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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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262 死体の埋葬

 シュタインフェルト王国へ復興支援に来ていた者たちの中に、千人の孤児がいた。


 アルデバランで清掃活動をしていた子供たちである。


 街を歩き、落ちているものを拾い、汚れている場所を綺麗にする。


 以前から続けてきたことだった。


 だが、今回彼らが清掃する場所は街ではない。


 神官貴族のアリーとともに向かったのは、清算された国家の跡地へ続く街道や、戦闘の痕跡が残る場所だった。


 そこには多くのものが放置されていた。


 折れた剣。


 槍。


 盾。


 壊れた鎧。


 荷物。


 そして、人の死体。


 国が清算され、統治する者がいなくなっても、そこで起きた出来事まで消えるわけではない。


 盗賊に襲われた者がいる。


 騎士崩れに殺された者もいる。


 国を失って放浪し、食べるものを得られないまま行き倒れた者もいた。


 戦闘で死亡し、そのまま放置された者もいる。


 死体を見つけると、アリーたちはまず確認した。


 遺体や近くに残された遺留品へサイコメトリーを使う。


 それだけで十分な情報が得られなければ、ポストコグニションでその場所の過去を確認する。


 街道脇で見つけた一人の男は、国を失って移動している途中で盗賊に襲われていた。


 別の場所で見つけた者は、長い放浪の末に力尽きていた。


 さらに先では、騎士崩れとの戦闘に巻き込まれて死亡した者たちも見つかった。


 何が起きたのか。


 どうしてここで死んだのか。


 確認できるものは確認する。


 アリーは、その上で一人ずつ弔った。


 死体を放置することはできない。


 時間が経てばアンデッド化する可能性がある。


 死者を弔うためだけではなく、これからこの街道を使う者を守るためにも必要なことだった。


 孤児たちもアリーと一緒に手を合わせる。


 弔いが終わると、アンデッド化しないよう処理を施した。


 その後、遺体を森へ運ぶ。


 分解し、土へ還して埋葬する。


 一人が終われば、次の死者を探した。


 索敵を使えば、街道から離れた場所に残された遺体も見つけられる。


 森の中。


 崩れた建物の陰。


 草に覆われた古い戦場。


 人目につかない場所にも死者は残されていた。


 まとまった数の遺体が見つかる場所もある。


 そこではポストコグニションによって、かつて戦闘が起きていたことが確認できた。


 すでに戦った国も部隊も存在しない。


 勝敗も今となっては意味を持たない。


 だが、誰がここで命を失ったのか、その痕跡は残っている。


 アリーたちは同じように弔った。


 敵だったから放置することもない。


 盗賊だったからアンデッドになっても構わないということにもならない。


 死体を残せば、いずれ生きている者へ危険が及ぶ。


 弔い、アンデッド化を防ぎ、土へ還す。


 やることは変わらなかった。


 千人の孤児たちも黙々と動いた。


 アルデバランで行っていた清掃とは、扱うものが違う。


 それでも根本は同じだった。


 残されたものを片づける。


 危険なものを取り除く。


 次にそこを通る人が、安全に歩けるようにする。


 作業を続けるにつれて、街道の周囲から放置された死体が少しずつ消えていった。


 死者が誰にも知られないまま残されることもない。


 可能な限り過去を確認し、弔われ、アンデッド化を防ぐ処理を受けて土へ還っていく。


 かつてアルデバランの街を清掃していた千人の孤児たちは、アリーとともに、今度は戦乱のあとに残された死者を一人ずつ弔っていった。




 死者を弔う作業と並行して、もう一つの清掃も進められていた。


 アリーが操作している二百体の魔石回収ゴーレムである。


 本来は魔物を討伐したあと、地面に残った魔石を集めるために使っていたゴーレムだった。


 小さなものを探し、拾い、集める。


 その機能は、戦場の清掃にも使えた。


 二百体のゴーレムが広い範囲へ散っていく。


 地面には多くのものが残されていた。


 剣。


