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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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303 住民基礎台帳管理システム

百三十二カ国でおから料理が流行している。


その話を聞いて、見過ごすバイオレット王妃ではなかった。


「行きましょう。」


いつものように声をかけられたのはマーガレット、サーシャ、ミーナ。そして今回はリヴィア殿下も加わっている。


五人が最初に転移したのは、プロキシーの店だった。


店内ではすでに多くの客がおから料理を楽しんでいる。


豆腐を作る過程で大量に出るおから。それまで使い道が定まっていなかったものが、おから団子として料理に使われるようになり、今では新しい食材として広まり始めていた。


「まずは揚げおから団子と、おから団子の甘酢。それからウィスキーのハイボールをお願い。」


バイオレットが注文する。


ただし量は少なめだった。


「今日はここだけではありませんからね。」


マーガレットの言葉に、バイオレットが頷く。


「そうよ。まだマルセルとジョザイアの店もあるもの。最初から満腹になったら困るわ。」


一皿を五人でつまめる程度にしてもらった。


最初に運ばれてきたのは揚げおから団子だった。


表面を香ばしく揚げた団子を、バイオレットが口に運ぶ。


噛むと外側の香ばしさのあとに、おからの柔らかな味が広がった。


「これ、いいわね。」


すぐにもう一つ取る。


「王妃様、今日は少しずつでは?」


ミーナが笑う。


「一個くらいなら誤差よ。」


「先ほども一個召し上がっています。」


「じゃあ二個ね。」


バイオレットは気にせずハイボールを一口飲んだ。


「やっぱり合うわ。」


その隣では、マーガレットとリヴィアがおから団子の甘酢を味わっていた。


揚げた団子に甘酸っぱい味が絡んでいる。


リヴィアがハイボールを飲み、もう一度甘酢のおから団子を食べる。


「私はこっちが好きです。」


「私もよ。」


マーガレットも頷いた。


「甘酢のあとにハイボールを飲むといいわね。」


サーシャとミーナもそれぞれ食べ比べる。


同じおから団子でも、塩で食べる揚げ団子と甘酢では印象がまるで違った。


バイオレットは二種類を交互に味わってから、満足そうに頷いた。


「おからって面白いわね。豆腐を作った残りなのに、料理にするとちゃんと別の食べ物になるのね。」


そこで終わるつもりはない。


プロキシーが考えた料理は、まだ三種類ある。


「次もお願い。」


運ばれてきたのは、おから団子入りの肉と野菜の煮込みだった。


五人で少しずつ取り分ける。


肉と野菜の味を含んだ煮汁がおから団子に染み込んでいる。


バイオレットが食べ、すぐにハイボールへ手を伸ばした。


「これも合うわ。」


続いて豆のスープ。


こちらは煮込みより穏やかな味だったが、おから団子がスープを吸うことで食べ応えが増している。


「豆から作ったおからを、豆のスープに入れるのも面白いですね。」


サーシャが団子を見ながら言った。


最後は魚と根菜を煮たものだった。


魚の旨味と根菜の味を吸ったおから団子は、肉の煮込みとも豆のスープとも違う。


リヴィアがハイボールを口にして、小さく頷いた。


「これも合いますね。」


「でしょう?」


なぜかバイオレットが得意そうに答える。


マーガレットが笑った。


「王妃様が作った料理ではありませんよ。」


「美味しいものを見つけるのも大事な仕事よ。」


五種類を一通り食べ終えたところで、バイオレットは名残惜しそうに皿を見た。


だが今日は、ここで満腹になるわけにはいかない。


「プロキシー、美味しかったわ。また来るわね。」


五人は礼を言って店を出る。


最初の一軒だけでも十分に満足できた。


しかし、おから料理の食べ歩きはまだ始まったばかりだった。




プロキシーの店を出た五人は、そのままマルセルの店へ転移した。


