61 貴族家処分
貴族学校改革が始まると、マーガレットは次の段階へ進んだ。
改革を成功させるには、生徒だけを変えても意味がない。
教える教師が正しくなければ、教育は必ず歪む。
王宮会議室。
マーガレットは校長と王国騎士団長アイク、女性騎士アレクサンド、文官たちを前に静かに告げた。
「最初に教師を調査します。」
校長も深く頷く。
「承知しております。」
翌日。
王宮内の講堂には、貴族学校の教師三百名が集められた。
一人ずつ面接を行う。
王国騎士団が警備を固め、逃亡や証拠隠滅を防いでいた。
マーガレットは最初の教師の前へ立つ。
「これより適性確認を行います。」
教師は静かに頷いた。
マーガレットは右手をかざす。
「ピュリファイ。」
柔らかな光が教師を包み込む。
続いて鑑定を行う。
能力。
人格。
教導者としての適性。
一つひとつ丁寧に確認していく。
さらに超能力を発動した。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
過去の教育。
過去の言動。
生徒への接し方。
記憶を確認していく。
最後にソートグラフィーを発動する。
確認した内容は映像として記録され、文官へ提出された。
その作業を朝から夕方まで繰り返す。
一人。
また一人。
三百人全員の調査が終了した。
王宮大会議室。
校長。
国王。
王妃。
宰相。
騎士団長アイク。
アレクサンド。
文官たちが結果を待っていた。
マーガレットは静かに報告書を開く。
「調査が終了しました。」
会議室は静まり返る。
「教育者として適格と判断した教師は百名です。」
誰も言葉を発しない。
「残る約二百名は不適格と判断しました。」
重い空気が流れた。
マーガレットは続ける。
「差別。」
「家格による優遇。」
「いじめの黙認。」
「派閥形成。」
「教育放棄。」
「これらを複数確認しております。」
ソートグラフィーで記録した映像が魔道具によって映し出される。
教師たちは言い逃れができなかった。
校長は深く目を閉じる。
「……ここまでとは。」
マーガレットは静かに命じた。
「対象者は本日付で解任します。」
王国騎士団が直ちに動いた。
対象となった教師たちは抵抗することなく講堂から退出させられる。
全員が隔離施設へ移送される。
そこで再教育教導を受けることになった。
アレクサンドは新しい教師名簿を手に頷く。
「残った教師百名なら、新しい学校を作れます。」
マーガレットも静かに頷いた。
「教師は未来を育てる存在です。」
「だからこそ、誰よりも正しくなければなりません。」
教師改革は終わった。
しかし、本当の改革はこれからだった。
次に待っているのは、三千人の貴族令息、令嬢たちへの適性調査である。
教師たちの調査が終了すると、マーガレットは休むことなく次の調査へ移った。
対象は貴族学校に在籍する三千名の令息と令嬢たちである。
侯爵家。
伯爵家。
子爵家。
男爵家。
家格に関係なく、一人ずつ面接を行う。
会場となった講堂には、王国騎士団が厳重な警備を敷いていた。
アイクが全体を指揮し、アレクサンドが面接補助を務める。
文官たちは記録係として整然と席に着いていた。
マーガレットは最初の生徒の前へ立つ。
「緊張しなくて構いません。」
「適性を確認するだけです。」
生徒は小さく頷いた。
マーガレットは右手をかざす。
「ピュリファイ。」
柔らかな光が生徒を包み込む。
続いて鑑定を行う。
資質。
人格。
統治者としての適性。
教導を受け入れる姿勢。
一つひとつ丁寧に確認していく。
さらにサイコメトリーを発動する。
過去の言動。
校内での生活。
友人との関係。
教師への態度。
ポストコグニションによって、その記憶を追っていく。
最後にソートグラフィーで映像として保存した。
すべてが客観的な証拠となる。
この作業は三千人全員に対して行われた。
数週間後。
調査はようやく終了する。
王宮大会議室。
国王。
王妃。
宰相。
騎士団長アイク。
アレクサンド。
校長。
主任文官たちが集まっていた。
マーガレットは静かに報告書を開く。
「調査が終了しました。」
誰も言葉を発しない。
「貴族として適格と判断した生徒は約千名です。」
校長は静かに息を呑んだ。
「残る約二千名は不適格と判断しました。」
会議室には重い沈黙が流れる。
マーガレットは一つずつ理由を説明した。
「家格による差別。」
「平民や亜人への侮辱。」
「いじめ。」
「暴力。」
「権力を利用した脅迫。」
「教師への虚偽報告。」
「将来領主となる者として看過できない事例を多数確認しております。」
ソートグラフィーによる記録映像が映し出される。
誰一人として反論できなかった。
国王は静かに映像を見つめている。
王妃も悲しそうに目を伏せた。
マーガレットは静かに結論を告げる。
「対象者約二千名は、本日付で退学処分とします。」
「その後、再教育教導を実施します。」
「教導施設へ移送し、隔離環境で教育を受けてもらいます。」
騎士団長アイクが立ち上がった。
「王国騎士団が執行します。」
「混乱は起こさせません。」
マーガレットは力強く頷く。
「これは罰が目的ではありません。」
「未来の領主を育て直すための教導です。」
その言葉を合図に、アルデバラン王国史上最大規模となる貴族教育改革が、静かに動き始めた。
貴族学校から約二千名の令息、令嬢が退学処分となった翌日。
