302 発展するおから団子
おから団子を使った料理は、それぞれ違う形で人気を集めていた。
プロキシーが作った揚げおから団子。
脂で揚げ、塩を振っただけの簡単な料理だったが、子供から大人までよく食べられていた。
表面の食感。
中に残った柔らかさ。
そして揚げたことで加わった脂の旨味。
塩だけでも十分に美味い。
酒を飲む者にはつまみになる。
酒を飲まない者も普通に食べる。
子供たちにも人気だった。
同じくプロキシーが作った、おから団子の甘酢は少し違った。
脂で揚げたおから団子へ、酢と醤油と砂糖で作ったタレを絡める。
脂の旨味に、酸味と甘み、醤油の味が重なる。
こちらは特に女性たちから人気を集めていた。
一方、マルセルが作ったドラゴンの骨のスープとおから団子は、子供から大人まで幅広く食べられていた。
中でも喜んだのは年寄りたちだった。
温かいスープへ、すでに火の通ったおから団子を入れて温める。
団子はドラゴンの骨から取ったスープを吸う。
食べやすく、腹にもたまる。
マルセルの店でも定番になり始めていた。
だが、マルセルがそれだけで満足するはずもなかった。
次に目をつけたのは、ハンナから仕入れている柑橘醤油だった。
マルセルはおから団子を用意した。
そこへ柑橘醤油を合わせる。
食べてみる。
柑橘の香りと酸味。
醤油の味。
それがおから団子と一緒になる。
「これも旨いな」
おからそのものの味が強くないからこそ、合わせたものの味が素直に出る。
マルセルは次の材料を見た。
果実だった。
柑橘醤油と合うのなら、他の果実はどうだろう。
甘いもの。
酸味の強いもの。
それぞれをおからと合わせれば、また違う料理になるかもしれない。
マルセルは果実とおからの組み合わせを試し始めた。
その頃、プロキシーも別の方向へ進んでいた。
プロキシーが思い出したのは、旧アデレード王国の故郷の料理だった。
肉と野菜の煮込み。
豆のスープ。
魚と根菜を煮たもの。
昔から食べていた料理である。
プロキシーは脂で揚げたおから団子を用意した。
まず肉と野菜の煮込みへ入れる。
少し煮てから食べる。
「合うわね」
次は豆のスープ。
こちらにも揚げたおから団子を入れた。
団子の表面には脂の旨味がある。
そこへ豆のスープが加わった。
これも美味い。
最後は魚と根菜を煮たものだった。
同じように揚げおから団子を加える。
食べてみる。
やはり合う。
三つとも、もともとの料理だけで完成している。
そこへ脂で揚げたおから団子を加えると、食感が増え、脂の旨味も加わった。
プロキシーは三つの料理を食べ比べた。
故郷の料理を、そのまま変えるつもりはなかった。
肉と野菜の煮込みは、肉と野菜の煮込みとして残せばいい。
豆のスープも同じである。
魚と根菜を煮たものも変える必要はない。
だから、おから団子を加えたものは別の料理として店に出すことにした。
これで三品増えた。
すでに店に出すことを決めていた、塩を振った揚げおから団子。
おから団子の甘酢。
そこへ故郷の料理から生まれた三品が加わる。
五品目まで完成した。
豆腐を作ったあとに残った大豆の絞り粕。
最初は捨てるのがもったいないという理由で使い始めただけだった。
それがおからと呼ばれ、団子になった。
煮込まれた。
揚げられた。
甘酢を絡められた。
ドラゴンの骨から作ったスープにも入った。
そして今度は、料理人が持っていた故郷の味とまで結びついた。
おから団子は、また別の料理へ姿を変え始めていた。
おからを試していたのは、マルセルやプロキシーだけではなかった。
第六アルデバラン王国でも、おからは料理人たちの興味を引いていた。
ジョザイアも、おから団子を前に新しい料理を考えていた。
最初に用意したのは牛の乳だった。
牛の乳を使ってミルクスープを作る。
