47 王都改革
王都改革が始まろうとしていた。
王城の会議室には、国王オーキス・アルデバランをはじめ、王国中枢を担う者たちが集まっている。
宰相クレイン・レッドバルト。
騎士団長アイク。
魔導騎士団長アッシュ。
第一王女マーガレット。
そして、アーク。
国王は満足そうな表情で窓の外に広がる王都を眺めていた。
「この一年で王国は大きく変わった。」
穏やかな口調だった。
しかし、その言葉には確かな実感が込められている。
「魔物被害は激減した。」
「国内は安定し、貴族同士の交流も活発になった。」
「商人の往来も増え、経済も着実に活性化している。」
宰相クレインが深く頷く。
「はい、陛下。」
「税収も順調に伸びております。」
「各領地からも、治安が大きく改善したとの報告が届いております。」
国王は静かに笑みを浮かべた。
「さらに王宮では三千人全員が教導を受けた。」
「メイドも。」
「文官も。」
「使用人も。」
「誰もが鍛えられた。」
騎士団長アイクも続ける。
「今では戦闘能力だけを見れば、王宮勤務の者は全員がSランク冒険者に匹敵する実力を備えています。」
一年前では考えられない話だった。
王宮で働く者たちは、それぞれの職務をこなしながら魔力循環を続け、日々成長を続けている。
マーガレットも静かに頷いた。
「皆さん、本当によく努力してくださいました。」
国王は椅子へ腰掛け直し、ゆっくりと全員を見渡す。
「だからこそ、次へ進みたい。」
会議室の空気が引き締まった。
国王は宰相へ視線を向ける。
「クレイン。」
「そなたはどう考える。」
宰相は一礼すると、自分の考えを述べた。
「陛下。」
「王都中の商人、農民、貧困街の住民、娼婦、亜人、奴隷たちにも教導を始めてはいかがでしょうか。」
「識字、計算、職業訓練。」
「そして生きる術を学んでもらうのです。」
「そうすれば、王都全体の生産力はさらに向上いたします。」
国王は静かに頷いた。
「私も同じ考えだ。」
すると騎士団長アイクが前へ出る。
「陛下。」
「王都騎士団による地方での教導も、まもなく一区切りとなります。」
「王都改革へ戦力を回すことが可能です。」
続いて魔導騎士団長アッシュも力強く言った。
「魔導騎士団も全面的に協力いたします。」
「教導、警備、護衛、どの任務でもお任せください。」
その言葉を聞いたマーガレットは穏やかに微笑んだ。
「とても良い考えです。」
「王都の皆さんにも学ぶ環境を整えましょう。」
「教育は人を育てます。」
「育った人は、さらに次の人を育てます。」
会議室には静かな期待が満ちていた。
王宮だけではない。
いよいよ王都全体を変える改革が始まろうとしていた。
マーガレットの言葉に、会議室の全員が静かに頷いた。
「教育は人を育てます。」
「育った人は、さらに次の人を育てます。」
「それが王国全体へ広がれば、より豊かな国になります。」
宰相クレインも賛同する。
「陛下。」
「商人には商売を。」
「農民には農業を。」
「職人には技術を。」
「識字と計算が広まれば、王都の経済はさらに活性化するでしょう。」
国王は満足そうに頷いた。
「まさしく余が考えていた未来だ。」
「では、アーク卿。」
「そなたはどう考える。」
全員の視線がアークへ集まる。
アークは穏やかな表情のまま答えた。
「何も問題はないかと存じます。」
「王都には十分な教師がおります。」
「近衛騎士団。」
「王都騎士団。」
「魔導騎士団。」
「さらに王宮で教導を受けた三千人もおります。」
「教える者が増えた今こそ、王都全体へ教育を広げる好機です。」
騎士団長アイクも力強く頷いた。
「地方で教導を終えた王都騎士団を順次帰還させます。」
「帰還後は王都改革へ参加させましょう。」
魔導騎士団長アッシュも続く。
