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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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40 六属性の覚醒と飛行魔法

解体と調理の教導が終わった翌日。


マーガレットは朝からアークとともに王宮の訓練場へ立っていた。


魔力循環は今日も休むことなく続いている。


「今日は水属性以外を教えます。」


アークの言葉に、マーガレットは真剣な表情で頷いた。


「よろしくお願いいたします。」


まず教えられたのは風属性だった。


「風は切るだけではありません。」


「流れを操り、押し、運ぶ力でもあります。」


マーガレットは魔力を練る。


「ウィンドバレット。」


風の弾丸が一直線に飛ぶ。


続いて風の刃。


風の壁。


風の拘束。


何度も繰り返すうちに、魔力の流れが自然と身体へ馴染んでいく。


やがて身体が淡く光った。


「風属性が覚醒しました。」


アークが静かに告げる。


マーガレットは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。」


休むことなく次の教導へ移る。


「次は土属性です。」


アークは地面へ手を添えた。


「土は防御だけではありません。」


「形を作り、支え、築く属性です。」


土の壁。


土の盾。


土の牢。


土の槍。


土の足場。


マーガレットは一つずつ再現していく。


訓練場には大小さまざまな土の造形が並んでいった。


何度も魔法を発動していると、再び身体が淡く光る。


「土属性が覚醒しました。」


「はい。」


マーガレットは短く返事をし、すぐに次の教導へ意識を向けた。


アークは満足そうに頷く。


「良い集中力です。」


続いて光属性。


「光は治療だけではありません。」


「浄化や照明、索敵にも応用できます。」


マーガレットは光の弾を放つ。


さらにヒール。


浄化。


光球。


繰り返すたびに魔力操作はさらに洗練されていく。


ほどなくして光属性も覚醒した。


女性近衛騎士たちは静かに見守っていた。


驚きはない。


アークの教導では、正しい手順を繰り返せば覚醒することを、彼女たちは既に知っていたからである。


午後になると火属性の教導が始まった。


「火は燃やすだけではありません。」


「熱を操る属性です。」


火球。


火刃。


火壁。


火槍。


マーガレットは次々に再現していく。


炎の大きさも温度も自在に調整できるようになっていった。


そして火属性も覚醒する。


最後は闇属性だった。


「闇は恐れる力ではありません。」


「隠し、覆い、捕らえる属性です。」


闇の弾。


闇の壁。


闇の拘束。


闇の牢。


マーガレットは一つひとつ確認しながら魔法を発動する。


六つ目の属性が身体へ馴染んだ瞬間、再び淡い光が身体を包み込んだ。


「闇属性も覚醒しました。」


マーガレットは静かに息を吐く。


一日で五つの属性を覚醒したわけではない。


魔力循環を二十四時間続け、水属性を基礎として積み重ねてきた教導があったからこその結果だった。


アークは穏やかに微笑む。


「これで六属性が揃いました。」


「ここから先は、それぞれの属性を組み合わせ、さらに応用していきます。」


マーガレットは力強く頷く。


「はい。」


教導はまだ終わらない。


本当の成長は、六つの属性を正しく理解し、自在に組み合わせられるようになってから始まるのだった。




六属性を自在に扱えるようになった翌日。


マーガレットは今日も魔力循環を続けながら訓練場へ立っていた。


アークは静かに言う。


「今日は超能力と飛行を教えます。」


「よろしくお願いいたします。」


最初に教えられたのはテレキネシスだった。


アークは足元の小石へ視線を向ける。


石がゆっくりと宙へ浮かび、そのまま前後左右へ滑らかに動き始めた。


「魔力で対象を包み込むように動かします。」


「力任せではありません。」


マーガレットは意識を集中する。


目の前の石へ魔力を流した。


最初は微動だにしなかった石が、ゆっくりと浮き上がる。


「できました。」


「そのまま前へ。」


石はゆっくりと前進し、右へ、左へと滑らかに動いていく。


何度も繰り返すうちに操作は安定した。


その瞬間、身体が淡く光る。


「テレキネシスが覚醒しました。」


マーガレットは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


続いてテレパシーの教導が始まる。


アークとマーガレット、三人の女性近衛騎士が輪になって立つ。


「言葉ではなく魔力で意思を伝えます。」


マーガレットは目を閉じた。


(聞こえますか。)


