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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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287 料理コンテスト

アレクサンド侯爵は、まず仲間の新興貴族四十七人に声をかけた。


ロルフの店で思いついた料理コンテストについて相談するためだった。


「外国の料理人がロルフさんの店に次々と料理を持ってくるようになったの。それなら場所を用意して、一度に集まってもらった方がいいと思って」


アレクサンドが事情を説明する。


話を聞いた四十七人から反対意見は出なかった。


問題は、どうやって開催するかだった。


「まず会場が必要ね」


参加する料理人が何人になるのか、今の段階では分からない。


シュタインフェルト王国だけで募集するつもりもなかった。


アルデバラン王国本国をはじめ、百三十二カ国にも声をかける。


人数を予想して小さな会場を用意するより、最初から大勢が入れる場所を使った方がいい。


候補として挙がったのが、王宮にある王国騎士団所有の教導講義講堂だった。


普段は大人数を相手に教導を行うための施設である。


広さは十分にある。


「でも、厨房はないわよ」


「必要ないんじゃない?」


その一言で話が進んだ。


料理は会場で作らない。


参加者が自分の店で作り、時間停止機能付きのアイテムボックスに入れて持参すればいい。


それなら出来たての状態で会場まで運べる。


火を使う設備も調理台も必要なかった。


「その方が料理人も普段の厨房を使えるわね」


「自分の店で出している料理を、そのまま持ってくればいいのよ」


今回のきっかけにも合っていた。


プロキシーもジョザイアも、自分の店で作った料理をアイテムボックスに入れて持ってきた。


それと同じことを参加者全員にしてもらえばいい。


次に決めたのは、誰が料理を食べるかだった。


一般客を入れて大規模な試食会にするつもりはない。


あくまで料理人同士の料理コンテストである。


「参加者で少しずつ分けて食べるのがいいんじゃない?」


「それなら自分以外の料理も知ることができるわね」


食べられるのは参加者だけ。


一つの料理について、食べられる人数は十人までとした。


大量に作って持ってくる必要もない。


自分の料理を出し、他の料理人が作ったものを食べる。


それだけでいい。


細かな採点方法や部門分けなどは、まだ決めなかった。


最初から規則で縛る必要もない。


「食品を扱うなら、食品ギルドには声をかけましょう」


「商品ギルドもね」


「冒険者ギルドにも知らせた方がいいわ」


料理に使われる魔物の肉や素材には冒険者も関わっている。


そして、アレクサンドがもう一つ名前を挙げた。


「結婚斡旋ギルドにも声をかけましょう」


各国に巨大な人の繋がりを持つ組織である。


こうして食品ギルド、商品ギルド、冒険者ギルド、結婚斡旋ギルドに開催を知らせることになった。


さらに、コンテストの記録も残す。


その役目には、アルデバラン王国本国の筆頭情報官エミリーと、筆頭情報官補佐のエミリアに声をかけることにした。


生中継は行わない。


だが、コンテストの記録は各国の管理システムに保存する。


各ギルドからも閲覧できるようにする。


どの国の料理人が、どんな料理を持ってきたのか。


それを後から見ることができれば十分だった。


「こんなところかしら?」


アレクサンドが確認する。


会場は王宮の王国騎士団所有の教導講義講堂。


厨房は設けない。


料理は各自の店で作り、アイテムボックスで持参する。


食べられるのは参加者のみ。


一つの料理を食べられるのは十人まで。


百三十二カ国にも参加を呼びかける。


そして記録を残す。


最初の規則は、そんな程度だった。


細かなことは、必要になればそのとき考えればいい。


最後にアレクサンドは、シュタインフェルト王国側にも声をかけた。


カイゼル王。


アイゼル公爵。


王国騎士団長マイケル。


そして宰相。


料理人として参加するわけではない。


見学の誘いだった。


四人とも話を聞き、料理コンテストを見に来ることになった。


