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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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43 王宮全体教導

一万体の魔物を討伐したマーガレットたちは、王宮の訓練場へ戻ってきた。


魔力循環を続けたまま整列すると、マーガレットはアイテムボックスを開く。


討伐した魔物の中から千体を取り出し、訓練場へ整然と並べていった。


アイアンリザード。


メタルリザード。


ニードルリザード。


アーマードリザード。


国王オーキスはその光景を見渡し、静かに頷く。


「討伐だけでは終わらぬのだな。」


マーガレットは笑顔で答えた。


「はい。」


「解体と調理まで行って初めて、魔物は資源になります。」


「食料となり、素材となり、国の財産になります。」


王族たちは解体台の前へ並ぶ。


マーガレットは一体のアイアンリザードの前へ立った。


「魔力循環を維持してください。」


「解体はウォーターカッターで行います。」


右手へ魔力を集める。


「ウォーターカッター。」


薄く鋭い水刃が生まれた。


水刃は鱗を滑るように切り開き、筋肉の流れに沿って肉を切り分ける。


さらに刃を細く調整すると、魔石の周囲だけを正確に切り離し、傷一つ付けることなく取り出した。


「水刃は力ではありません。」


「魔力操作で厚みと鋭さを調整します。」


「関節と筋肉の流れを意識してください。」


国王が頷く。


「やってみよう。」


「ウォーターカッター。」


最初は水刃が少し厚く、切断面も粗かった。


マーガレットが穏やかに助言する。


「父上、水刃をもう少し圧縮してください。」


「はい。」


再び魔力を操作すると、水刃は一段と薄く鋭くなった。


関節へ沿って滑らせるだけで、美しく切り分けることができる。


「これは見事だ。」


「刃物より正確だな。」


王妃バイオレットも続く。


三人の側室。


リヴィア。


レックス。


イヴァン。


コール。


全員がウォーターカッターを発動し、解体を始めた。


一体。


二体。


三体。


数を重ねるごとに、水刃の制御は目に見えて向上していく。


マーガレットは一人ひとりを見回りながら教導を続けた。


「魔石は傷付けないように。」


「肉は繊維に沿って切ります。」


「素材も丁寧に取り外してください。」


教導スキルによって要点は正確に伝わり、王族たちの技術は驚くほどの速さで向上していった。


解体された肉、素材、魔石は種類ごとに分けられていく。


国王は近衛騎士隊長へ命じた。


「冒険者ギルドへ運べ。」


「素材、肉、魔石はすべて売却する。」


「収益金は国庫へ納めよ。」


「はっ。」


近衛騎士たちは肉、素材、魔石をそれぞれアイテムボックスへ収納した。


収納を終えると、魔力循環と身体強化を維持したまま飛び上がる。


「飛行。」


十人の近衛騎士は王宮の上空へ舞い上がり、そのまま一直線に王都の冒険者ギルドへ向かった。


その間も、王宮の訓練場では王族たちが魔力循環を止めることなくウォーターカッターを操り、次々と魔物を解体し続けていた。


討伐だけではない。


資源として活用する技術もまた、王族が身につけるべき大切な教養だった。




解体は途切れることなく続いていた。


王族たちは魔力循環を維持しながら、ウォーターカッターを操る。


一体。


十体。


百体。


数を重ねるたび、水刃はさらに鋭さを増していく。


マーガレットは国王の手元を見て頷いた。


「父上、その調子です。」


「水刃が安定しています。」


国王オーキスは関節へ正確に水刃を走らせる。


「なるほど。」


「魔力操作が身についてくると、思い通りに切れるな。」


「はい。」


「繰り返すことが一番の教導です。」


王妃バイオレットも滑らかな動きで魔石を取り出す。


「母上も順調です。」


「そのまま続けてください。」


三人の側室。


リヴィア。


レックス。


イヴァン。


コール。


全員が黙々と解体を続ける。


魔力循環を止める者は一人もいない。


正しい方法を何度も繰り返すことで、水刃の精度も解体速度も着実に向上していった。


