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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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52 王都改造 

王都改革は、ついに王都全域へ広がろうとしていた。


王宮の会議室では、国王オーキス・アルデバランを中心に最終確認が行われている。


机の上には王都全体の地図が広げられ、赤く印が付けられた場所が四か所あった。


犯罪エリア。


貧困エリア。


奴隷街。


亜人街。


かつて王都の発展から取り残され、人々が苦しい生活を続けてきた地域である。


国王は地図を見つめながら静かに口を開いた。


「いよいよだな。」


宰相クレイン・レッドバルトが頷く。


「はい。」


「王宮の改革は順調です。」


「王国騎士団、近衛騎士団、魔導騎士団も教導を終えました。」


「農村改革も成果を上げております。」


「次は王都そのものを改革する段階です。」


マーガレットも地図へ視線を落とした。


「まずは人を救います。」


「食事、住居、衛生。」


「そして教育です。」


国王は大きく頷く。


「今回も教導を望む者は拒まない。」


「誰にでも学ぶ機会を与える。」


「はい。」


マーガレットは即答した。


翌朝。


王国騎士団二百名が王都中央広場へ集結した。


大量の食材も運び込まれている。


オーク肉。


フォレストボア肉。


フォレストウルフ肉。


大量の野菜。


パン。


温かなスープ。


王都各地へ炊き出しを行う準備は整っていた。


マーガレットは騎士たちを見回す。


「今日は戦いません。」


「困っている方々を助けます。」


「そして希望する方々へ、新しい人生を歩む機会を作ります。」


騎士たちは一斉に敬礼した。


「はっ!」


隊は四つに分かれ、それぞれの地区へ向かう。


マーガレット自身は犯罪エリアへ向かった。


到着すると、多くの住民が遠巻きに様子を見ていた。


王族と王国騎士団。


普段なら警戒されても不思議ではない。


しかし今日は違った。


大鍋から立ち上る湯気。


香ばしく焼かれる肉。


焼きたてのパン。


食欲を誘う香りが辺りへ広がっていく。


子どもたちが思わず足を止めた。


大人たちも信じられないという表情で鍋を見つめる。


マーガレットは穏やかに声を掛けた。


「並んでください。」


「今日は皆さんへ温かい食事を用意しました。」


最初は誰も動かなかった。


互いに顔を見合わせ、不安そうにしている。


そんな中、一人の老人がゆっくり前へ出た。


「……本当に、食べてもいいのか。」


「もちろんです。」


「代金も必要ありません。」


老人は震える手で器を受け取り、スープを口へ運ぶ。


熱い。


しかし優しい味だった。


続いてパンを口にし、焼き肉を噛み締める。


しばらく黙っていた老人は、小さく呟いた。


「うまい……。」


その一言が周囲へ広がる。


子どもたちが走り寄る。


母親たちも列へ並ぶ。


やがて長い列ができ、王国騎士団は手際よく料理を配っていく。


犯罪エリアに漂っていた重苦しい空気は、温かな湯気と人々の笑顔によって少しずつ変わり始めていた。


マーガレットはその様子を静かに見つめる。


今日の目的は炊き出しだけではない。


ここから王都そのものを作り変える、大改革が始まろうとしていた。




炊き出しは犯罪エリアだけではなかった。


貧困エリア。


奴隷街。


亜人街。


王国騎士団二百名は四つの地区へ分かれ、それぞれの場所で温かい食事を振る舞っていた。


最初は警戒していた住民たちも、次第に笑顔を見せ始める。


「久しぶりに腹いっぱい食べた。」


「子どもにも食べさせてやれる。」


「ありがとう……。」


その言葉を聞きながら、マーガレットは静かに前へ進み出た。


「皆さん。」


「本日お集まりいただいたのは、炊き出しだけが目的ではありません。」


住民たちは一斉にマーガレットを見る。


「これから希望する方々には教導を受けていただきます。」


「識字。」


「計算。」


