263 狩り部隊と食肉調達部隊
シュタインフェルト王国では、かつて騎士崩れとして捕らえられた者たちの生活も変わり始めていた。
国を失った元騎士。
所属する軍を失った元兵士。
雇い主を失った傭兵。
行き場をなくし、武器を持ったまま集団となり、食料を求めて各地を荒らしていた者も多い。
シュタインフェルト騎士団に捕縛されたあと、鑑定によって完全悪党ではないと判断された者たちは処刑されなかった。
食事を与えられ、これからどうするのかを選ぶ機会を与えられた。
その中からシュタインフェルト王国で生きることを選んだ者たちは、すでに捕虜ではない。
シュタインフェルト国民である。
シメオン、ジェーク、リッキー、チャド、ホセ、パトリック、シェーン、ラザロ、ブレイドン、コデイの十人は、その中から十万人以上を集めた。
目的は教導だった。
元々、戦うことについては経験がある。
足りないのは、新しく得られる力の使い方だった。
魔力操作。
魔力循環。
魔法。
索敵。
飛行。
鑑定。
アイテムボックス。
シメオンたちは順番に教えていった。
教導された者が増えれば、今度はその者も周囲へ教える。
十人だけですべてを教え続ける必要はない。
覚えた者から次へ伝わり、教導を受ける人数は急速に増えていった。
ある程度まで進んだところで、実際に魔物を使った訓練も始まった。
最初に索敵する。
魔物の位置と数を把握する。
対象を決めれば捕縛する。
さらに拘束し、動けない状態にする。
そのまま窒息させる。
魔物の動きが止まると鑑定を使い、死亡を確認する。
死亡が確認できれば、アイテムボックスへ収納する。
索敵。
捕縛。
拘束。
窒息。
鑑定。
収納。
一連の流れを何度も繰り返した。
元騎士や元兵士たちは、これまでとはまるで違う狩り方に慣れていった。
剣を構えて魔物へ接近する必要がない。
槍の間合いまで踏み込む必要もない。
先に索敵し、捕縛と拘束で動きを封じてから仕留める。
魔物から反撃を受ける危険を大幅に減らすことができた。
それでも油断はしない。
索敵で周囲を確認し、別の魔物が近づいていないことも確かめながら作業を続ける。
戦闘経験があるからこそ、安全を確認する意味も理解していた。
やがて十万人以上の教導が進んだ。
シメオンたちは、その者たちを二つの役割へ分けた。
狩り部隊。
食肉調達部隊。
狩り部隊は広い範囲へ出て魔物を探し、狩る。
食肉調達部隊は、確保された魔物から王国で必要となる食肉を安定して供給する。
シュタインフェルト王国の人口は八千万人まで増えている。
農地も広がり、農作物の生産量も増えていた。
だが、人が増えれば必要な食料も増える。
魔物の肉も、王国を支える重要な食料だった。
十万人以上が継続して狩りに出れば、確保できる量も大きく変わる。
かつて武器を持って街道をさまよっていた者たちが、今ではシュタインフェルト国民の食料を確保するために動いている。
同じ戦う力でも、使い方は違った。
人から奪うためではない。
自分たちが暮らす国へ食料を持ち帰るために使う。
狩りを終えた者たちが次々と戻ってきた。
アイテムボックスには狩った魔物が収納されている。
それは十万人以上の新しい国民が、自分たちの仕事で得たものだった。
狩り部隊と食肉調達部隊。
シュタインフェルト王国の八千万人を支える、新しい仕事が動き始めていた。
狩り部隊と食肉調達部隊が動き始めると、次に必要になるものが見えてきた。
十万人以上が継続して魔物を狩る。
当然、持ち帰る量も多い。
食肉だけではない。
皮。
牙。
角。
骨。
爪。
その他、魔物から取れる素材が大量に集まる。
さらに魔石もある。
これらを一か所へ積み上げておくだけでは意味がない。
必要とする場所へ流す仕組みが必要だった。
シメオンたちは、それぞれの行き先を決めていった。
魔物素材は冒険者ギルドへ販売する。
冒険者ギルドなら素材の価値を判断できる。
必要とする職人や商人への流通もすでに持っている。
狩り部隊が独自に販売先を探すより、既存の仕組みを使った方が早い。
持ち込まれる量が増えれば、冒険者ギルド側もそれに合わせて動く。
素材を必要とする者へ販売し、各地へ流していく。
魔石は魔道具工房へ卸すことになった。
シュタインフェルト王国では、生活の中で使われる魔道具も増えている。
人が増えれば、必要となる数も増える。
その材料となる魔石を継続して供給できることには意味があった。
狩った魔物から得られた魔石が工房へ運ばれ、魔道具へ変わる。
それを国民が使う。
狩りで得られたものが、そのまま王国の生活を支える材料になっていった。
そして、もっとも量が多いのが食肉だった。
人口八千万人。
食肉調達部隊が扱う量も、それに合わせて大きくなる。
少量なら、その日に売ればいい。
だが、十万人以上が狩りを続ければそうはいかない。
