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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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284 順調

宰相は、現在のシュタインフェルト王国の内政について問題が発生していないか確認していた。


人口はすでに五億人近い。


かつて二千万人だった頃とは、国の規模そのものが違う。


急激な人口増加が続いている以上、数字だけを見て順調だと判断するつもりはなかった。


宰相は行政官を呼び、最新の報告を求めた。


「現在、国内で何か大きな問題は発生しているか?」


行政官は手元の資料を確認した。


「大きな問題は発生していません」


宰相は頷き、報告を聞いていく。


まずは土地だった。


シュタインフェルト王国には、まだ未開拓の土地が残っている。


旧イルミナ王国にもある。


旧ガルバトス王国にも広大な未開地が残されていた。


すでに開拓が始まっている場所では農地と街が造られているが、国土を使い切ったわけではない。


人口がさらに増えても、居住地を確保する余地は十分にあった。


「人口については?」


「問題ありません。流入と流出を含め、最新の統計を継続して更新しています」


結婚によって国外へ移住する者もいる。


流民、棄民、難民、冒険者として入ってくる者もいる。


新たに保護される者もいる。


行政官はそれらを教導管理システムへ登録し、常に人口の変化を確認していた。


仕事も足りている。


街を造る。


農地を造成する。


ゴーレム馬車を生産する。


商品を作る。


運ぶ。


売る。


学校で教える。


商会や冒険者ギルドでも人手が必要だった。


新しく国民となった者には教導が行われ、仕事を覚えた者から働き始めている。


人口が増えたことで仕事が奪い合いになるのではなく、人口増加そのものが新しい需要を生んでいた。


「食料は?」


「食料充足率は五百パーセントを超えています」


宰相は資料へ目を落とした。


五億人近い人口を抱えても、食料不足の兆候はない。


国内では広大な農地が造成されている。


国外の森では冒険者たちが大量の魔物を狩り、その肉も国内へ流通していた。


余裕は十分にある。


教育も進んでいた。


「現在の識字率は?」


「九十五パーセントまで上昇しています」


以前は文字も計算もできなかった者たちが学校へ通い、読み書きと計算を覚えている。


教導スキルを発現する者も増え、教わった者が次の者を教える流れが各地で続いていた。


民だけではない。


文官への教導も進んでいる。


行政官は六十万人への増員が始まり、それぞれが必要な仕事を覚えていた。


治安についても確認する。


国内の魔物は長期間にわたって多数狩られてきた。


その結果、国内で魔物による被害が発生することもなくなっていた。


騎士や兵士も複数回の掃討作戦を経験し、練度を上げ続けている。


戦力だけが増えたのではない。


経験も蓄積されていた。


「税収は?」


「現在も上がり続けています」


人口が増える。


働く者が増える。


生産が増える。


商品が動く。


消費も増える。


商会も冒険者ギルドも利益を上げている。


その経済活動から得られる税収も伸び続けていた。


宰相は一通りの報告を聞き終えた。


国土。


人口。


仕事。


食料。


教育。


治安。


軍事。


税収。


どこか一つが急激な人口増加の負担を抱えているわけでもない。


好景気もそのまま続いている。


宰相は資料を閉じた。


順調だった。




宰相は資料をもう一度開いた。


大きな問題はない。


だからといって、確認をやめる理由にはならなかった。


「第2セトルメントの状況は?」


「こちらも問題ありません。保護された者たちへの教導が進み、仕事に就く者も増えています」


行政官が答える。


奴隷、娼婦、孤児だった四千万人が暮らし始めた第2セトルメントも、すでに巨大な街として動いている。


住民は教導を受け、魔法を使い、仕事を覚えていた。


自分たちで街を整備し、必要なものを作り、収入を得る。


商店も増えている。


飲食店も増えた。


ロルフの店のように繁盛する店も現れている。


保護された者たちが、いつまでも保護されるだけの立場にいるわけではなかった。


「旧イルミナ王国と旧ガルバトス王国は?」


「旧来の居住区に大きな問題はありません。未開地の開拓も継続しています」


旧王都にあった王宮や貴族街はすでに更地となり、回収された素材や金属は再利用されている。


一方、元から住民が暮らしていた場所はそのまま残されていた。


未開地では農地と新しい街の造成が続いている。


国民全員が土魔法を使える。


土地を整え、農地を造り、街を広げるための力を国民自身が持っていた。


「物流はどうだ?」


「ゴーレム馬車の増産は順調です」


国内では五千万台のゴーレム馬車が流通している。


それでも足りなくなり、一億五千万台を目標に増産が続いていた。


王宮が商業ギルドへ金属インゴットを卸す。


製造されたゴーレム馬車が国内へ投入される。