「職業訓練。」


「魔力循環。」


「魔力操作。」


「そして、自立するための知識を学んでいただきます。」


ざわめきが広がる。


「俺たちでも学べるのか。」


「奴隷でもか?」


「亜人でもいいのか。」


マーガレットは迷うことなく答えた。


「もちろんです。」


「学びたいという意思がある方を、私たちは拒みません。」


その言葉に、多くの住民が顔を見合わせた。


やがて一人、また一人と前へ歩み出る。


「教えてください。」


「仕事が欲しい。」


「家族を養いたい。」


その声は次第に大きくなっていった。


マーガレットは王国騎士団へ指示を出す。


「予定どおり整備を開始してください。」


「はっ!」


王国騎士団は即座に行動を開始した。


住民たちの同意を得ながら、老朽化し危険になっていた建物を撤去していく。


崩れかけた住居。


使われなくなった建物。


犯罪組織の拠点となっていた廃屋。


すべて取り壊され、更地になっていく。


その後、土魔法による造成が始まった。


広い道路。


排水路。


広場。


区画整理。


街全体が計画的に整えられていく。


続いて住宅の建設が始まる。


土魔法で丈夫な建物を造り、木工スキルを持つ者たちが扉や窓、家具を取り付ける。


家事スキルを持つ者たちが生活設備を整備していく。


さらに、大食堂が建設された。


数千人が同時に食事できる広さである。


その隣には公衆浴場も建設される。


広い浴槽。


脱衣所。


洗い場。


清潔な水が常に供給される設備まで整えられた。


そして教育施設も次々と完成していく。


百人を教導できる教室が二十棟。


千人を収容できる講堂が十棟。


王都でも最大規模の教育施設だった。


住民たちは目の前で街が生まれ変わっていく光景に息を呑む。


「本当に……俺たちが住む街なのか。」


「夢じゃないよな。」


子どもたちは完成した広場を走り回り、大人たちは新しい住宅を見上げる。


マーガレットは完成しつつある街並みを見渡した。


建物を造ることが目的ではない。


ここから人を育てる。


教師を育て、その教師がさらに新しい教師を育てる。


教導の輪を王都全体へ広げることこそ、この改革の本当の目的だった。




新しい街が完成すると、マーガレットは講堂へ百人を集めた。


集まったのは綿花農場で教導を受けた農民たちと、紡織工房で働く元娼婦たちだった。


全員が魔力循環と魔力操作を身につけ、水・土・光属性を覚醒している。


識字と計算も習得し、それぞれが仕事を通じて着実に成長していた。


マーガレットは壇上へ立つ。


「皆さんを今日お呼びした理由があります。」


百人は真剣な表情で耳を傾けた。


「皆さんには教師になっていただきます。」


講堂が静まり返る。


「私たちが……教師ですか。」


一人の元娼婦が驚いたように尋ねた。


マーガレットは穏やかに頷く。


「はい。」


「皆さんは、この数か月で魔力循環、魔力操作、識字、計算、農業や紡織を学びました。」


「学んだ人は、次は教える側になります。」


農民たちは互いに顔を見合わせた。


「私に教えられるでしょうか。」


「もちろん最初から一人ではありません。」


「私と近衛騎士団、王国騎士団が支えます。」


「安心してください。」


その言葉に百人の表情から緊張が少し和らいだ。


その日から教師育成が始まる。


教える順番。


相手への声の掛け方。


魔力循環の確認方法。


魔力操作の修正。


識字と計算の教え方。


一つひとつ実践を交えながら繰り返していく。


マーガレットは百人を十人ずつ十班へ分けた。


「一人で教える必要はありません。」


「十人で協力してください。」


「分からないことは相談してください。」


教師同士も魔力循環を続けながら教導を繰り返す。


何度も説明し。


何度も実演し。


互いに教え合う。


すると数日後、一人の農民が驚いた声を上げた。


「マーガレット様。」


「どうしました。」


「鑑定したら……教導スキルを覚醒していました。」


マーガレットは微笑みながら鑑定する。


「間違いありません。」


「教導スキルです。」


その知らせは講堂中へ広がった。


「私もです!」


