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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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66 亡命3

アルタリア帝国。


帝都オーガニック。


皇帝テオマールは玉座に座ったまま、机へ叩きつけられた報告書を睨みつけていた。


「またか……。」


側近たちは誰一人として顔を上げられない。


主任文官が震える声で報告する。


「本日の人口調査です。」


「帝国人口は千五百万人となりました。」


会議室が静まり返る。


わずか一か月余りで、帝国人口は急激に減少していた。


皇帝は拳を握り締める。


「まだ減るのか。」


「はい。」


「亡命者は現在も増え続けております。」


別の文官も資料を差し出す。


「徴兵も予定人数に達しておりません。」


「地方では兵士そのものが不足しております。」


軍務大臣が苦い表情で頷く。


「兵だけではありません。」


「部隊長。」


「中隊長。」


「指揮官までも亡命しております。」


「何だと。」


皇帝の怒声が会議室へ響いた。


さらに報告は続く。


「帝都でも亡命者が増えております。」


「貴族。」


「文官。」


「使用人。」


「騎士。」


「職人。」


「商人。」


「娼婦。」


「奴隷。」


「身分を問わず流出しております。」


皇帝は立ち上がった。


「なぜ止められぬ!」


誰も答えられない。


国境へ向かった兵も。


取り締まりを命じられた衛兵も。


家族ごと亡命してしまうからだった。


皇帝は怒りのまま命令する。


「見せしめだ。」


「責任者を処刑せよ。」


その日のうちに数名の官僚と大臣が公開処刑された。


しかし翌日。


主任文官はさらに暗い表情で報告する。


「亡命者は昨日より増加しております。」


「何……。」


「処刑を恐れた者たちが、一斉に帝都を離れ始めました。」


皇帝は言葉を失った。


恐怖で支配しようとするほど、人々は帝国を見限っていく。


その頃。


アルデバラン王国では全く異なる光景が広がっていた。


主任文官が王宮大会議室で報告する。


「王国人口。」


「三千百万人を突破しました。」


国王オーキス・アルデバランは静かに資料を閉じる。


「受け入れは順調か。」


「はい。」


「新都市建設。」


「農地開拓。」


「住宅建設。」


「いずれも計画どおり進んでおります。」


宰相クレイン・レッドバルトも頷く。


「教導教師も順次増員しております。」


マーガレットは王国全土の地図を見つめながら微笑んだ。


「人が増えても教育が止まらなければ、王国は必ず成長します。」


帝国では恐怖が人を追い出し。


王国では教導が人を迎え入れていた。


二つの国の違いは、日に日に鮮明になっていくのだった。




アルデバラン王国では、かつてない規模の教導が始まっていた。


王国中の教師たちへ召集命令が下る。


「亡命者への教導を開始します。」


「各地の教師は担当区域へ集合してください。」


テレパシーによる連絡は瞬く間に全国へ広がった。


王都。


地方都市。


村。


冒険者ギルド。


商業ギルド。


食品ギルド。


紡織ギルド。


薬師ギルド。


鍛冶師ギルド。


木工ギルド。


教導スキルを持つ者たちが、それぞれ持ち場を離れ、新たな教導拠点へ向かう。


総動員された教師は五百万人を超えていた。


アルゼ村でも召集がかかる。


サーシャは笑顔で荷物をまとめた。


「行ってきます。」


ミーナも頷く。


「今度は私たちが教える番ですね。」


二人は飛行魔法で王都近郊の教導拠点へ向かう。


王都冒険者ギルドでは、レオン、ガレス、ミリア、エリックたちも出発の準備を終えていた。


「久しぶりの大規模教導だな。」


「今度は魔物じゃない。」


「人を育てる仕事だ。」


四人は笑顔を交わし、飛び立った。


各地の教導拠点では、毎日数万人単位で教導が行われる。


魔力循環。


魔力操作。


識字。


計算。


農業。


商業。


物流。


行政。


教導。


午前は実習。


午後は座学。


教師たちは休むことなく教え続けた。


亡命者たちも懸命に学ぶ。


「この国で働きたい。」


「家族を養いたい。」


「もう飢えたくない。」


その思いが学ぶ力へ変わっていく。


教導を続けるうちに、教師たちにも変化が現れ始めた。


鑑定を担当していた教師が驚く。


「また上がっています。」


教導スキル。


レベル十。


その報告が各地から相次いだ。


経験を積み重ねた教師たちは、次々と最高レベルへ到達していく。


主任文官が王宮で集計結果を報告した。


「教導スキル、レベル十到達者。」


「二百万人を突破しました。」


会議室にいた重臣たちは驚きの表情を浮かべる。


マーガレットは静かに微笑んだ。


「教師が育てば、さらに教師が育ちます。」


「教育は人から人へ広がっていくものです。」


その頃、最初期に亡命してきた帝国兵や村人たちにも変化が起きていた。


教導を受け続けた結果、自ら教導スキルを覚醒する者が次々と現れる。


彼らは故郷から新たに亡命してきた家族や友人へ教導を始めた。


「大丈夫。」


「私も最初は何もできなかった。」