すると頭の中へ返事が届く。


(はい、聞こえております。)


(問題ありません。)


三人の女性近衛騎士の声が直接意識へ響いた。


マーガレットは驚きながらも何度も会話を繰り返す。


距離を離しても問題なく会話は続いた。


やがて再び身体が淡く光る。


「テレパシーが覚醒しました。」


アークは満足そうに頷いた。


「これで連携は格段に向上します。」


続いて最後の教導へ移る。


「レビテーションです。」


アークの身体が静かに浮かび上がる。


十センチ。


五十センチ。


一メートル。


空中で静止したまま動かない。


「レビテーションは浮遊です。」


「飛ぶ魔法ではありません。」


マーガレットは頷いた。


全身へ均等に魔力を巡らせる。


身体がゆっくりと地面を離れた。


数センチ。


十センチ。


やがて一メートルほど浮かび上がる。


「そのまま姿勢を維持してください。」


マーガレットは空中で静止する。


何度も繰り返すうちに身体の揺れは消えていった。


その瞬間、身体が淡く光る。


「レビテーションが覚醒しました。」


「おめでとうございます。」


アークは穏やかに微笑む。


「ここから飛行へ移ります。」


マーガレットは真剣な表情になる。


「風属性を身体へ纏ってください。」


「はい。」


マーガレットは全身へ風属性の魔力を巡らせた。


身体の周囲へ柔らかな風が流れ始める。


「その風で身体を押し出します。」


マーガレットは前方を見据えた。


身体を包む風が推進力となり、浮いたままゆっくりと前へ進み始める。


「飛べています。」


「そのまま上昇してください。」


マーガレットは風を強める。


身体は静かに高度を上げる。


次に下降。


停止。


右旋回。


左旋回。


加速。


減速。


アークの指示どおり、一つずつ繰り返した。


操作は回数を重ねるごとに安定していく。


女性近衛騎士三人も空へ上がり、マーガレットと並んで飛行した。


やがて五人は王宮の上空を滑らかに飛び回る。


アークは微笑みながら頷いた。


「レビテーションで浮遊し、風魔法で推進する。」


「これが飛行魔法です。」


マーガレットは青空を自由に飛びながら、その新しい力を確かなものとして身体へ刻み込んでいた。




飛行魔法を習得した翌日。


マーガレットは朝から王都上空を飛んでいた。


レビテーションで身体を浮かせる。


全身へ風属性を纏い推進力を得る。


空中で停止。


上昇。


下降。


旋回。


加速。


減速。


その一つひとつの動きは昨日よりも滑らかになっていた。


アークは空中で頷く。


「飛行は十分です。」


「次は索敵を教えます。」


マーガレットは興味深そうに尋ねる。


「ウォーターサーチとは違うのですか。」


「違います。」


アークは右手を前へかざした。


「水属性だけでも索敵はできます。」


「ですが六属性を組み合わせることで、さらに精度が上がります。」


マーガレットは真剣な表情になる。


「六属性を同時に……。」


「はい。」


「水は生命反応。」


「風は空気の流れ。」


「土は地形。」


「光は魔力。」


「闇は気配。」


「火は熱。」


「それぞれが持つ特徴を重ね、一つの索敵魔法として完成させます。」


アークは六属性の魔力をゆっくりと重ねた。


透明な魔力が周囲へ静かに広がっていく。


しばらくするとアークが言った。


「訓練場の北に近衛騎士が二十名。」


「南門に衛兵が十五名。」


「西には荷馬車が十台。」


「東には商人が集まっています。」


マーガレットは驚いた。


「そこまで分かるのですか。」


「実際に確認しましょう。」


五人は飛行したまま王都を巡る。


北側の訓練場。


近衛騎士たちが鍛錬を行っていた。


南門では衛兵たちが通行人を確認している。


西側には荷馬車が並び。


東側では商人たちが露店を広げていた。


マーガレットは目を見開く。


「すべてその通りでした。」


「では王女殿下も試してください。」


マーガレットは静かに目を閉じる。


六属性の魔力を丁寧に重ねる。


魔力が王都全体へ広がっていく。


最初は情報が多すぎて整理できなかった。


しかし何度も繰り返すうちに、一つひとつの反応が鮮明になっていく。


「見えます。」


「王宮の庭園。」


「衛兵。」


「料理人。」