そこへおから団子を入れた。
おから団子にはすでに火が通っている。
スープの中で温めればいい。
ジョザイアは器によそい、まずスープを飲んだ。
続いておから団子を食べる。
乳の味を吸ったおから団子は、これまで食べたものとはまた違った。
「合うな」
もう一つ食べて確かめる。
やはり美味い。
ドラゴンの骨から作ったスープに合うのだから、他のスープにも使えるだろうと考えて試しただけだった。
牛の乳とも問題なく合った。
ジョザイアは次の料理を試した。
用意したのは鶏もどきの玉子だった。
おから団子を玉子で包んで焼いてみる。
味を調整してから食べた。
「違うな」
もう一口食べてみたが、考えは変わらなかった。
不味くて食べられないわけではない。
だが、先ほどのミルクスープのように、これなら出せると思えるものでもなかった。
ジョザイアは残った料理を見ながら考えた。
おから団子だから駄目なのか。
それとも玉子と合わないのか。
しばらく考えてから、おから団子そのものを使うことをやめた。
団子にする前のおからを使えばいい。
ジョザイアは肉と玉ねぎのみじん切りを用意した。
肉と玉ねぎのみじん切りを炒める。
そこへ団子にしていないおからを加えた。
よく混ぜ合わせて塩で味付けし、冷ました。
それを鶏もどきの玉子で包んで焼いた。
先ほどとは違う。
今度は玉子の中に大きなおから団子が入っているわけではない。
おからは肉と玉ねぎのみじん切りに混ざっている。
ジョザイアは出来上がったものを食べた。
肉の旨味。
玉ねぎの味。
そこへおからが混ざっている。
玉子と一緒に食べても悪くない。
「これも旨いな」
今度は納得できた。
同じおからを使っている。
同じ鶏もどきの玉子を使っている。
だが、おから団子をそのまま包んだものとは違う。
ジョザイアは残っているおからを見た。
おからそのものには、それほど強い旨味があるわけではない。
味も強くない。
それなのに、ホルモン煮込みへ入れれば美味い。
ドラゴンの骨から作ったスープにも合う。
牛の乳を使ったミルクスープにも合った。
肉と玉ねぎのみじん切りへ混ぜても美味かった。
プロキシーは脂で揚げた。
脂の旨味が加わったおから団子へ塩を振れば、それだけで一品になった。
さらに酢と醤油と砂糖で作った甘酢を絡めれば、別の料理になった。
おから自体の味が強くない。
だからこそ、合わせるものの邪魔をしない。
旨味の強い食材と合わせる。
旨味の強い調味料と合わせる。
すると、その味を受け止めて別の料理になる。
「そういうことか」
ジョザイアはようやく分かった。
おから団子という形だけを考える必要はなかった。
食品ギルドの職員が最初に団子へ丸めたから、おから団子という使い方が先に広まった。
だが、元は豆腐を作るときに出る大豆の絞り粕である。
団子にする前なら、他の食材へ混ぜることもできる。
団子にして煮てもいい。
スープへ入れてもいい。
脂で揚げてもいい。
そのまま他の食材へ混ぜてもいい。
一度失敗したことで、それが分かった。
鶏もどきの玉子でおから団子を包んだ料理は違った。
ならば別の使い方を試す。
肉と玉ねぎのみじん切りへおからを混ぜてみる。
今度は美味かった。
一つの使い方にこだわる理由はなかった。
ジョザイアの目の前には、まだおからが残っている。
使える食材も調味料も数多くある。
組み合わせを変えれば、出来上がる料理も変わる。
おからそのものに旨味も味も少ない。
だが、旨味の強い調味料や食材と合わせると化ける。
それが分かれば、試せることはいくらでもあった。
ジョザイアは確信していた。
「いくらでもおから料理を増やせるぞ」
ジョザイアが気づいたことは、料理人にとって大きかった。
おから団子は便利な食材である。