「魔導騎士団は教導だけでなく、警備や護衛も担当できます。」
「安心して改革を進めてください。」
国王は一人ひとりの顔を見渡した。
誰一人として反対する者はいない。
全員が同じ未来を見据えていた。
「決まりだ。」
国王オーキス・アルデバランは力強く立ち上がる。
「本日より王都改革を開始する。」
その一言で会議室の空気が変わった。
王宮だけの改革ではない。
王都全体を変える改革が正式に始まる。
国王はマーガレットへ向き直る。
「マーガレット。」
「はい、お父様。」
「王都中の商人、農民、貧困街の住民、娼婦、亜人、奴隷たちを教導できる施設を建設する。」
「講堂。」
「教室。」
「食堂。」
「浴場。」
「必要な施設はすべて整えよ。」
マーガレットは深く一礼した。
「承知いたしました。」
国王は続ける。
「教導教官は、そなたに任せる。」
「民へ識字を教えよ。」
「計算を教えよ。」
「職業訓練を行え。」
「そして、生きる術を教えるのだ。」
会議室は静まり返る。
国王の言葉は、そこにいる全員へ向けられていた。
「冒険者になりたい者は冒険者になればよい。」
「職人を目指す者は職人になればよい。」
「農民として生きる者も。」
「商人として商いをする者も。」
「それぞれが自ら選び、自立して生きていける国を築く。」
マーガレットは力強く頷いた。
「必ず成し遂げます。」
その瞳には強い決意が宿っていた。
王都改革の目的は、民へ仕事を与えることではない。
自ら学び、自ら選び、自ら生きていける力を育てることだった。
こうしてアルデバラン王国は、新たな時代へ向けて大きく歩み始める。
王宮から始まった教育改革は、ついに王都全体へと広がろうとしていた。
国王の勅命を受けたマーガレットは、その日のうちに王都改革の準備へ取り掛かった。
王宮の大会議室には関係者が集められる。
近衛騎士団。
王都騎士団。
魔導騎士団。
そして王都の職人組合、石工組合、大工組合の代表者たちだった。
マーガレットは全員を見渡す。
「本日より王都改革を開始します。」
「皆さんには講堂、教室、食堂、浴場の建設へ協力していただきます。」
職人組合長が一歩前へ出た。
「王女殿下。」
「我々も教導を受けられるのでしょうか。」
「もちろんです。」
マーガレットは微笑んだ。
「皆さんの技術に教導魔法が加われば、さらに素晴らしい建物が造れるでしょう。」
その言葉に職人たちの表情が明るくなる。
「ありがとうございます!」
その場で教導が始まった。
魔力循環。
魔力操作。
身体強化。
筋力強化。
そして土属性魔法。
職人たちは夢中になって魔力を巡らせる。
長年、木材や石材を扱ってきた彼らは身体の使い方に慣れている。
理解も早かった。
一時間ほど教導を続けると、各地で歓声が上がる。
「土属性を覚醒しました!」
「私もです!」
「木工スキルです!」
「家事スキルも覚醒しました!」
石工組合の職人も目を丸くする。
「石を積むより速い……。」
「土そのものを形成できるとは。」
マーガレットは頷いた。
「土魔法で基礎と建物を形成します。」
「その後、木工スキルで扉、窓、机、椅子、棚などを製作してください。」
「家事スキルを覚醒した方は食堂や浴場、教室の設備を整えてください。」
職人組合長は大きく頷く。
「承知しました。」
「では始めましょう。」
建設予定地へ移動すると、数百人の職人たちが一斉に魔法を発動した。
「土魔法。」
大地が静かに盛り上がる。
基礎が形成され、壁が立ち上がる。
柱が並び、建物の骨格が次々と出来上がっていく。
石工たちは魔力操作で壁の強度を整え、建物全体の形を仕上げていく。
その横では大工たちが木工スキルを使い始めた。
切断。
加工。
組み立て。
木材は寸分の狂いもなく加工され、扉や窓、机や椅子へと姿を変えていく。