「侍女。」


「城壁の巡回兵。」


次々と位置が頭の中へ浮かんだ。


アークは静かに頷く。


「そのまま範囲を広げてください。」


マーガレットはさらに魔力を広げる。


王都全域。


そして城壁の外まで。


その時だった。


マーガレットの表情が変わる。


「北東の街道です。」


「武装した集団がいます。」


「十人。」


「商人の馬車を取り囲んでいます。」


女性近衛騎士たちの表情が引き締まる。


アークは静かに頷いた。


「行きましょう。」


五人は同時に飛び立った。


風を纏った身体が一気に加速する。


わずかな時間で現場へ到着した。


街道では十人ほどの盗賊が商人たちを囲んでいた。


剣を抜き、荷物を奪おうとしている。


アークは落ち着いた声で言う。


「教導通りです。」


「索敵。」


「捕縛。」


「無力化。」


「はい。」


マーガレットは迷わず魔力を放つ。


六属性による索敵は盗賊全員の位置を正確に捉えていた。


逃げ道は一つも残されていない。


王女は静かに両手を前へ突き出した。


教導の成果を実戦で示す時が訪れていた。




「バインド。」


マーガレットが静かに魔法を発動する。


六属性による索敵ですべての位置を把握されていた盗賊たちは、一斉に水の拘束具で両腕と両足を縛られた。


「なっ!」


「動けない!」


盗賊たちは必死にもがく。


しかし拘束はびくともせず、逃げることもできない。


アークは落ち着いた声で言った。


「周囲を確認してください。」


「はい。」


マーガレットは再び六属性の索敵魔法を展開する。


魔力は周囲一帯へ広がっていく。


盗賊十人。


商人五人。


荷馬車二台。


馬四頭。


森の中まで詳細な反応が頭の中へ映し出される。


「周囲に仲間はいません。」


「逃走者もいません。」


「よろしい。」


アークは静かに頷いた。


「では無力化してください。」


「はい。」


マーガレットは盗賊たちへ手を向けた。


「ウォーターマスク。」


十人の顔を水球が包み込む。


盗賊たちは暴れることもできず、その場へ崩れ落ちた。


商人たちは呆然と立ち尽くしていた。


「助かった……。」


「王女殿下。」


「ありがとうございます。」


マーガレットは穏やかに微笑む。


「もう安心してください。」


女性近衛騎士の一人がテレパシーを送る。


(近衛騎士団本部へ。街道で盗賊十人を捕縛しました。身柄の引き取りをお願いします。)


(了解しました。ただちに向かいます。)


数分後。


王都の方角から十人の近衛騎士が飛来した。


レビテーションで浮遊し、風魔法を纏って一直線に街道へ降下する。


隊長は着地するとマーガレットへ敬礼した。


「王女殿下。」


「近衛騎士団、到着いたしました。」


「盗賊十人の身柄を確認しました。」


「王都へ護送いたします。」


「お願いします。」


近衛騎士たちは盗賊たちをアイテムボックスへ収納し、再び飛行して王都へ戻っていった。


商人たちは何度も頭を下げる。


「命だけでなく商品まで守っていただきました。」


「本当にありがとうございました。」


マーガレットは静かに頷く。


「これからも安心して商売を続けてください。」


一行は再び空へ舞い上がる。


レビテーションで身体を浮かせ、風魔法を纏って王都へ向かう。


その帰路だった。


マーガレットは索敵魔法へ意識を向ける。


「森の中です。」


「人間が五人。」


「子供が二人。」


「子供たちは縛られています。」


アークも索敵を展開した。


「人攫いです。」


「向かいましょう。」


五人は進路を変え、一気に森へ降下する。


人攫いたちは突然空から現れた五人に驚き、逃げようとした。


しかし、その瞬間。


「バインド。」


五人全員が水の拘束具で縛り上げられる。


「ウォーターマスク。」


抵抗する間もなく、人攫いたちは次々と意識を失った。


マーガレットは縛られていた子供たちへ駆け寄る。


「もう大丈夫ですよ。」


縄を解かれた子供たちは涙を流しながら何度も頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「助かりました。」


女性近衛騎士は再びテレパシーを送る。


(近衛騎士団本部へ。人攫い五人を捕縛。保護した子供二人を発見しました。)


(了解しました。ただちに向かいます。)