狩れた日に大量に出回り、狩れなければ不足するようでは安定した供給とは言えない。
そこで食肉については、王宮と確約書を交わして管理することになった。
どれだけ確保されたのか。
どれだけ保管するのか。
どれだけ市場へ流すのか。
必要な量を把握しながら供給する。
食肉調達部隊にとっても利点がある。
大量に狩っても、売れるかどうかを毎回心配する必要がない。
王国側も、継続的に食肉が入ってくる量を把握できる。
狩り部隊が仕事として続けるためにも、安定した取引先は必要だった。
確約書が交わされると、次は保管場所の整備が始まった。
冷凍倉庫。
冷蔵倉庫。
普通倉庫。
三種類を用意する。
大量に確保された食肉を長期間保存するなら、冷凍倉庫へ入れる。
近いうちに流通させる食肉は冷蔵倉庫。
温度管理を必要としない物資は普通倉庫へ保管する。
狩り部隊や食肉調達部隊だけが使う小さな施設では足りない。
今後も継続して魔物を狩ることを前提に、十分な容量を持つ倉庫が必要だった。
建設が始まった。
シュタインフェルト国民はすでに全員が魔法を使える。
土魔法で土地を整える。
建物の基礎を作る。
必要な部材を組み上げていく。
冷凍倉庫と冷蔵倉庫には、保管に必要な設備も整えていった。
狩りを続ける者。
食肉を扱う者。
倉庫を造る者。
冒険者ギルドで素材を扱う者。
魔道具工房で魔石を受け入れる者。
それぞれが自分の仕事を進めた。
やがて狩りから戻ってきた者たちが、確保したものをそれぞれの行き先へ渡すようになった。
素材は冒険者ギルドへ。
魔石は魔道具工房へ。
食肉は確約書に基づいて管理され、必要な分が保管される。
ただ魔物を大量に狩るだけではない。
狩ったあと、どう使うのか。
どこへ流すのか。
どれだけ蓄えるのか。
そこまで決まって初めて、十万人以上の狩りが継続できる仕事になる。
かつて騎士崩れだった者たちが確保したものが、少しずつ王国の中を流れ始めていた。
狩り部隊と食肉調達部隊の活動は、その後も続いた。
十万人以上が一度に同じ場所へ向かうわけではない。
各地へ分かれ、索敵を使いながら魔物を探す。
発見すれば捕縛する。
拘束して動きを封じる。
窒息させ、動きが止まれば鑑定で死亡を確認する。
死亡が確認できればアイテムボックスへ収納する。
一連の作業はすでに定着していた。
狩りを終えた者たちが戻ってくると、確保したものがそれぞれの流通へ乗せられる。
素材は冒険者ギルドへ販売される。
皮や角、牙、骨など、用途はそれぞれ違う。
冒険者ギルドがまとめて扱うことで、必要とする職人や商人へ流すことができた。
魔石は魔道具工房へ卸された。
毎日のようにまとまった量が入ってくる。
魔道具工房にとっては、材料を安定して確保できるようになったことが大きかった。
そして食肉は、王宮との確約書に基づいて管理された。
冷凍倉庫。
冷蔵倉庫。
普通倉庫。
建設された三種類の倉庫が使われ始めた。
すぐに流通させる食肉は冷蔵する。
長期保存するものは冷凍する。
それ以外の物資も普通倉庫へ収められていく。
大量に狩れたからといって、その日にすべてを市場へ出す必要はない。
必要な量を流し、余剰分を保管できる。
逆に狩りの量が少ない日には、保管してある食肉を出せばいい。
八千万人が暮らす国である。
一日ごとの狩猟量に食卓が左右されるようでは困る。
倉庫があることで、狩りの成果を時間を越えて使えるようになった。
農業も止まってはいない。
以前に開拓された農地では作物が育ち、新しく国民となった者たちも自分たちで農地を広げている。
土魔法が使える。
水魔法も使える。
必要な土地を整え、作物を育てる。
芋をはじめとした農作物も継続して生産されていた。
そこへ狩り部隊から大量の食肉が加わった。
農作物。
魔物肉。
保存された食料。
人口が増え続ける一方で、生産と調達も増えている。
王宮では、その数字がまとめられていた。
八千万人。
少し前まで二千万人だった国が、短期間で四倍の人口を抱えるようになった。
普通なら食料不足を心配するところだった。
だが、集計された数字は逆だった。
食料充足率。
百八十パーセント。
必要量を満たした上で、さらに大きな余裕がある。
カイゼル王は報告された数字を見た。
「百八十パーセントか」
以前、百五十パーセントに達したときにも、食料に余裕が生まれたことを実感した。
その後さらに三千万人を受け入れた。
人口は五千万人から八千万人へ増えている。
それでも食料充足率は下がるどころか、百八十パーセントまで上昇した。
新しく来た者が食べるだけではない。
教導を受ける。
仕事を選ぶ。
農地を作る。
狩りへ出る。
食料を生産する側にも加わる。
人口が増えれば、必要な食料も増える。
同時に、生産する者も増えていた。
狩り部隊と食肉調達部隊も、その一つだった。
