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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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95 ゴーレム

アルフレッド侯爵のもとに、各地から人が集められていた。


集まったのは兵士ではない。


ゴーレム魔導師養成学校を卒業したゴーレム技師たちだった。


王宮から届いた依頼は、破壊されにくい大型ゴーレムの開発。


材料としてミスリル、オリハルコン、アダマンタイトまで提供される予定になっている。


しかしアルフレッドは、いきなり希少金属へ手を出さなかった。


百万体のスタンピードを経験した彼にとって、強いものを作ることと、役に立つものを作ることは別だった。


「まず、土で作ってくれ」


集められた技師たちが顔を見合わせる。


「土、ですか?」


「ああ。二メートル級でいい」


あまりにも普通の注文だった。


だが侯爵の指示である。


技師たちはすぐに作業へ入った。


土属性魔法で大量の土を集める。


形を整え、人型へ成形する。


内部へ魔力を通し、術式を組み込む。


しばらくすると、二メートルほどの土製ゴーレムが立ち上がった。


「できました」


アルフレッドは頷く。


「次は木だ。同じく二メートル級」


今度は木材が用意された。


木工技術を持つ者も加わり、胴体、腕、脚を形成していく。


二体目。


木製ゴーレムが完成した。


「次は鉄だ」


そこでアルフレッドは鉄のインゴットを必要量だけ技師たちへ渡した。


「これで二メートル級を一体作ってくれ」


技師たちの表情が少し変わった。


土や木とは違う。


金属製ゴーレムである。


金属属性を扱える技師を中心に加工し、部品を形成する。


重量を支えられる構造を作り、関節を組み上げ、魔力を通す。


三体目。


鉄製ゴーレムが完成した。


土。


木。


鉄。


材質の違う三体が並ぶ。


技師の一人が尋ねた。


「戦闘試験を行いますか?」


「いや」


アルフレッドは三体を見上げた。


「街道を整備してくれ」


技師たちが一瞬黙った。


「街道……ですか?」


「そうだ」


戦わせない。


まず働かせる。


三体のゴーレムが街道へ向かった。


荒れた路面を均す。


大きな石を取り除く。


土を運ぶ。


窪んだ場所へ土砂を入れる。


土ゴーレムは周囲の土を扱いやすい。


木製ゴーレムは比較的軽く、小回りが利く。


鉄製ゴーレムは重量物を運ぶ能力に優れていた。


「次。土砂を運んでくれ」


大量の土砂が用意される。


三体が何度も往復する。


人間なら荷車が必要になる量を、黙々と運び続けた。


疲れたとも言わない。


腰が痛いとも言わない。


「山を崩して穴を掘ってくれ」


今度は小高い場所が指定された。


ゴーレムたちが土を削り始める。


土魔法を扱える技師たちも補助へ入った。


削る。


運ぶ。


さらに掘る。


やがて大きな穴が出来上がった。


アルフレッドは中を確認すると、すぐに次の指示を出した。


「埋め戻せ」


せっかく掘った穴を埋める。


技師たちは、もう疑問を口にしなかった。


掘り出した土砂を戻す。


ゴーレムが踏み固める。


「水で締めてくれ」


水属性持ちが加わった。


水を撒く。


土へ染み込ませる。


ゴーレムがさらに踏み固める。


アルフレッドは完成した地面を歩いた。


足元を確かめる。


沈まない。


崩れない。


十分だった。


「いいな」


その一言に、技師たちがようやく息を吐いた。


アルフレッドは満足していた。


ゴーレムは敵を殴るためだけの存在ではない。


掘れる。


運べる。


均せる。


踏み固められる。


人間なら大勢必要になる作業を、少人数の技師と数体のゴーレムで進められる。


「次は五メートル級を作ってくれ」


「五メートルですか?」


「ああ。鉄で」


必要な量の鉄のインゴットが運び込まれた。


今度は二メートル級とは重量も構造も違う。


技師たちは相談を始めた。


脚部を太くする。


関節の強度を上げる。


重心を低くする。


腕も重量物を持ち上げられる構造へ変える。


