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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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296 アース・ドラゴン

イートフード大陸へ向かう準備が整った。


シュタインフェルト王国、アルデバラン王国、ミストバルカス公国。


三国はそれぞれ、一万人が乗船できる巨大船舶を百隻ずつ建造した。


合計三百隻、乗船する人数は三百万人。


さらに各艦には、小型の上陸用船舶が十隻ずつ搭載されていた。


イートフード大陸には港がない。


そのため巨大船舶は沖合に停泊し、最初の上陸には小型船舶を使用することになっていた。


三百隻の大艦隊が海を渡り、やがて水平線の向こうに巨大な陸地が姿を現した。


イートフード大陸である。


艦隊は海岸から離れた場所で停止した。


各艦から上陸用船舶が降ろされ、騎士たちが次々と海岸へ向かう。


最初の部隊が上陸すると、すぐに広域索敵が行われた。


人の反応はない。


建物も街道もない。


代わりに、周囲の至るところから魔物の反応が返ってくる。


事前に確認していた通り、この大陸には魔物しかいなかった。


アルフレッド侯爵も上陸すると、現在地の座標を登録した。


そのまま自領へ転移する。


戻ってくるまで、ほとんど時間はかからなかった。


アルフレッドの周囲には、五メートル級の破壊不能ゴーレムが三百体並んでいた。


ゴーレムはすぐに上陸地点の周囲へ配備された。


これで港の建設や物資の搬入を行っている間も、護衛を気にする必要はない。


その直後、広域索敵を行っていた騎士たちが大型の反応を捉えた。


アース・ドラゴン。


約千体。


大地を揺らしながら、巨大な群れが上陸地点へ近づいている。


アース・ドラゴンは一体だけでも、一国を滅亡させかねないほどの脅威である。


それが千体もいる。


かつてなら絶望するしかない光景だった。


だが、騎士たちは嬉々として飛び出していった。


この大陸へ来た目的は食料の確保である。


向こうから食料がやって来てくれるなら都合がいい。


飛行した騎士たちが群れを取り囲む。


捕縛魔法が次々と発動した。


巨大なアース・ドラゴンの体が拘束され、動きを封じられていく。


頭部まで拘束し、そのまま呼吸を止める。


肉も皮も鱗も骨も傷つけない。


一体、十体、百体。


一国を滅亡させかねない魔物が、次々と窒息して大地へ倒れていった。


騎士たちにとって、素材を損壊させずに魔物を狩ることは珍しい技術でもなかった。


倒した魔物を食料や素材として利用する以上、最初から価値を落とさない狩り方をする。


千体のアース・ドラゴンを狩り終えるまで、それほど時間はかからなかった。


倒されたアース・ドラゴンは次々と回収されていく。


その間にも、別の者たちは港の建設を進めていた。


必要なのは三百隻の巨大船舶すべてが着艦できる港である。


土魔法で海岸を造成し、海底を整え、巨大船舶が接岸できる岸壁を作っていく。


資材が運ばれ、次々と組み上げられる。


作業に参加している人数も膨大だった。


一つの岸壁が完成するのを待って次へ進む必要などない。


各所で同時に工事が進んでいく。


岸壁が伸びる。


接岸場所が増える。


船舶を受け入れるための施設が次々と形になっていった。


一方、狩りに向かった騎士たちはすでに次の魔物を探していた。


広域索敵には、いくつもの巨大な反応が捉えられている。


イートフード大陸に上陸して間もない。


それでも騎士たちは、この大陸が食料庫としてどれほど巨大な可能性を持っているのかを実感し始めていた。




港の建設は驚くほどの速さで進んだ。


三百隻の巨大船舶を受け入れるための岸壁が次々と完成していく。


土魔法を使える者が地形を整え、必要な場所には巨大な石材を作り出す。


別の者たちは念動力で資材を運び、完成した場所から設備を整えていった。


一カ所に集まって順番に作業する者はいない。


広大な建設予定地に分散し、それぞれが自分の担当する場所を作っている。


上陸から一時間ほどが経った頃には、三百隻すべてが着艦できる巨大な港が完成していた。


沖合で待機していた船舶が動き始める。


一隻、また一隻と巨大船舶が入港してくる。


やがて三百隻すべてが港へ着艦した。


船から大量の人員と物資が降ろされる。


三百万人が活動するためには、港だけでは足りない。


今度は拠点の建設が始まった。


建物が次々と建てられていく。


食料や資材を保管する倉庫も必要になる。


解体を行う場所も、調理を行う場所もいる。


破壊不能ゴーレム三百体は、引き続き港と拠点の周囲に配置されていた。


その間にも騎士たちは周辺の魔物を狩り続けている。