かつて騎士崩れとして捕らえられた者たち。
食料を得るために武器を持ち、人を襲っていた者もいる。
その者たちが今では魔物を狩り、八千万人が暮らす王国へ食肉を供給している。
カイゼルはその報告にも目を通した。
素材の販売先もある。
魔石の卸先もある。
食肉の保管場所もある。
狩れば狩るほど処理に困るような仕組みではない。
仕事として続けられる形になっていた。
「これなら、まだ受け入れられるな」
カイゼルは数字を見ながら呟いた。
食べさせ続けるという意味ではない。
新しく来た者が教導を受け、自分で働き、今度は国を支える側へ回る。
その循環が続いている。
人口八千万人。
食料充足率百八十パーセント。
シュタインフェルト王国は、人が増える速度に追われるだけの国ではなくなっていた。
騎士崩れとして捕らえられた者たちの進路は、狩り部隊と食肉調達部隊だけではなかった。
シュタインフェルト国民となった者たちの中には、農業を選ぶ者もいれば、建設や精錬、商売を始める者もいる。
そして、これまで身につけてきた戦闘経験を治安維持に使うことを選んだ者たちもいた。
その者たちによって、自警団が組織された。
自分たちが暮らす町や村、その周辺を自分たちで守るための組織である。
ただし、独立した武装集団ではない。
自警団はシュタインフェルト王国騎士団の下部組織として編成された。
かつて国を失った騎士や兵士が集団となり、各地をさまよった結果が騎士崩れだった。
同じことを繰り返すわけにはいかない。
所属する者の名前。
配置される地域。
担当する範囲。
それらは教導管理システムへ登録され、一元管理された。
王国騎士団も同じ情報を確認できる。
どの町にどれだけの自警団員がいるのか。
周辺で何が起きているのか。
どのような対応を行ったのか。
必要な情報を共有できるようになった。
人口はすでに八千万人に達している。
新しく造られた町も多い。
農地が広がり、倉庫が建ち、街道を行き来する人や物資も増え続けている。
王国騎士団だけですべての地域を常時見回るより、その土地で暮らす者が日常の変化を見る方が早い。
自警団員も教導を受けている。
索敵を使えば、周囲の異常を確認できる。
何かを見つけたからといって、すべて自分たちだけで処理する必要もない。
日常的な問題なら自警団が対応する。
大規模な盗賊や騎士崩れなどが確認されれば、教導管理システムへ情報を登録し、王国騎士団へつなぐ。
騎士団はその情報を確認して動くことができる。
騎士団長マイケルも各地の状況を確認した。
自警団が配置された地域では、日常的な警戒をその土地の者たちが担い始めている。
街道を見回る。
倉庫の周辺を確認する。
農地や集落の近くに異常がないかを見る。
それだけでも王国騎士団の負担は変わった。
騎士団は広い範囲の警戒や、自警団だけでは対応しにくい問題へ人員を回せる。
役割が分かれ始めていた。
狩り部隊も同じだった。
魔物を探し、食料を確保する。
食肉調達部隊は、それを継続して王国内へ供給する。
素材は冒険者ギルドへ販売される。
魔石は魔道具工房へ卸される。
食肉は王宮との確約書に基づいて管理され、冷凍倉庫や冷蔵倉庫へ保管される。
そして治安維持を選んだ者は、自警団として地域に残る。
かつて一つの集団として扱われていた騎士崩れたちは、もう一つの集団ではなかった。
それぞれが自分の仕事を持っていた。
マイケルは状況をカイゼル王へ報告した。
「自警団の配置が進んでおります。王国騎士団の下部組織として、教導管理システムで一元管理されています」
カイゼルは頷いた。
「騎士団の負担は?」
「軽くなっています。日常的な警戒を自警団が担うことで、騎士団は広域の治安維持や、大きな問題への対応に集中できます」
人口八千万人。
これからさらに増える可能性もある。
人が増えれば、町も増える。
農地も増える。
街道を行き交う物資も増える。
それを守るために、王国騎士団だけを増やし続ける必要はなかった。
その土地で暮らす者が日常を守り、手に余る問題があれば王国騎士団につなぐ。
情報は教導管理システムへ集約される。
誰か一人が王国中の状況を覚えておく必要もない。
必要な者が、必要な情報を確認できる。
「この形で進めよう」
カイゼルが言った。
マイケルは頷いた。
狩り部隊。
食肉調達部隊。
自警団。
かつて行き場を失い、武器を持って大陸をさまよっていた者たちは、それぞれの場所で新しい役割を持ち始めていた。
魔物を狩り、食料を支える者。
自分たちの町を守る者。
そのどちらでもない仕事を選んだ者もいる。
誰も、騎士崩れだった頃の役割に戻る必要はなかった。
自分が何をするのかを選び、その仕事を続けていく。
八千万人が暮らすシュタインフェルト王国の中に、彼らの居場所もできていた。




