92 叙爵の打診
アレクサンドは朝のギルド連合会議を終えると、その足でアーク邸を訪れた。
迎えたマーガレットへ、昨日からの出来事を順番に報告する。
ガイル率いる25人による7700体の魔物討伐。
死者0。
重傷者0。
グラビティ、テレキネシス、サンダーボルトを使った大規模戦。
帰還後には魔物を解体し、素材を分類。
さらにアレクサンドがオークの内臓や骨を使って料理を作り、屋外訓練場で焼肉大会になった。
そしてアダムスが大量に余った魔物の脂から石鹸を製造。
今朝には商業ギルド、食品ギルド、薬師ギルド、冒険者ギルドによる連合会議まで開かれ、石鹸を王国各地で製造、販売する方針まで決まった。
マーガレットは途中から額へ手を当てていた。
「昨日1日の出来事なのよね?」
「はい」
アレクサンドは真面目な顔で答える。
「討伐と解体までは予定通りでした」
「そこから料理と石鹸が生えてきたのね」
「結果的には」
マーガレットは小さく息を吐いた。
すぐに確認へ移る。
サイコメトリー。
アレクサンドが持ち帰った品や記録から残された情報を読み取る。
さらにポストコグニション。
過去の出来事を確認する。
ソートグラフィー。
マーガレットの思考に映し出された光景が、映像として記録されていった。
7700体の魔物。
25人による圧倒的な討伐。
大量の解体素材。
巨大な寸胴鍋。
オークキングの肉を焼くアレクサンドとアンジェラ。
宴会を楽しむ冒険者とギルド職員。
そして、その片隅で魔物の脂を煮込み始めるアダムス。
完成した石鹸。
驚く職員たち。
翌朝のギルド連合会議。
映像を確認していたアークが苦笑した。
「アダムス、またやったのか」
「本人にはその認識がないようです」
アレクサンドが答える。
マーガレットも頷いた。
「そこが1番困るところね」
記録を終えると、マーガレットは立ち上がった。
「お父様へ報告します」
アークも同行することになった。
2人は王宮へ向かった。
国王オーキス・アルデバランは、マーガレットから報告を受けるとしばらく黙っていた。
そして最初に出た言葉は、
「またアダムス・キンバリーか」
だった。
マーガレットは首を振った。
「アダムスだけではありません」
「まだいるのか?」
「アンジェラという女性です。アルタリア帝国からの亡命者で、現在は紡織教師をしています」
国王の表情が変わる。
マーガレットは映像を見せた。
アンジェラが魔物の素材を確認する。
糸を紡ぐ。
布を織る。
解体に参加する。
料理を手伝う。
石鹸が衣類の洗濯に利用できることも確認していた。
「アンジェラは既に紡織教師として多くの者を育てています。10属性と各種超能力を持ち、教導スキルも伸びています」
国王は黙って映像を見続けた。
そこへ宰相クレイン・レッドバルトが口を開いた。
「陛下」
「なんだ」
「これだけ立て続けに王国へ功を立てた者に褒賞を与えなければ、示しがつきませんぞ」
オーキスも分かっていた。
問題はアダムスだった。
「どうすればいい?」
国王は腕を組む。
「アダムスには以前、叙爵を固辞されたぞ」
功績がないのではない。
逆だった。
功績が増えすぎている。
戦闘能力。
ダンジョンの永久資源発見。
オリハルコン、ミスリル、アダマンタイトを含む鉱石の精錬。
そして今度は石鹸。
放置する方が難しくなっていた。
クレインは少し考えてから答えた。
「名誉伯爵ではいかがでしょう」
「名誉伯爵?」
「はい。通常の伯爵と異なり、貴族としての責務を大部分緩和します。領地経営を求めず、王国への功績を爵位として示すのです」
国王はアダムスの性格を思い出した。
貴族として権力を振るいたい男ではない。
むしろ自由に冒険者を続けたいからこそ叙爵を断った。
「それなら受ける可能性があるか」
「少なくとも通常の叙爵よりは」
オーキスはマーガレットを見る。
「マーガレット」
