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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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275 イメルダ伯爵の10回目の表彰の足音

ユリアン・シュタインフェルトとレックス・アルデバラン。


リヴィア・アルデバランとマイケル。


二組の結婚式は、合同で開催されることになった。


両国の王家にとって、これほど喜ばしいことはない。


カイゼルの娘であるユリアンが、オーキスとバイオレットの息子レックスと結ばれる。


そしてオーキスとバイオレットの娘リヴィアが、シュタインフェルト王国騎士団長マイケルと結ばれる。


二つの縁が同時に両国を結んだ。


結婚式の様子はシュタインフェルト王国全土へ生中継されることになった。


それだけではない。


アルデバラン王国を含む百三十カ国。


さらにミストバルカス公国。


三国という言い方では収まらない。


厳密には百三十二カ国の国民が、同じ結婚式を見ることになった。


当日。


各地で大勢の人々が中継を見守っていた。


シュタインフェルト王国では一億五千万人の国民が祝った。


アルデバランの百三十カ国でも、人々が仕事の手を休めて結婚式を見ている。


ミストバルカス公国でも同じだった。


二組の新郎新婦が姿を見せると、各地から歓声が上がった。


ユリアンとレックス。


リヴィアとマイケル。


四人の表情にも笑みが浮かんでいた。


王族同士の婚姻。


王女と騎士団長の婚姻。


だが、どちらも本人たちが互いに会い、話し、自分で選んだ縁だった。


その門出を百三十二カ国の国民が見守っている。


式が進む中、さらに会場を沸かせる者が現れた。


リヴィアの弟、第三王子コール・アルデバラン。


その後ろには八体のゴーレムが並んでいた。


破壊不能ゴーレム。


ゴーレムガーディアンズである。


八体が一斉に動き始めた。


巨大な身体が揃って動く。


隊列を組み、向きを変え、寸分違わぬ動きを見せる。


一体ずつ異なる動きをしたかと思えば、次の瞬間には八体が揃う。


戦うためではない。


今日は姉と兄の結婚式を祝うためのパフォーマンスだった。


コールが楽しそうに八体を動かしていく。


会場から大きな歓声が上がった。


中継を見ている各国の人々も沸いた。


普段は働き、守り、救助にも使われる破壊不能ゴーレムが、今日は祝いの場を盛り上げている。


コール自身も満足そうだった。


その様子を見ていたリヴィアが笑う。


レックスも弟のパフォーマンスを楽しんでいた。


バイオレットも上機嫌だった。


来賓には侍女たちとともに酒を配っている。


用意されたのはウィスキーとブランデー。


グラスに酒が注がれる。


そこへバイオレットと侍女たちが、自らの手から水魔法と風魔法で作った炭酸水を直接グラスへ注いでいく。


ウィスキーハイボール。


ブランデーハイボール。


次々と出来上がり、来賓へ配られていった。


カイゼルもグラスを受け取った。


アイゼルも。


イメルダも笑顔で受け取る。


オーキスはそんなバイオレットを見て笑っていた。


「今日も楽しそうだな」


「当然でしょう」


バイオレットはすぐに答えた。


「息子と娘の結婚式ですもの」


一人ではない。


今日は二人である。


バイオレットが上機嫌になるのも当然だった。


料理と酒が並び、ゴーレムガーディアンズのパフォーマンスに歓声が上がる。


その中心には二組の新郎新婦がいる。


そして、その光景を百三十二カ国の人々が同時に見ていた。


シュタインフェルト王国でも。


アルデバランの百三十カ国でも。


ミストバルカス公国でも。


歓喜の声が広がっていた。


二組の結婚式は、百三十二カ国の国民に見守られながら盛大に行われた。




合同結婚式が終わったあとも、その話題は百三十二カ国で続いていた。


ユリアンとレックス。


リヴィアとマイケル。


二組の結婚を祝う声はもちろん大きかった。


コールが操った八体のゴーレムガーディアンズも話題になった。


だが、もう一つ。


思わぬものが各国の人々の目を引いていた。


ウィスキーハイボールとブランデーハイボールだった。


結婚式の中継では、バイオレットと侍女たちが来賓に酒を振る舞う様子も映っていた。


グラスにウィスキーやブランデーを注ぐ。


そこへ水魔法と風魔法で作った炭酸水を直接グラスへ注いでいく。


難しいことは何もしていない。


それだけで、いつもの酒とは違う飲み方になる。


中継を見ていた者たちが気づかないはずがなかった。


アルデバランの百三十カ国では、すぐに試す者が現れた。


水魔法も風魔法も珍しいものではない。


ウィスキーをグラスに入れ、自分で炭酸水を作って注ぐ。


ブランデーでも試す。


「これは飲みやすいな」


最初に試した者が気に入れば、隣の者も試す。


酒場でも作られた。


