279 神官新興貴族のアリー
戦闘が終わった場所では、すでに別の作業が始まっていた。
神官新興貴族のアリーが、四百体の魔石回収ゴーレムを展開している。
ゴーレムたちは戦場を動き回り、倒されたアンデッドから魔石を回収していった。
その光景を見たシュタインフェルト王国の騎士たちは驚いた。
戦っている最中から、次の処理まで始まっている。
だが、アイゼル、カイゼル、マイケルの三人が気にしていたのは別のことだった。
アルデバラン王国から来たアイク、アッシュ、ロックウェル。
そしてオーキス王。
デュラハンやデスナイトを相手に、四人は次々と剣を振るっている。
強い。
それは認める。
だが、シュタインフェルト王国は武の国である。
長く武を重んじてきた国の王、公爵、騎士団長である自分たちが、剣で遅れを取っている。
三人とも、それが悔しかった。
「行くぞ」
カイゼルが剣に聖属性を付与した。
アイゼルとマイケルも続く。
三人はデュラハンとデスナイトへ向かった。
先ほどまでとは動きが違った。
教導で身につけたものを、実戦の中で使う。
デュラハンの大剣をかわし、踏み込む。
聖属性を付与したオリハルコンの剣を振り抜く。
斬る。
浄化する。
次の相手へ向かう。
マイケルもデスナイトと剣を交えていた。
攻撃を受け、返す。
間合いを詰め、剣を振るう。
アイゼルも果敢に前へ出た。
三人は次々とデュラハンやデスナイトを屠っていった。
その途中だった。
三人の身体が光った。
カイゼルが自分の剣を見る。
アイゼルも気づいた。
マイケルも同じだった。
剣豪。
三人が揃って剣豪スキルを発現していた。
再び剣を構える。
先ほどまでとは感覚が違う。
剣が軽い。
振り始めから振り抜くまでが、明らかに変わっていた。
三人はそのまま次のアンデッドへ向かった。
そのころアリーは、戦場に散らばった魔石を眺めていた。
四百体のゴーレムが次々と運んでくる。
数万個。
「たくさん回収できましたね」
アリーは嬉しそうだった。
魔石の回収が終わった場所を確認すると、今度は自分が動いた。
広域へ聖属性の魔法を放つ。
ピュリフィケーションバレットレイン。
聖属性の弾丸が雨のように降り注いだ。
戦闘が終わったはずの場所まで、広く浄化されていく。
その中で動く者がいた。
隠れていた人間のネクロマンサーだった。
アリーはすぐに反応した。
バインドバレット。
一人。
さらに一人。
逃げようとするネクロマンサーたちを次々と捕縛していく。
捕らえた者はシュタインフェルト王国の騎士たちへ引き渡した。
その直後、別の反応が現れた。
リッチ。
アリーは迷わない。
聖属性ホーリーバレット。
放たれた一撃がリッチを捉えた。
浄化。
さらに別のリッチが現れる。
ホーリーバレット。
浄化。
アリーは次々と処理していった。
残された魔石には、四百体のゴーレムが向かう。
戦う。
浄化する。
魔石を回収する。
アリーにとっては、すでに何度も繰り返してきた作業だった。
その様子を見ていたシュタインフェルト王国の騎士が、思わず呟いた。
「強え……」
アリーは涼しい顔で答えた。
「経験が違いますから」
アイゼル、カイゼル、マイケルは、その言葉を聞いてぽかんとしていた。
「経験が違いますから」
涼しい顔でそう言ったアリーは、すぐに次の場所へ向かった。
四百体の魔石回収ゴーレムも後に続く。
アイゼル、カイゼル、マイケルはしばらくその背中を見ていた。
リッチを見つけても驚かない。
人間のネクロマンサーなら殺さず捕縛する。
戦闘が終われば広域を浄化し、残った魔石まで回収する。
一つ一つの行動に迷いがなかった。
「経験か……」
カイゼルが呟いた。
先ほど自分たちが剣豪を発現したことも同じだった。
教導を受けた。
十一属性を身につけた。
聖騎士も発現した。
オリハルコンの剣もある。
状態異常への耐性もある。
それでも、実際にデュラハンやデスナイトと戦って初めて分かったことがある。
使えることと、実戦で使うことは違う。
三人は再び剣を構えた。
剣豪を発現したことで、剣の感覚は明らかに変わっている。
そこへ新たなデスナイトが現れた。
今度はマイケルが前へ出る。
相手の剣が振り下ろされる。
受ける。
すぐに返す。
先ほどより動きが速い。
聖属性を付与したオリハルコンの剣がデスナイトを斬り裂き、そのまま浄化していった。
「確かに違うな」
マイケルが自分の剣を見た。
アイゼルも別のデュラハンへ向かう。