最初に狩った千体のアース・ドラゴンも、すでに拠点へ運び込まれていた。


解体が始まった。


巨大な体から皮を剥ぎ、肉を部位ごとに切り分けていく。


鱗、骨、牙、爪も素材として分けられる。


魔石も取り出された。


狩る段階で傷をつけていないため、どの素材も状態がいい。


解体されたばかりの肉は、そのまま調理場へ運ばれていった。


巨大な肉の塊が切り分けられる。


焼く者。


煮込む者。


魔力調理を使う者。


大人数が同時に作業し、出来上がった料理が次々と運ばれていく。


アース・ドラゴンの肉が焼ける匂いが拠点に広がった。


最初に料理を口へ運んだ騎士が目を見開いた。


「旨い……」


別の騎士も肉を噛み、驚いた顔をする。


「なんだ、この肉は」


シュタインフェルト王国とミストバルカス公国の騎士たちにとって、アース・ドラゴンを食べるのは初めてだった。


一国を滅亡させかねない魔物。


その認識と、目の前にある料理の旨さがどうにも結びつかない。


次々と手が伸びる。


「柔らかいな」


「こっちの部位も旨いぞ」


驚いている彼らとは対照的に、アルデバラン王国の騎士たちは落ち着いて食べていた。


彼らにはアース・ドラゴンを食べた経験がある。


かつて一億体もの魔物によるスタンピードを経験し、その際に大量の魔物を狩った。


アース・ドラゴンもその中にいた。


アイクが懐かしそうに肉を食べる。


「久しぶりだな」


アッシュも頷いた。


「やはり旨い」


ロックウェルは周囲を見た。


初めてアース・ドラゴンを食べた者たちは、次々と料理を取りに行っている。


「これなら食料として文句はないな」


アース・ドラゴンは脅威である。


だが、狩ることさえできれば大量の肉が手に入る。


皮も鱗も骨も利用できる。


さらに魔石まで得られる。


しかも旨い。


食事を終えた騎士たちは、再び広域索敵を始めた。


反応はいくらでもあった。


一つの群れを狩っても、その先に別の群れがいる。


さらにその向こうにも魔物がいる。


常時スタンピード状態という言葉に誇張はなかった。


港は完成した。


拠点も整い始めた。


食べられることも確認できた。


騎士たちは次々と飛び立っていく。


イートフード大陸での本格的な狩りが始まった。




食事を終えた騎士たちは、再びイートフード大陸各地へ散っていった。


広域索敵を使えば、魔物を探して歩き回る必要はない。


少し範囲を広げるだけで、いくつもの巨大な反応が見つかる。


その多くがアース・ドラゴンだった。


数百体の群れもあれば、数千体が集まっている場所もある。


三国の騎士たちは飛行し、それぞれが見つけた群れへ向かった。


一体だけでも一国を滅亡させかねない魔物である。


それが、この大陸では珍しくもない。


大地を埋めるようなアース・ドラゴンの群れを見ても、騎士たちは怯まなかった。


むしろ嬉々として狩りを始める。


群れを取り囲み、捕縛魔法を使う。


巨大な体が次々と拘束された。


動きを封じ、頭部まで拘束して呼吸を止める。


アース・ドラゴンは暴れることもできないまま窒息していった。


肉を傷つけない。


皮も傷つけない。


鱗も骨も牙も爪も、そのまま残る。


騎士たちにとっては、いつもの狩り方だった。


倒れたアース・ドラゴンは、その場でアイテムボックスへ収納する。


巨大な素体を運ぶ必要もない。


収納を終えれば、すぐに次の群れへ向かう。


シュタインフェルト王国の騎士たちも、ミストバルカス公国の騎士たちも勢いがあった。


先ほど初めて食べたアース・ドラゴンの旨さを知ったばかりである。


狩っているものが、そのまま自国の食卓へ並ぶ。


そう思えば、狩りにも力が入った。


アルデバラン王国の騎士たちは少し違う。


彼らは過去に一億体もの魔物によるスタンピードを経験している。


アース・ドラゴンも食べたことがあった。


だが、当時は国と民を守るための戦いだった。


今回は違う。


守るべき町が襲われているわけではない。


魔物しかいない大陸へ、自分たちから食料を確保しに来ている。


アッシュが広域索敵を使った。


「まだまだいるな」


アイクが笑う。


「どこを見ても反応だらけだ」


ロックウェルも周囲を確認した。


「これなら狩り尽くす心配もなさそうだな」


マイケルが頷く。


「常時スタンピード状態というのは本当でしたね」


再び四人が別方向へ飛んでいく。


その先でも同じ光景が繰り返された。


捕縛。


拘束。


窒息。


収納。


一つの群れが消えると、騎士たちは次の群れへ向かう。


千体。


一万体。


十万体。


狩った数は急速に増えていった。


アイテムボックスに大量のアース・ドラゴンを収納した騎士たちは、それぞれ自国へ転移する。


シュタインフェルト王国の騎士はシュタインフェルト王国へ。