 槍。


 斧。


 盾。


 鎧。


 兜。


 矢尻。


 破損した武器もあれば、そのまま使えそうなものもある。


 戦闘が終わったあと、回収する者がいなかったのだろう。


 草の中に埋もれかけたものまで残っていた。


 ゴーレムはそれらを見つけて拾っていく。


 アリーたちも索敵を使って周辺を確認した。


 武器や防具だけではない。


 荷物。


 金属片。


 壊れた馬具。


 使われなくなった野営道具。


 戦場に残されたものは多かった。


 回収できるものは集める。


 不要なものは分ける。


 放置しておく理由はなかった。


 特に武器は、そのまま残しておけば誰でも拾える。


 盗賊や騎士崩れが利用する可能性もある。


 ならば先に片づけてしまえばいい。


 二百体のゴーレムが動き続けると、戦場の様子は目に見えて変わっていった。


 散乱していた武器がなくなる。


 壊れた防具もなくなる。


 死者はアリーと孤児たちが弔い、アンデッド不可処理を施して埋葬していく。


 その周囲に残されたものはゴーレムが回収する。


 作業が終わった場所には、戦いの痕跡が少しずつ減っていった。


 一つの戦場を終えると、次は街道へ移った。


 こちらにも武器や防具が残っている。


 襲撃があった場所では、荷物が散乱したままになっていることもあった。


 アリーたちはサイコメトリーやポストコグニションを使い、そこで何が起きたのかも確認した。


 盗賊による襲撃。


 騎士崩れとの戦闘。


 逃げる途中で捨てられた荷物。


 持ち主が死亡しているものもあれば、逃げ延びた者が置いていったものもある。


 過去を確認した上で、残されたものを整理していった。


 清掃が進むにつれて、別の問題も見えてきた。


 街道そのものが傷んでいる。


 長く管理されていなかった場所では、路面が崩れていた。


 雨で土が流れた場所もある。


 穴が開き、通行しにくくなっている場所もあった。


 孤児たちはそこを素通りしなかった。


 全員が教導を受けている。


 土魔法を使えば、崩れた路面を直すことができる。


 穴を埋める。


 傾いた部分を整える。


 水が溜まりやすい場所は流れを確認し、再び崩れにくいように整えていく。


 千人が動けば、修理は早かった。


 さらに進むと、橋が見つかった。


 完全に落ちてはいない。


 だが、一部が崩れている。


 長期間保全されていなかったため、傷んだ場所も増えていた。


 アリーたちは橋の状態を確認した。


 このまま放置すれば、いずれ通れなくなる。


 それなら今のうちに直せばいい。


 孤児たちは橋梁の修理にも取りかかった。


 崩れた部分を整える。


 傷んだ箇所を補修する。


 周囲も確認し、危険な部分を残さない。


 誰かから修理を命じられたわけではなかった。


 清掃をしながら進んでいたら、壊れている場所を見つけた。


 だから直した。


 それだけだった。


 死体を見つければ弔う。


 武器や防具が落ちていれば回収する。


 街道が崩れていれば修理する。


 橋が傷んでいれば保全する。


 二百体の魔石回収ゴーレムと千人の孤児たちは、少しずつ先へ進んでいった。


 その後には、死体も、散乱した武器も残らない。


 荒れていた街道も、人が再び安全に通れる状態へ戻っていく。


 彼らがしていることは、アルデバランにいた頃と大きく変わってはいなかった。


 汚れている場所を見つける。


 危険なものを見つける。


 そして、片づける。


 ただ今度は、その清掃する場所が街ではなく、戦乱の残した跡だった。




 アリーと千人の孤児たちによる清掃は、さらに範囲を広げていた。


 一つの街道が終われば、その先へ進む。


 古い戦場があれば周囲を索敵し、残された死体を探す。


 遺体や遺留品へサイコメトリーを使い、必要ならポストコグニションで過去を確認する。


 弔いを行い、アンデッド化しないよう処理を施し、森で分解して埋葬する。


 散乱していた武器や防具は、二百体の魔石回収ゴーレムが集めていった。


 さらに街道が崩れていれば修理する。


 橋梁に傷みがあれば保全する。


 彼らが通った場所から、戦乱の痕跡が少しずつ消えていった。


 その活動を知った者がいた。


 シュタインフェルト王国騎士団長マイケルである。


