44 王宮改革
王宮全体の教導が始まった。
王宮の訓練場では、朝早くから多くの者たちが集まっている。
メイド。
使用人。
調理人。
文官。
各大臣。
宰相。
貴族。
魔導騎士団。
立場も役割も異なる者たちが、一斉に魔力循環を続けていた。
教導を担当するのは近衛騎士団である。
アークから教導を受けた近衛騎士たちは、その経験を生かし、王宮で働く者たちへ魔力循環と魔力操作を丁寧に教えていた。
「魔力は止めずに循環させてください。」
「焦る必要はありません。」
「一定の速度を意識してください。」
近衛騎士たちは一人ひとりの様子を確認しながら助言を送る。
メイドたちも真剣な表情で魔力を巡らせていた。
「身体が少し軽くなった気がします。」
近衛騎士は頷く。
「その感覚で合っています。」
「毎日続ければ、さらに安定します。」
調理人たちも休むことなく魔力循環を続ける。
「厨房では一日中立ち仕事だからな。」
「身体強化が使えるようになれば助かる。」
文官たちも机仕事の合間を利用して魔力を巡らせていた。
「以前より疲れにくくなりました。」
「集中力も続きます。」
宰相は静かに周囲を見渡した。
王宮には以前にはなかった活気が満ちている。
誰もが学び、誰もが成長しようとしていた。
その変化を目の当たりにし、自然と笑みが浮かぶ。
「良い流れですな。」
隣にいた大臣も深く頷いた。
「王宮全体が変わり始めています。」
その変化は王宮だけではなかった。
アルデバラン王国全体もまた、大きく発展を続けていた。
魔物肉の流通が王国中へ広がり、食料事情は劇的に改善される。
王都だけでなく地方都市や村にも十分な食料が行き渡り、食料充足率は百パーセントを超えていた。
飢えに苦しむ者はほとんど姿を消している。
王国各地では魔物討伐も継続されていた。
街道周辺の魔物は大幅に減少し、旅人や商人は安心して往来できるようになる。
物流は活発になり、商業も発展を続けていた。
犯罪者も年々減少している。
治安の改善により騎士団は住民支援や巡回へ多くの人員を配置できるようになり、人々の安心感も増していた。
討伐した魔物は肉として流通し、素材は鍛冶工房や魔道具工房へ送られる。
魔石も各地で活用され、王国全体の産業を支えていた。
その売却益は国庫へ納められ、道路や橋、水路などの整備に使われている。
国内が安全になったことで交易量も増え、税収も着実に伸びていた。
各領でも同じ変化が起きている。
領主たちは魔物討伐と街道整備を進め、領内の治安は改善し、人の往来も増えていた。
執務室で各地から届いた報告書へ目を通していた国王オーキスは、満足そうに頷く。
「王国は確実に豊かになっている。」
マーガレットも報告書を閉じた。
「教導が人を育て、人が王国を発展させています。」
「この流れを止めてはなりません。」
国王は娘の言葉に静かに頷いた。
「そのためにも、次は我々王族がさらに成長する番だ。」
マーガレットは穏やかに微笑む。
「では今日から新しい教導を始めましょう。」
王族たちは静かに立ち上がった。
新たな力を身につけるための教導が、いよいよ始まろうとしていた。
王宮の教導が軌道に乗り始めた頃、マーガレットは再び王族たちを訓練場へ集めた。
集まったのは国王オーキス。
王妃バイオレット。
三人の側室。
リヴィア。
レックス。
イヴァン。
コール。
全員が魔力循環を維持したまま整列する。
マーガレットは全員を見渡した。
「今日から新しい技術を学びます。」
「これまで身につけた魔力操作が基礎になります。」
国王が頷いた。
「次は何を学ぶのだ。」
「まずはテレキネシスです。」
近くに置かれた木片を指差す。
「魔力で対象を持ち上げ、自由に動かしてください。」
王族たちは木片へ意識を集中させた。
木片がわずかに震える。
しかし持ち上がらない。
マーガレットは静かに助言する。
「魔力を押し出すのではありません。」