やがて一万体すべての解体が終わる。


訓練場には部位ごとに分けられた肉、種類ごとに整理された素材、傷一つない魔石が整然と並んでいた。


国王は近衛騎士隊長へ命じる。


「冒険者ギルドへ。」


「肉、素材、魔石を売却せよ。」


「収益金は国庫へ納める。」


「はっ。」


近衛騎士たちは肉、素材、魔石をアイテムボックスへ収納した。


全員が身体強化を維持したまま飛び上がる。


「飛行。」


十人は王宮を飛び立ち、王都の冒険者ギルドへ向かった。


冒険者ギルドへ到着すると、受付職員がすぐに応対する。


「近衛騎士隊の皆様、ようこそ。」


「本日も売却ですね。」


近衛騎士隊長は頷く。


「ああ。」


「査定を頼む。」


受付職員はギルド長を呼びに走った。


ギルド長もすぐに姿を現す。


「今日も王宮からですな。」


近衛騎士たちがアイテムボックスを開くと、大量の肉、素材、魔石が査定場へ次々と並んでいく。


その量を見たギルド長は目を丸くした。


「これは……今日は桁が違いますな。」


査定担当者も苦笑する。


「品質はいつも通り申し分ありません。」


「肉も素材も魔石も完璧です。」


「ですが、この量は初めてです。」


ギルド長は大きく頷いた。


「王宮騎士団や近衛騎士団の教導で何度も納品していただいておりますが、これほどの量は前例がありません。」


「すぐに王都中の肉屋へ連絡しろ。」


「鍛冶工房、魔道具工房にも知らせるんだ。」


職員たちは一斉に走り出した。


やがて王都中の肉屋へ知らせが届く。


「王宮から大量の魔物肉が入荷する!」


店主たちは喜びの声を上げた。


「今日は品切れの心配がないぞ。」


「しばらく安定して販売できる。」


鍛冶工房でも歓声が上がる。


「これだけ素材があれば注文にも十分応えられる。」


魔道具工房でも職人たちが魔石を手に取り、満足そうに頷いた。


「今回も見事な品質だ。」


「加工しやすい。」


査定を終えた近衛騎士たちは売却代金をアイテムボックスへ収納する。


そのまま飛行魔法で王宮へ帰還した。


討伐した魔物は食料となり、素材となり、魔石となり、王国全体へ豊かさを循環させていく。


その循環は、王国の新しい発展の形となり始めていた。




近衛騎士たちが王宮へ戻る頃には、調理場ではすでに準備が始まっていた。


解体した魔物肉は部位ごとに運び込まれ、広い調理場へ整然と並べられている。


マーガレットは王族たちを見回した。


「次は調理です。」


「解体した食材を最大限に活かします。」


国王オーキスは頷く。


「料理も教導の一つというわけだな。」


「はい。」


「素材を活かす技術も、王国を豊かにするためには欠かせません。」


王族たちは魔力循環を続けたまま調理台へ立つ。


マーガレットは最初に肉の切り分け方を説明した。


「厚さを揃えてください。」


「火の通りが均一になります。」


全員がウォーターカッターで肉を切り揃えていく。


水刃は解体だけでなく、調理にも十分応用できた。


「次は焼きます。」


調理場には大きな鉄板がいくつも用意されていた。


マーガレットは火属性魔法を使わず、王宮の竈へ薪をくべる。


「今日は基本を覚えていただきます。」


「火加減を見ることも大切です。」


肉を鉄板へ並べる。


ジュウッという音とともに香ばしい香りが立ち上った。


王妃バイオレットが目を細める。


「いい香りね。」


側室たちも自然と笑みを浮かべた。


マーガレットは肉を裏返しながら説明する。


「焼き過ぎると固くなります。」


「表面を焼き固めてから、ゆっくり火を通してください。」


国王も同じように肉を焼いていく。


「料理も戦いと同じだな。」


「焦れば失敗する。」


「その通りです。」


マーガレットは微笑んだ。


続いてスープ作りが始まる。


骨を寸胴鍋へ入れ、水を注ぐ。


野菜も加え、ゆっくりと煮込んでいく。


「灰汁を取り除くことで、澄んだスープになります。」


王子たちも木杓子で鍋を混ぜながら学んでいく。


リヴィアは野菜を丁寧に切り分けていた。


調理場には穏やかな空気が流れていた。


剣を握る王族ではない。


国を支える者として学ぶ王族の姿がそこにあった。


やがて最初の料理が完成する。


焼き上がった魔物肉。


骨から旨味を引き出したスープ。


