143.語源
ゆきたかと松本は仲良く白い空間にいる。
「信さんの話を聞いて、より混乱したような、すっきりしたような、選択肢への道がしっかり見えたけれど、それを選ぶ決定打がないというか」
松本はゴロゴロしながらノートに適当な絵を描き始める。
「信がパズル作家か、名乗るのは本人の自由じゃからな、にしても相変わらず個性的な面々じゃわい」
「他人事のようにおっしゃってますが、娘さんは天才占い師から天才科学者に変わられていますもんね」
「・・・・はぁあああ」
普段の仕返しができてか、松本はすっきりした表情で創作作業を再開する。
「新しいブーム、まあようするに社会現象・・・現象を作るって男のロマンなのになぁー」
ゴロゴロは続く。
「現象ねえ、事象も同じかのう。昔、とある人が面白いことを言っておったぞ。言葉。特に日本語はわかりやすいのだが、ブームが起きたりする前兆は言葉の変化の中にあるのではないか」
あくびをしながらノート越しに松本が声を出す。
「そりゃあそうでしょ、言葉や行動は結果、どこに行っても聞いても皆が言っている『社会現象』に行きつくわけだし」
「わしもそう言ったんだが、返しが面白くてな。電車という言葉は電気で走らせる車両が生まれたから電車と名付けられ、皆が利用するから一般的ななじみのある言葉になった。電気自動車が電車より先に生まれていたら、電車は電気自動車のことを指していたかもしれないのう。ケータイという言葉はどうだろう?本来は携帯するだから、先行したウォークマンが携帯音楽機器なんだから、ウォークマンが携帯という言葉になって広まってもおかしくはなかった、しかし広まったのはウォークマンというブランド、音楽を聴く機械をなんでもウォークマンと言う人もいた」
ゆきたかは何かを思い出しながらニコニコと話す。
「言われてみたら、携帯する電話だから、別にケータイ以外が携帯という相性がついて広まってもおかしくなかったもんな、ケータイという短さ、響きの良さ・・・あとは数の力なんだろうな」
「というのがわしら凡人の感想じゃよ、誰がいつ、どう広めたか気になって仕方なくあーでもないこうでもないと答えにたどり着きたい、知恵までたどり着き高揚したい者がいるわけだ」
「・・・・そういえば、携帯の話で思ったけど、蓄積されていくメールや電話のやり取りを紐解けば」
「そうじゃな、昔はまるでわからなかった言葉やどこから発生したかわからない、・・・・抗いようのない大きな暴動が『こんなたった一言のメールがきっかけだったのか』と噂レベルではなく、はっきりわかるじゃろうな、とは言え偽情報と見分けられるか、自分に都合が悪いから信じる信じないで結局今までと同じ気はするがのう」
ゆきたかは空間を眺めながら話すと、松本の様子をうかがう。
「さっき信さんが1990年代にはテレビタレントがデジャブは一般的に知られていない言葉だったから、トークでどういう意味かタレントが話していて、イントネーションはこうだとか、こういう意味だとか盛り上がっていたとか、それが近年急に既視感という言葉に置き換えて喋る人が増えたように思うとか言ってたな」
丁寧にメモを取りながら松本はわくわくした表情を見せる。
「人とちょっとだけ違う話し方をしたい。自分を魅力的に見せるために会話を盛り上げようと工夫する。次々と新しい言葉が生まれ、残り、広まったものはまるで遠い昔からあった言葉のよう、常識のように定着する。・・・と。凡人じゃない人たちは盛り上がって会話しとったよ」
「・・・・意外だな。こういったことには興味がないものと思っていたよ」
「残念ながら興味?機能?はないのう。あくまでその場に居合わせた記憶を話しているだけじゃな」
ゆきたかは少し悲しそうに松本を見る。
「な、なんだよ。・・・・しっかしその人たちに興味が出てきたなぁ、会えるもんなら会ってみたいよ」
「すぐ会えると思うぞ」
「え?」
ゆきたかと松本の前に南が颯爽と登場する。南は手を上げゆきたかに話しかける。
「よう、ゆきたか。そっちのは」
「松本です」
「・・・・。」
少しの沈黙の後、南は再び手を挙げる。
「いやぁ、松本。俺は南に見えるけど南じゃないんだよ」
松本は鼻で笑いながら、ゆきたかのほうを見る。ゆきたかは頷くだけだった。
ため息をつきながら、ありきたりな言葉を南に投げかける。
「なら、誰だっていうんだよ?」
南は右手の掌を松本に見せつつ、左手は曲げた右手の肘に添えポーズを取る。
「私の名はベッケン。21世紀最大の奇術師なり」