アルデバラン王国の騎士はアルデバラン王国へ。


ミストバルカス公国の騎士はミストバルカス公国へ。


自国へ戻ると、アイテムボックスからアース・ドラゴンを素体のまま取り出していく。


現地で解体する必要はない。


各国には解体できる者も、調理できる者も、素材を加工できる者も大勢いる。


騎士たちが担うのは狩猟だった。


素体を降ろし終えれば、再びイートフード大陸へ転移する。


移動時間はない。


つい先ほどまで狩っていた場所へ戻り、そのまま次の群れを探す。


狩る。


収納する。


自国へ転移する。


素体を降ろす。


そして戻る。


三国とイートフード大陸の間で、その循環が始まった。


三百隻の巨大船舶は、この大陸へ最初に到達するために必要だった。


だが、一度座標を登録してしまえば話は別である。


巨大なアース・ドラゴンでさえ、アイテムボックスと転移があれば輸送に時間はかからない。


イートフード大陸に到着したその日のうちに、新たな食料供給の流れが動き始めていた。




狩りはその後も続いた。


広域索敵を使えば、どこに向かっても大量の魔物が見つかる。


捕縛し、拘束し、窒息させる。


素体を傷つけることなくアイテムボックスへ収納し、自国へ転移して降ろす。


そして再びイートフード大陸へ戻る。


その繰り返しだった。


夕方になる頃、三国の狩猟数が集計された。


約百万体。


そのほとんどがアース・ドラゴンだった。


カイゼルが報告を聞いて周囲を見渡した。


「百万体狩って、まだこの状態か」


広域索敵には今も無数の反応がある。


オーキスが頷いた。


「減ったようには見えんな」


「常時スタンピードというのは本当でしたね」


ライラも遠くへ目を向けた。


一体でも一国を滅亡させかねないアース・ドラゴンを、一日で約百万体。


それだけ狩っても、この大陸では一部に過ぎなかった。


食料庫としての可能性は十分に確認できた。


だが、三国が行ったのは魔物を狩ることだけではない。


三百隻が着艦できる巨大港がある。


拠点も作った。


そしてイートフード大陸の座標も登録した。


もう最初の航海と同じことを繰り返す必要はなかった。


カイゼルが言う。


「交代要員を連れてこよう」


オーキスがすぐに頷いた。


「騎士だけで回す必要もないな」


その一言で話が広がった。


三国には教導を受けた冒険者が大勢いる。


魔物を狩ることなら、彼らの本職でもある。


しかも必要なのは狩る者だけではなかった。


料理人。


商業ギルド。


食品ギルド。


イートフード大陸を継続的な食料供給地にするなら、いずれも必要になる。


騎士たちはそれぞれ自国へ転移した。


休息に入る者と入れ替わるように、新しい騎士たちがやって来る。


その中に冒険者たちも加わった。


初めてイートフード大陸へ来た冒険者たちは、広域索敵に映る反応の多さに目を丸くした。


だが、すぐに狩りへ向かっていった。


彼らもすでに教導を受けている。


騎士たちが一から教える必要はなかった。


捕縛し、拘束し、窒息させる。


狩った素体はアイテムボックスへ収納する。


騎士たちと同じように狩猟が始まった。


さらに料理人たちがやって来た。


先ほど解体されたアース・ドラゴンの肉を見ると、すぐに調理場の確認を始める。


商業ギルドと食品ギルドの者たちも続いた。


どれだけ狩れるのか。


どれだけの食料を確保できるのか。


どのように扱えばいいのか。


実際に現地を見ながら、それぞれが動き始めた。


すると、港の周囲で再び建設が始まった。


倉庫が作られる。


調理場が増設される。


食堂が建つ。


冒険者たちが休息できる建物も必要になる。


商業ギルドや食品ギルドが活動する場所も作られていく。


道路も整備された。


建物が増える。


人が増える。


必要な施設も増えていく。


もはや港と簡単な拠点だけでは足りなかった。


「街になりますね」


ライラが建設の様子を眺めながら言った。


カイゼルも頷いた。


「その方がいいでしょう」


オーキスが笑う。


「三百万人も連れてきて、港だけ作って帰る方がおかしいからな」


騎士たちが狩る。


冒険者たちも狩る。


料理人が調理する。


食品ギルドが食料を扱う。


商業ギルドが流通を担う。


疲れた者は自国へ戻り、交代の者が転移してくる。


人の流れが止まることはなかった。


巨大港の周囲では、さらに多くの建物が作られていく。


朝には何もなかった海岸だった。


そこに港ができた。


拠点ができた。


そして今度は街が生まれようとしている。


イートフード大陸は、魔物を狩るだけの場所ではなくなり始めていた。





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