すでに火が通っている。
煮込みやスープへ入れるなら、温めるだけでも使える。
脂で揚げれば食感が変わり、脂の旨味も加わる。
だが、おからの使い道は団子だけではなかった。
団子にする前のおからそのものも料理に使える。
ジョザイアが肉と玉ねぎのみじん切りへおからを混ぜ、鶏もどきの玉子で包んだ料理を作ったことで、その使い方が一つ増えた。
しかも、おからそのものには強い味がない。
だからこそ、合わせる食材によって変わる。
ジョザイアは、それを面白いと思った。
最初に作ったミルクスープへ、もう一度おから団子を入れる。
やはり合う。
牛の乳の味を邪魔しない。
次に肉と玉ねぎのみじん切りへ混ぜたおからを食べる。
こちらも肉の旨味を邪魔していなかった。
「やっぱりそうだな」
おからが料理の中心になる必要はない。
他の食材と一緒になって美味ければ、それでいい。
一方、マルセルも試行を続けていた。
ハンナから仕入れた柑橘醤油とおから団子を合わせる。
柑橘の香りと酸味、醤油の味がおから団子に加わる。
これも美味かった。
そこでマルセルは果実へ目を向けた。
果実とおから。
組み合わせによっては合うものもあれば、合わないものもある。
料理人なのだから、食べて確かめればいい。
マルセルは一つずつ試していった。
プロキシーは別の方向からおから団子を使っていた。
脂で揚げたおから団子。
それを旧アデレード王国の故郷の料理へ加える。
肉と野菜の煮込み。
豆のスープ。
魚と根菜を煮たもの。
どれも元から存在していた料理だった。
そこへ脂で揚げたおから団子を加えると、脂の旨味と食感が加わる。
プロキシーは故郷の料理そのものを変えるのではなく、別の料理として店へ出すことにした。
塩を振った揚げおから団子。
おから団子の甘酢。
さらに故郷の料理から作った三品。
五品まで増えていた。
三人がやっていることは違った。
マルセルは、おからと別の味を合わせようとしている。
プロキシーは、すでにある料理へ揚げおから団子を加えている。
ジョザイアは、団子という形そのものから離れ、おからを別の食材へ混ぜ始めた。
誰かが使い方を決めているわけではない。
食品ギルドが、おからはこの料理に使うものだと決めたわけでもない。
最初にしたことは、おからを団子へ丸めてホルモン煮込みへ入れただけだった。
捨てるのがもったいなかった。
だから食べてみた。
旨かった。
それを安価で卸した。
料理人たちは、その先を自分たちで考えた。
煮る。
焼く。
蒸す。
揚げる。
他の食材と合わせる。
団子にする。
団子にしない。
料理人が違えば、試すことも違った。
おからを仕入れた料理人の中には、まず既存のおから団子をそのまま使う者もいた。
他の料理人が作った料理を食べ、自分の店でも使えないかと考える者もいた。
そしてジョザイアのように、おからそのものへ目を向ける者も出てきた。
豆腐を作れば、おからが出る。
豆腐の生産量が増えれば、おからの量も増える。
以前なら、食品ギルドの職員たちが使い道を考えなければならなかった。
今は違う。
料理人たちが使いたがっている。
安価で仕入れることができる。
料理へ加えられる。
そして工夫次第で美味くなる。
それが知られ始めていた。
おから団子から始まった料理は、もう団子だけではなくなっていた。
マルセルは果実との組み合わせを試す。
プロキシーは故郷の料理へ合わせる。
ジョザイアはおからそのものを別の食材へ混ぜる。
三人だけでも使い方が違う。
ならば、他の料理人が手にすれば、また違う使い方を考える。
捨てるのがもったいない。
その程度の理由で使い始めた大豆の絞り粕は、料理人たちにとって、工夫する価値のある食材へ変わっていた。
マルセルは、おからと果物を合わせてみることにした。