「はい」
「アダムスへ1度打診してみてくれ」
「畏まりました」
マーガレットが続ける。
「アンジェラには?」
国王は少し考えた。
帝国から逃れてきた女性。
出自ではなく、今この王国で何を成したかを見る。
答えは明確だった。
「子爵位を打診せよ」
マーガレットが目を見開く。
「子爵位ですか」
「紡織教師として人を育て、産業へ貢献している。今回の働きだけを見て決めるわけではない」
クレインも頷いた。
「妥当かと」
オーキスは続けた。
「固辞されたら、その時また考える」
「畏まりました」
マーガレットは一礼した。
その後も王宮では、彼女が持ち込んだ映像が繰り返し再生された。
貴族たち。
宰相。
そして騎士団長アイク、魔導騎士団長アッシュ、近衛騎士団長ロックウェル。
彼らも映像を前に会議を始める。
昨日、屋外訓練場で始まった小さな石鹸作り。
それは既に、王宮が正式に扱う功績へ変わっていた。
マーガレットとアークが王宮を辞した後も、会議室では持ち込まれた映像が繰り返し再生されていた。
宰相クレイン・レッドバルト。
騎士団長アイク。
魔導騎士団長アッシュ。
近衛騎士団長ロックウェル。
さらに王国の重臣や貴族たちが映像を見つめている。
最初に映し出されたのは7700体の魔物との大規模戦だった。
ゴブリン1000体。
オーク1000体。
フォレストウルフ5200体。
アースベア500体。
上位種も約1割含まれている。
対する冒険者は25人。
グラビティによる圧殺。
テレキネシスによる首の捻り。
サンダーボルトによる殲滅。
武器を使う場面はほとんどない。
死者0。
重傷者0。
アイクが腕を組んだ。
「これを25人で処理したのか」
アッシュが頷く。
「以前より戦い方が洗練されている。戦闘術と魔法を完全に組み合わせているな」
映像は帰還後へ進んだ。
冒険者ギルドの屋外訓練場。
25人にアレクサンドとアンジェラも加わり、7700体の魔物を解体している。
肉。
皮。
牙。
爪。
骨。
魔石。
素材を損壊しないよう切り分け、種類ごとに分類する。
「討伐だけでは終わらないのか」
ロックウェルが呟いた。
クレインが答える。
「魔物は資源でもある。倒し方から解体まで考えているということだ」
さらに映像が進む。
巨大な寸胴鍋が並んだ。
アレクサンドがオークの骨を砕いて煮込み、腸、肺、心臓をピュリフィケーションで処理する。
アンジェラは石板で肉とレバーを焼いていた。
そして屋外訓練場で始まる焼肉大会。
アイクが思わず笑った。
「大規模戦の帰還直後だぞ」
「食事も実力だそうだ」
アッシュが資料を見る。
食材知識。
調理知識。
保存。
野営料理。
アイクの表情が変わった。
「騎士団にも必要だな」
「魔導騎士団にも導入しよう」
「近衛もだ」
ロックウェルも即座に続いた。
3人の騎士団長が、その場で導入を考え始める。
映像はさらに進んだ。
宴会の片隅。
肉を食べ終えたアダムスが立ち上がる。
大量の魔物の脂を大鍋へ入れる。
煮込む。
ピュリフィケーションで不純物を除去。
木灰を加える。
型へ流す。
冷やす。
固まったものをウィンドカッターで切る。
完成したのは石鹸だった。
会議室が静まり返った。
クレインが映像を止めた。
「この男は、なぜ7700体の魔物を討伐したその日のうちに、新しい産業まで作っているのだ?」
誰も答えなかった。
答えられる者がいない。
本人は大量に余った脂を見て、使えるから使っただけなのだ。
アイクがアダムスの資料を見る。
「元キンバリー男爵家の次男」
アッシュが続ける。
「剣士スキル、槍術スキル、格闘術スキル。10属性。各種超能力。ポーション作成スキル」
ロックウェルも資料を読む。
「ダンジョンの壁から鉱石を発見。オリハルコン、ミスリル、アダマンタイト、金、銀、銅、鉄を精錬」
アイクが石鹸の映像を見る。
「そして今日は石鹸か」
