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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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265/311

265 1億人国家

 シュタインフェルト王国の人口は八千万人に達していた。


 少し前まで二千万人だった国である。


 避難民を受け入れ、教導し、町を造り、仕事を増やしてきた。


 さらに噂を聞いた避難民が、自分たちからシュタインフェルトを目指すようになった。


 人口の増加はまだ止まっていない。


 カイゼル王は、王宮で宰相、アイゼル公爵、騎士団長マイケルと今後の体制について話していた。


「現在の王国騎士団は七百人だったな」


 マイケルが答えた。


「はい」


 カイゼルは少し考えた。


 二千万人だった頃なら、それでも王国騎士団として機能していた。


 だが、今は八千万人である。


 新しい町が増えた。


 街道が延びた。


 農地も広がった。


 冷凍倉庫や冷蔵倉庫、普通倉庫が建ち、物資の流れも大きくなっている。


 各地には自警団も組織され、王国騎士団の下部組織として教導管理システムで一元管理されるようになった。


 それでも、王国騎士団そのものが七百人のままでいいとは思えなかった。


「百倍にする」


 マイケルがカイゼルを見る。


「七万人だ」


 カイゼルは続けた。


「人口が増えてから慌てて騎士を増やすつもりはない。一億人になっても耐えられる体制を先に作る」


 アイゼルも異論を挟まなかった。


 アレクサンド侯爵が避難民の増加を予測し、必要になる前から受け入れ能力を作った。


 その判断があったからこそ、三千万人が新たに訪れても対応できた。


 同じことを今度は王国自身がする。


 八千万人に合わせるのではない。


 その先を見る。


「七万人は全員、徹底的に教導せよ」


 カイゼルが言った。


「十一属性は当然として、索敵能力を重視する」


 ただ戦えるだけの騎士を七万人作るつもりはなかった。


 何かが起きてから駆けつけるだけでは遅い。


 見つける力が必要だった。


「リモート・ビューイング。クレヤボヤンス。クレアオーディエンス」


 離れた場所を見る。


 通常では確認できないものを捉える。


 離れた場所の音を聞く。


「サイコメトリー。ポストコグニション」


 物や場所に残された情報から、何が起きたのかを調べる。


「テレポーテーション」


 異常を確認すれば、距離に縛られず移動できる。


「ソートグラフィー。フォアサイト。プレコグニション」


 得たものを記録し、これから起こり得ることまで確認する。


「そしてアポートだ」


 危険な武器を奪う。


 相手を殺さずに無力化するためにも使える。


 マイケルは黙って聞いていた。


 どれも、これまでの騎士の常識から考えれば異常な能力だった。


 だが、すでにシュタインフェルト騎士団は、その有効性を何度も目にしている。


 敵がどこにいるのか分からない。


 何が起きたのか分からない。


 到着するまでに時間がかかる。


 証拠が残っていない。


 そうした問題そのものを減らす能力だった。


「七万人全員に必須とする」


 カイゼルは明言した。


「一部の精鋭だけが使えても意味がない。どこへ配置された騎士でも、同じように調査し、判断し、動けるようにしろ」


「御意」


 マイケルが答えた。


 カイゼルは今度は宰相を見た。


「騎士だけではない」


「はい」


「現在、文官は三千人だったな」


「その通りです」


「二十倍にする。六万人体制だ」


 宰相は驚かなかった。


 八千万人の行政を三千人で支え続ける方が無理がある。


 しかも人口増加はまだ続いている。


 住民登録。


 町の管理。


 税。


 物流。


 倉庫。


 農地。


 商業。


 自警団との連携。


 避難民の受け入れ。


 清算された国家跡地の調査も進んでいる。


 国が大きくなれば、行政が扱うものも増える。


「今の八千万人に合わせるな」


 カイゼルが言った。


「一億人国家になっても耐えられる行政を作れ」


 宰相は一度だけ深く頷いた。


「御意」


 七万人の王国騎士団。


 六万人の文官。


 人口が一億人になってから考えるのではない。


 なる前に作る。


