↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/311

266 非人道国家打倒宣言

 七万人に増強されたシュタインフェルト王国騎士団による広域索敵が始まると、大陸の現状がこれまでとは比較にならない精度で見えるようになった。


 確認された国家は、およそ二百。


 それとは別に、すでに統治機構を失った清算国家がおよそ百。


 国境も行政も失われた土地には、今なお多くの人々が取り残されている。


 難民の数は地域によって大きく異なった。


 数千万人規模で流浪している地域もあれば、複数の清算国家跡地を合わせれば数億人に達すると推測される地域もある。


 騎士崩れ、兵士崩れ、傭兵崩れも消えたわけではない。


 大陸全体では、合計百万人を超えていた。


 ただし、シュタインフェルト王国周辺からは姿を消している。


 理由は明確だった。


 噂が広まったのである。


 シュタインフェルト王国の騎士には勝てない。


 戦おうとしても武器を奪われる。


 大人数で押し寄せても意味がない。


 かつて二万人を超える武装集団がほとんど何もできずに制圧されたことも知られていた。


 わざわざ勝ち目のない場所へ向かう者はいない。


 結果として騎士崩れや兵士崩れの多くはシュタインフェルト王国を避け、別の地域へ流れていた。


 だが、広域索敵によって見えてきた問題はそれだけではなかった。


 今なお存在する二百ほどの国家。


 その中には、明らかに非人道的な統治を続けている国家が多数存在していた。


 カイゼルは会議を招集した。


 出席したのはアイゼル・ローゼンクランツ公爵、軍務卿、騎士団長マイケル、そして宰相である。


 最初に口を開いたのは宰相だった。


「現在、我が国の未開発地は国土のおよそ六割あります」


 人口は八千万人まで増えた。


 それでも国土そのものには、まだ余裕がある。


 大規模な教導によって土魔法を使えない国民はいない。


 水も用意できる。


 未開発地を農地や居住地へ変えることは、以前ほど困難な事業ではなくなっていた。


「現在の国土だけでも、潜在的にはあと五億人ほど受け入れられると考えております」


 カイゼルは黙って聞いていた。


 五億人。


 巨大な数字ではある。


 だが、大陸全体を見れば安心できる数字ではなかった。


「しかし、いつまでもこのままというわけには参りません」


 宰相は続けた。


「現在も数千万から数億規模の難民が存在しております。今後、非人道国家からさらに人が流出すれば、受け入れる人数が増える可能性もあります」


「そうだな」


「清算国家の跡地を併合するべきです」


 以前から調査を続けてきた土地だった。


 統治者が本当に存在しないのか。


 行政組織が残っていないか。


 現地で自治が始まっていないか。


 正当な権利を主張できる者はいないか。


 そして、そこに暮らす人々がシュタインフェルト王国への編入を望むのか。


 併合ありきではなく、併合を検討できる土地なのかを確認してきた。


 カイゼルは少し考えてから答えた。


「解った。検討しよう」


 宰相が頷く。


 だが、カイゼルの話はそこで終わらなかった。


「だが、その前に非人道国家を倒そう」


 四人の視線がカイゼルへ集まった。


「大陸には二百ほどの国が残っている。その中に、人を隷属させている国が多数あることも確認できた」


 カイゼルは続けた。


「二百くらいあるが、今の我々なら問題ないだろう」


 七万人の王国騎士。


 十一属性。


 広域索敵。


 リモート・ビューイング。


 クレヤボヤンス。


 クレアオーディエンス。


 サイコメトリー。


 ポストコグニション。


 テレポーテーション。


 アポート。


 ステルス――隠蔽魔法。


 それらを一部の精鋭ではなく、七万人が身につけている。


「隷属されている者たちを解放する」


 カイゼルは四人を見渡した。


「そして、人類の敵となっている国家を滅ぼそうじゃないか」


 誰も口を挟まなかった。


「我々はアルデバランとは違う」


 アルデバランは巨大な力を持ちながら、大陸の支配者になる道を選ばなかった。


 シュタインフェルト王国まで、まったく同じ選択をする必要はない。


「国土が足らなくなるというのであれば、清算国家跡地の併合もやむなしだ。意見はあるか?」


「賛成です」


 アイゼルが答えた。


 軍務卿も頷く。


「異論ございません」