家庭でも作られた。


宴席にも出された。


誰かが教えなくても、結婚式の中継を見ていれば作り方は分かる。


シュタインフェルト王国でも同じことが起きた。


結婚式を見た国民たちが次々と試し始めた。


セトルメントでも話題になった。


旧イルミナ王国で暮らす者たちにも広がっていく。


そしてミストバルカス公国でも、同じようにハイボールを楽しむ者が増えていった。


百三十二カ国で、一斉に同じものが流行し始めた。


当然、酒の消費量が増えた。


ウィスキー。


ブランデー。


これまでそのまま飲んでいた者だけではない。


ハイボールなら飲みたいという者まで現れる。


酒場や飲食店からの注文が増えた。


商業ギルドには各地から需要の報告が入り始めた。


最初は結婚式直後の一時的な流行だと思っていた者もいた。


だが注文は減らない。


むしろ増えていった。


各商会もすぐに動いた。


必要なのは、ウィスキーとブランデーである。


売れると分かれば、生産する。


アルデバラン百三十カ国。


シュタインフェルト王国。


ミストバルカス公国。


百三十二カ国で、ウィスキーとブランデーの大量生産が始まることになった。


酒造に携わる者たちは生産量を増やした。


新たに生産を始める者も現れた。


穀物から酒を造り、蒸留する。


ワインからブランデーを造る。


それぞれの国で、それぞれの生産が始まっていく。


商業ギルドは各地の生産量と需要を確認した。


商会は仕入れに動く。


生産された酒を集め、需要のある場所へ運ぶ。


酒場や飲食店も仕入れを増やす。


結婚式を一度中継しただけだった。


バイオレットと侍女たちも、酒を流行させようとしたわけではない。


祝いの席だから、来賓にハイボールを振る舞った。


それだけだった。


ところが百三十二カ国の国民が、その様子を見ていた。


見た者が試した。


気に入った。


また飲んだ。


周囲にも広がった。


その結果、百三十二カ国で巨大な需要が生まれた。


商業ギルドと各商会は、笑いが止まらなかった。


結婚式が終わったあとまで注文が増え続けている。


しかもウィスキーとブランデーは、一度飲んで終わるものではない。


気に入れば、また買う。


宴があれば飲む。


酒場でも注文する。


需要はそのまま商売になった。


二組の結婚式を祝うために作られたハイボール。


それを百三十二カ国の人々が見たことで、今度は酒造と商業に大きな動きが生まれていた。


誰かが計画したわけではない。


結婚式から始まったもう一つの連鎖が、百三十二カ国へ広がっていた。




二組の合同結婚式からしばらくして、イメルダ・シュトラウス伯爵のもとへ一通の招聘が届いた。


送り主はミストバルカス公国。


ライラ女王だった。


イメルダはすぐにミストバルカス公国へ向かった。


王宮ではライラが待っていた。


「お久しぶりです、イメルダ伯爵」


「お招きいただきありがとうございます、ライラ陛下」


挨拶を交わしたあと、二人は席についた。


ライラはすぐに本題へ入った。


「先日の結婚式は、我が国でも大変な盛り上がりでした」


ミストバルカス公国にも合同結婚式は生中継されていた。


ユリアンとレックス。


リヴィアとマイケル。


二組の婚姻を、多くの国民が祝った。


八体のゴーレムガーディアンズによるパフォーマンスも大きな話題になった。


そして、ウィスキーハイボールとブランデーハイボールまで広がった。


ライラもその反響を知っている。


だが、今日イメルダを呼んだ理由は酒ではなかった。


「イメルダ伯爵」


ライラが真っ直ぐイメルダを見る。


「我が国民も、シュタインフェルト王国とアルデバラン王国百三十カ国との縁を結んでいただけませんか?」


イメルダは少し目を見開いた。


だが困りはしなかった。


ミストバルカス公国から、正式に国際結婚の斡旋を依頼されたのである。


ライラは続けた。


「先日の結婚式を見て、改めて思いました」


国家間の関係だけではない。


すでにシュタインフェルト王国では、アルデバラン百三十カ国の国民との間に数多くの結婚が成立している。


一千万組が結婚し、その多くが国際結婚だった。


さらに三千万組の結婚も進んでいる。


国と国が交流するだけではなく、人と人が家族になっている。


「我が国も、その輪に加わりたいのです」


ライラの言葉は明快だった。


イメルダは頷いた。


「国民の皆様も希望されているのでしょうか?」


「ええ」


ライラは即答した。


「結婚式の中継以降、特に関心が高まっています」


イメルダは考えた。


結婚を強制する必要などない。


ミストバルカス公国で相手を求める者を募る。


シュタインフェルト王国とアルデバラン百三十カ国にも希望者がいる。


互いに条件を確認し、会いたい者同士を引き合わせればいい。


これまで結婚斡旋ギルドがやってきたことと変わらない。


「承知いたしました」


イメルダが答えた。


ライラの顔が明るくなる。