試行錯誤を繰り返し、やがて五メートル級の鉄製ゴーレムが完成した。


アルフレッドは巨大な機体を見上げる。


「動かしてくれ」


一歩。


地面へ大きな足跡が残った。


二歩。


問題ない。


方向転換。


屈む。


持ち上げる。


基本動作を一通り確認すると、アルフレッドは荒野を指した。


「今度は、あそこを農地にしてくれ」


技師が確認する。


「どの程度でしょう?」


「二十五メートル四方を十面」


六百二十五平方メートルが十面。


何もない荒野から作る。


五メートル級鉄製ゴーレムが動き出した。


石を取り除く。


大きな岩を持ち上げ、農地の外へ運ぶ。


固い地面を掘り返す。


土魔法を使える技師が地面を整える。


水属性持ちが水分を調整する。


二メートル級の三体も加わった。


大きな作業は五メートル級。


細かな整地は小型三体。


役割を分けると、作業速度がさらに上がった。


アルフレッドは途中から何も言わず、その様子を見ていた。


一時間ほど経った頃。


荒野だった場所に、二十五メートル四方の農地が十面並んでいた。


「終わりました」


技師から報告を受け、アルフレッドは畑へ入った。


土を踏む。


何か所か確認する。


「なかなか早いな」


満足だった。


そこへ様子を見に来ていた農業教師を呼んだ。


「これ、使ってくれ」


農業教師が目を瞬く。


「よろしいのですか?」


「農地なんだから、作物を育てなければ意味がないだろう」


農業教師たちはすぐに畑の状態を確認し始めた。


何を植えるか。


水路をどうするか。


土をどう育てるか。


それは農業教師たちの仕事である。


アルフレッドは口を出さなかった。


自分が確認したかったのは、ゴーレムが荒野を農地へ変えられるかどうかだけだった。


答えは出た。


街道を直せる。


土砂を運べる。


穴を掘れる。


埋め戻せる。


地面を締められる。


農地まで作れる。


アルフレッドは五メートル級の鉄製ゴーレムを見上げた。


「ゴーレム、使えるな」


破壊不能にする以前に、十分すぎるほど役に立つ。


アルフレッドの中で、王宮から依頼されたゴーレムの姿が少しずつ具体的になり始めていた。




完成した十面の農地では、その日のうちに農業教師たちが動き始めていた。


土の状態を確認する。


水路の位置を決める。


何を植えるか相談する。


必要なら土壌をさらに改良する。


アルフレッドは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。


五メートル級の鉄製ゴーレムは、農地の脇で停止している。


一時間ほど。


荒野だった場所を農地へ変えるまでに必要だった時間である。


もちろん、ゴーレムが作物まで育てる必要はない。


そこから先は農業教師と農民の仕事だ。


「次を試すぞ」


アルフレッドの言葉に、ゴーレム技師たちが集まった。


「今度は運搬だ」


大量の木材と石材が用意された。


二メートル級には木材。


五メートル級には大きな石材を持たせる。


「向こうまで運んで戻ってこい」


ゴーレムが歩き始めた。


速くはない。


しかし荷物を持っても歩調はほとんど変わらない。


疲れない。


休憩もしない。


五メートル級は、人間なら何人も必要になる大きな石材を抱えたまま往復した。


「荷車も引かせてみろ」


今度は資材を満載した荷車を用意した。


鉄製ゴーレムが牽引する。


こちらも問題なく動いた。


アルフレッドは頷いた。


「救援物資の輸送にも使えるな」


食料。


水。


薬。


衣類。


建築資材。


災害でも魔物被害でも、必要になるものは多い。


ゴーレムなら危険な場所へ大量の物資を運び込める。


「次は救助試験をする」


技師たちが顔を上げた。


訓練場所には大量の木材と石材が運び込まれた。


崩壊した建物を想定し、それらを複雑に積み重ねる。


さらにアルフレッドは、人間とほぼ同じ大きさと重量を持つダミー人形を何体か用意させた。


一体は瓦礫の下。


一体は倒れた木材の間。


もう一体は大きな石材の近く。


外から簡単には取り出せない位置へ配置する。


「この人形を要救助者だと思え」


技師たちの表情が変わった。


ただ瓦礫を撤去するだけではない。


中にいる人間を傷つけずに救い出さなければならない。


