↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/311

261 ゴーレムガーディアンズ

 シュタインフェルト王国へ向かう人の流れが変わった。


 これまでは騎士団が索敵し、国を失って各地をさまよっている者を見つけていた。


 保護する。


 食事を与える。


 住居を用意する。


 教導する。


 仕事を選び、自分たちで暮らせるようにする。


 その繰り返しだった。


 だが、今では騎士団が迎えに行くより先に、人々の方からシュタインフェルト王国を目指してやって来る。


 噂が広がったのである。


 シュタインフェルトへ行けば受け入れてもらえる。


 食べるものがある。


 住む場所がある。


 ただ養われるだけではなく、教導を受けて自分で働けるようになる。


 新しく造られた街では、自分たちで首長まで選んでいる。


 その話を聞いた者たちが動き始めた。


 一日に十万人という規模ではなかった。


 百万人単位だった。


 国境へ続く道を、人の流れが途切れることなく進んでくる。


 子供を連れた者。


 わずかな荷物を抱えた者。


 何も持たずに来た者。


 すでに国を失って長くさまよっていた者もいれば、統治する者がいなくなった土地から出てきた者もいる。


 シュタインフェルト王国は彼らを受け入れた。


 以前に造っていた難民街だけでは足りない。


 だが、造り方はすでに分かっている。


 国土にはまだ広大な土地が残っている。


 新しい街が次々と造られた。


 道路。


 集合住宅。


 公衆浴場。


 治療施設。


 教導会場。


 共同便所と下水処理設備。


 必要な施設を整えていく。


 以前に保護された者たちも、新しく来た者の受け入れに加わった。


 自分たちがしてもらったことを、今度は後から来た者へする。


 教導を受けた者が増えれば、街を造る速度も上がる。


 受け入れた者たちが、次の受け入れを支える側へ回っていった。


 人の流入は止まらなかった。


 一週間。


 二週間。


 三週間。


 そして一か月。


 新たにシュタインフェルト王国へ加わった者は、三千万人に達した。


 元から暮らしていた二千万人。


 それまでに受け入れた三千万人。


 さらに今回の三千万人。


 シュタインフェルト王国の人口は、八千万人になった。


 王宮の文官たちは教導管理システムへ登録されていく人口を確認し続けていた。


 増加の速度は明らかにこれまでとは違う。


 報告を受けた宰相も、その数字を軽く見ることはできなかった。


「八千万人か……」


 国土にはまだ余裕がある。


 食料生産も増えている。


 新しく来た者たちも教導を受ければ、いつまでも保護されるだけではない。


 働き、生産し、やがて自分たちで街を運営する。


 だから、今すぐ受け入れの限界が来るわけではなかった。


 問題は別にある。


 宰相は教導管理システムで周辺地域の情報を確認した。


 シュタインフェルト王国の外には、すでに国家として機能していない土地がいくつもある。


 清算された国々の跡地だった。


 王はいない。


 行政もない。


 国として民を統治する組織も残っていない。


 土地だけが残されている。


 そして、そこにいた人々がシュタインフェルト王国へ流れ込んできている。


 宰相は地図を見ながら考えた。


 シュタインフェルト王国には、まだ国土がある。


 だから八千万人を抱えられている。


 だが、このまま毎月三千万人ずつ増えるとは限らないにしても、人の流れが続く可能性は十分にある。


 その一方で、隣には誰も統治していない広大な土地が残っている。


「……調べる必要があるな」


 宰相は結論を急がなかった。


 他国の領土を奪う話ではない。


 侵略でもない。


 侵攻でもない。


 すでに国家そのものが存在せず、統治する者もいない土地をどう扱うのかという問題だった。


 だからこそ、曖昧な判断はできない。


 その土地が本当に統治されていないのか。


 現在暮らしている者はいるのか。


 旧国家の行政組織が残っていないか。


 権利を主張する者はいないか。


 シュタインフェルト王国が管理するだけの根拠があるのか。


 一つずつ確認する必要がある。


 宰相は文官たちとともに情報を集め始めた。


 併合するかどうかは、その後で決めればいい。


 八千万人となった国を、これからどう支えていくのか。


 増え続ける人々をどこで受け入れるのか。


 宰相は地図と記録を見比べながら、清算された国家の跡地について整理を始めた。




 シュタインフェルト王国の人口が八千万人へ増えていく一方、大聖堂では別の動きが始まっていた。


 大聖堂を建設するため、コールたちはダンジョンへ何度も潜った。


 目的だった真鍮は十分な量を確保できた。


