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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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39 解体と調理

森での実戦教導を終えた一行は、王都へ戻ってきた。


マーガレットは帰路の間も、眠っている時と同じように魔力循環を絶え間なく続けている。


王宮へ到着すると、アークは収納していた魔物を取り出した。


ホーンラビット五体。


オーガ十体。


フォレストウルフ五十体。


アーミーアント五十体。


アースベア五十体。


合計百六十五体の魔物が、解体場へ次々と並べられていく。


女性近衛騎士三人は、その光景を見ながら作業台を整えていた。


アークは一頭のホーンラビットの前へ立つ。


「今日は解体を教えます。」


マーガレットは真剣な表情で頷いた。


「よろしくお願いいたします。」


アークは右手へ魔力を集める。


「解体に使うのはウォーターカッターです。」


掌から生まれた水の刃は、剣よりも細く鋭かった。


「刃物を使うよりも正確に切れます。」


そう言うと、迷いのない手つきでホーンラビットを解体していく。


皮を傷付けないよう切れ目を入れる。


皮を丁寧にはがす。


内臓を傷付けず取り出す。


肉を部位ごとに切り分ける。


角を外し、骨も無駄なく分けていく。


一連の作業は驚くほど滑らかだった。


わずかな時間で、一頭分の解体が終わる。


マーガレットは感嘆の表情を浮かべた。


「速いだけではありません。」


「素材がまったく傷付いていません。」


アークは頷く。


「素材の価値を落とさないことも解体技術です。」


「皮。」


「角。」


「魔石。」


「肉。」


「骨。」


「すべて価値があります。」


「必要以上に傷付けないよう意識してください。」


「はい。」


マーガレットは作業台の前へ立つ。


目の前には一頭のホーンラビット。


深呼吸を一つすると、魔力循環を続けながらウォーターカッターを発動した。


慎重に皮へ切れ目を入れる。


最初は少しぎこちない。


しかしアークが教えた手順を思い出しながら、一つひとつ丁寧に進めていく。


皮をはがす。


内臓を取り出す。


肉を切り分ける。


角を外す。


最後に魔石を取り出した。


アークは静かに頷いた。


「良いですね。」


「焦らず、手順通りです。」


マーガレットは安堵したように微笑む。


「訓練場で魔法を覚えた時と同じですね。」


「繰り返せば自然に身体が動きます。」


「その通りです。」


アークは穏やかに答えた。


「解体も教導です。」


「正しい手順を何度も繰り返してください。」


マーガレットは続けて二頭目へ取り掛かる。


一頭目よりも速く。


三頭目はさらに滑らかに。


五頭目を終える頃には、動きに迷いはなくなっていた。


女性近衛騎士たちも静かに頷く。


「王女殿下は飲み込みが早いですね。」


「魔力操作も安定しています。」


「ウォーターカッターの精度も十分です。」


マーガレットは照れくさそうに笑った。


「まだアーク様ほどではありません。」


アークは新たな魔物を作業台へ置く。


「次はオーガです。」


「身体が大きくなっても、基本は変わりません。」


「手順を守って進めてください。」


マーガレットは力強く頷き、大型魔物の解体へ挑戦する。


実戦で身につけた落ち着きは、解体作業でも確かな成長となって表れていた。




マーガレットはオーガの前へ立った。


ホーンラビットよりもはるかに大きな身体。


筋肉も皮膚も厚い。


それでも表情に迷いはなかった。


「基本は同じですね。」


アークは静かに頷く。


「はい。」


「魔物が変わっても手順は変わりません。」


「焦らず、一つずつ進めてください。」


「はい。」


マーガレットは魔力循環を続けながら右手を掲げる。


「ウォーターカッター。」


細く鋭い水刃が現れる。


最初の切れ込みを入れる。


皮を丁寧にはがし、筋肉を傷付けないよう慎重に刃を進めていく。


内臓を取り出し、魔石を傷付けないよう切り分ける。


肉を部位ごとに分け、骨も無駄なく外していく。


大型の魔物だけに時間は掛かった。


それでも手順を崩すことなく、一体目を解体し終えた。


アークは静かに頷く。


「良いですね。」


「大型の魔物ほど、丁寧さが重要になります。」


マーガレットは汗を拭きながら微笑んだ。


「ホーンラビットより難しいですが、教えていただいた通りに進めれば迷いません。」


その後も二体目、三体目と解体を続ける。