「三人とも救助してくれ」


五メートル級鉄製ゴーレムが動いた。


最初に大きな石材へ手を伸ばす。


「待て」


アルフレッドが止めた。


技師たちが彼を見る。


「その石を動かしたら、上の木材はどうなる?」


視線が一斉に瓦礫へ向いた。


一人の技師が気づいた。


「落ちます」


「その下には?」


「ダミーがあります」


実際の現場なら要救助者である。


力任せに石材を取り除けば、助けるはずの人間へ別の瓦礫を落としてしまう。


「ゴーレムは力が強い。だから雑に使えば危険だ」


技師たちが頷いた。


今度は二メートル級も投入された。


五メートル級が崩落しそうな大きな石材を支える。


その間に二メートル級が小さな瓦礫を取り除く。


木材を一本ずつ動かす。


石を退ける。


やがて最初のダミーが見えた。


「要救助者を確認!」


二メートル級鉄製ゴーレムが手を伸ばした。


その手がダミーの胴体を掴もうとする。


「止めろ」


再びアルフレッドが止めた。


「それは石じゃないぞ」


技師が気づいた。


鉄製ゴーレムには重量物を持ち上げるだけの力がある。


その力で人間の胴体を掴めば、救助どころではない。


「力加減を調整します」


「それだけじゃない。持ち方も考えろ」


腕を背中と脚の下へ入れる。


頭部が落ちないよう支える。


ゆっくり持ち上げる。


そして安全な場所まで運ぶ。


一体目が救出された。


二体目は倒れた木材の間に挟まれている。


五メートル級が大きな梁を支え、二メートル級が周囲を撤去する。


人形を引きずらず、身体全体を支えて運び出す。


二体目も成功。


三体目になる頃には、技師たち自身が相談を始めていた。


「先に上を固定します」


「五メートル級を支えに使おう」


「二メートル級を中へ入れる」


「周囲の小さい瓦礫から撤去する」


アルフレッドは黙って見ていた。


指示する必要がなくなってきた。


技師たち自身が、どうすれば安全に救助できるのかを考え始めている。


しばらくして、三体目のダミーも運び出された。


アルフレッドは救助された人形を確認する。


最初の一体には、ゴーレムが掴もうとした際についた僅かなへこみがあった。


「これも記録しておけ」


「救助は成功していますが?」


「怪我を増やしている」


技師が黙った。


「人間なら骨を折っていたかもしれん。助け出せば成功というわけじゃない」


記録係が失敗として書き加えた。


新しい課題が見えた。


強さだけでは足りない。


繊細な力加減。


要救助者を傷つけない持ち方。


周囲の状況を確認する能力。


大型と小型の連携。


「五メートル級だけでは駄目だな」


アルフレッドが言った。


技師たちも同意する。


大きな瓦礫を支えるなら大型。


狭い場所へ入るなら小型。


重量物を動かすなら大型。


人間の近くで細かな作業をするなら小型。


用途が違う。


その後も試験は続いた。


荒れた街道。


泥濘。


浅い川。


倒木。


崩れた斜面。


様々な場所を歩かせ、作業させる。


問題が起きるたびに記録する。


「五メートル級は柔らかい地面だと沈みやすいです」


「足を広くできないか?」


「接地面を増やせば改善できると思います」


「試してくれ」


技師たちがすぐに相談を始める。


アルフレッドは、それ以上口を出さなかった。


試せばいい。


失敗したら直せばいい。


鉄ならまだいくらでも試作できる。


ミスリルもオリハルコンもアダマンタイトも、まだ使う必要はない。


数日後。


土製二メートル級。


木製二メートル級。


鉄製二メートル級。


鉄製五メートル級。


四体のゴーレムが並んでいた。


「侯爵様」


技師の一人が尋ねた。


「どれを破壊不能ゴーレムの原型にしますか?」


アルフレッドは四体を見比べた。


「まだ決めない」


強いだけでは意味がない。


大きいだけでも駄目だ。


運べる。


掘れる。


道を作れる。


瓦礫を撤去できる。


そして、要救助者を傷つけずに救い出せる。


そこまでできて、初めて救援用として使える。


「次は防護試験だ」


技師たちが顔を上げる。


アルフレッドは鉄製ゴーレムを見た。


戦争をするためではない。


敵を倒すためでもない。


