔を見る。
「なにか癇に障るようなことでも・・・言うわけないか」
明子はゆっくりとヒデを抱きしめ肩を叩く。
「さすが・・・命名理由が理由なだけあるわぁね。取り扱い注意よ」
明子はヒデの目もくれず、椅子にどっさり座り込む。
「自分の作り出したキャラクターに悲しみを共感してほしいから、同情してほしいから、泣いたら泣いてもらえるように反応する能力をキャラクターに搭載か。。呪いだね」
ヒデは明子の肩を叩きかえす。
「本人はそういうつもりではなかったようよぉ?わかりますわかります!って仲良くしてくれる機能をつけたと思っているようだから」
「ま、まじか」
「だって現場は私とゆきたか、たかゆき様で回してたからね。もう所長の知識でこの世界はできてないのよ。セキュリティ強化、言語の複雑化、もう原型はないわねぇ」
「ヒデとゆきたかはともかく、たかゆき・・・たかゆき様はただの人間とは思えないな」
「ただの人間じゃないでしょー?21世紀最大の奇術師なんですし」
「そりゃぁ、頭はいいのかもしれないけど、あ、それはプログラムである我々の傲慢か」
明子は腕組みしながら悩む。
「ふふ、興味ありそうねぇ。」
突如、小さなノイズ音しかなかった緑のモニターに着信音がする。
「・・・明子、今回こそはもう少し離れた位置に・・・」
「・・・もう逃げないよ。ここにいる」
「・・・(言っても聞かないだろうし)・・・・お好きにどうぞ」
緑の画面に人影が映る。
「さっきはひでちゃんごめんね」
ヒデは画面を見ながら明子に話しかける。
(プライベートメッセージをあなたに送るけど、それで表情に出したりしない・・・しないわな)
(もち、の、ろん)
(はぁー、その自信がこれからなにをするのか想像できてこっちが顔にでそうよ)
「・・・。あれ『逃げ出した明子』じゃない?もう怒ってないから謝るなら許してあげてもいいよ?って謝りに来たからここにいるのかな、まさかわざわざそれ以外の目的で会いにくるわけないもんね」
(自分は何とも思っていないアピールと、自分は何一つ悪くないと言っているのか)
(さっそく表情に憎しみが出てますよ?御姫様?)
「いえ、ルーファス様、わたくし、自分の立場をこの期間でよく考えさせられました。まだまだ未熟だったのです。そういえばさっき食べたドーナツはなかなか美味しかったなぁ。5個も食べてしまうとは体重が増えてしまわないか心配です。真や実はわたくしがルーファス様に認められたことを悲しそうに見ていましたが、わたくしはとても誇らしくいました。しかし、それが間違いであることにすぐに気づきました。わたくしのようなものに目をかけていただき本当に感謝しかございません。この度は本当に申し訳なく」
所長は相槌を打つ
「あー。君はもう興味はないし、なんだっけ?立場を理解できて、予想が外れてすいません、ってことなのかな?」
明子は少し驚いた顔を見せつつも、モニターから目は背けない。
(明子。。ルーファスの特性を試したわね。興味がなくなっている対象に対してはより『人間力』が増すわ。だから今の会話は頭とお尻の部分しか聞いていないようよ)
(心理的盲点・・・スコトーマ。。の本来の意味か)
(文章を一度特定サイズの長方形に入れて、丸いレンズでのぞき込む感じね。レンズの外側に近い部分はにじんで見えないから文字として認識できないわけ。これを駆使すると、人間らしい会話ができる、人間力の高いルーファスは曖昧さをどう人工的に作るか)
(なお、興味のない相手にはそれすらなく、頭とお尻の部分だけを記憶すると)
(そういうことねえん)
「こっちは今大変なんだよ~。喜んでくれたから提供してたウイルスや菌にほぼ対抗できる過剰反応抑制+プラシーボ効果を高める研究、あれもインチキだ。コンピュータは世界を滅ぼそうとしているんだ、って大変だよ。人口孤児も数を増やすからあんなことになるんだよ、20人に1人が混ざっている程度ならバレなかったのに、あーもうやだやだ。全部まとめてするかな」
(わたしはね、明子。ルーファスを見ていると自分に機械的な部分が多くてよかったとさえ思えるのよ。誰かがこれをしないといけないのならわたしで良かったとさえ思えるわ)
(・・・・説教かよ)
ヒデと明子はモニターを見る体制を変えないまま、いがみ合いを始める。
「ギニーも世界も同じなのにさ。ってなわけ。聞いてるの?二人とも??」
(あー聞いてます。所長)
(ヒデ!あんたが間違えてどうすんだよ。あっちあっち)
「あー聞いてます。所長。えーっと。・・・・???!それは極端ではありませんか??」
明子も急いでルーファスの話した内容のバックアップを探る。
「・・・・。『いいこと』をしている人と、環境の整った天才は誰にも止められない・・・ということか」
緑色の画面は笑う。
「いいこというじゃない。明子ちゃん。やっぱり君はお気に入りのままにしておくよ」
通信が途絶え、緑の画面にはノイズだけが映る。