「こちらも教導スキルです!」


百人の教師候補たちは、次々と教導スキルを覚醒していく。


マーガレットは静かに頷いた。


「皆さんはもう立派な教師です。」


「ですが、ここが終わりではありません。」


「教師は学び続ける職業です。」


「これからも成長し続けてください。」


百人は力強く返事をした。


「はい!」


翌日。


犯罪エリア、貧困エリア、奴隷街、亜人街から、教導を希望する千人が集まった。


百人の教師たちは十人ずつ担当を受け持つ。


一人の教師が十人を教える。


その周囲をマーガレットと王国騎士団が巡回し、必要に応じて助言を行う。


講堂では一斉に魔力循環が始まった。


「ゆっくりと魔力を巡らせます。」


「止めないでください。」


「焦る必要はありません。」


昨日まで教えられる側だった元娼婦や農民たちは、落ち着いた口調で教導を進めていく。


マーガレットは講堂全体を見渡し、小さく頷いた。


教師が教師を育てる。


その循環が動き始めた今、王都改革は新しい段階へ入ろうとしていた。




教師による教導は毎日続けられた。


犯罪エリア。


貧困エリア。


奴隷街。


亜人街。


四つの地区に建設された講堂と教室では、朝から魔力循環と魔力操作の教導が行われる。


教師となった元娼婦や農民たちは、教導スキルを活かしながら、一人ひとり丁寧に指導していた。


「焦らなくて大丈夫です。」


「魔力は止めずに循環させてください。」


「ゆっくりで構いません。」


教えられる側も真剣だった。


文字を覚えたい。


仕事を身につけたい。


家族を養いたい。


その想いが、教導への集中力を高めていく。


一か月が過ぎた。


最初に変化が現れたのは魔法だった。


「水属性を覚醒しました!」


「私は土属性です!」


「光属性も使えました!」


講堂のあちこちで歓声が上がる。


続いて識字スキル。


計算スキル。


農業スキル。


紡織スキル。


裁縫スキル。


仕立てスキル。


服飾スキル。


家事スキル。


教導を受けた住民たちは、それぞれの仕事に応じたスキルを次々と覚醒させていった。


三か月後。


犯罪エリア、貧困エリア、奴隷街、亜人街で教導を受けた希望者のほぼ全員が、魔法属性や各種スキルを習得していた。


マーガレットは講堂へ全員を集める。


「皆さん。」


「今日から次の仕事を始めます。」


住民たちは静かに耳を傾けた。


「王都郊外の荒野を開拓します。」


翌日。


数万人の覚醒者たちは王都郊外へ移動した。


そこには広大な荒野が広がっている。


マーガレットは地図を広げる。


「まず区画整理を行います。」


住民たちは土魔法で道路を整備し、排水路を造っていく。


住宅予定地。


農地。


工房用地。


浴場。


食堂。


講堂。


教室。


計画どおりに区画が整えられていった。


続いて住宅建設が始まる。


土魔法で建物を造り、木工スキルを持つ者たちが扉や家具を製作する。


家事スキルを持つ者たちは生活設備を整え、公衆浴場や大食堂も次々と完成していく。


一方では農地開拓も進んでいた。


土魔法で天地返しを行い、水魔法で散水する。


光属性魔法のヒールバレットとピュリフィケーションバレットで農地を育て、作付けの準備を整えていく。


マーガレットはその様子を確認すると、同行していた王宮の文官たちへ声を掛けた。


「こちらをお願いします。」


文官たちは机を並べ、記録を取り始める。


戸籍の作成。


家族構成。


就業状況。


農地面積。


作付面積。


収穫見込み。


食料充足率。


街の人口推移。


教導によって増えた教師の人数。


一つひとつ正確に整理し、王国全体の行政資料としてまとめていく。


「数字が揃えば、次の計画が立てられます。」


マーガレットの言葉に、文官たちは力強く頷いた。


教育が人を育てる。


人が街を造る。


街が産業を育てる。


そして行政がその成長を支える。


王都改革は、教育・産業・行政が一体となった新しい国家運営へと発展し、アルデバラン王国はかつてない速度で豊かな国へと歩み始めていた。





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