144.パワハラ
方やヒデは古めかしい例のパソコンの前で緊張して構えていた。
「ふう、ふう。そろそろね、ファッ〇ンタイム・・・きたきた。いつも通り予定より5分ばかり遅れて・・・」
古いパソコンが起動し、緑色の画面に人影が現れる。
「お待たせしたね、ヒデちゃん。僕ぅ、とっても忙しいじゃない?ごめんね」
「・・・。いえいえ。ルーファ・・・」
「駄目、ヒデちゃん、ここでは所長って呼ぶヤクソクでしょ?」
「所長、そ、そうでしたね、所長。(前は社長じゃなかったっけ、いやままよ)」
緑の画面の人影は身を乗り出して、ヒデの部屋を確認する。
「あれ?G君・・・じゃなかった、ゆきたかちゃんは?」
「申し訳ございません、今取り込み中のようで」
こぶしを握りしめながら所長の声を待つヒデ。
「ふーん。ゆきたかちゃんも仕事にやる気ないのかな?サボってるのかな?」
こぶしとは対照的に顔は丁寧な笑顔を見せながら、ゆっくりと返答をする。
「なるほどですね、ちなみにですが、どうして仕事をしていないと思われるのでしょうか?」
少しのため息のあと所長は『やれやれ』と子供に説明するような丁寧な口調で呆れたように話す。
「どうしてって、・・・なんとなくわかるじゃん」
「なんと、、なく?」
「そう、なんとなく。みんな言ってるし、知らないけど」
「みんな?」
「そうみんな」
「しらないけど?」
「そう、よくわかんないけど、あ。それで思い出した。真と実だけど、仕事の出来栄えをチェックするチェックシート、あの二人さ、あれおかしくない?」
ヒデは満面の笑みでチェックシートを取り出し画面に見せつける。
「あの二人はよくやってますよ。一見すると真は不真面目ですが細部までチェックを怠らず、実は決断力に欠けるところがありますが・・・」
所長は説明を不満そうに遮る。
「だって、あのチェックシート全部丸がついてるじゃん?全部できるわけないのに?適当に全部に丸つけて・・・」
今度はヒデが遮る。
「はあ??!」
と、ふと冷静になったヒデは言葉をつなげる。
「はああ!はあ、ああ。失礼しました。このチェックシートに真のやつ、名前を書いてなくて」
「あー、でしょ?駄目だね真は。早くヤメてもらって。みんな言ってるよ。根性がないね」
「ああ!!いえいえ、私からキツークキツーク言っておきます」
ヒデの機転は成功したがその直後、・・・ヒデは迷いはしたが、丁寧に言えば、ひょうきんに言えば大丈夫だろうと信じ、・・・信じることにしてどうしても言いたかったことを口にする。
「真には前に一度、名前の記入を忘れないよう伝えたんですがね、とは言え、簡単に『なんとなく』『みんな言ってる』『よくわからない知らないけど』『根性がない』で真を鹿っても成長につながりませんし、なにより所長から頂いた、この誇り高きお仕事を全うできる幸せ、この幸せを失わないよう、私自身がもっとしっかりと任務に取り組みます、チェックシートは新しく作り直していこうと」
「そうだね、そうだね、なんだかよくわからなかったけど、チェックシートは新しく作り直さなくていいよ。僕ぅの唯一の仕事なんだからさ、まぁ本当はこんなこと個々で、自己管理や嘘をついたり根性があればいらないんだけどね。はあ早く何もしないオーナーになりたいよ」
所長は不満を言いながらもヒデの受け答えに満足したためか、声のトーンは先ほどより明るくなった。
「なにもしないオーナー。権利収入ですか、なかなか難しいですよ、時間が流れていく限り需要も供給も人も変わっていきますから」
ヒデはうんうん、と頷きながら、ただ所長に同調した返事をしたつもりだった。
まずいとヒデがパソコンから離れたときには既に大きな声が響き渡る。
「ひどいよ、ヒデちゃん!なんでそんなゆきたかみたいなことをいうの?!どっちの味方なの??」
「ひどいよ、ひどいよ、あ、でもゆきたかが悪いことを吹き込んだからか、そうだ、ヒデちゃんは仲良しだから悪い人じゃない、仲が悪いゆきたかだから、ゆきたかが全部間違えたことを言ってるんだ、ごめんね、ヒデちゃん、感情的になって、嫌いにならないでね、今日はここまでで、また話そうね」