 シュタインフェルト王国は、八千万人の国を維持するためではなく、その先の一億人国家を支える体制を作り始めた。




 カイゼルが求めたのは、単純な騎士団の増員ではなかった。


 七百人から七万人。


 人数だけを百倍にしても意味はない。


 新たに王国騎士となる者たちにも、現在の騎士たちと同じように徹底した教導を行う。


 十一属性。


 索敵魔法。


 リモート・ビューイング。


 クレヤボヤンス。


 クレアオーディエンス。


 サイコメトリー。


 ポストコグニション。


 テレポーテーション。


 ソートグラフィー。


 フォアサイト。


 プレコグニション。


 アポート。


 そしてステルス――隠蔽魔法。


 マイケルは必要な能力を教導管理システムへ登録した。


 誰が何を習得したのか。


 どの能力が不足しているのか。


 どこまで教導が進んでいるのか。


 人数が七万人になっても、教導管理システムで一元管理できる。


 教導も七百人だけで行うものではなかった。


 習得した者が次の者を教える。


 教えられた者が習得すれば、その者も教える側へ回る。


 教導する側そのものが増えていく。


 七万人という数字だけを見れば途方もない人数だが、これまで数千万人への教導を経験してきたシュタインフェルトにとって、方法そのものはすでに珍しいものではなかった。


 マイケルが重視したのは、能力を持っているだけの騎士にしないことだった。


 索敵で見つける。


 リモート・ビューイングで離れた場所を見る。


 クレヤボヤンスやクレアオーディエンスも使って状況を確認する。


 必要ならステルスで存在を隠して調査する。


 事件が起きた場所ではサイコメトリーやポストコグニションを使う。


 未来に危険があるなら、フォアサイトやプレコグニションも使える。


 確認したものはソートグラフィーで残す。


 遠方で対応が必要ならテレポーテーションする。


 武器を持った相手を無力化するなら、アポートで武器を奪うこともできる。


 剣を抜くより先にできることが、いくつもあった。


 それらを七万人全員が使えるようにする。


 特別な部隊だけではない。


 王都にいる騎士だけでもない。


 各地へ配置される王国騎士が同じ能力を持つ。


 自警団から異常が登録されれば、騎士団は教導管理システムで確認できる。


 必要なら離れた場所から調べることもできる。


 現地へ行く必要があれば、すぐに移動できる。


 七万人という人数と、教導によって得られた能力。


 その両方が揃って初めて、一億人を守る騎士団になる。


 一方、宰相も文官の増員を始めていた。


 三千人から六万人。


 二十倍である。


 こちらも人数だけを揃えるつもりはない。


 行政スキル。


 組織スキル。


 教導管理システムの運用。


 必要な能力を教導し、各地へ配置していく。


 現在の人口は八千万人。


 住民登録だけでも以前とは規模が違う。


 避難民の町。


 農地。


 商業。


 税。


 倉庫。


 物流。


 冒険者ギルド。


 魔道具工房。


 狩り部隊。


 食肉調達部隊。


 自警団。


 王国が扱うものは増え続けている。


 宰相は、六万人の文官をただ王都へ集めることはしなかった。


 現地で処理できるものは現地で処理する。


 情報は教導管理システムへ登録する。


 王都で確認する必要があるものは共有する。


 同じ情報を何度も集め直す必要はない。


 人口が増えても、行政の仕事まで同じ割合で膨れ上がらないようにする。


 アイゼルは騎士団と文官、それぞれの教導状況を確認していた。


「七万人と六万人か」


 以前のシュタインフェルトなら考えられない規模だった。


 だが、人口そのものがすでに八千万人である。


 さらに人は訪れ続けている。


 カイゼルが言った一億人という数字も、遠い将来の話ではなかった。


 だから、今の八千万人に合わせて体制を作るのでは遅い。


 一億人を前提にする。


 そこから逆算して、今必要なものを揃える。


 騎士団は七万人。


 文官は六万人。


 教導管理システムによる一元管理。


 各地の自警団も王国騎士団の下部組織としてすでに動き始めている。


 カイゼルは教導の進捗を確認すると、マイケルと宰相に告げた。


「一億人になってから体制を変えるのでは遅い。先に完成させておけ」


「御意」


 二人が答えた。


 人口が増えるたびに追いかけるのではない。


 次に必要になる規模を予測し、その前に備える。