攻撃を受ける状況でも、住民と要救助者を守り続けられるか。


それを確かめなければならなかった。




翌日。


試験場には二メートル級と五メートル級の鉄製ゴーレムが並べられていた。


その後方には、昨日使ったダミー人形が置かれている。


今回は瓦礫の中ではない。


開けた場所に十体。


すべて要救助者を想定したものだった。


アルフレッドはゴーレム技師たちへ説明する。


「今日確認するのは、ゴーレムが攻撃を受けた状態で救助を続けられるかだ」


技師たちが頷く。


強度を調べるだけなら、ゴーレムを立たせて攻撃すればいい。


だが、それでは実際の救援活動とは違う。


外国で救援活動を行えば、何が起こるか分からない。


魔物に襲われるかもしれない。


盗賊が現れるかもしれない。


救援を快く思わない領主が兵士を差し向ける可能性もある。


そのたびに救助活動を中断して戦争を始めていては意味がない。


「最優先はダミーの保護だ」


アルフレッドが告げる。


「敵を倒す必要はない」


今回、攻撃役として集められたのは訓練用装備を持った兵士と魔法使いたちだった。


アルデバラン王国の騎士団ではない。


ゴーレム試験のため、従来型の戦闘方法を再現する者たちである。


剣。


槍。


弓。


そして属性魔法。


「始めろ」


合図と同時に矢が飛んだ。


鉄製ゴーレムが動く。


二メートル級がダミーの前へ立った。


矢が鉄の身体へ当たり、弾かれる。


一本。


二本。


三本。


傷らしい傷はつかない。


次に兵士が接近した。


剣を振り下ろす。


金属音が響いた。


鉄製ゴーレムは反撃しない。


ただ一歩前へ出る。


兵士が下がる。


さらにゴーレムが前へ出る。


「なるほど」


アルフレッドが呟いた。


殴らなくてもいい。


相手が普通の人間なら、二メートルの鉄の塊が近づいてくるだけで進路を塞げる。


「槍!」


別の兵士が突く。


穂先が鉄の胴体へ当たる。


やはり止められない。


今度は魔法使いが前へ出た。


「ファイアボール!」


炎が鉄製ゴーレムへ直撃した。


熱が広がる。


ゴーレムは止まらない。


「もう一発!」


再び炎。


続いて水。


風。


土。


複数の魔法が撃ち込まれた。


鉄の表面には傷やへこみが増えていく。


だが、動作そのものに大きな問題はない。


「鉄でも、かなり耐えるな」


技師の一人が呟く。


アルフレッドはゴーレムではなく、その後ろを見ていた。


ダミー人形は無傷だった。


「次。救助を開始しろ」


攻撃は止めない。


二メートル級がダミーを一体ずつ抱え、安全区域へ運び始める。


その間、五メートル級は攻撃側と要救助者の間へ立った。


巨大な鉄の壁だった。


矢が当たる。


魔法が当たる。


兵士が横から回り込もうとする。


五メートル級も横へ動いた。


進路を塞ぐ。


兵士が逆へ走る。


また塞ぐ。


「攻撃しなくても防げるか」


アルフレッドが腕を組む。


五メートル級がいるだけで、攻撃側は要救助者へ近づけない。


その背後では二メートル級が救助を続けている。


一体。


二体。


三体。


順番に安全区域へ運ばれていく。


だが、問題も起きた。


五メートル級の横を抜けた兵士が一人、二メートル級へ接近した。


「要救助者を奪うつもりで動け!」


アルフレッドの声が飛ぶ。


兵士がダミーへ手を伸ばす。


二メートル級ゴーレムが反応した。


腕を振り上げる。


「止めろ!」


動きが止まった。


技師たちが凍りつく。


鉄製ゴーレムの腕で人間を殴ればどうなるか。


考えるまでもない。


「今の動作は禁止だ」


アルフレッドが言った。


「敵を殺すために作っているんじゃない」


「では、どう止めます?」


「考えろ」


答えは与えなかった。


技師たちが相談する。


押す。


それでは転倒させる可能性がある。


掴む。


力加減を誤れば怪我をさせる。


進路を塞ぐ。


それだけでは横へ逃げられる。


一人の技師が手を上げた。


「武器だけ取らせてみては?」


アルフレッドが頷く。


「試せ」


再開された。


兵士が剣を持って接近する。


二メートル級は兵士本人ではなく、剣を持つ手の近くへ腕を伸ばした。


動作を調整する。


剣だけを掴む。


そのまま取り上げた。


