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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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308 アース・ドラゴン

イートフード大陸では、現在もアース・ドラゴンが大量に狩られていた。


すでに数億体が狩られている。


それでも、海岸から見える光景はほとんど変わっていなかった。


二十メートルを超える巨体が次々と姿を現し、海岸近くまで押し寄せてくる。スタンピードと呼ぶほかない数だった。


そして、不思議なほど他の魔物の姿がない。


ウルフもいない。

ベアもいない。

オークもいない。


現れるのはアース・ドラゴンばかりだった。


その事実だけでも、この大陸におけるアース・ドラゴンの立場が分かる。


陸の覇者。


おそらく他の魔物は、アース・ドラゴンに捕食されてしまうのだろう。


もっとも、人々はその理由を確かめるために内陸へ向かおうとはしなかった。


今のところ、その必要がないからだ。


狩りは海岸付近だけで続けられている。


戦い方も変わっていない。


素材を傷つけない。


それが基本だった。


巨大なアース・ドラゴンが接近すると、何人もの人間が一斉に動く。


土魔法で脚を拘束する者。


水魔法や風魔法を利用して呼吸を奪う者。


念動力で巨体そのものを押さえ込む者。


重力を使って動きを封じる者もいる。


使われる魔法や超能力は様々だった。


しかし、やっていることは同じだ。


捕縛し、拘束し、窒息させる。


肉を傷つけず、皮を傷つけず、鱗も骨も可能な限りそのまま残す。


かつてなら一体を討伐するだけでも大騒ぎになったであろうドラゴンが、今では次々と処理されていく。


狩られたアース・ドラゴンは解体され、その肉や素材が各地へ送られていた。


すでにアース・ドラゴンの肉は、百三十二カ国すべてに流通している。


皮も、鱗も、骨も同様だった。


そして、かつては極めて貴重だったエリクサーも、事情が変わっていた。


アース・ドラゴンが数億体という単位で狩られている。


当然、得られる素材の量も以前とは比較にならない。


その結果、エリクサーの価格も少しずつ下がっていた。


それでも、最も身近になったのはやはり肉だった。


ドラゴンの肉は人気がある。


イートフード大陸に暮らしている者だけが食べているわけではない。


百三十二カ国から、人々が食べ転移でやってくる。


世界には百億人が暮らしている。


その人々が、国境も距離も気にせず、ドラゴン料理を食べに来るのだ。


何しろ、一体から取れる肉の量が桁違いだった。


二十メートルを超える巨体である。


一体を解体すれば、千食分を超える食材が取れる。


肉だけではない。


内臓も料理に使われる。


骨も利用される。


皮も鱗も素材になる。


捨てられる部分は、ほとんどなかった。


数億体のアース・ドラゴンが狩られているにもかかわらず、それが無駄になることもない。


食べる者がいる。


料理する者がいる。


素材を使う者がいる。


必要とする場所へ運ぶ者もいる。


大量のアース・ドラゴンが、そのまま大量の食料と素材になっていた。


そして、イートフード大陸ではもう一つ、以前とは違う光景が当たり前になっていた。


怪我人や病人を、ほとんど見かけない。


ドラゴンの肉を日常的に食べるようになってから、その傾向はますます顕著になっていた。


大きな怪我を負っても、治りが異常なほど早い。


重傷であっても、ドラゴンの肉を食べている者は、ほとんど自己治癒してしまう。


病に苦しむ者もいなかった。


それが本当にドラゴン食だけによるものなのか、誰も断定はしていない。


ただ、アース・ドラゴンを日常的に食べるようになったイートフード大陸で、怪我人も病人もいなくなっている。


その事実だけは確かだった。


海岸では、今日も巨大な影が動いていた。


一体。


また一体。


その向こうにも、まだいる。