食料や衣服、農産物、魔物素材、日用品が各地へ運ばれる。


商会が国外から仕入れた商品も同じだった。


未知の食料。


酒。


調味料。


新しい商品が入れば、それを買う国民がいる。


購買力があるから売れる。


売れるから商会はまた仕入れる。


「商業ギルドから問題の報告は?」


「ありません。むしろ取扱量は増え続けています」


「冒険者ギルドは?」


「こちらも同様です」


大陸中から冒険者が集まっている。


国外の森へ向かい、魔物を狩る。


肉や素材を持ち帰れば冒険者ギルドが買い取る。


人口が五億人近くまで増えたことで需要はさらに大きくなっていた。


冒険者が稼ぐ。


その金を街で使う。


宿に泊まり、料理を食べ、酒を飲み、必要なものを買う。


そこで使われた金が、また別の者の収入になる。


宰相は次の資料を見る。


「学校も増えているな」


「はい。教導スキルを発現した者が各地で教えています」


国民の識字率は九十五パーセント。


人口が急増する中でも上昇を続けていた。


民への教導だけではない。


行政官。


教師。


産婆。


騎士。


兵士。


必要な人材は教導によって増やされている。


二千万人だった頃の仕組みを、そのまま五億人近い国へ押し広げているわけではない。


人口が増えるたびに必要な人材も増やしてきた。


そして育った者が、次の者を育てている。


宰相はしばらく資料を眺めた。


新しい問題を探していた。


だが、見つからない。


ならば、問題を作ってまで政策を増やす必要もなかった。


順調に動いているものは、そのまま動かせばいい。


必要になったときに対応する。


必要になることが事前に分かれば、先に準備する。


それだけだった。


「引き続き人口、食料、雇用、物流の推移を確認してくれ」


「承知しました」


行政官が頭を下げる。


宰相は次の仕事へ移った。


五億人近くまで人口が増えても、国は動いている。


仕事がある。


食料がある。


教育が進む。


物流が動く。


税収も増える。


好景気も続いていた。


今のところ、余計な手を加える必要はなかった。


シュタインフェルト王国の内政は、順調そのものだった。




宰相が確認していたのは、現在の数字だけではなかった。


これから人口が増えた場合にも対応できるか。


そこも重要だった。


シュタインフェルト王国の人口は、すでに五億人近い。


しかも、これで止まるとは考えにくい。


国外から移住してくる者は今もいる。


結婚斡旋ギルドによる婚姻も続いている。


これから生まれてくる子供も多い。


「出生への対応は?」


宰相が尋ねた。


行政官が答える。


「産婆の育成を続けています。各地の受け入れ準備も進んでいます」


四千万人の出産が予定されている。


さらに、結婚斡旋ギルドによって成立した婚姻も増え続けていた。


産婆を百倍に増やす方針はすでに決まっている。


教導を受けた者が仕事を覚え、現場へ入る。


そこで経験を積む。


人数を増やすだけではなく、実際に働ける者を増やす必要があった。


「医療施設は?」


「人口増加に合わせて増設しています」


宰相は頷いた。


今のところ不足を訴える報告は上がっていない。


必要な場所に施設を造る。


必要な人数を育てる。


それが続いている。


次に確認したのは行政だった。


六十万人への増員が進む行政官についても、大きな混乱はない。


新たに加わった者たちは教導を受け、経験のある行政官と共に仕事をしている。


人口の登録。


移住者の確認。


出生。


婚姻。


国外への移住。


土地。


物流。


税。


扱う仕事は多い。


それでも、一人の行政官が何もかも抱えているわけではなかった。


人数を増やし、仕事を分ける。


必要な知識を教える。


それぞれが担当する仕事を進める。


五億人近い人口を抱える国になっても、行政そのものが止まる様子はなかった。


「騎士団についても聞いておこう」


「現在、特に問題はありません」


二百十万人まで増えた騎士たちは、教導と訓練を続けている。


すでに複数回の掃討作戦も経験していた。


索敵。


捕縛。


拘束。


武器の回収。


保護対象の確認。


人類の敵と判断された者の処理。


作戦後の確認。


経験したことは次の訓練へ反映されている。


アンデッドとの戦闘を経験したことで、聖属性を付与した武器の扱いも身についた。


騎士たちは剣だけを使うわけではない。


槍、メイス、ハルバード、グレイブ。


自分に合った武器を使いながら練度を上げている。


さらに、アリー男爵の働きを見たことで、死者を弔い埋葬できる騎士の育成も始まっていた。


必要だと気づいたものを、そのまま次へ繋げている。


宰相が命令を出したものではない。


現場が必要だと判断して動いていた。


「兵士たちは?」


「こちらも訓練を継続しています」


騎士だけが強くなればいいわけではない。


兵士たちも魔力循環を続け、魔法や武器の扱いを磨いている。


民への教導も進んでいた。


文官への教導も進んでいる。


教師が増えれば、教わる者も増える。


教わった者の中から、また教導スキルを発現する者が出てくる。


識字率は九十五パーセント。


人口が急激に増えながら、その数字まで到達していた。