こうして、ロルフの店に料理人が押しかけて困るという相談から始まった催しは、百三十二カ国へ参加を呼びかける料理コンテストへと変わっていた。




料理コンテストの話は、すぐに各ギルドへ伝えられた。


食品ギルド。


商品ギルド。


冒険者ギルド。


そして結婚斡旋ギルド。


どの組織も百三十二カ国に広く繋がっている。


開催場所と簡単な規則が伝えられると、それぞれのギルドから各国へ情報が流れていった。


参加資格は料理人であること。


料理は自分の店で作り、時間停止機能付きのアイテムボックスに入れて持参すること。


会場での調理は行わない。


持ち込んだ一つの料理を食べられるのは十人まで。


そして食べられるのは、料理コンテストに参加している料理人だけ。


規則はそれだけだった。


食品ギルドでは、知らせを見た料理人たちがすぐに反応した。


「自分の店の料理を持っていけばいいのか」


「それなら店を何日も休む必要はないな」


「他の国の料理も食べられるんだろう?」


料理人にとって、自分の料理を食べてもらえるだけではない。


百三十二カ国から料理人が集まるなら、自分が知らない料理を食べる機会にもなる。


参加を希望する者が現れ始めた。


商品ギルドでも料理を扱う店へ話が伝わった。


冒険者ギルドでは、魔物料理を出している店を営む料理人たちが興味を示した。


結婚斡旋ギルドからも各国へ知らせが広がっていく。


アレクサンドたちが一軒ずつ料理店を探して回る必要はなかった。


参加するかどうかは料理人が自分で決めればいい。


その頃、アルデバラン王国本国では、筆頭情報官エミリーと筆頭情報官補佐エミリアにも話が届いていた。


二人に求められたのは記録だった。


料理コンテストそのものを生中継する必要はない。


参加した料理人。


所属する国。


店。


持ち込まれた料理。


コンテストで起きたこと。


必要な情報を記録し、各国の管理システムへ保存する。


各ギルドでも後から閲覧できるようにする。


二人はその役目を引き受けた。


開催日が近づくにつれ、参加希望者の名前が集まり始めた。


アルデバラン王国本国。


第6アルデバラン王国。


それ以外の国々からも申し込みが届く。


プロキシーの名前もあった。


ジョザイアの名前もある。


ロルフも参加する。


マルセルも参加を決めた。


アレクサンドは集まってくる名前を確認していた。


「思っていたより来るわね」


四十七人の仲間たちも同じものを見ている。


「百三十二カ国に声をかけたんだから、こうなるでしょう」


「そうなんだけどね」


それでも、まだ深刻に考えるほどではなかった。


会場は王国騎士団が所有する教導講義講堂である。


多数の人間を集めて教導するために使われている場所なのだから、料理人が集まるには十分だった。


厨房も必要ない。


参加者は料理をアイテムボックスに入れて持ってくる。


食器や必要なものも、それぞれ用意できる。


当日。


王宮の王国騎士団所有の教導講義講堂へ、各国から料理人たちがやってきた。


普段は教導を受ける者たちが集まる講堂に、今日は料理人が集まっている。


それぞれが時間停止機能付きのアイテムボックスに、自分の料理を入れて持参していた。


エミリーとエミリアも会場に入っている。


二人は参加者の情報を確認しながら記録を始めた。


アレクサンドと四十七人の新興貴族たちも、会場の様子を見て回っている。


料理を作る設備はない。


その必要もなかった。


料理人たちは自分の店で完成させた料理を持ってきている。


やがて会場の入口が少し騒がしくなった。


カイゼル王がやってきた。


その隣にはアイゼル公爵。


王国騎士団長マイケル。


宰相も一緒だった。


四人とも今日は見学である。


アレクサンドが迎えに出た。


「陛下。お越しいただきありがとうございます」


「面白そうなことを始めたな、アレクサンド侯爵」


カイゼルは講堂の中を見る。


並んでいるのは騎士でも文官でもない。


各国から集まってきた料理人たちだった。


アイゼルも会場を見渡した。


「これが例の料理コンテストか」


「はい。ただ、まだ最初ですから、かなり緩いものです」


アレクサンドが答える。


カイゼルは笑った。


「それでいい。今日は見せてもらおう」


こうして最初の料理コンテストが始まろうとしていた。




料理コンテストが始まった。