兵士の手から武器がなくなる。


ゴーレムは奪った剣を離れた場所へ置いた。


「まだ兵士は動けるぞ」


今度は進路を塞ぐ。


兵士が右へ行けば右へ。


左へ行けば左へ。


その間に別のゴーレムがダミーを運び出した。


「これならいい」


アルフレッドが頷いた。


殺す必要はない。


殴る必要もない。


武器を取り上げる。


進路を塞ぐ。


要救助者との間に立つ。


それだけで目的は果たせる。


さらに技師の一人が言った。


「拘束もできませんか?」


「どうやって?」


「ゴーレムだけでやる必要はありません。同行する魔法使いがバインドを使えば」


アルフレッドの表情が変わった。


確かにそうだった。


ゴーレムだけですべてを完結させる必要はない。


ゴーレムが攻撃を受け止める。


その間に同行者が拘束魔法を使う。


救助担当は要救助者を運び続ける。


役割を分ければいい。


試験が再開された。


五メートル級が盾になる。


二メートル級が武器を取り上げる。


同行する魔法使いが兵士を拘束する。


別の二メートル級がダミーを救出する。


攻撃役が残っている間も作業は止まらなかった。


やがて十体すべてのダミーが安全区域へ運ばれた。


アルフレッドは記録を見る。


要救助者。


十体。


全員救助。


攻撃側。


死者なし。


負傷者なし。


ゴーレム。


損傷あり。


行動可能。


「悪くない」


アルフレッドは鉄製ゴーレムを見上げた。


まだ鉄だ。


これでも従来型の攻撃なら、かなり耐えられる。


ならばミスリルなら。


オリハルコンなら。


アダマンタイトなら。


どこまで耐えられるのか。


しかし、アルフレッドが気に入ったのは強度ではなかった。


攻撃されても救助を止めない。


相手を殺さなくても住民を守れる。


敵を倒すことではなく、敵の攻撃そのものを意味のないものにできる。


「これなら戦わなくて済むな」


アルフレッドの言葉に、技師たちが鉄製ゴーレムを見上げた。


破壊不能ゴーレムに求められているものが、少しずつ形になり始めていた。




鉄製ゴーレムによる防護試験が終わると、アルフレッドは技師たちを集めた。


机の上には、これまでの試験結果が並べられている。


街道整備。


土砂運搬。


掘削。


埋め戻し。


開墾。


重量物運搬。


瓦礫撤去。


要救助者救助。


防護。


武器の取り上げ。


攻撃を受けながらの救助活動。


試験を重ねたことで、必要なものがかなり見えてきた。


「大きければいいわけではない」


アルフレッドが言う。


技師たちも頷く。


五メートル級は重量物を扱う能力に優れている。


大きな瓦礫を持ち上げられる。


大量の土砂を動かせる。


荷車も容易に牽引できる。


その巨体そのものを壁として使うこともできる。


しかし狭い場所には入れない。


柔らかい地面では重量が問題になる。


要救助者のすぐ近くで作業するなら、二メートル級の方が扱いやすかった。


「小型と大型を組ませますか?」


技師の一人が尋ねた。


「その方がいいだろうな」


アルフレッドは記録をめくった。


大型が支える。


小型が入る。


大型が攻撃を受け止める。


小型が要救助者を運ぶ。


どちらか一方ですべてを行わせる理由はなかった。


「では、次へ進む」


その言葉を待っていたかのように、倉庫からインゴットが運び込まれた。


技師たちの視線が一斉に集まる。


鉄ではない。


ミスリル。


オリハルコン。


アダマンタイト。


王国から正式に預けられた希少金属だった。


これほどの量を一度に見る機会など、ゴーレム技師たちにもなかった。


「まず一体ずつだ」


アルフレッドは念を押した。


「いきなり量産はしない」


技師たちが頷く。


鉄製ゴーレムで得た構造を基礎にする。


ただし、材質が変われば同じ設計がそのまま使えるとは限らない。


重量。


魔力伝導。


加工のしやすさ。


関節への負荷。


動作速度。


実際に作らなければ分からない。


最初に完成したのは、二メートル級ミスリルゴーレムだった。


起動する。


一歩。


二歩。


方向転換。


腕を上げる。


しゃがむ。


立ち上がる。


鉄製より動きが滑らかだった。


「反応がいいです」