「包み込むように意識してください。」
再び挑戦する。
今度は木片がゆっくりと浮かび上がった。
「できた。」
リヴィアが嬉しそうに声を上げる。
国王も木片をゆっくり浮かせ、そのまま左右へ動かした。
「面白い。」
「力を入れる必要がないな。」
「はい。」
「魔力操作が安定しているほど、細かな制御ができます。」
全員が繰り返し練習を続ける。
十分ほど経つ頃には、木片を自在に動かせるようになっていた。
マーガレットは次の教導へ移る。
「続いてテレパシーです。」
「声ではなく、魔力で言葉を届けます。」
マーガレットは国王へ意識を向けた。
『父上、聞こえますか。』
国王は目を丸くした。
『頭の中へ直接届いている。』
『そのまま返してください。』
『こうか。』
『はい。成功です。』
王妃や王子たちも次々と成功していく。
やがて全員が声を出さずに会話できるようになった。
「便利だな。」
レックスが感心する。
「離れていても連絡できますね。」
マーガレットは頷いた。
「戦闘だけではありません。」
「災害対応や行政でも役立つ能力です。」
続いてレビテーションの教導が始まる。
「身体を軽くするように魔力を巡らせてください。」
全員が魔力を調整すると、身体がゆっくりと浮き始めた。
最初は数センチ。
やがて数十センチ。
全員が安定して浮遊できるようになる。
国王は周囲を見回した。
「これがレビテーションか。」
「はい。」
「飛行魔法の基礎になります。」
マーガレットは全員が安定して浮遊していることを確認すると、静かに告げた。
「それでは次へ進みます。」
「飛行魔法です。」
王族たちは表情を引き締めた。
新たな力を身につけるため、再び魔力操作へ意識を集中させる。
王宮の上空には、静かな緊張感が漂っていた。
マーガレットはゆっくりと口を開いた。
「それでは飛行魔法を始めます。」
王族たちは表情を引き締める。
レビテーションで身体を浮かせることには成功した。
次は、その状態を自在に制御する技術である。
「魔力で身体を支えたまま、進みたい方向を意識してください。」
「急ぐ必要はありません。」
「まずはゆっくり前へ。」
国王オーキスが慎重に身体を傾ける。
すると身体がゆっくりと前へ進み始めた。
「動いた。」
「はい。」
「そのまま速度を維持してください。」
王妃バイオレットも静かに前進する。
側室たちも続いた。
リヴィアは最初こそ身体が左右へ揺れたものの、すぐに姿勢を立て直す。
レックス、イヴァン、コールも何度も方向転換を繰り返しながら感覚を掴んでいった。
「その調子です。」
「今度は右へ。」
「次は左。」
「最後に後退します。」
マーガレットの指示に従い、王族たちはゆっくりと飛行を繰り返した。
十分ほど経つ頃には、全員が安定して飛行できるようになっていた。
国王は静かに着地する。
「これほど自由に空を飛べるとは思わなかった。」
「魔力操作が基礎です。」
「基礎が身についているからこそ、新しい技術も短時間で習得できます。」
マーガレットは続けた。
「次は索敵魔法です。」
王族たちは再び魔力を巡らせる。
「魔力を周囲へ広げてください。」
「敵意ではなく、存在を感じ取る意識です。」
全員が目を閉じる。
魔力が波紋のように周囲へ広がっていく。
しばらくすると、リヴィアが目を開いた。
「人がいます。」
「訓練場の外です。」
マーガレットは微笑んだ。
「正解です。」
「近衛騎士が巡回しています。」
続いて国王も口を開く。
「庭園にも数人いるな。」
「庭師でしょうか。」
「その通りです。」
王妃も次々と人の位置を言い当てていく。
側室たち、王子たちも同じように周囲を感知できるようになっていた。
「索敵魔法は戦闘だけではありません。」
「遭難者の捜索。」
「災害時の救助。」
「迷子の発見。」
「さまざまな場面で役立ちます。」
国王は深く頷いた。
