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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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81/311

81 25人部隊

翌朝。


王都冒険者ギルド訓練場には二十五名の冒険者が整列していた。


その横にはアレクサンドとアンジェラの姿もある。


アンジェラは正式な二十五人部隊には含まれていない。


本職は紡織教師であり、教導補佐でもある。


そして現在は冒険者登録を済ませ、一人前の冒険者を目指して修行中の身だった。


そのため実戦教導では教導補佐として同行し、自らも経験を積んでいる。


ガイルは二十五名を見渡した。


「今日から二十五人部隊として行動する。」


全員が姿勢を正す。


アレクサンドが前へ出た。


「二十五人を一人で指揮することはできません。」


「だから班長制度を導入します。」


ガイルは地面へ木の枝で五つの円を描いた。


「五人一組。」


「五班編成。」


「俺が全体指揮を執る。」


そして一人ずつ班長を紹介する。


「第一班。」


「班長、ガイル。」


「第二班。」


「班長、フェリクス。」


フェリクスが一歩前へ出る。


「了解。」


「第三班。」


「班長、ロイド。」


「了解。」


「第四班。」


「班長、ブラッド。」


「了解。」


「第五班。」


「班長、レオン。」


レオンも短く答えた。


「了解。」


ガイルは第五班の班員を紹介する。


「槍使い、ガレス。」


「了解。」


「弓使い、ミリア。」


「了解。」


「魔法使い、エリック。」


「了解。」


「アダムス・キンバリー。」


「了解。」


五人は互いに頷き合った。


アレクサンドが全員へ語り掛ける。


「班長は一番強い人ではありません。」


「班員全員を無事に帰還させる責任者です。」


「戦う。」


「退く。」


「援護する。」


「全て班長が判断します。」


ガイルも続ける。


「班員は勝手に動くな。」


「班長が判断する。」


「班長は俺へ報告する。」


「これが指揮系統だ。」


ベテラン冒険者たちは深く頷いた。


フェリクスが笑う。


「ようやく部隊らしくなってきたな。」


ロイドも腕を組む。


「ああ。」


「二十五人が好き勝手に動くより、ずっといい。」


ブラッドも笑った。


「これなら新人も育てやすい。」


レオンは緊張した表情だった。


ガイルが肩へ手を置く。


「気負うな。」


「お前ならできる。」


「了解。」


短い返事だったが、その声には力があった。


アレクサンドはアンジェラを見る。


「アンジェラさん。」


「今日は教導補佐として同行してください。」


「それと冒険者修行も兼ねます。」


アンジェラは嬉しそうに頭を下げた。


「はい。」


「よろしくお願いします。」


「解体や調理も学びます。」


「戦闘だけが冒険者ではありませんから。」


アレクサンドは満足そうに微笑んだ。


「その考え方です。」


「魔物は王国の貴重な資源です。」


「狩る。」


「解体する。」


「調理する。」


「素材を流通させる。」


「そこまでが冒険者の仕事になります。」


ガイルは右手を上げた。


「出発する。」


「今日は部隊運用の実戦教導だ。」


「了解!」


二十五名の声が揃う。


その横でアンジェラも歩き始めた。


正式な部隊員ではない。


それでも教導補佐として、そして一人前の冒険者を目指す修行者として、新たな一歩を踏み出していた。




二十五人部隊は魔の森へ到着した。


ガイルは右手を上げ、全部隊を停止させる。


「ここからは実戦教導だ。」


「班長は班を指揮。」


「班員は班長の指示に従う。」


「勝手な判断はするな。」


「了解!」


五人の班長が力強く返事をした。


アレクサンドも前へ出る。


「今日の目的は三つです。」


「部隊運用。」


「素材の保護。」


「そして各魔法の実戦運用です。」


「討伐数は競いません。」


「素材の価値を守ることを最優先してください。」


二十五人全員が索敵魔法を展開する。


水。


風。


土。


光。


闇。


火。


六属性を融合した索敵魔法が森全体へ広がっていく。


フェリクスが報告した。


「北東二百メートル。」


「フォレストボア十体。」