「私も賛成いたします」


 マイケルが続き、宰相も同意した。


 カイゼルは四人の意思を確認した。


「ではアイゼル、マイケル、軍務卿。作戦立案を頼む」


 三人がカイゼルを見る。


 カイゼルは最後に念を押した。


「一国ずつだぞ」


「御意」


 シュタインフェルト王国は、初めて自らの意思で非人道国家を倒す準備に入った。




 会議が終わると、アイゼル、軍務卿、騎士団長マイケルはそのまま作戦立案に入った。


 カイゼルが命じたのは非人道国家の打倒である。


 だが、二百ほど残っている国家を一度に相手にするつもりはない。


 一国ずつ。


 その言葉には意味があった。


 軍務卿が教導管理システムに登録された広域索敵の結果を確認する。


「まず対象を選定する必要があります」


 同じ非人道国家といっても、状況はそれぞれ違う。


 奴隷を大量に使っている国。


 国民を隷属させている国。


 重税で民から食料まで奪っている国。


 支配層だけが富を独占し、逃げようとする者を捕らえている国。


 軍によって住民を押さえつけている国もあった。


 それらを一括りにして攻めるわけにはいかない。


 アイゼルが言った。


「最初にやるべきは確認だな」


「はい」


 マイケルが頷いた。


 七万人の騎士が得た能力は、戦うためだけにあるものではない。


 広域索敵で国全体を見る。


 リモート・ビューイングで離れた場所を確認する。


 クレヤボヤンスとクレアオーディエンスを使えば、さらに情報を集められる。


 必要ならステルス――隠蔽魔法を使って現地へ入ることもできる。


 何かが行われた場所ならサイコメトリー。


 過去に何が起きたのかを調べるならポストコグニション。


 支配者が何を言っているかだけで判断する必要はなかった。


 実際に何が行われているのかを、自分たちで確認できる。


「非人道国家と判断した以上、倒すことには異論はない」


 アイゼルは表示された情報を見ながら続けた。


「だが、国を倒せば終わりではない」


 軍務卿も同じことを考えていた。


 敵軍を倒すだけなら難しくない。


 今のシュタインフェルト王国騎士団と正面から戦える軍隊は、そう多くない。


 まして七万人全員が十一属性を持ち、索敵やアポート、テレポーテーションまで使える。


 問題は戦闘のあとだった。


「国民が残ります」


 軍務卿が言った。


「兵士も残ります。役人もおります。商人も職人も農民もいる。支配層を排除した瞬間に、それらが消えるわけではありません」


 アイゼルが頷く。


「だから一国ずつか」


「そう考えるべきでしょう」


 支配者を倒す。


 隷属されている者を解放する。


 そこで放置すれば、新たな混乱を生む可能性がある。


 騎士崩れや兵士崩れが大陸に百万人以上存在する理由を、彼らはすでに知っていた。


 国だけ壊して、人を荒野へ放り出してはいけない。


 マイケルが言った。


「武装している者についても、最初から殺す必要はありません」


 アポートで武器を奪える。


 捕縛魔法も拘束魔法もある。


 大人数を相手にした経験も、すでに積んでいる。


 抵抗する能力を奪ったうえで、一人ずつ確認できる。


 完全な悪党なのか。


 命令に従っていただけなのか。


 生きるために兵士をしていたのか。


 それを分けずに処理する必要はない。


「隷属されている者の位置も先に把握しておきたい」


 アイゼルが言った。


「戦闘になったときに巻き込んでは意味がない」


「同意します」


 軍務卿は対象国内の情報をさらに細かく分けていった。


 王宮。


 軍施設。


 兵士の配置。


 牢。


 奴隷が集められている場所。


 農村。


 都市。


 倉庫。


 街道。


 国を倒すための情報だけではない。


 倒したあと、その国で人が暮らし続けるために必要なものも確認する。


 マイケルは騎士団の運用を考えていた。


 七万人を最初から一国へ投入する必要はない。


 必要な人数を見極める。


 残る騎士はシュタインフェルト王国内の治安維持を続ける。


 人口八千万人の国を空にしてまで遠征する理由はなかった。


「まず一国を徹底的に調べましょう」


 マイケルが言った。


「必要な情報を揃え、必要な人数を決める。それから動くべきです」


 アイゼルと軍務卿が頷いた。


 一国を倒す。


 隷属された者を解放する。


 武装した者を選別する。


 残された住民の生活を壊さない。