「国を治める者に必要な力だな。」
「はい。」
「守るための技術です。」
その時だった。
マーガレットの身体から柔らかな光があふれ始める。
王族たちは驚いた表情で見つめた。
光はマーガレットを包み込み、やがて穏やかに収束していく。
マーガレットは静かに目を閉じた。
新しい知識が頭の中へ流れ込んでくる。
やがて目を開くと、小さく息を吐いた。
「女王スキル……。」
その言葉に国王が目を見開く。
「覚醒したのか。」
「はい。」
「新しいスキルへ覚醒しました。」
ほぼ同時に、国王オーキスの身体も黄金色の光に包まれた。
王妃バイオレットも優しい白い光をまとっている。
三人は静かに立ち尽くしていた。
王族たちは、その神秘的な光景を言葉もなく見守っていた。
# 第44話 王宮改革 後編②
訓練場を包んでいた光は、ゆっくりと静まっていった。
国王オーキスは自らの身体を見つめる。
胸の奥から、これまで感じたことのない力が湧き上がっていた。
マーガレットも静かに目を閉じ、新たに得た知識を確かめている。
王妃バイオレットも穏やかな表情で立っていた。
最初に口を開いたのはマーガレットだった。
「父上。」
「国王スキルへ覚醒されています。」
国王はゆっくりと頷く。
「私にも分かる。」
「王国全体のことを、以前より鮮明に考えられる。」
マーガレットは続いて王妃へ視線を向けた。
「母上は王妃スキルです。」
王妃は静かに微笑んだ。
「人を支え、人をまとめる力……そのような感覚があります。」
最後にマーガレットは自分の胸へ手を当てる。
「私は女王スキルへ覚醒しました。」
その場にいた王族たちは驚きを隠せなかった。
スキルの覚醒は珍しい。
まして王族だけが同時に新たなスキルへ覚醒するなど、前例のない出来事だった。
国王は静かにマーガレットを見る。
「これも教導の成果か。」
「はい。」
「魔力循環、魔力操作を積み重ね、新しい知識を学び続けた結果です。」
王妃も深く頷いた。
「学び続けることで、人は成長できるのですね。」
「その通りです。」
マーガレットは穏やかに答える。
「教導は技術だけではありません。」
「人そのものを成長させます。」
国王は空を見上げた。
王宮では近衛騎士たちが王宮全体の教導を続けている。
遠くでは魔導騎士団が魔力循環を繰り返し、文官や大臣たちも真剣な表情で魔力操作を学んでいた。
誰もが昨日より成長しようとしている。
その姿を見て、国王は自然と笑みを浮かべた。
「王宮全体が学び続けている。」
「良い光景だ。」
マーガレットも同じ方向へ目を向ける。
「学ぶ者が増えれば、その人が次の教師になります。」
「教師が増えれば、さらに多くの人へ教導できます。」
「その積み重ねが王国全体を豊かにします。」
国王は力強く頷いた。
「まさに改革だな。」
「はい。」
「一人の力ではありません。」
「教導の輪が広がることで、王国全体が成長していくのです。」
その日の夕刻。
各地の領主から新たな報告書が王宮へ届けられた。
街道の安全が保たれ、商隊の往来はさらに増加している。
魔物被害は減少を続け、農村では安心して畑仕事ができるようになった。
食料事情も安定し、各地の市場には魔物肉が並ぶのが当たり前になっていた。
国王は報告書を閉じる。
「王都だけではない。」
「王国全体が変わり始めている。」
マーガレットは静かに頷いた。
「改革は始まったばかりです。」
「これからも教導を続ければ、この国はさらに発展していきます。」
王妃も穏やかに微笑む。
「王族も歩みを止めるわけにはいきませんね。」
「はい。」
マーガレットは真っ直ぐ前を見据えた。
王宮から始まった学びは、やがて王国中へ広がっていく。
学ぶ者が教師となり、その教師がさらに新しい教師を育てる。
教導の輪は途切れることなく広がり続け、アルデバラン王国はかつてない速度で発展への道を歩み始めていた。




