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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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50 紡織産業 

綿花畑での教導が軌道に乗ると、マーガレットは次の改革へ着手した。


向かった先は王都の娼婦街だった。


そこには数多くの娼婦たちが暮らしていた。


生活のために望まぬ仕事を続ける者。


病に苦しみながら働く者。


将来に希望を持てず、生きることを諦めかけている者も少なくなかった。


マーガレットは王都騎士団、魔導騎士団と共に娼婦街へ入る。


突然の来訪に娼婦たちは戸惑いの表情を浮かべた。


「王女様……。」


「私たちに何の御用でしょうか。」


マーガレットは穏やかな笑みを浮かべる。


「皆さんを解放し、新しい仕事へ就いていただきます。」


その言葉に街中が静まり返った。


誰もが信じられないという表情だった。


「本当ですか……。」


「私たちでも普通に働けるのでしょうか。」


マーガレットは静かに頷いた。


「もちろんです。」


「皆さんには新しい街で生活していただきます。」


「仕事も住む場所も用意します。」


王都騎士団はすぐに移住を開始した。


王都郊外には綿花農場とは別の場所が確保されている。


そこでは既に住居、食堂、浴場、講堂の建設が進められていた。


土魔法で住居が形成され、木工スキルで扉や家具が取り付けられていく。


家事スキルを覚醒した者たちが生活設備を整え、新しい街は短期間で完成した。


娼婦たちは次々と新しい住居へ案内される。


「今日からここが皆さんの家です。」


女性騎士の言葉に、娼婦たちは思わず涙を浮かべた。


「こんな立派な家を……。」


「私たちのために……。」


マーガレットは全員を講堂へ集める。


「まずは治療を始めます。」


光属性魔法を発動する。


「ヒールバレット。」


無数の光の弾が講堂全体へ降り注ぐ。


続いて、


「ピュリフィケーションバレット。」


白い光が優しく全員を包み込んだ。


身体の傷や疲労は回復していく。


しかしマーガレットは首を横へ振る。


「性病は一度では完治しません。」


「これから毎日、ヒールバレットとピュリフィケーションバレットによる治療を続けます。」


女性騎士や魔導騎士たちも治療へ加わった。


毎日繰り返し治療を受けることで、少しずつ症状は改善していく。


治療が終わると、マーガレットは一人ひとりへ問い掛けた。


「皆さんは、これから何になりたいですか。」


講堂は静まり返る。


やがて、一人の女性がゆっくりと手を挙げた。


「冒険者になりたいです。」


続いて別の女性が答える。


「私は職人になりたいです。」


「農業をやってみたいです。」


「商人になって、自分の店を持ちたいです。」


次々と夢が語られていく。


マーガレットは嬉しそうに頷いた。


「素晴らしい目標です。」


「ですが、その前に共通して学ぶことがあります。」


黒板へ文字を書く。


『魔力循環』


『魔力操作』


「まずはこの二つを身につけましょう。」


「これが皆さんの新しい人生の第一歩になります。」


講堂に集まった元娼婦たちは、大きく頷いた。


過去を変えることはできない。


しかし未来は、自分たちの努力で変えられる。


その希望を胸に、新しい教導が始まろうとしていた。




新しい街での生活が始まると、元娼婦たちは毎日教導を受けるようになった。


朝は魔力循環。


魔力操作。


マーガレットの指導のもと、住民全員が魔力を巡らせ続ける。


「魔力循環は生活の一部にしてください。」


「歩いている時も。」


「食事をしている時も。」


「仕事をしている時も。」


「毎日続ければ必ず成長します。」


元娼婦たちは真剣な表情で頷いた。


午前中は魔力循環と魔力操作。


午後は講堂へ集まり、識字と計算の教導を受ける。