柑橘と醤油を合わせた柑橘醤油がおから団子によく合った。
おからそのものには強い味がない。
それなら、果物そのものを合わせても美味いのではないか。
マルセルは果物を用意した。
林檎系。
梨系。
葡萄系。
柿。
柑橘系。
五種類だった。
それぞれを細かく切り、おからへ混ぜて団子にしていく。
林檎系を混ぜたもの。
梨系を混ぜたもの。
葡萄系を混ぜたもの。
柿を混ぜたもの。
柑橘系を混ぜたもの。
五種類のおから団子ができた。
マルセルは並べた団子を魔力で軽く蒸した。
おからにはすでに火が通っている。
果物もそのまま食べられる。
火を通すために長く蒸す必要はない。
全体を温める程度で十分だった。
マルセルは林檎系の果物を混ぜた団子から食べてみた。
「旨いな」
細かく切った果物の味がおからと一緒になっている。
次は梨系。
これも旨い。
葡萄系も食べる。
柿も食べる。
最後に柑橘系を混ぜたものを食べた。
「全部旨いな」
五種類とも違う味だった。
作り方はほとんど同じである。
違うのは混ぜた果物だけだった。
おからそのものの味が強くないため、果物の味を邪魔しない。
林檎系なら林檎系。
梨系なら梨系。
葡萄系なら葡萄系。
柿なら柿。
柑橘系なら柑橘系。
それぞれの果物の味がおからと合っていた。
マルセルは五品とも店に出すことにした。
これで、おからを使った料理は七品になった。
一品目は、ドラゴンの骨から作ったスープへおから団子を入れたもの。
二品目は、ハンナから仕入れた柑橘と醤油を合わせて作った柑橘醤油で食べるおから団子。
そこへ今回作った果物入りのおから団子五品が加わる。
合わせて七品。
マルセルは出来上がった料理を見た。
どれか一つに絞る理由はなかった。
「七品とも出そう」
七品全部を店に出すことにした。
客が選べばいい。
温かいドラゴンの骨のスープと一緒に食べる者もいる。
柑橘醤油で食べる者もいる。
果物を混ぜた五種類から好きなものを選ぶ者もいるだろう。
七品すべてを食べてみる者がいてもいい。
美味い料理が七品できた。
ならば全部出せばよかった。
一方、第六アルデバラン王国では、ジョザイアも二品を店へ出すことに決めていた。
一つは、おから団子を入れたミルクスープ。
牛の乳を使ったミルクスープへ、すでに火の通ったおから団子を入れて温める。
牛の乳とおから団子はよく合った。
もう一つは鶏もどきの玉子を使った包み焼きだった。
最初は、おから団子をそのまま玉子で包んで焼いてみた。
だが、ジョザイアが求めていた味にはならなかった。
そこで団子の形にこだわるのをやめた。
肉と玉ねぎのみじん切りを炒める。
そこへ団子にしていないおからを加える。
よく混ぜ合わせて塩で味付けし、冷ました。
それを鶏もどきの玉子で包んで焼く。
こちらは美味かった。
肉の旨味と玉ねぎの味。
それがおからに馴染み、さらに玉子で包まれている。
「これなら出せるな」
ジョザイアはミルクスープと玉子の包み焼きの二品を店へ出すことにした。
マルセルは七品。
ジョザイアは二品。
プロキシーもすでに五品を完成させている。
同じおからを使っているのに、料理人によって出来上がる料理は違っていた。
果物と合わせる者がいる。
スープへ入れる者がいる。
脂で揚げる者がいる。
昔からある料理へ加える者がいる。
団子にする者もいれば、団子にせず他の食材へ混ぜる者もいる。
おからそのものには強い旨味も味も少ない。
だからこそ、合わせる食材や調味料によって姿を変える。
豆腐を作ったときに大量に出る絞り粕。
捨てるのがもったいない。
始まりは、それだけだった。
だが今では、料理人たちは捨て方ではなく、次に何と合わせるかを考えていた。
おから料理は、料理人の数だけ増えていきそうだった。