「一緒に学ぼう。」


同じ帝国出身だからこそ、不安を理解できる。


教導の輪は教師だけではなく、亡命者自身の手によっても大きく広がり始めていた。




亡命者への教導が始まって三か月。


アルデバラン王国では、新しい変化が生まれていた。


最初に亡命してきた帝国兵たち。


農民。


職人。


商人。


彼らは教導を受け続ける中で、次々と教導スキルを覚醒していた。


王都郊外の教導講堂。


数千人の亡命者が集まる中、一人の男が教壇へ立つ。


かつてアルタリア帝国軍で小隊長を務めていた男だった。


「私は三か月前まで帝国兵でした。」


「読み書きも十分ではありませんでした。」


「魔力循環も知りませんでした。」


「ですが、この国で教えていただきました。」


男は穏やかに笑う。


「だから今度は私が皆さんへ教えます。」


講堂から大きな拍手が起こった。


教導教師たちは静かに頷く。


「卒業ですね。」


「はい。」


「もう立派な教師です。」


同じ帝国出身だからこそ伝わる言葉がある。


同じ苦しみを経験したからこそ寄り添える。


教導は自然と広がっていった。


各地の農地でも変化が現れる。


最初に亡命してきた農民たちが、新しく来た亡命者へ農業を教えていた。


「この畝は真っ直ぐ作ります。」


「散水は均等に。」


「ヒールバレットは収穫前まで毎日続けます。」


教える者も。


教わる者も。


全員が笑顔だった。


王宮大会議室。


主任文官が新しい資料を提出する。


「農地面積。」


「三か月前と比較して約四割増加。」


「食料生産量。」


「さらに増加しております。」


宰相クレイン・レッドバルトは資料を眺める。


「人口が一千万人以上増えても、食料充足率二〇〇%を維持しております。」


主任文官も頷く。


「農業教師の増加が大きな要因です。」


「亡命者自身が農業教師となり、生産力をさらに押し上げております。」


マーガレットは穏やかに微笑んだ。


「教育は、人を増やすためのものではありません。」


「人が人を育てられるようにするためのものです。」


その言葉どおりだった。


教師が教師を育てる。


農民が農民を育てる。


職人が職人を育てる。


教導は連鎖し続けていた。


一方、その報告はアルタリア帝国にも届いていた。


「亡命者は教導を受け、教師になっているそうです。」


「農地も拡大を続けております。」


報告を聞いた皇帝テオマールは机を強く叩く。


「なぜだ!」


「なぜ我が帝国だけ人が減る!」


誰も答えられなかった。


恐怖で従わせる帝国。


教育で人を育てる王国。


その差は、もはや誰の目にも明らかになりつつあった。




アルデバラン王国への亡命は、その後も止まることはなかった。


帝国各地から新たな亡命者が到着する。


そのたびに教導教師たちは迎え入れる。


「ようこそ。」


「今日から皆さんは王国民です。」


亡命者たちは深く頭を下げた。


「よろしくお願いします。」


教導はすぐに始まる。


魔力循環。


魔力操作。


識字。


計算。


農業。


商業。


物流。


行政。


そして教導。


最初に亡命してきた帝国兵や村人たちは、今では立派な教師となっていた。


「ここはこうします。」


「焦らなくて大丈夫です。」


「私も最初は何も分かりませんでした。」


同じ故郷の言葉で語り掛ける。


不安そうだった亡命者の表情が少しずつ和らいでいく。


各地の教導拠点では、新たな教師が毎日のように誕生していた。


主任文官は最新の報告書を王宮へ提出する。


「教導スキル保持者。」


「増加を続けております。」


「教導スキルレベル十到達者は二百万人を突破しました。」


国王オーキス・アルデバランは静かに報告書を閉じる。


「教師が増えれば。」


「さらに教師が育つ。」


マーガレットは微笑んだ。


「教育は人から人へ受け継がれていきます。」


「だから終わりがありません。」


主任文官は続けて人口統計を報告する。


「王国人口。」


「三千百万人を突破。」


「亡命者は一千万人を超えました。」


「食料充足率は二〇〇パーセントを維持しております。」


宰相クレイン・レッドバルトは思わず感嘆した。


「人口がここまで増えても不足しないとは。」


主任文官は資料を示す。


「農地開拓。」


「物流整備。」


「教師の増加。」


「農業生産性の向上。」


「これらが同時に進んでおります。」


マーガレットは静かに頷いた。


「人が増えたから食料が不足するのではありません。」


「人が育てば、生産も増えるのです。」


その頃。


帝国では人口流出が続いていた。


村では働き手が減り。


街では店が閉まり。


兵営では兵士が姿を消していく。


恐怖で民を縛ろうとするたびに、人々は帝国を離れていった。


一方のアルデバラン王国では、人を育てるたびに教師が増え、教師が増えるたびに新たな産業が生まれていく。


国王は王宮の窓から活気あふれる王都を眺めた。


「人は財産だ。」


静かに呟く。


宰相も隣で頷いた。


「教育こそ、最大の国力でございます。」


王国は剣によって大きくなったのではない。


人を育て、人が人を育てる循環によって発展していた。


その循環は今や一国を越え、大陸全体を変え始めようとしていた。





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