65 亡命2
亡命支援作戦が始まってから二週間。
国境では、もはや一日数万人規模の亡命が続いていた。
アルタリア帝国各地から人々が集まる。
農民。
職人。
商人。
老人。
女性。
子ども。
そして帝国兵。
街道という街道が、人々の列で埋め尽くされていた。
飛行部隊は上空から索敵魔法を展開する。
「北街道より一万二千。」
「東街道より八千。」
「南方より一万五千。」
「さらに後方にも多数確認。」
報告は絶えることがない。
アルフレッド侯爵は冷静に指示を飛ばす。
「第一部隊は北街道。」
「第二部隊は東。」
「第三部隊は南。」
「老人と子どもを優先して保護せよ。」
「はっ!」
二万名の亡命支援部隊は飛行魔法で各地へ展開する。
食料を配る者。
医療を担当する者。
亡命希望者を保護空間へ収容する者。
教導を担当する教師。
全員が休む間もなく働き続けていた。
帝国軍の部隊とも何度も遭遇する。
しかし戦闘は起こらなかった。
帝国軍指揮官は逃げる民を止めようと命令する。
「戻れ!」
「国境へ向かうな!」
だが兵士たちは武器を下ろした。
「申し訳ありません。」
「私も家族を連れて亡命します。」
「もう戦えません。」
指揮官は言葉を失う。
止めようにも、自らの部下まで亡命を望んでいた。
その様子は各地で繰り返される。
一か月も経たないうちに、亡命希望者は百万人を突破した。
その報告は王宮へ届けられる。
「亡命希望者、百万人を超えました。」
国王オーキス・アルデバランは静かに資料を見つめる。
宰相クレイン・レッドバルトも驚きを隠せなかった。
「帝国全土から人が動いておりますな。」
マーガレットは地図を見つめながら頷く。
「帝国の民は、安心して暮らせる場所を選んだのでしょう。」
その頃、国境では亡命支援部隊の指揮官たちにも変化が現れていた。
昼夜を問わず魔力循環と魔力操作を続けながら、人々を誘導し、部隊を統率する。
教導を繰り返し、仲間を育て続ける。
その積み重ねが実を結び始めていた。
アルフレッド侯爵が鑑定を行う。
「これは……。」
指揮官の一人が驚いた表情を浮かべる。
「スキルが増えています。」
鑑定結果には、新しい文字が表示されていた。
将軍スキル。
隊長スキル。
同じ報告が各部隊から相次ぐ。
やがてアルフレッド侯爵を含む指揮官約千名が、新たな統率系スキルを覚醒させていた。
人を率い。
人を守り。
人を導く。
その経験が、新たな力として形になり始めていた。
亡命支援部隊は、救済を続ける中でさらに大きく成長していくのだった。
亡命支援作戦は、その後も止まることなく続いた。
国境へ続く街道は、人の流れが途切れない。
一家で荷車を引く農民。
幼い子どもを背負う母親。
互いに支え合う老人夫婦。
家財道具を抱えた職人。
そして武器を置き、家族の手を引く帝国兵たち。
亡命支援部隊は昼夜を問わず活動を続けていた。
索敵部隊は上空から亡命希望者を発見する。
案内部隊が安全な経路へ誘導する。
護衛部隊が周囲を警戒する。
救護部隊が病人や負傷者を治療する。
輸送部隊はアイテムボックスの保護空間へ人々を収容していく。
すべての部隊が魔力循環と魔力操作を続けながら任務を遂行していた。
疲労は蓄積する。
しかし魔力循環を絶えず行うことで身体能力も回復力も維持され、大きく体調を崩す者はいなかった。
アルフレッド侯爵も最前線を飛び回る。
各部隊を巡回し、指揮官へ助言を与え、必要な場所へ戦力を再配置していく。
「北街道へ二個中隊。」
「東方面は十分だ。」
「救護班を南へ増派する。」
指示は的確だった。
千名の指揮官たちも成長していた。
将軍スキル。
隊長スキル。
新たに覚醒した統率系スキルによって、部隊運用は以前よりさらに円滑になる。
テレパシーによる情報共有。
索敵結果の分析。
飛行部隊の再配置。
数万人規模の避難民であっても混乱することなく誘導できるようになっていた。
王宮でも毎日報告会議が開かれる。
主任文官が最新の資料を読み上げた。
「アルデバラン王国人口。」
「二千二百万人を突破。」
国王オーキス・アルデバランは静かに頷く。
主任文官は続ける。
「亡命者百万人。」
「自然増百万人。」
「合計二百万人の人口増加です。」
宰相クレイン・レッドバルトは資料を見ながら口を開く。
「犯罪被害は。」
「ほぼ発生しておりません。」
「魔物被害も。」
「各地の討伐により激減しております。」
「飢餓。」
「食料充足率の向上により確認されておりません。」
「病死。」
「衛生改善と治療体制により大幅に減少しております。」
マーガレットは静かに微笑んだ。
「人が安心して暮らせるようになれば、自然と家族も増えていきます。」
「それが国の豊かさです。」
国王も穏やかに頷く。
「剣ではなく、人を育てることで国は強くなる。」
その理念は今や王国全体へ広がっていた。
一方、亡命支援部隊は今日も国境を飛び続ける。
救うべき人がいる限り、その任務が終わることはなかった。
亡命支援作戦が始まって一か月。
人の流れは衰えるどころか、さらに勢いを増していた。
アルタリア帝国各地から、人々は家族を連れて国境へ向かう。
