138.驚く
「ひと手間加えるだけで不思議かぁ・・・・」
白い空間を自分の部屋のようにゴロゴロ転がる松本。
「ふ、ふふ、その反応を見るに、ずるいぞ!手品にはまず、説明や説得、確認だね、で、不思議なことが起こってからの、また最初の確認やもう一押しのセリフがあるけれど」
「いやぁ考えてもみなかったなぁ。なるほど。密室で足跡、痕跡がなかったらうんこでさえ神秘なものになるわけだ」
「そ、そうだよ、そこに匂いや色、量は関係ないんだぁ。う、歌でも歌詞で悲しさを見せるものもあれば、メロディが悲しいけど歌詞は明るかったり、歌詞もメロディも悲しいけど歌声は明るいとかね」
「・・・うぅ、新しいものを使ったものだから不思議じゃないし、誰も思いついてない仕掛けだから不思議じゃないと」
松本はハッと思い出したように信に尋ねる。
「体が、例えば不自由で耳が聞こえない人がいて、でもその人が耳を通さないと仕入れれないような情報を知ったりしたら」
「そ、そうだねえ、それは耳が聞こえない、目が見えないなどの体が不自由という前提の部分で不思議になるけれど、それ以外は普通のことをしているだけなんだよねぇ」
「・・・・足跡があったら、部屋のものを壊しただけになる・・・と」
「お、驚かせるには何も細かい仕掛けはいらない、場合も、場合もだね」
松本は厠を見つめながら、しっかりとした表情で信に問う。
「・・・信さんは、『驚く』を研究しすぎてしまったと」
厠の扉が開き、中からブルドックが1匹現れる。
「そ、そうさ。僕は『驚く』という症状が好きで溜まらないんだ」
ブルドックはそう話すと厠へ戻る。
「戻るんかい!!」
松本は渾身のツッコミを犬に投げかけた。
「い、今のも驚くだけど、ぼ、僕の求めてる驚きじゃあないなぁ」
「そんなに驚くに興味があるんすか?」
「あ、あれ?き、君も同じタイプだと思ったのに。考えてもみなよ、喜怒哀楽の中で驚くはどこに属すると思う?手品師のように驚かせて喜ばせる?でも奇術師がやりすぎたり、相手が感受性が強すぎ・・??たりしたら、騙された本物じゃないって怒哀かもしれないね」
「驚かされるから怖がった、でいうと負の感情に思えるけど・・・・」
「そ、そうだね、そもそも楽しいって思っているのは演者だけかもしれないんだなぁ。凄い力を持つ人を目の前にしたら、怖がるのが普通じゃないかな」
「・・・・」
「き、君は楽しませれるものと思って驚くを追及しているんだねえ」
信が気を使い、松本に丁寧に話す。
松本は信の「君は」に反応してしまい、すぐに声を出してしまった。
「信さんは・・・違うんですか?」
「ち、違うから・・・・ここにいるように言われたんじゃないかな」
松本は、これから、自分がそうなるかもしれない、自分を見ているような気がして、ただただやるせない、悲しい気持ちになった。