 そして、その結果を確認してから次へ進む。


 カイゼルの言った一国ずつとは、単に順番に攻めるという意味ではなかった。


 一つの国に最後まで向き合ってから、次へ進む。


 三人は最初の対象国を選ぶため、広域索敵によって集められた情報の精査を始めた。




 広域索敵によって得られた情報を確認しながら、アイゼルは作戦の順序を組み立てていった。


「最初に武器だな」


 軍務卿が頷く。


「徹底的に回収するべきでしょう」


 兵士が持っている武器だけではない。


 王宮。


 兵舎。


 城壁。


 詰所。


 武器庫。


 貴族の屋敷。


 保管場所は索敵で確認できる。


 さらにリモート・ビューイングやクレヤボヤンスを併用すれば、隠された武器まで探せる。


 位置が分かればアポートがある。


「武器庫は空にする」


 アイゼルが言った。


「剣も槍も弓も回収する。兵士が手に持っている物もだ。最初に反撃する手段を奪ってしまえばいい」


 マイケルも異論はなかった。


 相手の軍隊と正面から戦う必要がない。


 戦闘が始まってから武器を奪うのではなく、始まる前に奪う。


 武器を回収したあとで、人の保護に移る。


 その順序も決めた。


 奴隷。


 隷属民。


 娼婦。


 孤児。


 最初に保護するのは、自分の意思だけでは現在の環境から逃れにくい者たちだった。


 所在は事前に確認する。


 牢や奴隷収容施設だけとは限らない。


 鉱山。


 農地。


 工房。


 貴族の屋敷。


 娼館。


 それぞれに騎士を向かわせる。


 軍務卿が確認した。


「保護対象を確保したあと、自由国民へ移りますか」


「ああ」


 アイゼルが答えた。


「自由国民も保護する。国を潰した結果、民を危険に晒しては意味がない」


 農民も商人も職人もいる。


 普通に家族と暮らしている者もいる。


 為政者が非人道的だからといって、国民まで同じ責任を負わせる理由はなかった。


 マイケルが作戦の流れを整理する。


「武器の回収。奴隷、隷属民、娼婦、孤児の保護。その後、自由国民の保護。ここまでを先に行います」


「それでいい」


 問題は抵抗する者だった。


 だが、それについても今の騎士団なら難しい判断ではない。


「抵抗する者は捕縛、拘束でいいだろう」


 アイゼルが言った。


「殺す必要はない。その場で動けなくしておけばいい」


 捕縛する。


 拘束する。


 そのまま放置する。


 すでに武器は回収されている。


 拘束を破ることができなければ、周囲へ危害を加えることもできない。


 戦闘を続ける理由そのものがなくなる。


 軍務卿が続けた。


「その状態で降伏勧告を行いましょう」


 アイゼルが頷いた。


「降伏した者は保護する」


 兵士であっても同じだった。


 騎士であってもいい。


 役人でも構わない。


 武器を失い、それでも抵抗するなら拘束する。


 だが、降伏するのであれば保護対象に移す。


 マイケルが言った。


「これなら、相手側の兵士にも選択する時間を与えられます」


 戦って死ぬ必要はない。


 降伏すればいい。


 自分から武器を捨てる必要すらない。


 その武器は先にこちらが回収してしまう。


 残るのは、抵抗を続けるか、降伏するかという選択だった。


「為政者側は別だ」


 アイゼルの言葉に、二人が頷いた。


 奴隷を使っていた者。


 人々を隷属させていた者。


 非人道的な統治を行っていた者。


 その責任まで、一般国民や末端の兵士へ押しつけるつもりはない。


 責任を負うべき者に負わせる。


「為政者側の処刑は最後だ」


 軍務卿が言った。


「保護すべき者をすべて保護し、抵抗する者を無力化し、降伏する者を受け入れたあとですね」


「そうだ」


 アイゼルは作戦の順序を確認した。


 武器を奪う。


 武器庫を空にする。


 奴隷、隷属民、娼婦、孤児を保護する。


 自由国民を保護する。


 抵抗者は捕縛、拘束する。


 降伏を勧告する。


 降伏した者は保護する。


 そして最後に、非人道的な国家を作り、その体制を維持してきた為政者側の責任を問う。


 マイケルが静かに頷いた。


「これなら、国を滅ぼしても民を滅ぼすことにはなりません」


 アイゼルは教導管理システムに表示された最初の対象国を見た。


「この線でいいだろう」


 軍務卿とマイケルが頷いた。


 倒すのは国民ではない。