数億体を狩ってなお、スタンピードは終わっていない。


人々は内陸へ踏み込むこともなく、海岸へ現れるアース・ドラゴンを淡々と狩り続けていた。


イートフード大陸のアース・ドラゴンが枯渇する気配は、まだどこにもなかった。




アース・ドラゴンが大量に狩られるようになってから、百三十二カ国の食卓も大きく変わっていた。


以前ならドラゴンの肉など、一生に一度食べられるかどうかという食材だった。


そもそもドラゴンを狩れる者が少ない。


一体を討伐するだけでも大勢の冒険者や騎士が必要となり、命を落とす者が出ても不思議ではなかった。


当然、手に入った肉は貴重品になる。


それが今では違う。


イートフード大陸では、今日も何百、何千というアース・ドラゴンが狩られている。


しかも素材を傷つけない方法で狩られているため、二十メートルを超える巨体のほとんどが利用できた。


一体から千食分以上。


百体なら十万食分を超える。


千体なら百万食分を超える。


それでも狩りは終わらない。


すでに数億体が狩られていることを考えれば、食料としての量がどれほど膨大なのか、正確に把握することさえ難しかった。


そして、その肉を食べるために百三十二カ国から人々がやってくる。


距離は問題にならない。


食べ転移がある。


昼になればイートフード大陸へ来て、ドラゴン料理を食べる。


食べ終われば戻る。


夕食を食べに来る者もいる。


わざわざ旅程を組む必要もなければ、宿を取る必要もない。


食べたいと思えば来ればいい。


その気軽さもあって、ドラゴン料理を食べることは特別な行為ではなくなりつつあった。


食べられているのは肉だけではない。


内臓も大量に消費されていた。


以前からドラゴンのホルモン料理は人気がある。


焼く。


煮る。


スープにする。


同じアース・ドラゴンでも、部位によって味も食感も違う。


料理人たちは、それぞれの部位に合った料理を作っていた。


一頭の巨大なドラゴンを解体しても、食べられる部分を捨てる理由がない。


肉も食べる。


内臓も食べる。


骨も使う。


それ以外の素材も利用される。


食料として見ても、素材として見ても、アース・ドラゴンは巨大な資源だった。


狩る側も、それを理解している。


だから戦術を変えない。


倒せればいいわけではない。


強力な魔法を叩き込み、身体を吹き飛ばしてしまえば討伐そのものは早い。


だが、それでは肉が傷む。


皮も鱗も損なわれる。


骨まで砕けるかもしれない。


それでは意味がなかった。


捕縛する。


拘束する。


動きを止める。


そして窒息させる。


アース・ドラゴンがどれほど巨大でも、やることは変わらない。


狩る者たちにとっては、すでに確立された方法だった。


その結果として、大量の肉と大量の素材が毎日のように残る。


それらが百三十二カ国へ流れていく。


かつて貴重だったものが、少しずつ身近なものへ変わっていった。


エリクサーも同じだった。


価値がなくなったわけではない。


必要とする者もいる。


ただ、原料となるアース・ドラゴンが数億体も狩られている。


手に入る量が増えれば、以前と同じ価格である理由もなかった。


高価であることそのものに意味があるわけではない。


必要な者が使える。


それでよかった。


そしてイートフード大陸では、エリクサーを使うまでもなく回復してしまう者まで増えていた。


ドラゴンの肉を食べている者たちだった。


狩りの最中に怪我をしても、いつの間にか治っている。


大きな傷でさえ回復していく。


病人も見かけない。


それでも人々は、ドラゴンの肉を薬として食べているわけではなかった。


旨いから食べる。


腹が減ったから食べる。


肉が好きだから食べる。


ホルモンが好きだから食べる。


結果として身体まで丈夫になっているだけだった。


今日も百三十二カ国から人々が食べ転移でやってくる。


料理人たちはアース・ドラゴンを料理する。


人々はそれを食べる。


狩る者たちは海岸で次のアース・ドラゴンを捕縛する。


その向こうから、また巨大な影が現れる。