ロイドが続く。


「西側。」


「フォレストウルフ十二体。」


ブラッドも反応する。


「南側。」


「ホーンラビット十五体。」


ガイルは即座に指示を飛ばした。


「第一班。」


「フォレストウルフ。」


「第二班。」


「フォレストボア。」


「第三班。」


「ホーンラビット。」


「第四班は周辺警戒。」


「第五班は遊撃。」


「各班、行動開始!」


「了解!」


五班が一斉に散開した。


班長を中心に隊形が崩れることはない。


レオン率いる第五班が最初にホーンラビットへ接触する。


「包囲。」


「逃がすな。」


ガレスが左側へ回り込み、ミリアは木の上から退路を塞ぐ。


エリックは魔法支援の位置へ入り、アダムス・キンバリーが後方を警戒した。


「バインドバレット。」


黒い弾丸が連続して放たれる。


ホーンラビットは一体ずつ拘束され、その場へ倒れ込んだ。


「ウォーターマスク。」


透明な水が口と鼻を覆う。


魔物は暴れることもできず、静かに動きを止めた。


レオンは短く命じる。


「ウォーターカッター。」


青い刃が一閃する。


拘束されたホーンラビットの首が一太刀で刎ねられた。


胴体の皮には傷一つない。


肉も損なわれていない。


素材価値は完全に保たれていた。


ガイル率いる第一班も同じ流れでフォレストウルフを処理する。


「バインドバレット。」


「ウォーターマスク。」


「ウォーターカッター。」


首だけを正確に落とし、素材を傷付けることなく討伐を終える。


第二班、第三班も同じ手順を繰り返した。


以前のように力任せに斬り伏せる者はいない。


拘束。


無力化。


首を刎ねる。


その一連の流れが二十五人部隊へ完全に浸透していた。


アレクサンドは満足そうに頷く。


「理想的です。」


「素材を一切損傷させていません。」


アンジェラも教導補佐として笑顔を見せる。


「解体もしやすくなります。」


「皮も綺麗なままです。」


「肉も高品質で流通できます。」


ガイルは二十五人を見渡した。


「魔物は倒して終わりじゃない。」


「王国の資源だ。」


「価値を守るところまでが冒険者の仕事になる。」


二十五人は深く頷いた。


戦闘技術だけではない。


素材の価値を守り、王国の産業を支える。


それが新しい時代の冒険者の姿として、二十五人部隊へ着実に根付き始めていた。




討伐を終えた二十五人部隊は、魔の森の開けた場所へ集結した。


拘束した魔物はすでにウォーターマスクによって無力化され、ウォーターカッターで首だけが正確に落とされている。


皮も肉も傷一つない。


ガイルは部隊を見渡した。


「ここからが冒険者の仕事だ。」


「討伐だけで終わるな。」


「素材の価値まで守って、一つの依頼が完了する。」


「了解!」


五人の班長が力強く応えた。


アレクサンドは一歩前へ出る。


「解体教導を始めます。」


「第五班、実演をお願いします。」


「了解。」


レオンが前へ進み、フォレストボアの前へ立つ。


隣にはガレス、ミリア、エリック。


そして少し後ろにはアダムス・キンバリーが控えていた。


アダムスは十属性を扱える優れた才能を持っている。


しかし、貴族学校へ通う学生であり、実戦での解体経験はまだ浅い。


今日は第五班の技術を自分のものにするため、一つひとつの動きを見逃すまいと集中していた。


レオンは静かに右手をかざす。


極限まで薄く形成されたウォーターカッターが、首の切断面から皮と肉の境目だけを滑るように走った。


皮は裂けない。


肉も削れない。


一枚の革が、美しい形のまま剥がれていく。


続いてガレスがウィンドカッターを発動する。


筋と腱だけを正確に切り分け、部位ごとに肉を分割していく。


ミリアは骨と肉を無駄なく切り離し、エリックは魔石を正確に摘出した。


四人はほとんど言葉を交わさない。


必要なのは技術だけだった。


アルゼ村でサーシャから教わった基礎。


その後、自ら反復を重ね、積み上げてきた技術。


その成果が、流れるような動きとなって現れていた。


アダムスは真剣な表情で見つめる。


刃の角度。


魔力の流れ。


切り進める順番。


視線まで動かさず、一つずつ頭へ刻み込んでいく。


実演が終わると、レオンは一歩だけ下がった。


「やってみろ。」


「はい。」


アダムスは深呼吸し、右手を前へ出す。


「ウォーターカッター。」


細い水の刃が形成される。


第五班の動きを思い返しながら、皮と肉の境目だけへ慎重に刃を滑らせた。