 最初に話を聞いたとき、マイケルが気にしたのは死体だった。


 騎士団も巡回中に放置された死体を発見することがある。


 見つければ処理する。


 アンデッド化する危険がある以上、放置するわけにはいかない。


 だが、現在のシュタインフェルト王国周辺には、国家が清算されたことで管理する者がいなくなった土地が広がっている。


 街道も戦場も多い。


 騎士団が把握できていない死体が残っていても不思議ではなかった。


 マイケルは現地へ向かった。


 上空から街道を確認すると、すぐにアリーたちを見つけた。


 千人の孤児たちが広い範囲へ散らばっている。


 二百体のゴーレムも動いていた。


 マイケルは地上へ降りた。


「アリー殿」


「マイケル団長」


 アリーが振り返った。


 その近くでは、見つかった遺体の弔いが終わったところだった。


「かなり広い範囲を回っているそうだな」


「はい。思っていたより残されています」


 アリーは街道の先へ目を向けた。


「戦場だけではありません。街道沿いや森の中でも見つかっています」


「やはり多いか」


「多いですね」


 マイケルは周囲を見た。


 すでに処理の終わった場所には死体がない。


 武器や防具もほとんど残っていなかった。


 二百体の魔石回収ゴーレムが、まだ周囲を動きながら金属類を拾っている。


「武器まで回収しているのか」


「落ちていますから」


 アリーの答えは簡単だった。


「そのまま残しておけば、また誰かが使います。それなら片づけておいた方がいいでしょう」


「確かにな」


 マイケルにも異論はなかった。


 騎士崩れや盗賊の武装を奪っても、別の場所に武器が大量に放置されていれば意味が薄れる。


 回収してしまえば再利用される心配も減る。


 少し先では孤児たちが街道を直していた。


 崩れた部分を土魔法で整えている。


 マイケルがそちらを見ると、アリーも気づいた。


「歩いていると、壊れているところが多いのです」


「それで修理まで?」


「はい」


「橋も直していると聞いた」


「通れなくなると困りますから」


 アリーは特別なことをしているようには話さなかった。


 死体があれば弔う。


 武器があれば拾う。


 道が壊れていれば直す。


 橋が傷んでいれば保全する。


 目の前にあるものを一つずつ片づけているだけだった。


 だが、騎士団長として見ると意味は違う。


 死体がなくなれば、アンデッド発生の危険が減る。


 武器がなくなれば、盗賊や騎士崩れが現地で武装する機会が減る。


 街道が直れば、人と物が通れる。


 橋が保全されれば、物流も途切れない。


 それを千人の孤児と二百体のゴーレムが、広い範囲で続けている。


 マイケルは一通り現場を確認すると、王都へ戻った。


 向かったのはアイゼル・ローゼンクランツ公爵のもとだった。


「公爵閣下。ご報告したいことがあります」


「何だ?」


「アリー殿と、アルデバランから来た千人の孤児たちについてです」


 アイゼルが顔を上げた。


 マイケルは現地で確認したことを順番に説明した。


 放置された死体の弔い。


 アンデッド化を防ぐ処理。


 戦場や街道に残された武器、防具の回収。


 二百体の魔石回収ゴーレム。


 そして、崩れた街道や橋梁の修理と保全。


 話を聞くうちに、アイゼルの表情が変わっていった。


「……そこまでやっているのか」


「はい」


 マイケルは頷いた。


「私も現地を確認しました」


 そして騎士団長として感じたことを付け加えた。


「清掃と呼んでいますが、あれは清掃だけではありません」


 アイゼルは黙って続きを待った。


「人が再び安全に通れる土地へ戻しています」




「人が再び安全に通れる土地へ戻しています」


 マイケルの言葉を聞き、アイゼルは机の上に置かれた地図へ目を落とした。


 シュタインフェルト王国の周辺には、国家として機能しなくなった土地が広がっている。


 王はいない。


 行政もない。


 街道を管理する者もいない。


 国が清算されたからといって、そこに残されたものまで消えるわけではなかった。


「死体は、かなり残っていたか?」


「はい。古い戦場だけではありません。街道沿いや森、崩れた集落の周辺でも確認しました」


 マイケルは現地で見たものを順番に報告した。