焼きたてのパン。


彩り豊かな野菜。


マーガレットは料理を一皿ずつ並べた。


「どうぞ。」


国王は一口食べる。


ゆっくりと噛み締めたあと、静かに頷いた。


「美味い。」


「以前よりもさらに美味しく感じる。」


王妃も笑顔になる。


「自分で解体して、自分で料理したからでしょうね。」


側室たちも次々と料理を口へ運ぶ。


「柔らかい。」


「肉の旨味がよく分かります。」


レックスも感心した。


「解体の仕方で味まで変わるんですね。」


マーガレットは頷く。


「肉を傷付けず、正しく処理することで品質は保たれます。」


「だから解体も調理も同じくらい大切なのです。」


国王は食事を続けながら静かに口を開いた。


「今日一日で多くのことを学んだ。」


「討伐。」


「解体。」


「調理。」


「そして売却。」


「一つひとつが王国を支えていることを実感できた。」


マーガレットは父の言葉を聞き、満足そうに微笑んだ。


教導とは、戦う力だけを教えるものではない。


暮らしを豊かにし、人を育て、国を発展させる知識を伝えること。


その学びは、王宮全体へと広がろうとしていた。




翌朝。


王宮の大会議室には、多くの者たちが集められていた。


宰相。


各大臣。


貴族。


文官。


侍女。


使用人。


王宮騎士団。


近衛騎士団。


魔導騎士団。


王宮で働く者たちが次々と席へ着いていく。


何が始まるのかと、小さなざわめきが広がっていた。


やがて国王オーキスが壇上へ姿を現す。


隣にはマーガレットも立っている。


会場は静まり返った。


国王はゆっくりと口を開く。


「昨日、私はマーガレットから教導を受けた。」


「討伐、解体、調理、売却。」


「どれ一つ取っても、王国を豊かにするために欠かせない技術だった。」


会場の全員が真剣な表情で耳を傾ける。


「私は決めた。」


「今日から王宮全体で教導を始める。」


その言葉に会場がどよめいた。


宰相が一歩前へ出る。


「陛下。」


「我々文官も、でしょうか。」


「ああ。」


国王は力強く頷く。


「身分や役職は関係ない。」


「学ぶ者は強くなる。」


「王宮全体の力を底上げする。」


宰相は深く頭を下げた。


「承知いたしました。」


今度は魔導騎士団長が前へ出る。


「我々も参加できることを光栄に思います。」


「さらに鍛えさせていただきます。」


近衛騎士団長も続く。


「教導のおかげで我々は大きく成長しました。」


「王宮全体へ広がることを歓迎します。」


王宮騎士団長も力強く頷いた。


「必ず期待に応えてみせます。」


マーガレットは全員を見渡した。


「まずは魔力循環です。」


「魔力循環はすべての基本になります。」


「魔力循環を身につければ、身体強化も魔力操作も習得しやすくなります。」


参加者たちは一斉に姿勢を正した。


マーガレットはゆっくりと説明を始める。


「魔力を身体全体へ巡らせます。」


「焦る必要はありません。」


「一定の速度で循環させ続けてください。」


大会議室は静寂に包まれた。


数百人が同時に魔力循環を始める。


マーガレットは一人ひとりの様子を確認しながら歩いていく。


「そのままで大丈夫です。」


「肩の力を抜いてください。」


「魔力を止めないよう意識してください。」


参加者たちは何度も繰り返した。


時間が経つにつれ、ぎこちなかった魔力の流れは少しずつ滑らかになっていく。


国王はその光景を見て満足そうに頷いた。


昨日まで学んでいたのは自分たちだった。


今日は自分たちが、その教導を王宮全体へ広げている。


その変化が嬉しかった。


マーガレットは最後に全員へ語りかける。


「教導は一日で終わるものではありません。」


「毎日続けることで必ず成長します。」


「王宮全体が学び続ければ、この国はさらに豊かになります。」


その言葉に、会場の全員が力強く頷いた。


王宮では、新たな教導が始まった。


それは騎士だけのものでも、王族だけのものでもない。


王宮で働くすべての者が学び、成長し、その力を王国の発展へつなげていく。


王宮全体教導は、この日を境に新たな一歩を踏み出した。





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