最初こそ速度は遅かったが、刃はぶれることなく進んでいく。


皮を傷付けることもない。


最後まで切り終えると、綺麗な一枚皮が姿を現した。


レオンは切断面を一瞥し、小さく頷く。


それだけだった。


その反応だけで、アダムスは十分に伝わった。


アレクサンドが全体へ声を掛ける。


「各班、解体を始めてください。」


「第五班の手順を参考に、素材を傷付けないことを最優先に。」


「了解!」


四班も一斉に作業へ入る。


ウォーターカッター。


ウィンドカッター。


魔力操作を維持しながら、皮と肉の境目だけを正確に切り分けていく。


以前のように力任せへ解体する者は、もう一人もいなかった。


解体を終えた素材は、肉、皮、骨、牙、魔石へと丁寧に仕分けされる。


担当者がアイテムボックスを展開した。


保護空間へ収納された素材は鮮度も品質も保たれ、その価値が失われることはない。


討伐。


拘束。


解体。


収納。


それぞれの工程が淀みなくつながり、二十五人部隊は一つの組織として確実に機能し始めていた。





少し時間が経過し、二十五人部隊は解体と収納を終えた。


アンジェラがアイテムボックスから必要な分だけフォレストボアの肉を取り出す。


「こちらを昼食に使います。」


肉は鮮度を失うことなく、美しい赤身を保っていた。


レオンは薪を組み、ガレスが火属性魔法で火を起こす。


ミリアは野菜を洗い、エリックは大鍋へ水を張る。


アダムスもすぐに動いた。


「何を手伝えばいいですか。」


レオンは短く答える。


「野菜を切れ。」


「はい。」


アダムスは慣れない手付きながらも作業を始めた。


戦闘も、解体も、調理も。


その全てが冒険者の仕事だった。


やがてフォレストボアの焼き肉とフォレストウルフのスープが完成する。


香ばしい匂いが森の中へ広がった。


「いただきます!」


二十五人は声を揃え、昼食を始める。


ガイルは焼き上がった肉を口へ運び、小さく笑った。


「美味い。」


フェリクスも頷く。


「解体が丁寧だから肉を傷めていない。」


ロイドが続ける。


「素材を守る意味が分かったな。」


ブラッドも笑う。


「昔は力任せに倒して終わりだった。」


「今とは全然違う。」


アンジェラも嬉しそうに微笑んだ。


「料理もしやすかったです。」


「肉の切り口が綺麗なので火の通りも均一でした。」


アレクサンドは全員を見渡す。


「今日の教導で覚えてほしいことがあります。」


全員が姿勢を正した。


「魔物は討伐するだけではありません。」


「肉。」


「皮。」


「骨。」


「牙。」


「魔石。」


「全てが王国の財産です。」


「素材を守ることは、王国を豊かにすることでもあります。」


二十五人は深く頷いた。


その言葉は冒険者だけではなく、一人の教師としての教えだった。


食事を終えると、ガイルが立ち上がる。


「午後も実戦を続ける。」


「今度は班長の指示だけで動け。」


「俺は必要な時だけ口を出す。」


「了解!」


各班は素早く隊形を整えた。


班長を中心に自然と五人がまとまる。


以前なら全員が一斉に動き、互いの邪魔をしていた。


今は違う。


班長が判断し、班員が即座に動く。


指揮系統が形になり始めていた。


ガイルは満足そうに頷く。


「これなら二十五人でも十分動ける。」


フェリクスも笑う。


「あとは経験だな。」


ロイドが続く。


「五十人になっても班を増やせば対応できる。」


ブラッドも腕を組んだ。


「百人でも同じだ。」


ガイルは仲間たちを見渡した。


「そうだ。」


「部隊は人数じゃない。」


「指揮系統だ。」


「班長がいて、班が動く。」


「だから強い。」


アレクサンドもその言葉へ静かに頷く。


班長制度。


役割分担。


討伐。


拘束。


ウォーターマスクによる無力化。


ウォーターカッターとウィンドカッターによる解体。


アイテムボックスによる収納。


調理。


その全てが一つの流れとなり、二十五人部隊は着実に完成へ近づいていた。


ガイルは森の奥を見つめる。


「明日からは、さらに難しい魔物を相手にする。」


「今日覚えたことを忘れるな。」


二十五人は力強く返事をした。


「了解!」


新たな班制度は、王国の冒険者たちをさらに強く、さらに効率的な部隊へと変え始めていた。





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