最初に料理を出したのは、アルデバラン王国本国から来たプロキシーだった。


アイテムボックスから料理を取り出して並べていく。


肉と野菜の煮込み。


豆のスープ。


魚と根菜を煮たもの。


薄いパンで肉を包んだもの。


どれも普段、自分の店で客に出している料理だった。


「好きなものを食べてみて下さい」


集まってきた料理人たちが少しずつ取り分ける。


一つの料理を食べられるのは十人まで。


全員が同じ料理を食べるわけではない。


それぞれが興味を持った料理を選ぶ。


「この煮込み、旨いな」


「豆のスープもいい」


「このパンは肉と一緒に食べるのか」


プロキシーは質問されるたびに答えていた。


特別な料理ではない。


自分の店で普段から作っているものだった。


それでも国が違えば、使う食材も組み合わせも変わる。


エミリーとエミリアは少し離れたところから、その様子を記録していた。


次に料理を出したのは、第6アルデバラン王国から来たジョザイアだった。


薄く焼いた鶏もどきの卵で、細かく刻んだオーク肉と玉葱を包んだ料理を取り出す。


「そのまま食べられる。好みで調味料を使ってくれ」


興味を持った料理人たちが集まった。


一口食べた者が、中身を見る。


「肉を細かくしてあるのか」


「ああ。オーク肉と玉葱をウィンドカッターでみじん切りにしてる」


「この味は?」


「バターとチーズだ。どちらも俺が作ってる」


今度は料理そのものだけではなく、バターとチーズについて質問が始まった。


ジョザイアは聞かれたことに答えていく。


その横では、別の国から来た料理人が自分の料理を取り出していた。


さらに別の場所でも料理が並び始める。


肉料理の隣に魚料理。


煮込み料理の近くには野菜料理。


パンを使ったものもあれば、魔物肉を使った料理もある。


参加者だけが食べられるため、見学に来たカイゼルたちは料理に手を出さなかった。


「なるほどな」


カイゼルが会場を眺める。


「料理人が料理人の料理を食べるのか」


「はい」


アレクサンドが答えた。


「最初はロルフさんの店に料理を持ってくる人が増えて困っていただけなんです。それなら一度に集まってもらおうと思いまして」


アイゼルが笑った。


「ずいぶん大きくなったものだ」


「百三十二カ国に声をかけましたから」


「それは大きくなるだろう」


宰相は料理よりも、参加者たちの動きを見ていた。


料理を食べた者が作った本人に質問している。


食材を尋ねる。


調理法を聞く。


自分の国では何を使っているのか話す。


誰かが指示しているわけではない。


料理人たちが勝手に話し始めていた。


マイケルもその様子を眺める。


「思っていた料理コンテストとは違いますね」


「私もよ」


アレクサンドが笑った。


「もっと料理を並べて、どれが一番美味しいか決めるものになると思っていたわ」


実際には、順位を気にしている者はほとんどいなかった。


自分が知らない料理を見つければ食べる。


旨ければ作った料理人に聞く。


珍しい食材があれば、それについて尋ねる。


料理を出す側も隠そうとはしなかった。


やがてロルフも料理を出した。


それを見つけたマルセルが真っ先に近づく。


「これが魔力焼きですか」


「ええ」


「では、いただきます」


マルセルは食べると、以前ロルフの店で味わったときと同じように、肉への熱の入り方を確かめた。


その一方で、ロルフは別の料理人が持ってきた料理を食べている。


料理を出したからといって、自分の場所に立ち続ける必要もない。


自分の料理を他の参加者に任せ、別の料理を食べに行く者もいる。


講堂のあちこちで同じことが起きていた。


「アレクサンド侯爵」


カイゼルが呼んだ。


「はい」


「これは面白いな」


カイゼルが見ている先では、出身国の違う料理人たちが一つの料理を囲んで話をしていた。


料理を競うために集めたはずだった。


ところが実際に始めてみると、それだけではなかった。


アレクサンドも同じ光景を見ていた。


「ええ。私もそう思います」


まだ最初の料理コンテストは始まったばかりだった。




料理コンテストは、その後も続いた。


一つの料理を食べられるのは十人まで。


そのため、参加者は会場を歩きながら自分が食べたい料理を探していた。


「これは何の肉です?」


「ワイバーンだ」