操作を担当した技師が驚く。


アルフレッドはすぐに試験を始めた。


木材を持たせる。


石材を運ばせる。


瓦礫の隙間へ入れる。


ダミー人形を抱えさせる。


鉄製で何度も行った動作を繰り返す。


問題はなかった。


次はオリハルコン。


同じく二メートル級。


そしてアダマンタイト。


三種類の希少金属ゴーレムが並んだ。


「なんというか……」


若い技師が三体を見る。


「豪華ですね」


アルフレッドも否定しなかった。


これだけの希少金属を人型の作業用ゴーレムへ使うなど、以前なら正気を疑われただろう。


だが材料を作った本人は、おそらく何とも思っていない。


アルフレッドの脳裏にアダムスの顔が浮かんだ。


「まあ、あるものは使えばいい」


試験が再開された。


三体とも救助活動そのものに問題はない。


ならば次は強度だった。


最初は剣。


傷らしい傷はつかない。


槍。


変化なし。


弓。


当然のように弾かれる。


属性魔法。


炎。


水。


風。


土。


次々と撃ち込まれる。


それでも三体は立っていた。


「続けろ」


攻撃の強度を少しずつ上げる。


従来型の兵士や魔法使いが実戦で使用する程度の攻撃を何度も加える。


結果は変わらなかった。


「……壊れません」


技師が呟く。


「動作は?」


「問題ありません」


アルフレッドは三体へ別々の命令を出した。


ミスリルゴーレムはダミーを救助。


オリハルコンゴーレムは瓦礫を撤去。


アダマンタイトゴーレムは攻撃役との間へ立つ。


攻撃は続いている。


それでも作業は止まらない。


魔法が直撃する。


剣で斬られる。


槍で突かれる。


だが、ゴーレムたちは淡々と仕事を続けた。


攻撃役の兵士たちの方が先に疲れ始める。


一人の兵士が剣を下ろした。


「侯爵様」


「どうした?」


「これ、意味ありますか?」


アルフレッドは少し笑った。


「ないな」


その答えに周囲から笑いが漏れた。


だが、それこそが求めていた結果だった。


旧来の兵士や魔法使いが攻撃しても壊せない。


攻撃している間にも救助は続く。


物資は運ばれる。


瓦礫は撤去される。


街道は整備される。


攻撃する側だけが疲れていく。


「これなら、救援活動を妨害するために兵を出しても無駄ですね」


技師の一人が言った。


アルフレッドは頷いた。


だからといって、ゴーレムから兵士を攻撃させる必要はない。


武器を取り上げればいい。


進路を塞げばいい。


必要なら同行する冒険者が拘束する。


それだけで救援活動は継続できる。


「ただし、勘違いするな」


アルフレッドが技師たちを見る。


「絶対に壊れないわけじゃない」


教導を受けた者たち。


六属性を自在に扱う者。


さらに十属性や高度な超能力を持つ者。


そうした新しい世代まで相手にすれば、どうなるかは分からない。


今回確認できたのは一つ。


従来型の兵士や魔法使いでは、この三種類を破壊することが極めて難しい。


それで十分だった。


救援活動で戦う相手は、そもそも人間である必要すらない。


魔物から住民を守る壁にもなる。


災害現場へ入ることもできる。


危険な場所へ物資を届けられる。


アルフレッドは三体のゴーレムを見上げた。


「破壊不能、か」


厳密には違う。


だが旧来の常識から見れば、そう呼んでも差し支えないほど頑丈だった。


「大型も試作する。ただし用途ごとに必要な数を考えろ」


「はい!」


技師たちが動き出す。


もうアルフレッドが細かな構造まで指示する必要はなかった。


救助訓練を経験した。


運搬試験もした。


失敗も記録した。


技師たち自身が、何が必要なのかを考え始めている。


アルフレッドは王宮へ送る報告書を開いた。


そこに短く記した。


『救援用ゴーレム、実用化の目途あり』


戦争のための新兵器ではない。


領土を奪うための軍団でもない。


攻撃されても壊れず。


人を殺さず。


物資を運び。


道を作り。


瓦礫を退け。


人を救い出す。


アルフレッドが百万体のスタンピードを経験した末に作ろうとしていたものは、


壊れない兵士ではなく、壊れない救助者だった。


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