クレインが訂正した。
「昨日だ。今朝はさらにギルド連合会議まで動いた」
沈黙。
アッシュが額を押さえた。
「時間の使い方がおかしくないか?」
誰も否定しなかった。
続いてアンジェラの資料が開かれる。
アルタリア帝国からの亡命者。
元娼婦。
現在は紡織教師。
10属性。
各種超能力。
教導スキルLv7。
既に多くの者へ紡織技術を教えている。
今回も解体へ参加し、魔物の素材から糸を紡ぎ、布を織り、料理を手伝い、石鹸が衣類の洗濯に使えることまで確認した。
「これで子爵位か」
アイクが言う。
アッシュは首を振った。
「出自だけ見れば異例だ。しかし現在の功績を見れば不思議ではない」
ロックウェルも頷く。
「何より教師だ。本人が技術を持つだけではなく、人へ広げられる」
王国が劇的に変化した理由を、彼らは理解していた。
1人の優秀な者が働くだけではない。
教えられた者が次の者へ教える。
戦闘術。
魔法。
解体。
料理。
紡織。
生産技術。
知識が人から人へ渡るたび、王国そのものが強くなっていく。
その頃、マーガレットとアークはアーク邸へ戻っていた。
待っていたアレクサンドへ、マーガレットが告げる。
「あなたから2人へ伝えてほしいの」
「はい」
「アダムスには名誉伯爵位。アンジェラには子爵位を打診することになったわ」
アレクサンドの目が大きくなる。
「アンジェラが子爵に?」
「まだ打診よ」
マーガレットは微笑んだ。
「帝国からの亡命者だったことも、以前の身分も関係ない。この王国で何を成したかを評価した結果よ」
アレクサンドも嬉しそうに微笑んだ。
「分かりました。私から伝えます」
横でアークが苦笑する。
「問題はアダムスだな」
マーガレットも頷いた。
「名誉伯爵なら受けてくれるといいのだけれど」
アレクサンドだけが不思議そうだった。
王国は爵位を与えたい。
本人は自由に冒険したい。
功績を立てるたび、褒賞する側が頭を悩ませる。
アダムス・キンバリーという男は、王宮にとって別の意味でも扱いの難しい人物になっていた。
アーク邸を出たアレクサンドは、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
屋外訓練場では、ガイル率いる25人が魔力循環と魔力操作を続けながら訓練していた。
昨日7700体の魔物を討伐し、そのまま解体と料理まで行った者たちである。
それでも今日は普段通りだった。
アダムスも訓練に参加している。
アンジェラは訓練場の端でガイルと話していた。
アレクサンドが姿を見せると、ガイルが気づいた。
「先生、どうした?」
「少し話があります。アダムス、アンジェラも来てください」
2人が呼ばれる。
騒ぎに気づいたバルドとエミリアも近づいてきた。
レオン、ガレス、ミリア、エリックも訓練を止める。
フェリクス、ロイド、ブラッドを含む班員たちも何事かと視線を向けた。
アレクサンドはアダムスの前へ立つ。
「王宮から正式な打診があります」
「私にですか?」
「ええ。アダムス・キンバリー。陛下はあなたへ名誉伯爵位を授けたいとお考えです」
訓練場が静かになった。
アダムスだけが首を傾げる。
「名誉伯爵?」
「通常の伯爵とは少し違います。これまでの功績を王国が正式に認めるための爵位です。領地経営など、通常の貴族が負う責務は大部分緩和されます」
アダムスは少し考えた。
「領地を持つんですか?」
「基本的には持たないでしょう」
「王都に住む必要は?」
「ありません」
「貴族の仕事を毎日するんですか?」
「そういう爵位ではありません」
アダムスの表情が少し明るくなる。
そして最も重要なことを聞いた。
「冒険者は続けられます?」
「ええ」
「ダンジョンにも行けます?」
「もちろんよ」
「それならいいですよ」
即答だった。
バルドが目を見開く。
「軽いな!」
アダムスが振り返る。
