281 ガルバトス王国
人類の敵とされていた非人道国家、ガルバトス王国への作戦は終了した。
捕縛され、連行されたネクロマンサーは六十人。
鑑定によって完全悪人と判定された者は一万人。
さらにガルバトス王国を支配していた為政者と貴族、百万人も拘束された。
全員が鑑定を受け、それまで行ってきたことが記録された。
ネクロマンサー、完全悪人、為政者、貴族は、その記録を残した後に処刑された。
一方、保護された者は六千万人に達した。
奴隷、娼婦、孤児が四千万人。
投降者が一千万人。
自由民が一千万人。
投降者と自由民については、ガルバトス王国で暮らしていた居住区にそのまま残ることになった。
強制的に移住させる理由はない。
生活の基盤がそこにある者は、その土地で暮らせばよかった。
奴隷、娼婦、孤児だった四千万人は違った。
セトルメントに近接する広大な荒野が、新たな生活の場所として選ばれた。
すでにシュタインフェルト王国には、数千万人規模の人々を保護し、教導し、自立させてきた経験がある。
荒野の開拓が始まった。
土魔法を使える者たちが土地を整え、街が造られていく。
新たな街には、そのまま第2セトルメントという名が付けられた。
これによってシュタインフェルト王国の人口は二億二千万人となった。
ガルバトス王国から回収された大量の武器も処理された。
剣も槍も鎧も、そのまま保管する必要はない。
金属は精錬され、インゴットへと姿を変えて国庫へ収納されていった。
旧イルミナ王国と旧ガルバトス王国でも土地の再編が進められている。
旧来の住民が暮らしている居住区には手を付けない。
開発されるのは未開拓の土地だった。
広大な農地が造られ、それと並行して街の建設が進んでいる。
計画されている居住規模は十億人。
現在の人口だけを考えたものではなかった。
これからさらに人口が増えても、慌てて住居や農地を用意する必要がないように、先に余裕を作っている。
一方、旧イルミナ王国と旧ガルバトス王国に残されていた王都の王宮や貴族街は破壊された。
建物に使われていた再利用可能な素材は回収され、金属は精錬されてインゴットとなり、国庫へ収納される。
支配者が暮らしていた場所を維持する理由はなかった。
そしてシュタインフェルト王国では、別の大きな変化も進んでいた。
先日、第一子の出産を終えたばかりの一千万人の女性たちが、第二子を妊娠した。
さらに結婚したばかりの三千万人の女性たちも第一子を妊娠している。
八か月後には四千万人の子供が生まれる。
単純計算で、シュタインフェルト王国の人口は二億六千万人となる。
もっとも、行政官たちはその数字を確定値として扱ってはいなかった。
結婚斡旋ギルドによる十億人婚姻計画が進んでいるからだ。
すでに四億人が婚姻している。
国境を越えた婚姻も多く、シュタインフェルト王国から他国へ移り住む者もそれなりにいた。
入ってくる者もいれば、出ていく者もいる。
そのため行政官たちは、常に最新の人口統計を確認していた。
人口二億二千万人。
それは今、この時点での数字に過ぎなかった。
ガルバトス王国から回収されたものは、武器や金属だけではなかった。
王国が保有していた資産。
そして為政者や貴族たちが所有していた私有財産。
それらも全て回収され、シュタインフェルト王国の国庫へ収納された。
金貨や銀貨だけではない。
金、銀、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトなどの金属も含まれている。
回収された武器や金属製品についても精錬が進み、次々とインゴットへ変えられていった。
すでに莫大な量の金属を保有していたシュタインフェルト王国の国庫へ、さらに資産が積み上がっていく。
だが、国庫が豊かになるだけでは国民の暮らしは豊かにならない。
シュタインフェルト王国では、その先の循環がすでに成立していた。
セトルメント近隣の森では、これまで毎日五十万体もの魔物が狩られていた。
多くの者が狩りを続けた結果、森に生息する魔物の絶対数そのものが減少している。
そこで狩りの場所は国外へ移された。
現在では国外の森で、毎日五百万体もの魔物が狩られている。
狩られた魔物はアイテムボックスへ収納され、次々と運ばれてくる。
その肉はセトルメントだけではなく、第2セトルメントで暮らし始めた者たちの食料にもなった。
四千万人という人口が新たに加わっても、食料が不足することはなかった。