 シュタインフェルト王国は、一億人国家になるための器を先に作り始めていた。




 王国騎士団の増員と文官の増員は並行して進められた。


 騎士七万人。


 文官六万人。


 数字だけを見れば、以前のシュタインフェルト王国とは比較にならない規模である。


 だが、人数を揃えるだけなら難しくない。


 人口は八千万人いる。


 問題は、その者たちが何をできるかだった。


 騎士団長マイケルは教導管理システムで進捗を確認していた。


 十一属性の習得。


 索敵魔法。


 リモート・ビューイング。


 クレヤボヤンス。


 クレアオーディエンス。


 サイコメトリー。


 ポストコグニション。


 テレポーテーション。


 ソートグラフィー。


 フォアサイト。


 プレコグニション。


 アポート。


 ステルス――隠蔽魔法。


 一つ習得するごとに記録が更新されていく。


 教導された者は、次の者へ教える。


 最初は七百人だった王国騎士団の中から教える者が出た。


 新しく習得した者も教える側へ回った。


 教える者が増えれば、それだけ教導も速くなる。


 やがて七万人の教導が完了した。


 マイケルは実際の運用も確認した。


 索敵で広い範囲を確認する。


 不審な動きがあれば、すぐに現地へ突入するのではない。


 リモート・ビューイングやクレヤボヤンスで状況を調べる。


 必要ならクレアオーディエンスで音も拾う。


 さらに近づく必要があるなら、ステルスで存在を隠す。


 何かが起きたあとなら、残された物へサイコメトリーを使う。


 場所そのものを確認する必要があれば、ポストコグニションも使える。


 情報を得たあとで動く。


 その順序が徹底されていった。


 相手が武器を持っていても、すぐに斬り合う必要はない。


 アポートで武器を奪える。


 遠方で事件が起きても、テレポーテーションがある。


 確認した情報はソートグラフィーで残せる。


 さらにフォアサイトやプレコグニションまで使える。


 七万人の騎士が、ただ戦えるだけの七万人ではなくなった。


 見つける。


 調べる。


 確かめる。


 記録する。


 移動する。


 無力化する。


 それぞれを一人の騎士が行える。


 マイケル自身、以前なら多数の騎士を動かして調べていたことを、今では現地の騎士だけで処理できる場合が増えていることに気づいた。


 しかも各地には自警団がいる。


 日常的な警戒は自警団が行う。


 異常を見つければ教導管理システムへ登録する。


 王国騎士団は、その情報を確認して必要な対応を行う。


 自警団だけでは難しい問題を騎士団が引き受ける。


 役割がはっきりしていた。


 一方、六万人となった文官たちも各地へ配置され始めていた。


 こちらも行政スキルと組織スキルを教導されている。


 八千万人分の行政を、王都だけで処理する必要はない。


 各地の行政組織で処理できるものは、その場で処理する。


 住民に関する情報。


 税。


 生産。


 倉庫。


 物流。


 農地。


 商業。


 必要な情報は教導管理システムへ登録される。


 宰相は王都にいながら、各地の状況を確認できた。


 逆に、地方の文官も必要な情報を確認できる。


 王都へ報告が届くまで待つ必要もない。


 書類を何度も作り直す必要もなかった。


 宰相は各地の行政状況を見ながら、一つずつ確認していった。


 人口が増えた町。


 新しく造られた町。


 避難民が自分たちで運営を始めた町。


 それぞれに必要な文官が配置されている。


 税を納める側も増えていた。


 避難民だった者たちからは、すでに莫大な金属インゴットが納められている。


 守られるだけだった者が働き始める。


 働く者が増えれば生産が増える。


 生産が増えれば税収も増える。


 人口が増えることは、行政の負担だけが増えることではなかった。


 カイゼルは、騎士団と行政の進捗を確認した。


 七万人の騎士。


 六万人の文官。


 各地の自警団。


 そして、それらをつなぐ教導管理システム。


「これなら一億人になっても慌てずに済むな」


 宰相が答えた。


「はい。少なくとも、人口が増えてから人員を揃える必要はありません」


 カイゼルは頷いた。


 八千万人に必要な体制を作ったのではない。


 次に来る規模を見て、先に用意した。


 シュタインフェルト王国には、一億人を迎えるための治安と行政の器が整い始めていた。




 七万人となった王国騎士団。


 六万人となった文官。