「どうやって味を付けているんです?」


「香草と塩だ。肉そのものの味が強いから、それほど手を加えていない」


別の場所では魚料理を囲んで話が始まっている。


さらに離れたところでは、パンを手にした料理人が作り方を聞いていた。


自分の料理を食べてもらうために来た者たちが、いつの間にか他人の料理を食べることにも夢中になっていた。


マルセルも例外ではない。


「これは面白いですね」


一つ食べ終わると、次の料理へ向かう。


ロルフも自分の料理を出したあとは会場を歩き回っていた。


プロキシーやジョザイアも同じだった。


アレクサンドはその様子を見ながら笑う。


「これなら、ロルフさんのお店に押しかけられることもなくなるわね」


当初の目的は、それだった。


ロルフの店の営業を邪魔せず、料理人たちが自分の料理を食べてもらえる場所を作る。


その目的は十分に果たされていた。


だが、カイゼルは別のところを見ていた。


「宰相」


「はい」


「参加者は百三十二カ国から来ているのだな?」


「そのようです」


カイゼルは会場を見渡した。


同じ肉でも切り方が違う。


同じような食材でも、調理方法が違う。


ある国では普通に使われているものを、別の国の料理人は知らない。


そのたびに料理人同士で話が始まっていた。


「食品ギルドと商品ギルドにも声をかけているのだったな」


アレクサンドが答える。


「はい。冒険者ギルドと結婚斡旋ギルドにも声をかけています」


「なるほど」


カイゼルは頷いた。


エミリーとエミリアは記録を続けている。


今日ここで出された料理も、料理人の名前も、所属する国も記録される。


その記録は各国の管理システムへ保存され、各ギルドでも閲覧できる。


生中継はしていない。


それでも今日ここで何が行われたのかは、あとから百三十二カ国で確認できる。


アイゼルも料理人たちを眺めていた。


「陛下。随分と気に入られたようですな」


「ああ」


カイゼルは素直に認めた。


「これを今回だけで終わらせるのは惜しい」


アレクサンドが振り向く。


「陛下?」


「アレクサンド侯爵。次もやるつもりはあるか?」


「皆がやりたいと言うなら、やってもいいと思っています」


アレクサンドにとっては、その程度だった。


今回も四十七人の仲間と相談して、場所を決め、各ギルドに声をかけただけである。


だが、カイゼルは少し考えてから宰相を見る。


「次回から王国でやれないか?」


宰相はすぐには答えなかった。


会場を見る。


参加している料理人を見る。


そしてエミリーとエミリアが記録している様子を見る。


「開催そのものを、ということでしょうか」


「そうだ」


カイゼルが答える。


「料理に口を出す必要はない。今と同じでいい。場所を用意し、各ギルドに声をかけ、参加者を受け入れる。それを王国でやればいい」


アレクサンドが笑った。


「それなら私は楽になります」


「そこか」


アイゼルが笑う。


「だって、元はアリッサ様から相談されただけですもの」


アレクサンドは悪びれもしなかった。


マイケルも笑っていた。


王国騎士団の教導講義講堂を使っている以上、すでに騎士団も無関係ではない。


宰相が頷いた。


「現在の形を大きく変えないのであれば、難しくはありません」


「なら決まりだな」


カイゼルが言った。


「次回から、この料理コンテストはシュタインフェルト王国が開催する」


大げさな宣言ではなかった。


料理人に何を作れとも言わない。


順位の付け方を国が決めるわけでもない。


料理人が料理を持ってきて、互いに食べる。


その場所を王国が用意するだけだった。


やがて最初の料理コンテストが終わった。


参加した料理人たちは、それぞれ自分の国へ帰っていく。


アイテムボックスに入っているのは、持ってきた料理だけではない。


今日食べた料理。


聞いた調理法。


知らなかった食材。


それぞれが得たものを持ち帰る。


エミリーとエミリアが残した記録も、各国の管理システムへ保存された。


ロルフの店に外国の料理人が押しかけたことから始まった小さな催しは、一度開催しただけで終わらなかった。


次からはシュタインフェルト王国が、その場所を用意することになった。





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