剣が交わる。
一度離れ、再び踏み込む。
今度はアイゼルの剣が先に届いた。
カイゼルも続いた。
三人はもう、アイクたちが戦う姿を見ているだけではなかった。
自分たちも戦う。
倒す。
浄化する。
そして、その経験を重ねていく。
周囲ではシュタインフェルト王国の騎士たちも戦闘を続けていた。
王と公爵、騎士団長が前に出ている。
その姿を見れば、自分たちだけ後ろにいるわけにはいかない。
デュラハンやデスナイトへ挑む騎士も増えていった。
無理に一人で戦う必要はない。
複数で囲む。
聖属性を付与した剣で攻撃する。
一人が受ければ別の者が斬る。
二百十万人という数を、そのまま力として使えばいい。
一方、アリーは別の戦闘跡へ到着していた。
「お願いします」
四百体のゴーレムが散開する。
魔石を見つけては拾い、回収していく。
アリーはその間に周囲を索敵した。
まだ反応がある。
ピュリフィケーションバレットレイン。
広範囲へ聖属性の弾丸が降り注ぐ。
浄化が進む中、隠れていたネクロマンサーが逃げ出した。
「そこですね」
バインドバレット。
身体を拘束されたネクロマンサーが倒れる。
別方向にも反応があった。
そちらにもバインドバレットを放つ。
捕縛した者は、近くにいたシュタインフェルト王国の騎士へ引き渡した。
さらに索敵。
今度は人間ではない。
リッチだった。
聖属性ホーリーバレット。
一撃。
リッチが浄化される。
残った魔石へゴーレムが向かう。
アリーはそれを確認すると、もう次を探していた。
シュタインフェルト王国の騎士たちは、その姿を何度も目にすることになった。
神官新興貴族。
そう聞けば、戦場の後方で祈りや治療を担う者を想像していた者もいた。
だが、実際のアリーは違った。
浄化する。
捕縛する。
リッチを倒す。
魔石まで回収する。
必要なことを淡々と続けている。
そして四百体のゴーレムを引き連れ、次の場所へ向かっていく。
「……あれが神官なのか?」
一人の騎士が呟いた。
その疑問に答える者はいなかった。
遠くでは、また聖属性のピュリフィケーションバレットレインが降り始めていた。
アリーの活躍は凄まじかった。
四百体の魔石回収ゴーレムは戦場を休むことなく動き続けている。
スケルトン。
ゾンビ。
レイス。
デュラハン。
デスナイト。
そしてリッチ。
各地で浄化されたアンデッドが残した魔石を見つけ、次々と回収していく。
回収された魔石は、すでに十万個を超えていた。
それでもアリーは止まらない。
戦闘の終わった場所へ移動すると、まず索敵する。
アンデッドの反応。
人間の反応。
周囲に残っているものを確認してから動く。
リッチの反応があった。
一体ではない。
複数。
アリーは聖属性のホーリーバレットを放った。
次々とリッチを捉える。
浄化。
さらに別方向。
ホーリーバレット。
浄化。
高位のアンデッドであるリッチが、アリーの前ではほとんど抵抗する暇もなく消えていった。
一体。
十体。
数十体。
それでも終わらない。
各地に潜んでいたリッチを見つけるたびに、アリーは聖属性のホーリーバレットで浄化していった。
その数は数百体に達した。
シュタインフェルト王国の騎士たちが警戒していた高位アンデッドが、次々と瞬殺されていく。
だが、アリーが探しているのはアンデッドだけではなかった。
アンデッドたちの中に人間の反応がある。
ネクロマンサー。
アンデッドたちに匿われるようにして潜んでいた。
アリーは相手が人間であることを確認すると、ホーリーバレットを使わなかった。
バインドバレット。
拘束。
さらに索敵する。
別の場所にもいる。
バインドバレット。
また拘束。
逃げようとした者も捕縛する。
アンデッドの陰に隠れていた者も見逃さない。
捕縛されたネクロマンサーは、シュタインフェルト王国の騎士たちへ次々と引き渡された。
十人を超える。
二十人。
三十人。
それでもまだ見つかる。
最終的に捕縛、逮捕された人間のネクロマンサーは五十人を超えていた。
それが終わると、アリーは戦場を見渡した。
まだ仕事は残っている。
広域浄化。
聖属性のピュリフィケーションバレットレインが放たれた。
広大な戦場へ、聖属性の弾丸が雨のように降り注ぐ。
アンデッドが存在していた場所。
戦闘が行われた場所。
魔石の回収が終わった場所。
広範囲が次々と浄化されていった。
戦う。
浄化する。
人間なら捕縛する。
魔石を回収する。
