第8話 佐知子ブレイン
最近、わたしは少しおかしい。
レストランでの仕事は楽しいし、職場の人間関係も良好。
キッチンでの仕事は綾香がしっかりと、そして優しく教えてくれているから頑張れるし、仕事帰りも綾香とおしゃべりをしながら一緒に帰っているし、最近は度々帰りに綾香の家に寄るようになった。綾香といる時間がすごく好きになっている。
暇があれば綾香と一緒にいたいと思う。
でもよく分からない感情になる事もある。
この前なんて、店長と親しげに名前を呼び合っていたのにモヤモヤしたし、二人でカフェに行ったと聞いてモヤモヤした。
だから私の呼び方を「大原さん」から「サチ」へと変えてもらった。そして私もさりげなく「山本さん」から「綾香」に変えた。
あと、悩みはわたしに相談して欲しいと思う。
でも店長とわざわざ外で悩み相談なんて、多分仕事の話なんだろうな。それなら確かにわたしでは戦力不足だけど…。
呼び名を変えた日に家に行った時。
愚痴を聞いて欲しいと言ったのは半分は本当だけれど、半分は綾香の家に行く理由が欲しかっただけ。
前の夫(と言うのも吐き気がするが)と離婚して男性不信になってしまってどうしようかと思っていたけれど、あんなに真剣にわたしの為に怒ってくれて、本当に嬉しかった。
わたしには綾香が居てくれれば大丈夫な気さえしてきた。
今日の仕事が楽しいのも綾香のおかげだし、今日は帰りに綾香の家に寄ることになっているから、仕事が終わった後も楽しみだ。
いつも綾香のおうちだから、たまにはわたしの家にも招待したいな。休みの日にゆっくりと二人で過ごしたい。
わたしの料理を食べてもらいたい。
あ、でも、帰りが遅くなると夜道を一人にさせる事になるし…。
そうだ、泊まって貰えばいいんだね。あーもう、今からワクワクするなぁー。
ワクワク…?ワクワクともなんか違うような…。
やっぱり、最近のわたしは少しおかしい。
***
「お疲れ様でしたー」
仕事が終わった後、一瞬出遅れたわたしの目の前で綾香とあんりちゃんが並んで歩いてる。
二人は何やら楽しそうに盛り上がって喋ってて、なんだかモヤモヤする。
「……」
なんか、あんりちゃん綾香に近くない?
なんかモヤモヤする。
わたしはあんりちゃんの反対側、綾香の右側へ行く。
あんりちゃんは歳は下で可愛くても先輩。
綾香との付き合いもあんりちゃんの方が長い。
でも、そんなに綾香に近いとモヤるから仕方がない。
そっと綾香の右腕を掴んでさり気なくこちらに寄せる。
カップルみたいに腕を組んで歩いているようになり、「うひゃあ!」という綾香の驚いた声が聞こえて、少し申し訳なくなる。
そんなにびっくりさせてしまったかな。
でも今、モヤってるから。
これであんりちゃんとは少し離れたかな、と思って綾香の後ろを見るとあんりちゃんが綾香の左腕のシャツを少し掴んでた。
「……」
モヤモヤしていると、あんりちゃんとの別れ道に到着する。
ふぅ、と小さく息を吐き、
「あんりちゃん、またね」
と笑顔で手を振ると、去り際に一瞬わたしの顔を真顔で見つめてきた気がした。
あんりちゃんがいなくなって腕を離すと、組んでいた腕が寂しくなったような気がした。
こんな事なら腕を離さなければ良かったな。
でも、さっきは勢いで出来たけど、2回目はなんとなく言い出し辛くて諦めた。
帰り道で、綾香が店長と行ったカフェに連れて行ってもらった。わたしも飲んでみたいなぁと言ったら快く連れて来てくれた。
でも今日は夜だし、早く綾香の家に行きたかったからテイクアウト。本当は中でゆっくり二人の時間を楽しみたかったけど、我慢我慢。
でもカフェでの思い出、少しは上書きできたかな?
それからコーヒーを飲みながら歩いて帰った。
いつもの交差点を今日も一緒の方向へ曲がる。
わたしの家と綾香の家は割と近い。
この距離だし、どうせなら一緒に住めばよくないかな。まぁでも物件探しから始めなきゃだから、すぐには難しいか…残念。
そんな事を考えていたら綾香の家に到着した。