「何がです?」
「伯爵位を受ける返事だぞ!」
「冒険者を続けられるんですよね?」
「そこしか気にしてないのかよ!」
アダムスにとって爵位そのものは重要ではなかった。
自由に冒険できる。
ダンジョンへ行ける。
新しい鉱石を調べられる。
魔法や戦闘術も研究できる。
それなら断る理由はない。
アレクサンドも少し呆れながら頷いた。
「では、受けるということで王宮へ報告します」
「お願いします」
あっさり決まった。
バルドはアダムスの顔をまじまじと見る。
「……伯爵になるっていうのに、本当に何とも思ってないんだな」
「名誉伯爵ですよね?」
「伯爵は伯爵だろ」
「冒険者を続けられるなら問題ありません」
バルドは額を押さえた。
「最近、爵位まで軽く見えてきたぞ……」
エミリアが隣で微笑んだ。
「アダムスさんらしいですね」
「納得していいのか、これ」
誰も答えなかった。
アレクサンドは今度はアンジェラへ向き直る。
「アンジェラ」
「はい」
「あなたにも陛下から叙爵の打診があります」
アンジェラが目を瞬いた。
「私に?」
「子爵位です」
今度こそ周囲が静まり返った。
ガイルまで目を見開いている。
アンジェラは自分を指さした。
「私が……子爵?」
「ええ」
「帝国から亡命してきた私が?」
「そうよ」
「元娼婦ですよ?」
アレクサンドは不思議そうに首を傾げた。
「それが何か?」
アンジェラが言葉を失う。
「陛下が評価されたのは、あなたがこの王国で何をしてきたかよ」
紡織教師。
10属性。
各種超能力。
教導スキルLv7。
アンジェラは既に多くの者へ紡織技術を教えている。
糸を紡ぐ者。
布を織る者。
服を作る者。
彼女から学んだ者が働き、さらに別の者へ技術を伝えていた。
「昨日だってそうでしょう。解体に参加して、料理を手伝って、石鹸が衣類の洗濯にも使えることを確認した」
アレクサンドは穏やかに続ける。
「あなたは教師として王国へ十分な功績を立てているわ」
アンジェラは俯いた。
帝国にいた頃には想像すらできなかった。
亡命した時は、生きていければそれでよかった。
それが教師になった。
仲間ができた。
ガイルとアレクサンドと暮らすようになった。
既に十分すぎるほど幸せだった。
「私なんかが……」
アレクサンドの声がすぐに返ってくる。
「アンジェラ」
顔を上げる。
「私なんか、とは言わないで」
アレクサンドは微笑んでいた。
「あなたから学んだ人たちに失礼よ」
アンジェラの目が少し潤んだ。
ガイルが隣から言う。
「受ければいいじゃないか」
「簡単に言いますね」
「爵位のことは分からん」
「でしょうね」
「でも、お前が頑張ってきたのは知ってる」
アンジェラはしばらくガイルを見つめた。
そしてアレクサンドを見る。
「……お受けします」
「ええ」
アレクサンドの笑顔が広がった。
「おめでとう、アンジェラ」
周囲から拍手が起こる。
帝国から逃れてきた1人の女性。
元娼婦だった紡織教師。
過去ではなく、今まで積み重ねてきた仕事と教導。
王国はそれを、子爵位という形で評価しようとしていた。
アンジェラが子爵位を受けると答えると、屋外訓練場は一気に賑やかになった。
最初に動いたのはレオンだった。
「おめでとう、アンジェラ」
「ありがとうございます」
ガレスも笑う。
「これで子爵様か」
「まだ正式に叙爵されたわけではありませんよ」
「受けるって決めたんだろ? なら時間の問題だ」
ミリアとエリックも続く。
「本当におめでとう」
「紡織教師を続けるんでしょう?」
アンジェラは少し考えてから頷いた。
「もちろんです」
その答えにアレクサンドが微笑む。
爵位を得たから教師を辞める。
そんな発想はアンジェラにはなかった。
帝国から亡命してきた彼女が王国で居場所を得られた理由の1つが紡織だった。
自分が教わった技術を人へ教える。
教え子が糸を紡ぐ。
布を織る。