こちらの店にも、おから料理を楽しむ客の姿があった。


バイオレットは店内を見回すと、空いている席へ向かう。


「まだ二軒目よ。ここでも少しずつにしましょう。」


「王妃様がそれを覚えていてくださって安心しました。」


マーガレットが笑う。


「忘れてないわよ。ジョザイアの店にも行くんだから。」


五人が席につくと、バイオレットはさっそく注文した。


「おから団子の柑橘醤油かけと、ウィスキーのハイボールをお願い。五人でつまめるくらいでいいわ。」


ほどなく料理とハイボールが運ばれてきた。


おから団子に柑橘醤油がかけられている。


五人がそれぞれ一つ取り、味わった。


「美味しいわ。」


最初に声を上げたのはバイオレットだった。


醤油の味に柑橘の香りが加わり、おから団子の穏やかな味によく合っている。


続けてハイボールを飲む。


マーガレットも同じように料理と酒を交互に味わった。


「これもハイボールに合いますね。」


「ええ。柑橘醤油だけでも随分印象が変わります。」


リヴィアも納得したように頷く。


サーシャとミーナも気に入ったらしく、皿はすぐに空になった。


全員の反応を確認したバイオレットは、次の料理を注文する。


「ドラゴンスープのおから団子入りと、おから団子と果物を合わせたものを五種類お願い。」


先に運ばれてきたのはドラゴンスープだった。


ドラゴンの骨から取ったスープの中に、おから団子が入っている。


五人は小さな器に取り分けて味わった。


「これもいいわね。」


バイオレットが頷く。


おから団子がスープを吸い、ドラゴンスープの味をしっかり含んでいる。


「揚げても煮ても、スープに入れても使えるんですね。」


ミーナが言った。


プロキシーの店で食べたものとも、最初の柑橘醤油かけとも違う。


一つの食材から、いくつもの料理が生まれていた。


続いて五種類の果物を使ったおから団子が並べられた。


リンゴ系、梨系、葡萄系、柿系、柑橘系。


それぞれの果物がおから団子の中に入っている。


「おから団子の中に果物が入っているのね。」


バイオレットはまずリンゴ系を手に取った。


果物の甘味がおからの穏やかな味と合わさっている。


次に梨系。


その次は葡萄系。


五人は一種類ずつ順番に食べていった。


「果物でも合うのね。」


マーガレットが感心したように言う。


「さっきまで肉や魚と一緒に食べていたのに、不思議ですね。」


リヴィアも次の団子へ手を伸ばした。


そしてバイオレットが柿系を食べる。


しばらく味わってから、ハイボールを一口。


もう一つ柿系を取った。


サーシャがすぐに気づいた。


「王妃様、それが一番好きなんですか?」


「そうみたいね。」


バイオレットはもう一口ハイボールを飲んだ。


「全部美味しいけど、柿系が美味しいわね。ハイボールにもよく合うわ。」


その言葉を聞いて、残る四人も柿系をもう一度味わう。


マーガレットがハイボールを飲み、納得したように頷いた。


「確かに合いますね。」


「私は柑橘系も好きです。」


ミーナが言う。


「私は葡萄系ですね。」


リヴィアも自分の好みを見つけたようだった。


五種類あるだけに、それぞれ気に入るものも違う。


サーシャは並んだ料理を見ながら笑った。


「同じおから団子なのに、ずいぶん種類が増えたわね。」


「百三十二カ国で流行っているんだもの。もっと増えるわよ。」


バイオレットは当然のように答えた。


一通り味わい終えると、五人は残ったハイボールを飲み干した。


まだジョザイアの店が残っている。


ここで追加注文するわけにはいかない。


バイオレットは席を立った。


「マルセル、また来るわ。」


五人はマルセルに礼を言い、店を出る。


二軒を回って腹もかなり満たされてきた。


それでもバイオレットの足は止まらない。


「次はジョザイアね。」


五人は最後の一軒へ転移した。




五人が次に転移したのは、ジョザイアの店だった。


プロキシー、マルセルと二軒を回り、すでにかなりの種類のおから料理を食べている。


それでもバイオレットの足取りは軽い。