ウォーターカッターの動きは次第に滑らかになり、作業時間も短くなっていった。


十体目のオーガを解体し終える頃には、動きに無駄はほとんどなくなっていた。


女性近衛騎士の一人が静かに頷く。


「ウォーターカッターの精度がさらに上がっています。」


「切断面も非常にきれいです。」


アークは次の魔物を指差した。


「次はフォレストウルフです。」


五十体もの魔物が整然と並ぶ。


マーガレットは躊躇なく作業へ入った。


大きさはホーンラビットとオーガの中間ほど。


しかし数が多い。


一体。


また一体。


魔力循環を続けながら、同じ手順を何度も繰り返す。


皮。


内臓。


魔石。


肉。


骨。


すべてを丁寧に切り分けていく。


単純な作業の繰り返しだった。


しかし繰り返すほど身体は自然に動くようになる。


四十体目。


四十五体目。


そして五十体目。


最後のフォレストウルフを解体し終えた、その瞬間だった。


マーガレットの身体が淡い光に包まれる。


「あっ……。」


本人も思わず手を止めた。


身体の奥から新しい感覚が湧き上がってくる。


アークは静かに鑑定を行う。


そして穏やかに微笑んだ。


「おめでとうございます。」


「解体スキルが覚醒しました。」


マーガレットは目を丸くする。


「解体スキル……。」


「はい。」


「王女殿下が積み重ねてきた成果です。」


三人の女性近衛騎士も静かに頷いた。


「覚醒されましたね。」


「オーガ十体とフォレストウルフ五十体を、教導通りに解体されましたから。」


「これからはさらに効率良く解体できます。」


マーガレットは嬉しそうに胸の前で手を握った。


「教導を続ければ、本当にスキルが覚醒するのですね。」


アークは穏やかに頷く。


「才能ではありません。」


「正しい教導を繰り返した結果です。」


マーガレットは新たな力を実感しながら、目の前に並ぶアーミーアントへ視線を向けた。


大型の昆虫型魔物。


初めて解体する種類だった。


それでも彼女の表情に迷いはなかった。


教導通りに進めれば必ずできる。


その確信が、王女の中には確かに育っていた。




マーガレットはアーミーアントの前へ立った。


巨大な甲殻。


鋭い大顎。


昆虫型の魔物は獣型とはまったく姿が違う。


それでもマーガレットは戸惑わなかった。


アークが静かに口を開く。


「虫型でも基本は同じです。」


「素材を傷付けないよう、順番に解体してください。」


「はい。」


マーガレットは魔力循環を続けながら右手を掲げる。


「ウォーターカッター。」


鋭い水刃が甲殻の継ぎ目へ正確に入った。


外殻を丁寧に取り外す。


脚を一本ずつ切り分ける。


内臓を傷付けないよう慎重に取り出し、魔石を回収する。


甲殻と肉を分け、素材ごとに並べていく。


初めて解体する魔物だったが、教導された手順は変わらない。


一体目。


二体目。


三体目。


繰り返すごとに手の動きは滑らかになっていく。


女性近衛騎士の一人が静かに頷いた。


「迷いがありませんね。」


別の近衛騎士も微笑む。


「解体スキルを覚醒された直後とは思えないほど安定しています。」


マーガレットは五十体すべてのアーミーアントを解体し終えると、小さく息を吐いた。


アークは最後の魔物を示す。


「次はアースベアです。」


巨体が五十体。


山のように並んでいる。


マーガレットは一頭目へ歩み寄った。


「ウォーターカッター。」


皮へ切れ目を入れる。


皮を丁寧にはがし、肉を部位ごとに切り分ける。


巨大な骨を取り外し、魔石を回収する。


解体スキルを覚醒したことで、作業速度は明らかに上がっていた。


一頭。


また一頭。


五十頭のアースベアを解体し終えた頃には、王宮の解体場には整然と素材が並べられていた。


ホーンラビット。


オーガ。


フォレストウルフ。


アーミーアント。


アースベア。


百六十五体。


すべての解体が終了する。


皮。


角。


牙。


甲殻。


骨。


肉。


魔石。


種類ごとに丁寧に分けられ、傷一つない状態で並べられていた。


アークは満足そうに頷く。


「見事です。」


「すべて教導通りに終えました。」


マーガレットは汗を拭いながら微笑む。


「解体も魔法も同じですね。」


「正しい手順を繰り返せば、自然と身体が動くようになります。」


「その通りです。」


アークは静かに答えた。


「教導とは才能に頼るものではありません。」


「正しい方法を繰り返し積み重ねることです。」


そこへ待機していた女性近衛騎士三人が前へ出る。


「では、私たちが冒険者ギルドへ運びます。」