宰相は報告書をめくった。


どこかに無理が出ていないか。


急激に膨らんだ国のどこかで、何かが滞っていないか。


確認を続ける。


だが、今のところ見つからなかった。


国土にはまだ余裕がある。


食料充足率は五百パーセントを超えている。


仕事もある。


物流も動いている。


教育も進んでいる。


軍も経験を積んでいる。


税収も伸びている。


人口が増えれば、それに合わせて必要なものも増える。


そして必要になったものを、誰かが増やしていた。


宰相は静かに資料を閉じた。


国が大きくなったからといって、すべてを王宮が動かす必要はない。


今は、それぞれが自分の仕事をしている。


それで国は動いていた。




一通りの確認を終えた宰相は、行政官に尋ねた。


「他に報告しておくべきことはあるか?」


「現時点ではありません」


即答だった。


問題がない。


それは国内で何も起きていないという意味ではない。


人口は増え続けている。


新しい街が造られ、農地も広がっている。


国外から移住してくる者がいる一方、婚姻によって国外へ移る者もいる。


商人は各地を行き来し、冒険者は国外の森へ魔物を狩りに行く。


学校では子供だけでなく、これまで教育を受ける機会のなかった大人たちも学んでいる。


国は常に動いていた。


それでも、大きな問題は発生していない。


宰相は資料をまとめた。


「カイゼル王へ報告する」


「はい」


王のもとへ向かい、確認した内容を報告する。


カイゼルは最初に人口について尋ねた。


「五億人近くになっても問題はないのだな?」


「はい。行政から大きな問題は報告されておりません」


宰相は順に説明した。


国土にはまだ余裕がある。


旧イルミナ王国にも、旧ガルバトス王国にも未開地が残されている。


すでに広大な農地や街が造られているが、土地を使い切ったわけではない。


「仕事についても問題ありません」


人口が増えれば、必要なものも増える。


住宅が必要になる。


食料が必要になる。


衣服が必要になる。


学校や商店も必要になる。


生産する者、運ぶ者、販売する者も必要だった。


働く場所が足りなくなる状況にはなっていない。


「食料充足率は五百パーセントを超えています」


「五百か」


「はい」


五億人近い人口を抱えていても、食料には十分な余裕がある。


農地では大量の作物が生産されている。


魔物肉も豊富だった。


国内の魔物はこれまで大量に狩られ、被害が発生することもなくなっている。


現在、魔物の狩猟は主に国外の森で行われていた。


冒険者たちが大量の魔物を狩る。


商人が買い取り、販売する。


肉だけではない。


皮、牙、骨なども商品になる。


シュタインフェルト王国内だけで消費されるわけではなかった。


商人たちは各国へ運び、需要のある場所で販売している。


商人にとっても大きな商売だった。


「識字率は九十五パーセントまで上昇しました」


カイゼルが頷いた。


「人口が増え続けているのにか」


「教導が進んでおりますので」


学校が増えた。


教師も増えた。


教導を受けた者が読み書きや計算を覚え、その中から次に教える者も出てくる。


民だけではない。


文官への教導も続いている。


行政官を六十万人へ増やす計画も進んでいた。


「騎士や兵士は?」


「練度を上げ続けています」


二百十万人の騎士たちは、すでに複数回の掃討作戦を経験している。


訓練だけでは得られない経験も蓄積されていた。


兵士たちも教導と訓練を続けている。


「税収は?」


「上がり続けています」


人口が増えた。


働く者も増えた。


生産量が増え、商取引も増えた。


国内だけではない。


商人たちはアルデバラン王国百三十カ国をはじめ、広い範囲で商品を販売している。


国外から仕入れた商品をシュタインフェルト王国で売ることもあれば、シュタインフェルト王国で手に入れた商品を国外へ運ぶこともある。


人と商品と金が動き続けていた。


好景気は終わるどころか、そのまま続いている。


カイゼルはしばらく報告を聞いたあと、尋ねた。


「つまり、今のところ大きな問題はないということか」


「その通りです」


宰相は答えた。


問題が起これば対応する。


不足することが分かれば、その前に増やす。


行政官も産婆も、必要になると判断したから増員を始めた。


だが、問題のないものにまで手を加える必要はない。


「では、このまま推移を見てくれ」


「承知しました」


宰相は一礼した。


かつて二千万人だったシュタインフェルト王国は、五億人近い国になった。


それでも国土には余裕がある。


仕事がある。


食料も余っている。


識字率は九十五パーセント。


税収は増え続け、騎士や兵士も経験を重ねている。


民への教導も、文官への教導も進んでいた。


宰相は自分の執務室へ戻った。


次の仕事が待っている。


特別な対策を考える必要はなかった。


今あるものを確認し、必要なところだけを見る。


シュタインフェルト王国は、五億人近くになっても問題なく動いている。


順調だった。





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