最後に戦場そのものを広域浄化する。
その一連の動きに迷いがない。
アレクサンドたちも、アリーの様子を見ていた。
「すごいわね……」
対アンデッド戦闘におけるアリーの練度は、明らかに高かった。
魔法が強いだけではない。
何を倒し、何を捕らえ、いつ浄化し、いつゴーレムを動かすのか。
判断が速い。
アンデッドを相手にしてきた経験が、そのまま動きに現れていた。
そして、その様子を見ている三人がいた。
アイゼル。
カイゼル。
マイケル。
先ほどアリーがリッチを簡単に浄化する姿を見て、三人はぽかんとしていた。
その後、自分たちは剣豪を発現した。
デュラハンやデスナイトとも戦えるようになった。
少しは追いついたと思った。
だが、改めて見ればアリーは数百体のリッチを瞬殺し、五十人を超えるネクロマンサーを捕縛、逮捕し、十万個を超える魔石を回収したうえで戦場全体を浄化している。
三人は再び、ぽかんとしていた。
アリーはそんな三人に気づくこともなく、四百体の魔石回収ゴーレムを連れて次の戦場へ向かっていた。
アリーが次の戦場へ向かったあとも、作戦は続いていた。
シュタインフェルト王国の騎士たちは、各地で武器を回収し、人間の兵士を捕縛、拘束していく。
要保護民も次々と保護されていた。
隷属民。
奴隷。
娼婦。
孤児。
索敵を常時発動しているため、見落とすことはない。
アンデッドが現れれば対応を切り替える。
聖属性を付与したオリハルコンの剣。
数が多ければホーリーバレット。
戦闘が終われば浄化する。
教導で確認していた手順が、そのまま実戦で使われていた。
カイゼル、アイゼル、マイケルも戦い続けている。
三人とも剣豪を発現してから、明らかに動きが変わっていた。
デュラハンが現れる。
カイゼルが前へ出た。
聖属性を付与した剣が振るわれる。
デュラハンも大剣で応じるが、カイゼルはその動きを見ながら間合いを変えた。
踏み込む。
剣を振り抜く。
デュラハンが斬られ、そのまま浄化されていった。
アイゼルとマイケルも、デスナイトを相手に剣を振るっている。
もう先ほどまでのような戸惑いはない。
実戦を重ねるほど、教導で身につけた力が馴染んでいった。
それでも、ときおり遠くで聖属性の魔法が雨のように降る。
アリーだった。
「あちらも終わったようです」
マイケルが呟いた。
しばらくすると、四百体のゴーレムが次の場所へ移動していく姿が見えた。
カイゼルは剣を下ろして、その光景を見る。
「神官だったな?」
「はい」
アイゼルが答えた。
「神官新興貴族のアリーです」
三人は再び遠くを見る。
魔石を回収するゴーレム。
その周囲を索敵するアリー。
アンデッドの反応があれば浄化。
人間のネクロマンサーなら捕縛。
最後に広域浄化。
やっていること自体は分かる。
だが、その速度が違った。
「先ほど、経験が違うと言っていたな」
カイゼルの言葉にマイケルが頷いた。
「そのようです」
三人とも、それ以上は何も言わなかった。
自分たちも一か月以上の教導を受けた。
十一属性を持ち、聖騎士となり、剣豪まで発現した。
それでも、初めて本格的にアンデッドと戦う自分たちと、迷うことなく処理を続けるアリーには差がある。
その差を三人は実戦の中で見せつけられていた。
一方のアリーは、そんなことを気にしていなかった。
また魔石が見つかった。
ゴーレムが拾う。
別の場所にもある。
さらに回収する。
「まだありますね」
嬉しそうだった。
十万個を超えても関係ない。
回収できる魔石があるなら回収する。
リッチの反応があればホーリーバレット。
浄化。
残った魔石をゴーレムが拾う。
ネクロマンサーを発見すればバインドバレット。
捕縛したまま騎士へ引き渡す。
そして周囲に反応がなくなったことを確認する。
ピュリフィケーションバレットレイン。
広域浄化。
一か所が終わった。
アリーは四百体のゴーレムとともに、また次へ向かう。
アレクサンドたちも、それぞれの場所で戦闘を続けながらアリーの動きを確認していた。
誰かが指示しているわけではない。
アリーは自分が必要だと思う場所へ向かい、自分ができることをしているだけだった。
戦闘。
捕縛。
浄化。
魔石回収。
戦場で必要になる処理を一つずつ終わらせていく。
シュタインフェルト王国の騎士たちは、その姿を何度も見ることになった。
神官新興貴族のアリー。
その名前は、対アンデッド戦が進むほど騎士たちの間に知られていった。