「早い……。」
近衛騎士の一人が思わず呟いた。
昨日まで数日かかると思われていた作業が、目の前で次々と進んでいく。
さらに家事スキルを覚醒した者たちが建物へ入り、食堂の調理場や浴場、教室の設備を整えていく。
掃除も整理整頓も驚くほど効率よく進んだ。
マーガレットは完成へ向かう建物を眺めながら微笑む。
「皆さんの経験があるからこそ、この速さなのですね。」
アークも静かに頷いた。
「教導は技術を奪うものではありません。」
「積み重ねてきた経験を、さらに伸ばすものです。」
職人たちは嬉しそうに顔を見合わせた。
自分たちの仕事はなくならない。
むしろ、新しい力を得たことで、これまで以上に多くの人々の役に立てる。
その喜びが、王都中へ広がり始めていた。
翌朝。
王都各地では、新しい施設の建設が一斉に始まった。
近衛騎士団。
王都騎士団。
魔導騎士団。
そして教導を受けた職人組合、石工組合、大工組合。
全員が持ち場へ散っていく。
「こちらは講堂を建設します!」
「教室班、準備完了!」
「食堂班、開始します!」
「浴場班も始めます!」
王都中が活気に包まれていた。
「土魔法。」
各地で地面が静かに盛り上がる。
基礎が形成され、壁が立ち上がり、建物が次々と姿を現していく。
石工たちは壁の厚みや強度を確認しながら魔力操作で微調整を施す。
その隣では大工たちが木工スキルを駆使して梁を組み、扉や窓を取り付けていく。
さらに家事スキルを覚醒した者たちは教室へ机と椅子を並べ、食堂へ調理設備を整え、浴場では脱衣所や洗い場を仕上げていく。
職人組合長は完成しつつある建物を見て目を丸くした。
「これほど早く完成するとは……。」
石工組合長も笑顔で頷く。
「土魔法だけでは、この精度は出せません。」
「木工スキルや家事スキルが加わることで、一気に仕上がりますな。」
マーガレットも完成した講堂を見渡した。
広い講堂には数百人が一度に入れる。
隣には教室。
食堂。
浴場。
それぞれが使いやすいよう配置されている。
「これなら大勢の方を受け入れられますね。」
アークも静かに頷く。
「学ぶ環境が整いました。」
「次はいよいよ教導です。」
その日の午後。
王都中へ布告が出された。
『王都改革開始。』
『商人、農民、貧困街の住民、娼婦、亜人、奴隷を問わず希望者は講堂へ集まること。』
『識字、計算、職業訓練を無償で教導する。』
『食堂、浴場も利用できる。』
布告を読んだ人々は顔を見合わせた。
「本当なのか?」
「文字を教えてくれるのか。」
「商売も学べるのか?」
「俺たち奴隷でも参加できるのか?」
王都中で話題になっていく。
貧困街でも同じだった。
「読み書きができれば仕事が見つかるかもしれない。」
「子どもにも学ばせたい。」
商業区では商人たちが期待を寄せる。
「計算を学べば商売がもっと楽になる。」
「若い衆にも参加させよう。」
農民たちも顔を輝かせた。
「新しい農業を教えてもらえるかもしれない。」
王都全体が期待に包まれていく。
夕暮れ。
完成した講堂へ立ったマーガレットは、静かに建物を見渡した。
昨日まで何もなかった場所には、多くの人々が学ぶための施設が並んでいる。
その隣にはアークが立っていた。
「始まりますね。」
マーガレットが微笑む。
「はい。」
アークも静かに頷いた。
「王宮の改革は終わりました。」
「これからは王都全体の改革です。」
マーガレットは完成した講堂へ視線を向ける。
明日から、この場所には数え切れないほどの人々が集まる。
文字を学ぶ者。
計算を学ぶ者。
新しい職業へ挑戦する者。
それぞれが新しい人生への第一歩を踏み出す。
王宮から始まった教育改革は、ついに王都全体を巻き込む大改革へと発展していくのだった。