マーガレットは黒板へ文字を書いた。


「今日から文字を学びます。」


「文字が読めれば、本を読むことができます。」


「契約書も理解できます。」


「仕事の手順も覚えられます。」


元娼婦たちは一文字ずつ丁寧に書き写していく。


読み返し。


書き直し。


魔力循環を続けながら、何度も繰り返した。


最初はぎこちなかった手つきも、日を追うごとに滑らかになっていく。


続いて計算の教導が始まる。


「数字は仕事をする上で欠かせません。」


「材料の数。」


「商品の数。」


「売上。」


「利益。」


「すべて計算で管理します。」


元娼婦たちは数字を書き写し、簡単な足し算や引き算から学び始めた。


分からない者には、王都騎士団や魔導騎士団の教師役が丁寧に教える。


「ここはこう考えます。」


「焦らなくても大丈夫ですよ。」


優しい言葉に、元娼婦たちの表情から少しずつ緊張が消えていった。


教導は毎日続く。


魔力循環。


魔力操作。


識字。


計算。


その四つを繰り返す生活が、新しい日常になっていった。


数日後。


講堂のあちこちから歓声が上がる。


「水属性を覚醒しました!」


「私もです!」


さらに教導を続けると土属性。


そして光属性。


元娼婦たちは次々に三属性を覚醒していった。


マーガレットは嬉しそうに頷く。


「皆さん、本当によく努力しました。」


「明日からは綿花農場で実習を始めます。」


翌日、元娼婦たちは綿花農場へ向かった。


そこでは貧困街の住民たちが育てた綿花が青々と育っている。


農民たちは笑顔で迎えた。


「よろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


マーガレットは両者を見渡しながら話し始めた。


「農業と紡織は別々ではありません。」


「綿花を育てる人。」


「糸を作る人。」


「布を織る人。」


「服を仕立てる人。」


「すべてがつながって一つの産業になります。」


元娼婦たちは大きく頷いた。


文字を学び。


計算を学び。


魔法を学び。


そして新しい仕事を学ぶ。


過去ではなく未来を見つめながら、一人ひとりが新しい人生への第一歩を踏み出していた。




教導を受けた元娼婦たちは、水・土・光の三属性を覚醒すると、綿花農場での実習を始めた。


広大な農地では、貧困街の住民たちが大切に育てた綿花が白く実っている。


マーガレットは綿花を手に取り、全員へ見せた。


「これが糸になります。」


「そして布になります。」


「最後には衣服になります。」


元娼婦たちは興味深そうに綿花へ触れた。


「こんな柔らかいんですね。」


「初めて触りました。」


マーガレットは頷く。


「今日は収穫です。」


「傷付けないよう丁寧に摘み取ってください。」


住民たちは一つひとつ慎重に綿花を摘み取っていく。


農民たちは収穫方法を教えながら、一緒に作業を進めた。


「力を入れすぎると繊維が切れます。」


「優しく包むように持つんです。」


「なるほど。」


元娼婦たちは何度も繰り返しながら作業を覚えていく。


夕方になる頃には、大量の綿花が収穫されていた。


真っ白な綿花が山のように積み上がる。


住民たちから自然と拍手が起こった。


「こんなに収穫できた!」


「これが布になるんですね。」


マーガレットは商業ギルドへ使者を送る。


翌日、商業ギルド長と職員たちが農場を訪れた。


積み上げられた綿花を見ると、目を丸くする。


「これほど大量とは……。」


マーガレットは静かに告げた。


「この綿花で紡織産業を始めます。」


「糸の生産。」


「布の生産。」


「そのための設備を準備してください。」


商業ギルド長は力強く頷いた。


「承知いたしました。」


「紡績機や織機を職人たちと協力して製作します。」


教導を受けた木工職人や鍛冶職人も作業へ加わった。


木工スキルを使って織機を組み立てる。


鍛冶職人は金属部品を製作する。


商業ギルドが全体を取りまとめ、生産体制が整えられていく。