王宮正門前には、朝から多くの貴族が押し寄せていた。
「納得できん!」
「我が子を退学とは何事だ!」
「侯爵家を侮辱する気か!」
「王家は説明せよ!」
怒号が王宮前へ響き渡る。
しかし、王国騎士団は整然と隊列を組み、一歩も動かなかった。
騎士団長アイクが前へ出る。
「静粛に。」
その一言だけで場は静まり返る。
「国王陛下がお会いになります。」
抗議に来た貴族たちは大会議室へ案内された。
そこには国王オーキス・アルデバラン。
王妃バイオレット・アルデバラン。
マーガレット。
宰相クレイン・レッドバルト。
騎士団長アイク。
アレクサンド。
そして主任文官たちが待っていた。
国王は静かに口を開く。
「抗議の内容は理解している。」
「だが、その前に確認したいことがある。」
王妃も立ち上がった。
「皆様には適性調査を受けていただきます。」
会議室がざわめく。
「我々までか!」
「何故だ!」
マーガレットは穏やかな表情のまま答えた。
「子は親を見て育ちます。」
「教育を語る以上、保護者も例外ではありません。」
誰も反論できなかった。
王国騎士団が順番に案内していく。
一人ずつ個室へ入り、調査が始まった。
マーガレットは静かに右手をかざす。
「ピュリファイ。」
柔らかな光が貴族を包み込む。
続いて鑑定。
人格。
統治者としての資質。
民への姿勢。
さらにサイコメトリー。
ポストコグニション。
これまでの行動。
領地経営。
領民への対応。
不正。
圧政。
横暴。
一つひとつ確認していく。
最後にソートグラフィーを発動した。
確認した内容は映像として記録され、主任文官が管理していく。
調査は数日に及んだ。
王宮大会議室。
積み上げられた報告書と記録映像を前に、国王は静かに目を閉じた。
「……これほどか。」
領民への搾取。
違法な徴税。
奴隷売買への関与。
人攫いとの取引。
私兵による暴行。
学校での差別を容認した記録。
数多くの事実が映像として残されていた。
言い逃れのできる者は一人もいない。
マーガレットは静かに報告する。
「評価を終えました。」
「処分対象者は家格に関係なく分類しております。」
「爵位剥奪。」
「改易。」
「除名。」
「統治権没収。」
「以上の四段階です。」
国王はゆっくりと立ち上がった。
「本日、この判定を正式に承認する。」
「王国は、民を苦しめる統治を決して許さない。」
その宣言と同時に、王国騎士団が一斉に動き出した。
アルデバラン王国史上最大規模となる貴族改革は、いよいよ全国へ広がろうとしていた。
国王の裁可が下ると、王国騎士団は直ちに行動を開始した。
騎士団長アイクは王宮大会議室で命令書を各部隊長へ配布する。
「王国騎士団七百名を基幹部隊とする。」
「不足する戦力は近衛騎士団、魔導騎士団、各都市の衛兵隊から選抜する。」
「各領地へ分散して進軍する。」
「抵抗する者は捕縛。」
「民への被害は絶対に出すな。」
「はっ!」
王国騎士団七百名を中心に、近衛騎士団、魔導騎士団、さらに教導を受けた各都市の衛兵たちが部隊を編成した。
それぞれが担当する領地へ向けて出発する。
全員が魔力循環を維持しながら飛行魔法で移動し、数時間後には各領地へ到着していた。
ソートグラフィーによる記録。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
鑑定。
すべての証拠は既に王宮で確認済みである。
判決は覆らない。
数日後。
各地で処分が執行された。
公爵家二家。
侯爵家四家。
伯爵家八家。
子爵家十六家。
男爵家三十二家。
調査結果に応じて、それぞれ爵位剥奪、改易、除名、統治権没収の処分が宣告される。
ソートグラフィーで記録された映像も各領地で公開された。
領民たちは静かに映像を見つめる。
違法な徴税。
領民への暴行。
奴隷商との取引。
私兵による脅迫。
証拠は誰の目にも明らかだった。
「こんなことをしていたのか……。」
「これでは処分されても仕方がない。」
領民たちは静かに受け止めていた。
一部の私兵や家臣は武器を取った。
しかし各部隊は混乱することなく対応する。
近衛騎士団が城門を制圧する。
魔導騎士団が水属性魔法で捕縛、拘束、窒息を行い、抵抗勢力を無力化する。
衛兵隊は住民を安全な場所へ誘導し、不安を取り除いていく。
戦闘は長引かなかった。
大きな流血もなく、各領地は次々と制圧される。
城館では文官たちが行政資料を確認していた。
戸籍。
税台帳。
備蓄。
倉庫。
財政記録。
行政鑑定を用いながら、不正や不足を整理していく。
騎士団長アイクは各領地へ暫定統治団を配置した。
行政経験を積んだ文官。
教導スキルを持つ教師。
教導を受けた衛兵。
商業ギルド職員。
農業教師。
それぞれが協力し、領地運営を引き継いでいく。
数日後、王宮では各地から報告が集まった。
「全領地の暫定統治を開始しました。」
「食料供給も問題ありません。」
「治安も安定しております。」
主任文官の報告を聞いた国王オーキス・アルデバランは静かに頷く。
「混乱は最小限で済んだな。」
マーガレットも窓の外を見つめた。
今回の改革は、貴族を罰することが目的ではない。
領民が安心して暮らせる領地を取り戻すための改革である。
教師が人を育てる。
領主が民を育てる。
民が産業を育てる。
その循環を王国全土へ広げるため、アルデバラン王国は新しい統治の時代へ歩み始めていた。