 人を隷属させる仕組みと、それを維持してきた為政者だった。




 作戦の骨格が固まったところで、アレクサンド侯爵がアイゼルに提案した。


「このような作戦を多数経験してきた者たちがいます」


 アイゼルが視線を向ける。


「熟練しています。同行させてはいかがでしょう?」


 シュタインフェルト王国騎士団には力がある。


 七万人まで増員され、十一属性だけではなく、索敵や特殊能力まで徹底して教導された。


 だが、非人道国家へ入り、武装解除から住民保護までを一つの作戦として行うのは初めてだった。


 アイゼルは迷わなかった。


「よろしく頼む」


「承知しました」


 アレクサンドが選んだのは、実際に同様の作戦を経験してきた者たちだった。


 Aランク冒険者貴族から五班。


 一班は班長ガイル、ライアン、アレックス、シェーン、カイル。


 二班は班長フェリクス、クリス、キーガン、アルバート、コリン。


 三班は班長ロイド、ランドン、アンソニー、キャム、ヤラミル。


 四班は班長ブラッド、キャメロン、ザック、トレバー、ケード。


 五班は班長レオン、ガレス、ミリア、エリック、アダムス・キンバリー。


 冒険者貴族からは、エース、レビン、トレノ、イプシオ、スレット、ベロニカ、ジリアン、ハーレイ、アレッタ。


 神官貴族からは、アリシア、アリー、アレクサ、ゴルディ、ナターシャ、マックス、リッキー、トレイ、シュー、チャド。


 王国騎士団の若手も加わる。


 男子はアギト、ポール、ボーデン、スペンサー、パトリック、チェース、ブレンドン、ジェームソン、シェーン、コルネリズ。


 女子はアーウェン、ジェーン、ローラ、ビィナ、キラ、リア、アンナ、シンディ、ケイトリン、ギーナ。


 さらに一班のポリー、スカーレット、レベル。


 二班のアメリア、アドリアーナ、クリスティ。


 三班のフェビー、レキシー、アビー、イザベラも同行する。


 それだけではなかった。


 ミストバルカス公国からも経験者が加わった。


 シメオン、ジェーク、リッキー、チャド、ホセ、パトリック、シェーン、ラザロ、ブレイドン、コデイ。


 アイゼルは参加者を確認していった。


 人数そのものは多くない。


 だが、今回必要なのは兵力の補充ではなかった。


 七万人の王国騎士団がいる以上、戦力が足りないわけではない。


 必要なのは経験だった。


 武器を持つ者だけを見ていてはいけない。


 武器庫を空にしても、別の場所に武器が隠されていることがある。


 奴隷、隷属民、娼婦、孤児がどこにいるのかを把握し、先に保護しなければならない。


 その後に自由国民を保護する。


 抵抗者は捕縛、拘束する。


 降伏勧告を行い、降伏した者は保護する。


 そして為政者側の責任を問う。


 順序を間違えれば、救える者まで混乱に巻き込む。


 アレクサンドが言った。


「彼らには、それを実際に経験してきた者がいます」


 アイゼルはミストバルカス公国から来た者たちにも目を向けた。


 ホセたちは、かつて武器を持ったまま行き場を失った者を放置すればどうなるのかにも気づいた。


 犯罪者になってから捕らえるのではない。


 犯罪者になる前に、別の道を作る。


 今回も、国を倒したあとには多くの兵士や騎士が残る。


 武器を奪えば終わりではなかった。


 マイケルも意図を理解した。


「我々が作戦を覚えるための同行ですな」


「そういうことだ」


 アイゼルが答えた。


 経験者に任せきりにするつもりはない。


 シュタインフェルト王国が決めた作戦である。


 実行するのもシュタインフェルト王国騎士団だ。


 経験者には同行してもらい、現場で気づいたことを伝えてもらう。


 一国目で学ぶ。


 二国目では、その経験を使う。


 さらに経験を積めば、シュタインフェルト王国の騎士たち自身が次の者へ伝えられる。


 軍務卿が言った。


「一国ずつという陛下の判断が、ここでも生きますな」


「ああ」


 一度に二百国を相手にする必要はない。


 一国を確実に終わらせる。


 そこで得た経験を次へ持っていく。


 戦力はすでにある。


 今度は経験を積み上げればいい。


 アイゼルは参加者の登録を確認した。


「では、最初の一国で手順を完成させよう」


 非人道国家を倒すためだけではない。


 隷属された者を救い、その後に新たな混乱を残さないための作戦が始まろうとしていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。