数億体を狩っても変わらない。


内陸には、まだ入ってすらいない。


イートフード大陸に、どれほどのアース・ドラゴンが生息しているのか。


それを知る者はいなかった。


ただ一つ分かっているのは、明日もまた大量のアース・ドラゴンが狩られ、その肉が誰かの食卓に並ぶということだった。




アース・ドラゴンを食べる人々が増えても、イートフード大陸で狩られる数は減らなかった。


海岸では今日も狩りが続いている。


巨大なアース・ドラゴンが姿を現す。


それを見つけた者たちが動く。


拘束する。


捕縛する。


呼吸を奪う。


倒れた巨体はすぐに回収される。


その繰り返しだった。


すでに数億体。


それほどの数を狩っているにもかかわらず、アース・ドラゴンの群れが途切れる様子はない。


むしろ狩る側が休まなければ、いつまでも続けられるのではないかと思えるほどだった。


それでも内陸へ進もうとする者はいなかった。


海岸にいるだけで十分だからだ。


食料は手に入る。


素材も手に入る。


アース・ドラゴンの数も減らない。


わざわざ内陸へ入り、新しい狩場を探す理由がなかった。


かつて魔物のスタンピードといえば、人々が逃げるものだった。


町を守る。


村を守る。


騎士や冒険者が命を懸けて食い止める。


それでも止められなければ、多くの人間が住む場所を失った。


イートフード大陸で起きているものも、規模だけを見れば間違いなくスタンピードだった。


だが、人々は逃げていない。


海岸で待っている。


現れたアース・ドラゴンを狩り、食料と素材に変えている。


危険な魔物であることに変わりはない。


二十メートルを超える巨体を持ち、他の魔物を捕食してしまうほど強い。


だからこそ、戦い方を変えなかった。


慣れたからといって雑には扱わない。


素材を傷つけないための捕縛と拘束は、そのまま安全に狩る方法でもあった。


動きを封じる。


反撃させない。


その状態で仕留める。


誰かが無理に接近して剣を振る必要もない。


巨大な身体と力をまともに受け止める必要もない。


使える魔法と超能力を使えばいい。


それぞれが、自分のできる方法で狩りに加わっていた。


狩りが終われば、残るのは巨大な食材だった。


肉が取れる。


内臓が取れる。


骨が残る。


皮と鱗も残る。


一体から得られる量は多い。


それが一体ではない。


毎日、大量に狩られている。


百三十二カ国へ流通しても、イートフード大陸へ百億人が食べ転移で訪れても、アース・ドラゴンが食べ尽くされる気配はなかった。


食べる側も、すっかり慣れていた。


ドラゴンだから食べるのではない。


旨いから食べる。


肉を食べたい者がいる。


内臓を食べたい者がいる。


料理人が作った料理を目当てに来る者もいる。


食事を終えれば、それぞれの暮らす場所へ戻っていく。


国が違っていても関係ない。


今日の昼食をイートフード大陸で食べる。


それだけのことだった。


そして食べ続けている者たちの身体には、相変わらず異変と呼んでもいい変化が起きていた。


怪我が治る。


病にかからない。


重傷を負っても、自分の身体が傷を塞いでいく。


だからといって、誰も怪我をしていいとは考えなかった。


アース・ドラゴンの肉を食べていれば大丈夫だからと、危険な狩り方へ変える者もいない。


狩りでは捕縛と拘束を続ける。


食事では旨いドラゴン料理を食べる。


その結果として健康な身体が維持されていた。


海岸の向こうでは、またアース・ドラゴンが現れた。


一体ではない。


その後ろにもいる。


さらにその後ろにも巨大な影が見える。


数億体を狩った。


それでも終わらない。


他の魔物が一切姿を見せない大陸で、アース・ドラゴンだけが次々と現れ続けている。


人々はその光景を見ても驚かなくなっていた。


次の獲物が来た。


それだけだった。


捕縛のための魔法が放たれる。


巨大なアース・ドラゴンの動きが止まる。


今日もまた、陸の覇者が食料へと変わっていった。