「引き受けていただけますか?」


「もちろんです。ただし、決めるのはご本人たちです」


「それで構いません」


ライラは笑った。


「むしろ、それがいいのです」


イメルダも微笑んだ。


相手を紹介する。


会う機会を作る。


だが最後に選ぶのは本人たちである。


ユリアンとレックスもそうだった。


リヴィアとマイケルもそうだった。


結婚斡旋ギルドが結婚を決めるのではない。


縁を結ぶきっかけを作るだけだった。


「では、ギルドへ戻り次第、準備を始めます」


「よろしくお願いします」


ライラは嬉しそうに頭を下げた。


イメルダはまだ知らない。


合同結婚式から始まった動きが、今度はミストバルカス公国の国民まで巻き込もうとしている。


一千万組の結婚。


三千万組の新たな縁談。


王族同士の婚姻。


そして今度はミストバルカス公国。


結婚斡旋ギルドが結ぶ縁は、さらに大きく広がろうとしていた。


イメルダ・シュトラウス伯爵。


これまで九度の表彰を受けてきた彼女のもとへ。


十回目の表彰の足音が、少しずつ近づいていた。




ミストバルカス公国から戻ったイメルダは、すぐに結婚斡旋ギルドへ向かった。


待っていたのは三人の副グランドマスター。


ミランダ、ミレイユ、ミアーダだった。


「ライラ女王陛下から正式な依頼をいただきました」


三人がイメルダを見る。


「ミストバルカス公国の国民と、シュタインフェルト王国、それにアルデバラン百三十カ国の国民との縁を結んでほしいそうです」


一瞬の沈黙。


そして三人の表情が変わった。


これまで結婚斡旋ギルドが結んできた縁は、すでに一つの国の中だけで完結する規模ではない。


シュタインフェルト王国では一千万組もの結婚が成立した。


その多くがアルデバラン百三十カ国との国際結婚である。


さらに三千万組の結婚も進めている。


今度はそこへ、ミストバルカス公国が加わる。


「また大きくなりますね」


ミランダが呟いた。


「ええ。でも、やることは同じよ」


イメルダは平然としていた。


国が増えたからといって、結婚そのものが変わるわけではない。


相手を求めている者を確認する。


希望を聞く。


互いに会いたいと思った者を引き合わせる。


話をしてもらう。


その先は本人たちが決める。


イメルダが最初から続けてきたことだった。


「ミストバルカス公国側の希望者を登録してもらいましょう」


「分かりました」


「シュタインフェルト王国とアルデバラン側にも知らせます」


三人はすぐに動き始めた。


イメルダが細かく指示を出す必要はなかった。


これまで一千万組の結婚を成立させ、さらに三千万組の縁談を進めている者たちである。


やるべきことは分かっている。


教導管理システムにも、ミストバルカス公国との新たな縁結びが始まることが記録された。


その情報を見た者たちの反応は早かった。


シュタインフェルト王国でも。


アルデバラン百三十カ国でも。


新たにミストバルカス公国の人々と出会う機会が生まれる。


結婚を望んでいた者にとって、選択肢が増えた。


ミストバルカス公国でも募集が始まった。


ライラ女王が望んだのは、国家同士の形式的な関係だけではない。


国民同士が出会い、互いに望めば家族になる。


合同結婚式を見た国民たちも、その意味を理解していた。


ユリアンとレックス。


リヴィアとマイケル。


二組の結婚を百三十二カ国で祝ったばかりである。


今度は、それを見ていた人々自身に縁が広がろうとしていた。


イメルダは三人の副グランドマスターが動く様子を眺めていた。


「グランドマスター」


ミレイユが声をかける。


「何かしら?」


「今回も相当な人数になりそうですね」


イメルダは少し考えてから笑った。


「それは本人たち次第でしょう」


結婚したい者がいる。


会ってみたい相手がいる。


そして実際に会い、互いに気に入れば結婚する。


人数を決めるのはギルドではない。


イメルダでもない。


選ぶのは本人たちだった。


そのころ、今回の動きを知った者たちの間では、別の話も出始めていた。


イメルダ・シュトラウス伯爵。


これまで九度も表彰されている。


一千万組の結婚を成立させ、その後も三千万組の縁を結び続けている。


王族同士の縁にも関わった。


そして今度はミストバルカス公国から、国民の縁結びを直接依頼された。


まだ何組の結婚が成立するのかも分からない。


始まったばかりである。


それでも、知っている者たちは思っていた。


またではないか。


九度で終わるはずだった表彰が、また増えるのではないか。


当のイメルダは、そんなことを考えていなかった。


三人の副グランドマスターとともに、新しく加わったミストバルカス公国との縁をどう結んでいくかを見ているだけだった。


だが本人の知らないところで。


イメルダ伯爵の十回目の表彰の足音は、確実に近づいていた。





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