さらに旧イルミナ王国と旧ガルバトス王国の未開拓地では、広大な農地の造成が続いている。
食料を外から与え続けるためではない。
そこに暮らす者たちが自分たちで生産し、自分たちの生活を支えられるようにするためだった。
街が増える。
農地が増える。
働く者が増える。
そして収入を得る者が増えていく。
購買力を持った国民が増えれば、商人たちも動く。
シュタインフェルト王国の商会は、国外から様々な品を仕入れていた。
未知の食料。
酒。
調味料。
それまでシュタインフェルト王国では見たこともなかった品々が、各地の市場や商店へ並ぶようになっている。
国民は稼いだ金でそれを買う。
商品が売れれば商会が利益を得る。
商会がさらに商品を仕入れる。
物流が動き、人が働き、税収も増える。
シュタインフェルト王国の税収は、うなぎ登りだった。
国庫に積み上がるのは、旧ガルバトス王国から回収した資産だけではない。
国民の経済活動そのものが、継続して国を豊かにしていた。
教育も急速に広がっている。
教導スキルを発現する者はすでに多数存在していた。
彼らが教師となり、各地で学校を開いている。
街には次々と学校が開校した。
子供だけではない。
これまで文字を学ぶ機会のなかった大人たちも通っている。
その結果、シュタインフェルト王国では国民の九割が読み書きと計算をできるまでになっていた。
そして今回保護された六千万人にも、すでに教導が始まっている。
投降者も。
自由民も。
第2セトルメントへ移った奴隷、娼婦、孤児たちも同じだった。
文字を学ぶ。
計算を学ぶ。
魔法を学ぶ。
仕事を覚える。
教える者は、すでにシュタインフェルト王国の中に大勢いる。
保護された者が、次は働く者になる。
働く者が生産する。
生産されたものが売られる。
収入を得た者が、また別の商品を買う。
六千万人を保護したことで、シュタインフェルト王国が貧しくなることはなかった。
むしろ新たな人々が循環の中へ加わるたびに、国はさらに豊かになっていた。
人口が増え、街が増え、生産と消費が拡大すれば、当然必要になるものも増える。
物流だった。
シュタインフェルト王国内を走るゴーレム馬車は、すでに五千万台に達していた。
かつてなら考えられない数である。
だが、今ではその五千万台でも足りなくなり始めていた。
人口は二億二千万人。
セトルメントに加えて第2セトルメントが造られ、旧イルミナ王国と旧ガルバトス王国の未開拓地でも農地と街の建設が進んでいる。
国外からは商会が大量の商品を仕入れてくる。
国内では魔物の肉や素材、農産物、衣類、日用品が動く。
各地で新たな店が開き、学校が増え、働く者も増え続けていた。
人が増えれば、物も動く。
物が動けば、それを運ぶゴーレム馬車が必要になる。
商業ギルドから王宮へ、ゴーレム馬車の増産を求める声が届くようになった。
王宮の判断は早かった。
国庫には大量の金属インゴットがある。
旧ガルバトス王国から回収した武器や金属製品も精錬され、次々とインゴットへ変えられている。
ガルバトス王国が保有していた資産や、為政者、貴族たちから回収した金属もある。
使えるものがあるのなら使えばいい。
王宮は国庫から金属インゴットを商業ギルドへ卸し、ゴーレム馬車の増産を進めることを決めた。
目標は一億五千万台。
現在の三倍である。
商業ギルドはすぐに動いた。
五千万台を国内で流通させてきた実績がある。
新たに一億台を増産することになっても、一から仕組みを作る必要はなかった。
必要な金属は王宮から供給される。
あとは生産量を増やせばいい。
各地でゴーレム馬車の製造が始まった。
仕事が増える。
働く者が増える。
得られた賃金は市場へ戻る。
食料を買う。
衣服を買う。
酒を買う。
国外から入ってきた珍しい食料や調味料を買う者もいる。
商会は売れた分だけ、さらに商品を仕入れた。
それを運ぶために、またゴーレム馬車が必要になる。
物流の拡大が新たな物流需要を生んでいた。
第2セトルメントでも同じだった。
保護された四千万人への教導はすでに始まっている。
読み書きや計算を覚え、魔法を使い、仕事を覚えていく。
昨日まで保護される側だった者が、働く側へ移っていく。
農地造成に加わる者。
建設に加わる者。
商品を作る者。
商売を始める者。
魔物を狩る者。
運搬に関わる者。
できることは増え続けていた。
旧ガルバトス王国に残った投降者一千万人と自由民一千万人にも教導が進んでいる。