アース・ドラゴンの狩りが続く一方で、百三十二カ国へ運ばれる素材の量も増え続けていた。


肉だけでも膨大だった。


一体から千食分以上。


それが数億体である。


しかも、アイテムボックスに入れておけば傷むことはない。


今日食べ切る必要もなければ、明日までに使い切る必要もない。


必要なだけ取り出して料理すればいい。


残ったものは、そのまま保管しておける。


だから大量に狩ることにも問題はなかった。


肉が余れば保存する。


内臓も保存する。


骨も皮も鱗も、それぞれ必要になるまで保管しておけばいい。


世界中の人々がアイテムボックスを持っている今では、数億体という数さえ保存の妨げにはならなかった。


アース・ドラゴンを狩る。


解体する。


必要なものをアイテムボックスへ収納する。


それだけで鮮度を保ったまま百三十二カ国へ持っていける。


遠く離れた国へ運ぶために、何日もかけて馬車を走らせる必要もない。


食べる側も同じだった。


食べ転移でイートフード大陸へ来る者もいれば、自分たちの暮らす場所でドラゴン料理を食べる者もいる。


百億人が同じ食材を利用できる。


それでも、アース・ドラゴンはまだいる。


海岸には今日も巨大な姿が現れていた。


内陸へ入っていない以上、この大陸に何体生息しているのかは分からない。


数億体を狩ってなおスタンピードが続いているということだけが分かっていた。


アース・ドラゴンが他の魔物を食べ尽くしたのか。


それとも、最初からこの大陸にはアース・ドラゴンが圧倒的に多かったのか。


確かめた者はいない。


人々にとって重要なのは、そこではなかった。


海岸へ来る。


狩れる。


食べられる。


素材も取れる。


それで十分だった。


エリクサーも同じように世界へ流れていた。


以前なら手に入れること自体が難しかった。


必要になってから探しても、簡単に見つかるものではない。


手に入ったとしても高価だった。


だが、原料となる素材が大量に得られるようになれば状況は変わる。


アース・ドラゴンが狩られるたびに素材が増える。


数が増えれば、価格も下がる。


貴重な薬であることに変わりはない。


ただ、以前よりも手に入りやすくなった。


そして、そのアース・ドラゴンの肉そのものを人々は日常的に食べていた。


イートフード大陸では、怪我人も病人もほとんどいない。


重傷を負った者ですら、驚くほどの速さで自己治癒してしまう。


毎日のようにドラゴンを食べていることが影響しているのではないか。


そう考える者は多かった。


だが、だからといって食事の様子が変わるわけではない。


料理を前にして、これは身体にいいから食べようと考える者ばかりではなかった。


焼いた肉の匂いがする。


腹が減る。


旨そうだから食べる。


煮込まれた内臓を食べる。


スープを飲む。


気に入った料理があれば、また食べに来る。


それだけだった。


健康になるために我慢して食べるようなものではない。


旨いものを食べていたら、結果として身体まで丈夫になっていた。


百三十二カ国から訪れる者たちにとっても、それは同じだった。


アース・ドラゴンは、すでに伝説の魔物ではなくなっていた。


もちろん強さが失われたわけではない。


陸の覇者であることも変わらない。


他の魔物が姿を見せないほどの存在である。


ただ、人々との関係が変わった。


襲われれば恐ろしい魔物だったものが、今では狩られ、食べられ、使われている。


肉になる。


内臓も料理になる。


骨も皮も鱗も素材になる。


エリクサーにもなる。


そして食べた者の身体まで癒していく。


海岸では、また一体のアース・ドラゴンが倒れた。


その向こうから、次の巨体が現れる。


さらに後ろにもいる。


狩る者たちは、いつも通り捕縛の準備を始めた。


数億体を狩っても終わらない。


内陸には、まだ一歩も踏み込んでいない。


イートフード大陸のアース・ドラゴンが枯渇する日は、まだずっと先のことになりそうだった。





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