 その配置と教導が進むにつれて、シュタインフェルト王国の動きは変わっていった。


 王国騎士団は各地へ配置された。


 その下には自警団がある。


 自警団は日常の治安を見守り、異常を発見すれば教導管理システムへ登録する。


 王国騎士団はその情報を確認する。


 索敵を使う。


 必要ならリモート・ビューイング、クレヤボヤンス、クレアオーディエンスを使って現地の状況を調べる。


 事件の痕跡が残っていれば、サイコメトリーやポストコグニションがある。


 相手に気づかれず調査する必要があれば、ステルス――隠蔽魔法を使う。


 危険が予測されるなら、フォアサイトやプレコグニションも使える。


 遠ければテレポーテーションで移動する。


 武装した相手ならアポートで武器を奪う。


 確認した情報はソートグラフィーで残すこともできた。


 事件が起きる。


 報告を受ける。


 騎士を集める。


 現地へ向かう。


 到着してから調査を始める。


 以前なら必要だった時間が、大幅に減っていた。


 しかも、それを一部の精鋭だけが行うのではない。


 七万人の王国騎士が同じ能力を持っている。


 マイケルが王国全体の状況を一人で追い続ける必要もなかった。


 現地の騎士が調べ、判断し、必要な対応を行う。


 大きな問題なら騎士団全体へつなぐ。


 その情報は教導管理システムで共有されていた。


 行政も同じだった。


 六万人の文官が各地へ配置され、それぞれの地域で行政を担う。


 王都の宰相が一つ一つ判断しなければ動かない仕組みにはしなかった。


 住民登録。


 税。


 農業。


 商業。


 物流。


 倉庫。


 町の運営。


 各地で処理できるものは各地で処理する。


 必要な情報は教導管理システムへ登録される。


 宰相は王国全体を見ることができる。


 同時に、各地の文官も自分たちに必要な情報を確認できた。


 人口が増えても、そのすべてを王都へ集めて処理する必要はない。


 カイゼル、アイゼル、宰相、マイケルは、整備された体制を改めて確認した。


「八千万人か」


 カイゼルが呟いた。


 少し前まで二千万人だった。


 それが五千万人になった。


 さらに三千万人が加わり、八千万人になった。


 それでも食料は不足していない。


 食料充足率は百八十パーセントに達している。


 狩り部隊と食肉調達部隊が動く。


 農地では作物が作られる。


 冷凍倉庫、冷蔵倉庫、普通倉庫も整備された。


 素材は冒険者ギルドへ流れる。


 魔石は魔道具工房へ流れる。


 避難民だった者たちも働き、金属インゴットで税を納めるまでになった。


 自警団も各地にある。


 そして今度は、七万人の騎士と六万人の文官が揃った。


 アイゼルが言った。


「人が増えるたびに問題が増えると思っていた時期もありましたな」


 カイゼルは頷いた。


「実際、増えている」


 住居が必要になる。


 食料も必要になる。


 仕事も必要になる。


 行政も治安も必要になる。


 八千万人なら、八千万人分の問題がある。


「だが、増えるのは問題だけではない」


 カイゼルは続けた。


 働く者も増える。


 作る者も増える。


 教える者も増える。


 守る者も増える。


 税を納める者も増える。


 元避難民だった者が、次に来た避難民を受け入れる側へ回ることさえある。


 宰相が頷いた。


「受け入れた人数を、そのまま行政負担として数える必要はなくなりました」


 保護した直後は支える必要がある。


 だが、その状態が続くわけではない。


 教導を受ける。


 自分で仕事を選ぶ。


 生活を作る。


 やがて王国を支える側へ回る。


 カイゼルは教導管理システムに表示された人口を見た。


 八千万人。


 まだ一億人ではない。


 だが、体制はすでにその先を見て作られている。


「一億人になってから考えることは、もうないな」


 宰相が答えた。


「人口が一億人になったときに必要になるものは、これからも確認を続けます。ですが、少なくとも行政と治安については、先に準備できました」


「それでいい」


 カイゼルは頷いた。


 一億人になったから、一億人国家になるのではない。


 一億人が暮らしても困らない国を先に作る。


 人口八千万人のシュタインフェルト王国は、すでに一億人国家を支えるための準備を進めていた。





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