街道だけではない。
山道。
森。
河川沿い。
あらゆる道を通って亡命希望者が集まってくる。
飛行部隊は昼夜を問わず索敵魔法を展開していた。
「北西方面、一万八千。」
「東方面、一万二千。」
「南方街道、二万人。」
「さらに後続多数。」
報告が入るたび、アルフレッド侯爵は冷静に部隊を再配置する。
「第三部隊は北西へ。」
「第五部隊は東街道を支援。」
「救護班を南へ倍増する。」
「食料輸送班も同行させよ。」
「はっ!」
将軍スキルと隊長スキルを覚醒した指揮官たちは、瞬時に命令を理解し、部隊を動かしていく。
二万人の亡命支援部隊は、一つの巨大な組織として機能していた。
各地では亡命者の受け入れも続いていた。
保護空間へ収容された人々には食事が配られる。
酵母パン。
焼いた魔物肉。
野菜スープ。
温かい食事を前に、多くの人が涙を流した。
「こんな料理を毎日食べられるのですか。」
「もちろんです。」
教導教師は穏やかに答える。
「皆さんも働き、自立していただきます。」
「そのための教導も行います。」
亡命者たちは深く頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
王都でも人口増加への対応が急ピッチで進んでいた。
主任文官が会議で報告する。
「新しい集合住宅の建設が進んでおります。」
「新農地も各地で開拓中です。」
「学校、浴場、食堂、工房も順次整備しております。」
マーガレットは地図を見ながら指示を出す。
「教師を追加派遣してください。」
「農業教師。」
「行政教師。」
「商業教師。」
「教導教師。」
「亡命者の自立を最優先に進めます。」
「承知いたしました。」
その頃、国境では新たな報告が届く。
「亡命希望者総数、二百万人を突破。」
さらに数日後。
「三百万人を突破。」
報告を聞いたアルフレッド侯爵は驚かなかった。
帝国の状況を知れば、この流れは当然だったからである。
飢えない国。
安全な国。
努力すれば報われる国。
その噂は帝国内を瞬く間に広がっていた。
帝国兵ですら家族を連れて亡命する。
農民も。
商人も。
職人も。
未来を求め、人々はアルデバラン王国を目指して歩き続けていた。
亡命支援部隊は今日も休むことなく飛び続ける。
彼らの使命は変わらない。
一人でも多くの命を救い、新しい人生への第一歩を支えることだった。
亡命支援作戦開始から一か月。
亡命支援部隊は一日も休むことなく活動を続けていた。
飛行部隊は帝国各地を索敵し、亡命希望者を発見する。
案内部隊が安全な経路へ誘導する。
護衛部隊が周囲を警戒する。
救護部隊が病人や負傷者を治療する。
輸送部隊はアイテムボックスの保護空間へ人々を収容する。
二万人の部隊は、もはや一つの巨大な組織として機能していた。
その日の夕方。
主任文官からアルフレッド侯爵へ最新の集計が届けられる。
「亡命希望者総数。」
「五百万人を突破しました。」
周囲にいた指揮官たちは思わず息を呑んだ。
一か月前には想像もできなかった数字だった。
アルフレッド侯爵は静かに頷く。
「すぐ王宮へ報告する。」
テレパシーが王都へ送られる。
『亡命希望者五百万人を突破。』
『現在も増加中。』
王宮大会議室。
国王オーキス・アルデバラン。
王妃バイオレット・アルデバラン。
マーガレット。
宰相クレイン・レッドバルト。
主任文官たちが報告を聞いていた。
主任文官が最新資料を読み上げる。
「アルデバラン王国人口。」
「二千六百万人。」
「アルタリア帝国人口。」
「二千万人。」
会議室は静まり返る。
わずか一か月で、大陸の勢力図そのものが変わろうとしていた。
宰相クレイン・レッドバルトが静かに口を開く。
「戦争をせずに、ここまで人口が動くとは。」
主任文官も続ける。
「新しい都市建設は順調です。」
「農地開拓も各地で進んでおります。」
「食料備蓄も十分確保しております。」
マーガレットは王国全土の地図を見つめる。
各地には新しい町が次々と誕生していた。
住宅。
学校。
食堂。
公衆浴場。
工房。
農地。
物流拠点。
亡命者たちは教導を受け、それぞれの適性に応じて働き始めている。
農業。
商業。
鍛冶。
木工。
紡織。
食品加工。
行政。
教師。
誰もが新しい生活を築いていた。
国王は静かに立ち上がる。
「王国は豊かだから人が集まるのではない。」
「人を育てるから豊かになるのだ。」
その言葉に重臣たちは深く頷いた。
王国が築いてきたのは武力ではない。
教育。
行政。
農業。
物流。
商業。
積み重ねてきた改革が、多くの民に未来への希望を与えていた。
一方、アルタリア帝国では人口流出が止まらない。
農村では働き手が減り。
都市では商人が姿を消し。
兵営では兵士が次々と亡命していく。
武力では、人の心をつなぎ止めることはできなかった。
アルデバラン王国は剣で領土を広げたのではない。
人々が自ら未来を選び、その結果として国が大きくなっていったのである。
その変化は、大陸全土の歴史を大きく動かす、新たな時代の始まりとなっていた。