マーガレットは頷いた。


「お願いします。」


三人はアイテムボックスを発動する。


百六十五体分の素材、魔石、そして肉を次々と収納していく。


解体場はあっという間に片付いた。


やがて三人は王宮を出発し、冒険者ギルドへ向かった。


高品質な素材と大量の肉は、ギルド職員たちを大いに喜ばせる。


買い取りは滞りなく進み、魔石や素材も次々と査定されていく。


大量の肉は肉屋へ引き渡され、王都の食卓を支える貴重な食材となった。


その報告を受けた宰相も満足そうに頷く。


「これだけの収益があれば、国庫もさらに潤う。」


素材と魔石、肉の売却で得られた収益金は、すべて王国の国庫へ納められた。


王女自らが教導を受け、狩りを行い、解体し、その成果が王国の利益となる。


その一連の流れを目の当たりにした王宮の者たちは、教導が国を豊かにする力であることを改めて実感していた。




女性近衛騎士たちが冒険者ギルドへ向かっている間、アークは解体場へ残しておいたホーンラビットの肉を取り出した。


「ここからは調理です。」


マーガレットは興味深そうに頷く。


「よろしくお願いいたします。」


アークは右手をかざした。


「アイスボックス。」


透明な氷が盛り上がり、大きな鍋が形作られていく。


続いて鍋を支える台も氷で作り上げた。


マーガレットは不思議そうに鍋を見つめる。


「火は使わないのですか。」


「使いません。」


アークは穏やかに答えた。


「これは魔力で維持している氷です。」


「魔力を流し続ける限り溶けません。」


そう言うと、鍋へ水を満たし、一口大に切ったホーンラビットの肉を入れる。


そして鍋へ直接魔力を流し込んだ。


「水属性魔法は温度も操作できます。」


鍋の中から小さな泡が立ち始める。


火は使っていない。


それでも鍋の中では静かに煮込みが始まっていた。


肉はゆっくりと熱が入り、次第に柔らかくなっていく。


香りが解体場いっぱいに広がった。


マーガレットは思わず笑みを浮かべる。


「とても良い香りです。」


アークは静かに頷いた。


「焦らず煮込むことです。」


「肉は時間を掛けるほど柔らかくなります。」


十分に煮えたところで、アークは塩をひとつまみ加えた。


木匙でゆっくりとかき混ぜる。


透明だったスープは肉の旨味が溶け込み、黄金色へと変わっていた。


アークは一口味見をする。


「これで完成です。」


木の器へスープをよそう。


マーガレットと三人の女性近衛騎士にも手渡した。


全員で静かに口へ運ぶ。


柔らかく煮えたホーンラビットの肉。


透き通ったスープには肉の旨味が凝縮されている。


マーガレットは目を大きく見開いた。


「美味しい……。」


女性近衛騎士たちも自然と笑みを浮かべる。


「優しい味ですね。」


「身体が温まります。」


「肉も驚くほど柔らかいです。」


アークは微笑んだ。


「素材が良ければ、複雑な味付けは必要ありません。」


「素材の味を生かすことも調理です。」


マーガレットは何度も頷いた。


「私も作ってみます。」


アークは一歩下がる。


「今日は私は口を出しません。」


「教導を思い出し、自分で再現してください。」


「はい。」


マーガレットは氷で鍋を作る。


水を入れる。


ホーンラビットの肉を加える。


鍋へ直接魔力を流し込み、ゆっくりと加熱する。


肉が柔らかくなるまで待ち、最後に塩で味を整えた。


器へ盛り付ける。


緊張しながら一口飲む。


「……美味しい。」


マーガレットの顔へ自然と笑みが浮かんだ。


女性近衛騎士たちも味見をする。


「アーク様と変わりません。」


「見事に再現されています。」


アークも一口飲み、静かに頷いた。


「十分です。」


「教導通りに再現できています。」


その瞬間だった。


マーガレットの身体が再び淡い光に包まれる。


「また……。」


身体の奥から新しい感覚が湧き上がる。


アークは鑑定を発動した。


「おめでとうございます。」


「調理スキルが覚醒しました。」


マーガレットは嬉しそうに微笑む。


「解体に続いて、調理まで……。」


アークは穏やかな表情で頷いた。


「教導を受け、正しい手順を繰り返し、自ら再現する。」


「その積み重ねが、新しいスキルを生み出します。」


マーガレットは完成したスープを見つめながら、小さく頷いた。


狩り。


解体。


調理。


すべてが一本の線となってつながった。


教導とは、戦うためだけのものではない。


人が生き、国を豊かにするための技術であることを、王女は改めて実感していた。





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