「盗賊や騎士崩れに襲われた者、放浪中に行き倒れた者もいます。アリー殿たちはサイコメトリーやポストコグニションで死亡までの経緯を確認した上で弔っています」


「アンデッド化への処理も?」


「すべて施しています。その後、森で分解して埋葬しています」


 アイゼルは頷いた。


 今のシュタインフェルト王国には、毎日のように人がやって来る。


 一か月で三千万人が増え、人口は八千万人になった。


 その者たちが通る街道に死体が残されている状態は好ましくない。


 ましてアンデッド化すれば、街道そのものが危険になる。


「武器や防具の方は?」


「二百体の魔石回収ゴーレムで回収を続けています。かなりの量です」


「それも助かるな」


「はい」


 マイケルは騎士団長として即答した。


「剣や槍、防具が残されていれば、盗賊や騎士崩れが拾って使えます。先に回収してもらえるだけでも、治安維持の負担が減ります」


 さらに街道まで直している。


 橋梁も保全している。


 死体を処理するだけではなかった。


 人が再び通れる状態へ戻している。


「騎士団だけで同じことを行えば?」


「かなりの人員が必要です」


 マイケルは答えた。


「現在も盗賊や騎士崩れへの対応があります。アリー殿たちが清掃を進めてくださるなら、騎士団は治安維持へ集中できます」


「分かった」


 アイゼルは地図を見ながら考えた。


 アリーと行動している千人については、すでに知っている。


 復興支援としてシュタインフェルトへ来た者たちだ。


 そして、その背景についてもイメルダ伯爵から直接聞いていた。


「アルデバランでは、一億人もの孤児たちが清掃活動を続けていると、イメルダ伯爵から聞いた」


「一億人ですか」


 マイケルが驚いた。


「ああ。今回来てくれた千人も、その一員だ」


 アイゼルは現地の報告を聞いて、ようやくその清掃活動がどのようなものなのか実感できた。


 落ちているものがあれば拾う。


 汚れていれば綺麗にする。


 危険なものがあれば取り除く。


 必要なら修理する。


 やっていること自体は単純だった。


「場所が変わっても同じなのだな」


 アイゼルが言った。


「街ではなく、戦乱の跡地を清掃している。それだけなのだろう」


「その結果として、街道まで使える状態へ戻っています」


「そこが大きいな」


 アイゼルは、宰相が進めている調査を思い出した。


 清算された国家の跡地。


 統治者は存在するのか。


 住民はどれだけ残っているのか。


 自治が始まっている場所はないか。


 旧行政組織が残っていないか。


 シュタインフェルト王国が併合を検討できる根拠があるのか。


 一つずつ調べている。


 その土地を調査するにしても、人が安全に通れなければ始まらない。


「この件は宰相にも共有する」


「清算国家の跡地の調査ですね」


「ああ。アリー殿たちが進んだ地域なら、街道の状態も分かる。橋梁の状況も確認できる。残された死体や武器の数から、そこで何が起きていたのかも把握できるだろう」


 さらにサイコメトリーやポストコグニションまで使っている。


 現地の過去を確認するという意味でも、その情報は役に立つ。


「併合するかどうかは宰相たちが根拠を整理してからだ」


「はい」


「だが、併合するかどうかに関係なく、死者を放置する理由はない。街道や橋を壊れたままにしておく理由もない」


 マイケルも頷いた。


「騎士団でも引き続き状況を確認します」


「頼む」


 マイケルは一礼して退出した。


 その頃も、アリーと千人の孤児たちは次の場所へ進んでいた。


 二百体の魔石回収ゴーレムが周囲へ散っていく。


 死者を見つける。


 過去を確認する。


 弔う。


 アンデッド化を防ぎ、埋葬する。


 武器や防具を回収する。


 崩れた街道を直す。


 傷んだ橋梁を保全する。


 彼らにとっては、それも清掃だった。


 アルデバランで一億人の孤児たちが続けていることを、場所が変わっても続けているだけだった。


 戦乱の跡が残る土地から、死体が消えていく。


 武器が消えていく。


 道が戻っていく。


 そして、その道を再び人が歩けるようになっていった。





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