さらに次の者へ教える。
その繰り返しによって仕事が増えていった。
爵位を得ても、そこを変える必要はない。
フェリクスが腕を組んだ。
「しかし、うちの周りも貴族が増えたな」
ロイドが頷く。
「先生が伯爵」
ブラッドがアダムスを見る。
「アダムスも名誉伯爵」
そしてアンジェラを見る。
「アンジェラが子爵」
ガイルが笑った。
「俺は冒険者だぞ」
「お前はAランクだろ」
「それは爵位じゃない」
「貴族待遇だろ」
ガイルが黙った。
少し考える。
「……まあ、いいか」
その軽さに周囲から笑いが起きた。
アレクサンドはガイルとアンジェラを見た。
自分は伯爵。
アンジェラは子爵になる。
ガイルはAランク冒険者として貴族待遇。
奇妙な組み合わせではある。
しかし3人の生活そのものが変わるわけではない。
アレクサンドが言った。
「アンジェラ、爵位をもらっても今の家から出ていかないでしょう?」
「出ていきませんよ」
即答だった。
ガイルも頷く。
「それでいいだろ」
「そうね」
アレクサンドも嬉しそうに笑った。
その様子を見ていたバルドが呟く。
「伯爵と子爵とAランク冒険者が同じ家で暮らすのか」
エミリアが答える。
「既に暮らしていますよ」
「そうだった」
爵位が後からついてきただけだった。
バルドは考えるのをやめた。
アレクサンドは2人から正式な返答を聞くと、マーガレットへ報告するためアーク邸へ戻った。
「2人とも受けるそうです」
マーガレットは少し驚いた。
「アダムスも?」
「はい」
「ずいぶん簡単に決まったわね」
アレクサンドは少し困ったように笑う。
「冒険者を続けられるか、ダンジョンへ行けるかを確認していました」
マーガレットが納得した。
「なるほど。そこが条件だったのね」
隣にいたアークも笑った。
「アダムスらしいな」
「アンジェラは?」
「最初は自分が子爵になっていいのか戸惑っていました」
「そうでしょうね」
帝国からの亡命者。
元娼婦。
その経歴から子爵位を想像できなかったのも無理はない。
「でも受けると?」
「はい。ガイルにも背中を押されていました」
マーガレットは嬉しそうに頷いた。
「では、お父様へ返答を届けましょう」
再び王宮へ報告が送られた。
国王オーキス・アルデバランは返答を聞くと、安堵したように椅子へ背を預けた。
「アダムスが受けたか」
宰相クレインも頷く。
「名誉伯爵という形が合ったのでしょう」
「アンジェラも受けるそうだ」
「それは何よりです」
国王は机の上の報告書を見る。
アダムス・キンバリー。
元男爵家次男。
現在は冒険者。
数々の戦闘技術。
ダンジョンの永久資源発見。
希少金属の精錬。
そして石鹸製造。
アンジェラ。
帝国からの亡命者。
元娼婦。
現在は紡織教師。
10属性。
各種超能力。
教導スキルLv7。
多くの教え子を育成。
2人の経歴はまるで違う。
しかし共通点があった。
持っている能力を自分だけのものにしていない。
アダムスが技術を見せれば、それを見た者が覚醒する。
アンジェラが教えれば、紡織技術を持つ者が増える。
そして教わった者が、また次の者へ伝える。
オーキスは静かに言った。
「強い者へ爵位を与えるだけなら簡単だ」
クレインが国王を見る。
「はい」
「この2人の価値は、それだけではないな」
戦闘。
産業。
教育。
技術。
王国の発展を支えているのは、1人だけの力ではなかった。
誰かが学び、その者が別の誰かへ伝える。
教える者が増えるたび、王国の力そのものが広がっていく。
オーキスは2枚の書類へ視線を落とした。
名誉伯爵アダムス・キンバリー。
子爵アンジェラ。
「叙爵の準備を進めよ」
「承知いたしました」
クレインが一礼する。
王国はまた2人、新しい貴族を迎えようとしていた。
それは血筋によって与えられた地位ではない。
自ら積み重ねた功績によって手にする爵位だった。