数日後。


最初の紡績工房が完成した。


収穫された綿花が運び込まれ、糸作りが始まる。


元娼婦たちは職人たちから作業を学んだ。


綿花から種を取り除く。


繊維をほぐす。


細く長く撚り合わせる。


最初はぎこちなかった手つきも、何度も繰り返すうちに滑らかになっていく。


魔力循環を続けながら作業を繰り返していると、一人の女性が驚いた声を上げた。


「何だか身体が自然に動きます!」


マーガレットは鑑定を行う。


「紡織スキルを覚醒しました。」


その言葉に工房が沸き立つ。


続いて別の女性も声を上げる。


「私もです!」


「紡織スキルです!」


努力を続けていた元娼婦たちは、一人、また一人と紡織スキルを覚醒していった。


工房には活気が満ちあふれる。


かつて娼婦街で未来を諦めていた女性たちは、今では自分の手で新しい産業を支える職人への第一歩を踏み出していた。




紡績工房が稼働を始めてから数日後。


工房には朝早くから元娼婦たちが集まっていた。


魔力循環を続けながら綿花をほぐし、糸を紡いでいく。


教導を受けた成果は確実に現れていた。


「糸が切れなくなった。」


「昨日より均一に紡げます。」


「作業がどんどん速くなっています。」


職人たちは笑顔で頷く。


「皆さん、本当に飲み込みが早いですね。」


その日の午後。


さらに新しい工程が始まった。


完成した糸が織機へ運ばれる。


「ここから布を織ります。」


商業ギルドの職員が実演する。


縦糸を張る。


横糸を通す。


一定の力で織り続ける。


元娼婦たちは真剣な表情で見つめ、一人ずつ織機へ向かった。


最初はぎこちない。


しかし何度も繰り返すうちに、布は次第に均一に織り上がっていく。


魔力循環を続けながら作業を続けると、再び歓声が上がった。


「覚醒しました!」


マーガレットが鑑定する。


「裁縫スキルです。」


続いて別の女性も手を挙げる。


「私も!」


「仕立てスキルを覚醒しました!」


さらに教導を続ける。


布を裁断し、縫い合わせ、衣服を作る。


毎日繰り返すことで、一人、また一人と服飾スキルも覚醒していった。


工房には活気が満ちあふれる。


商業ギルド長は完成した布を手に取り、満足そうに頷いた。


「品質も申し分ありません。」


「これなら王都中へ供給できます。」


マーガレットは完成した下着を手に取る。


丈夫で清潔な木綿の下着だった。


「まずは下着を普及させましょう。」


「誰もが買える価格で販売します。」


商業ギルド長も力強く答える。


「大量生産します。」


「商業ギルドを通じて王都全域へ卸しましょう。」


それから間もなく、王都の商店には木綿の下着が並び始めた。


価格はこれまでより大幅に安い。


多くの住民が買い求めた。


「着心地がいい。」


「洗いやすい。」


「何枚も買えるぞ。」


下着の普及と同時に、王都ではもう一つの改革が進められていた。


公衆浴場の建設である。


王都騎士団、魔導騎士団、職人組合が協力し、土魔法で建物を造り、木工スキルで内装を整えていく。


王都各地へ次々と公衆浴場が完成し、その数は数百か所に及んだ。


住民たちは仕事帰りに浴場へ立ち寄り、身体を洗い、清潔な下着へ着替える生活が広がっていく。


マーガレットは街を歩きながら、その様子を静かに見つめた。


病人は減り、街には以前のような悪臭もほとんどなくなっていた。


「清潔な生活は、人々の健康を守ります。」


アークも静かに頷く。


「農業が綿花を育てました。」


「綿花が紡織産業を育てました。」


「そして紡織産業が、人々の暮らしを豊かにしています。」


マーガレットは王都の街並みを見渡した。


教育から始まった改革は、農業を発展させ、新しい産業を生み出し、人々の生活そのものを変えていく。


王都は少しずつ、誰もが健康で清潔に暮らせる豊かな都市へと生まれ変わろうとしていた。





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