「ここが最後ね。」


店に入った五人は空いている席についた。


マーガレットがバイオレットを見る。


「お母様、本当にまだ食べられるのですか?」


「大丈夫よ。最初から少しずつにしていたでしょう?」


「種類はかなり食べていますけどね。」


サーシャが笑う。


「だから最後は締めも兼ねて食べるのよ。」


何を言っても食べるつもりなのは変わらないらしい。


バイオレットはジョザイアに注文した。


「おからと肉の卵の包み焼きとミルクスープ、それからハイボールをお願い。卵の包み焼きは五人でつまめるくらいでいいわ。」


ほどなくして料理が運ばれてきた。


おからと肉を合わせたものを卵で包んでいる。


五人はそれぞれ少しずつ取り分けた。


バイオレットが最初に口に運ぶ。


卵の柔らかな味に肉の旨味が加わり、おからが二つをうまくまとめている。


「美味しいわ。」


続けてハイボールを一口飲む。


すぐにもう一口、卵の包み焼きを食べた。


マーガレットも味わう。


「これ、いいですね。」


リヴィアも頷いた。


「おからが入っているのに、肉の味もしっかりしますね。」


「私はこれが好きです。」


ミーナも気に入ったらしく、もう一つ取った。


サーシャも一口食べてからハイボールを飲む。


「確かに合うわね。」


五人の意見は珍しく完全に一致した。


プロキシーの揚げおから団子や甘酢とも違う。


マルセルの果物を入れたおから団子とも違う。


おからを肉と合わせ、それを卵で包む。


同じ材料から始まっているのに、料理人が変わればまったく違う料理になる。


バイオレットは残っている一切れを見る。


手を伸ばそうとしたところで、マーガレットも同時に手を伸ばした。


二人の手が止まる。


「お母様。」


「何?」


「私も気に入ったんです。」


「仕方ないわね。」


バイオレットが譲った。


「ありがとうございます。」


マーガレットは最後の一切れを食べ、満足そうにハイボールを飲んだ。


バイオレットは空になった皿を見つめる。


「もう一皿くらいなら……」


「お母様。」


今度はマーガレットだけではない。


サーシャとミーナまでバイオレットを見ている。


リヴィアも笑っていた。


「分かったわよ。今日は食べ歩きなんだから、これくらいにしておくわ。」


そう言いながらも、少し残念そうだった。


最後に運ばれてきたのはミルクスープ。


五人はそれぞれ器を手元に置き、温かいスープをゆっくり味わう。


「落ち着くわね。」


バイオレットが言った。


「締めにはちょうどいいですね。」


リヴィアもスープを味わう。


三軒を続けて回っただけに、五人とも食べる速度は自然とゆっくりになっていた。


「それにしても、おからだけで随分いろいろ作れるものね。」


マーガレットが言う。


プロキシーの店では揚げおから団子、おから団子の甘酢、肉と野菜の煮込み、豆のスープ、魚と根菜を煮たもの。


マルセルの店では柑橘醤油かけ、ドラゴンスープ、さらにリンゴ系、梨系、葡萄系、柿系、柑橘系の果物を入れたおから団子。


そしてジョザイアは、おからと肉を卵で包んだ。


「百三十二カ国で流行しているなら、私たちが知らない料理もたくさんあるでしょうね。」


ミーナの言葉に、バイオレットが反応した。


「それはありそうね。」


「お母様。」


マーガレットが先回りする。


「今日はもう食べませんよ。」


「分かってるわよ。」


バイオレットは笑ってミルクスープを飲んだ。


最後の一口まで飲み終える。


「満腹ね。」


今度こそ本当に満足した。


サーシャも腹に手を当てる。


「私ももう無理。」


「私もです。」


ミーナが続き、リヴィアも頷いた。


マーガレットも最後のスープを飲み終えた。


五人はジョザイアに礼を言って席を立つ。


三軒を回ったおから料理の食べ歩きは、これで終了した。


しかしバイオレットは、そのまま王宮へ帰ろうとはしなかった。


食べ転移だけで一日を終えるつもりはなかった。




三軒を回り、すっかり満腹になった五人。