こちらでも生産と消費が動き始めていた。
国民が増えたから支出だけが増えるわけではない。
働く者が増えれば、生産も増える。
生産が増えれば商品が増える。
商品が動けば商売が増える。
そして利益が生まれれば税収も増える。
王宮が商業ギルドへ卸した大量の金属インゴットも、国庫の中で眠らせておくより、ゴーレム馬車として国内を走らせる方が役に立つ。
五千万台でも足りない。
ならば一億五千万台へ増やす。
それでも人口と経済がさらに拡大すれば、いずれ足りなくなるかもしれない。
そのときは、また増やせばいい。
シュタインフェルト王国では街が造られ、学校が増え、人が働き、商品が売れ、物流が拡大している。
そこへ六千万人が新たに加わった。
さらに八か月後には、多くの子供たちが生まれる。
ゴーレム馬車の大増産もまた、新たな仕事と消費を生み出していく。
シュタインフェルト王国の好景気は、さらに加速していた。
シュタインフェルト王国へ集まってくるのは、保護された者たちだけではなかった。
冒険者。
流民。
棄民。
難民。
各地から人が集まり始めている。
誰かが呼び集めたわけではない。
シュタインフェルト王国が人を募集したわけでもなかった。
噂を聞いた者たちが、それぞれの判断で移動してきているだけだった。
仕事がある。
食料がある。
住む場所がある。
学校がある。
魔法を学ぶこともできる。
流民や棄民、難民にとって、それだけでも十分に移動する理由になった。
国境を越え、シュタインフェルト王国へ入ってくる者は増え続けている。
その中でも特に多かったのが冒険者だった。
大陸中から冒険者が集まってきている。
理由は明確だった。
シュタインフェルト王国の冒険者ギルドが、空前の利益を上げていたからである。
セトルメント近隣では、長期間にわたって毎日五十万体もの魔物が狩られてきた。
その結果、周辺の森では魔物の絶対数が減少した。
現在、狩りの中心は国外へ移っている。
そこで狩られている魔物は、一日五百万体。
肉はセトルメントと第2セトルメントの食料になる。
魔石や素材にも価値がある。
人口が増え続けているシュタインフェルト王国では、それらを大量に受け入れるだけの需要があった。
冒険者が狩る。
冒険者ギルドが買い取る。
肉や素材が必要な場所へ流れる。
商人が扱う。
国民が購入する。
毎日五百万体という数が動いても、それを消費する人々がいる。
その話が大陸中の冒険者へ伝わった。
魔物を狩っても売れない土地に留まる必要はない。
狩ったものを買い取ってくれる場所へ行けばいい。
シュタインフェルト王国へ向かう冒険者が増えた。
冒険者が増えれば、狩られる魔物も増える。
持ち込まれる肉や素材も増える。
冒険者ギルドの取扱量もさらに増えていった。
そして稼いだ冒険者たちは、その金を持ったままにしているわけではない。
宿に泊まる。
食事をする。
酒を飲む。
衣服や日用品を買う。
国外から仕入れられた珍しい食料や酒、調味料を買う者もいた。
冒険者が落とした金は、街の商店や宿、飲食店へ流れていく。
そこからまた別の仕事が生まれた。
流民や棄民、難民たちにも仕事はあった。
人口二億二千万人となった国内では、至るところで人手が必要になっている。
第2セトルメントの建設。
広大な農地の造成。
新しい街の建設。
学校。
商店。
物流。
そして一億五千万台を目標に始まったゴーレム馬車の増産。
教導を受ければ、できる仕事はさらに増える。
新しくやってきた者の中から教導スキルを発現する者も現れた。
教わった者が、今度は別の者へ教える。
シュタインフェルト王国へ入ってくる人の流れは、そのまま新たな働き手の増加へつながっていた。
その一方で、結婚を機に国外へ移住する者もいる。
結婚斡旋ギルドによる十億人婚姻計画は、すでに四億人の婚姻まで進んでいた。
入ってくる者がいる。
出ていく者もいる。
子供も生まれる。
行政官たちは日々変化する数字を確認し、最新の人口統計へ更新し続けていた。
人が動く。
物が動く。
金が動く。
そして、その流れを誰かが止める理由もなかった。
旧ガルバトス王国から六千万人を保護した後も、シュタインフェルト王国へ向かう人の流れは続いている。
冒険者ギルドは空前の利益を上げ、商会は商品を仕入れ、国民はそれを消費する。
新たにやってきた者も教導を受け、働き始める。
シュタインフェルト王国の好景気は、まだ終わる気配を見せていなかった。