ほどなくして近衛騎士団が飛来し、人攫いたちを引き取って王都へ戻っていった。


王都周辺では飛行魔法と六属性索敵を活用した巡回が始まり、盗賊や人攫いは次々と捕縛されていく。


街道は安全を取り戻し、商人たちは安心して往来できるようになった。


物流は活発になり、商業はさらに発展する。


犯罪による被害は減少し、税収も安定して増え始めた。


王国の国庫は潤い、人々は教導が国そのものを豊かにしていることを実感し始めていた。


アークは穏やかにマーガレットを見つめる。


「飛行。」


「索敵。」


「捕縛。」


「無力化。」


「すべて教導通りでした。」


マーガレットは力強く頷いた。


教導によって身につけた力は、人を守り、国を豊かにし、王国の未来を変える確かな力となっていた。




王都へ戻ったマーガレットたちは、そのまま王宮へ降り立った。


訓練場では近衛騎士団が飛行訓練を続けている。


王都近郊の警備は近衛騎士団と王国騎士団が担当しており、街道も村々も以前とは比べものにならないほど安全になっていた。


アークは穏やかに言う。


「王都周辺の治安は十分維持されています。」


「今日は巡回を兼ねた訓練でした。」


マーガレットは静かに頷く。


「索敵の精度も以前より上がっています。」


六属性を組み合わせた索敵魔法によって、王都近郊の人や魔物の位置が鮮明に把握できるようになっていた。


森では冒険者が魔物を討伐している。


街道では商人たちが安心した表情で荷馬車を走らせている。


王国騎士団は街道を巡回し、近衛騎士団は飛行による広域警備を行っていた。


王都周辺は確実に平和になっていた。


アークは満足そうに頷く。


「飛行魔法と索敵魔法があれば、異変にもすぐ対応できます。」


「犯罪は未然に防ぐことが大切です。」


「はい。」


マーガレットはその意味を理解していた。


力とは敵を倒すためだけではない。


犯罪を起こさせない環境を作ることもまた、統治する者の役目なのである。


その後、一行は王城へ向かった。


国王アルベランと王妃が玉座の間で待っている。


「ただいま戻りました。」


マーガレットが一礼する。


国王は娘の姿を見て思わず目を見開いた。


「マーガレット……。」


王妃も驚きを隠せない。


「なんて美しいのでしょう。」


以前から美しかった娘は、魔力循環を続けたことでさらに均整の取れた体つきとなり、凛とした気品まで備えていた。


その瞳には迷いがなく、自信に満ちあふれている。


国王はゆっくりと立ち上がった。


「表情まで変わったな。」


「以前より遥かにたくましい。」


マーガレットは微笑む。


「アーク様の教導のおかげです。」


「六属性。」


「飛行魔法。」


「索敵。」


「すべて習得できました。」


王と王妃はアークへ視線を向ける。


「短期間でここまで成長するとは……。」


「信じられぬ。」


アークは静かに頭を下げた。


「王女殿下が努力された結果です。」


「私は教導しただけです。」


その言葉にマーガレットは首を横へ振る。


「いいえ。」


「正しい教導があったからこそです。」


そして国王と王妃をまっすぐ見つめた。


「父上。」


「母上。」


「お二人も明日から教導を受けてください。」


突然の提案に玉座の間は静まり返る。


国王は苦笑した。


「余もか。」


「もちろんです。」


マーガレットは力強く頷く。


「国王が強くなれば、王国はさらに安定します。」


「母上も健康になり、美しく若々しくなります。」


王妃は思わず笑みを浮かべた。


「少し興味が湧いてきました。」


国王も豪快に笑う。


「ははは。」


「娘に勧められて断るわけにはいかぬな。」


その瞬間だった。


マーガレットの身体が淡い光に包まれる。


「あっ……。」


本人も驚いた表情を浮かべる。


アークは静かに鑑定した。


そして穏やかに微笑む。


「おめでとうございます。」


「教導スキルが覚醒しました。」


マーガレットは胸へ手を当てる。


「教導スキル……。」


「はい。」


「今度は教わる側ではなく、教える側として歩み始めます。」


マーガレットは静かに頷いた。


教導によって成長した王女は、これからは自らが人を育てる立場となる。


その第一歩は、最も身近な家族へ教えることから始まろうとしていた。





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