だが、バイオレットは王宮へ戻らなかった。


「それじゃあ、行きましょうか。」


「はい。」


サーシャが答える。


次の瞬間、五人はイートフード大陸の食品ギルドへ転移した。


先ほどまで料理とハイボールを楽しんでいた五人だったが、ここからは別の用事がある。


食品ギルドの職員たちに迎えられ、五人は奥へ進んだ。


今回ここへ来た目的は、サーシャが作った新しいシステムを紹介するためだった。


住民基礎台帳管理システム。


サーシャは用意していた端末を置く。


「これを使ってほしいの。」


食品ギルドの職員たちが端末を見る。


サーシャは操作しながら説明を始めた。


「ここの基礎自治体の首長たちと協力して使ってね。使い方は教導管理システムと同じよ。」


すでに使われているシステムと基本的な操作が同じなら、一から覚え直す必要はない。


サーシャは実際に端末を操作してみせる。


「端末の設計図も渡すわ。必要な端末は魔道具技師たちに作ってもらって。」


設計図まで渡してしまえば、サーシャが一台ずつ用意する必要もない。


必要になった場所で、必要な数だけ作ればいい。


説明を聞いていた職員の一人が尋ねた。


「食品ギルドでは、何を登録すればよろしいのでしょうか?」


「新製品の情報を登録して。それから新しい店の情報もお願い。」


「新製品と店ですか?」


「ええ。」


サーシャが頷く。


「今日、私たちはおから料理を食べてきたの。おから料理が百三十二カ国で流行していることは分かっているけれど、どこにどんな料理があるのかまでは分からないでしょう?」


バイオレットが笑った。


「三軒回っただけでも、ずいぶん違ったわよ。」


プロキシー、マルセル、ジョザイア。


同じおからを使っていても、三人が作る料理はそれぞれ違っていた。


百三十二カ国まで広がれば、知られていない料理や店がどれだけあるのか分からない。


サーシャは端末を示した。


「新しい料理を作った店が登録すれば、それを見る人がいるわ。新しい店ができたときも同じ。何を売っている店なのか分かれば、行ってみようと思う人もいるでしょう?」


職員たちが頷く。


「食品ギルドだけで使うものではないのですね。」


「そうよ。」


サーシャはすぐに答えた。


「このシステムが稼働すると、食品ギルドだけじゃなく、全てのギルドが儲かるわよ。」


「全てのギルドが?」


「だって、百三十二カ国、百億人が見るんだもの。」


職員たちの表情が変わった。


百億人。


その人数が同じ情報を見ることができる。


食品なら料理や店。


別のギルドなら、それぞれが扱う商品や仕事の情報を登録すればいい。


新しいものを作っても、知られなければ広がらない。


新しい店を開いても、存在を知られなければ客は来ない。


だが、登録した情報を百三十二カ国から見ることができるなら話は変わる。


「なるほど……。」


職員の一人が端末を見つめた。


「新製品を登録すれば、他国の人にも知ってもらえるのですね。」


「そういうこと。」


サーシャが笑う。


「だから食品ギルドだけで抱え込まないでね。ここの基礎自治体の首長たちと協力して、他のギルドにも教えてあげて。」


「分かりました。」


返事を聞いたサーシャは、端末の設計図を渡した。


あとは現地で動けばいい。


必要な端末は魔道具技師が作る。


情報は食品ギルドだけではなく、それぞれのギルドが登録していく。


基礎自治体の首長たちも参加する。


サーシャが一つずつ登録する必要はなかった。


バイオレットは、そのやり取りを満足そうに見ていた。


百三十二カ国で流行するおから料理を食べに来た。


三軒を回り、料理を楽しみ、ハイボールも楽しんだ。


だが、それだけで帰るつもりは最初からなかった。


美味しい料理を見つける。


新しい店を見る。


そして、それがもっと広がる仕組みを使えるようにする。


食べ転移を楽しむだけではない。


バイオレット王妃は、統治者としての仕事もきちんとするのだった。





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