 だが、ダンジョンから抽出できた金属は銅や亜鉛だけではない。


 ミスリル。


 オリハルコン。


 アダマンタイト。


 ヒヒイロカネ。


 そのほかにも多くの金属が抽出され、精錬されている。


 大聖堂が完成したあとも、大量のインゴットが残っていた。


 コールたちは、その金属を前に考えた。


 せっかく精錬したものを保管しておくだけではもったいない。


 そこで作ることにしたのが、ゴーレムだった。


 ただし、農地を開拓するための大型ゴーレムではない。


 荷物を運ぶゴーレム馬車でもない。


 大聖堂に置く。


 人々が祈り、心を休める場所を守るためのゴーレムである。


 最初に使われたのはミスリルだった。


 インゴットを必要な量だけ取り出し、二メートルほどの人型へ成形していく。


 胴体。


 腕。


 脚。


 頭部。


 形が整えば、ゴーレムとして動かせるようにする。


 一体。


 さらにもう一体。


 二体のミスリルゴーレムが完成した。


 次はオリハルコン。


 同じように二メートル級のゴーレムを二体作る。


 続いてアダマンタイト。


 これも二体。


 最後はヒヒイロカネだった。


 精錬してあったインゴットが形を変え、二体の人型となった。


 四種類。


 各二体。


 合計八体。


 八体の金属ゴーレムが並んだ。


 ミスリルの二体。


 オリハルコンの二体。


 アダマンタイトの二体。


 ヒヒイロカネの二体。


 いずれも二メートル級である。


 しかも、ただ希少金属で作られただけではない。


 破壊不能。


 八体すべてが破壊不能ゴーレムだった。


 コールたちは完成した八体を大聖堂へ運んだ。


 真鍮で造られた大聖堂の前に、金属のゴーレムが立つ。


 入口だけに集めるのではなく、大聖堂を守れるようにそれぞれが配置された。


 大聖堂を訪れた者たちは、すぐに気づいた。


 何しろ二メートル級の金属ゴーレムが八体もいる。


 しかも素材が普通ではない。


 ミスリルだけでも十分に珍しい。


 それがオリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネと並んでいる。


 だが、不思議と大聖堂の雰囲気を壊してはいなかった。


 真鍮の大聖堂。


 その周囲に立つ八体のゴーレム。


 動かずに立っている姿には、どこか厳かなものがあった。


 大聖堂へ来た人々が、興味深そうに眺めるようになった。


 祈りに来た者も見る。


 神官に話を聞いてもらいに来た者も見る。


 遠くから大聖堂そのものを見物に来た者は、当然のように足を止めた。


 やがて、誰からともなく八体をまとめて呼ぶようになった。


 ゴーレムガーディアンズ。


 大聖堂を守る八体の守護者。


 名前を聞いたコールも、それを否定しなかった。


 実際、そのために作ったのだから間違ってはいない。


 真鍮の大聖堂の周囲に、八体のゴーレムガーディアンズが立つ。


 ミスリル。


 オリハルコン。


 アダマンタイト。


 ヒヒイロカネ。


 それぞれ二体ずつ。


 陽光を受けると、大聖堂とともに金属の身体も輝いた。


 その光景は、完成したばかりの大聖堂に新しい特徴を加えた。


 魂の安寧を求めて訪れる場所。


 そして八体の破壊不能ゴーレムが静かに守る場所。


 大聖堂を訪れる者たちの間で、ゴーレムガーディアンズの噂も少しずつ広がり始めていた。




 ゴーレムガーディアンズの噂は、思った以上の速さで広がった。


 真鍮で造られた巨大な大聖堂がある。


 その周囲を、八体の破壊不能ゴーレムが守っている。


 しかも素材は、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ。


 それぞれ二体ずつ。


 そんな話を聞けば、実際に見てみたいと思う者が出てくるのも当然だった。


 シュタインフェルト王国内の各地から、人々が大聖堂を訪れるようになった。


 新しく造られた街から来る者もいる。


 以前から王国で暮らしていた者もいる。


 遠方から飛んでくる者の姿も珍しくなくなった。


 目的は人によって違った。


 単純に大聖堂を見たい者。


 ゴーレムガーディアンズを見たい者。


 祈りに来る者。


 静かな場所でしばらく過ごしたい者。


 神官に話を聞いてほしい者。


 大聖堂の前では、八体のゴーレムが静かに立っている。


 訪れた者の中には、まずゴーレムへ近づいて眺める者も多かった。


 二メートル級の金属製の身体。


 同じ人型でありながら、素材によって見た目が違う。


 近くで見れば、それぞれの金属が持つ質感もよく分かる。


 特に子供たちは興味を示した。


 少し離れた場所から見上げ、別のゴーレムへ移動する。


 八体すべてを見て回る子供もいた。


 だが、大聖堂の中へ入ると、人々の様子は自然と変わった。


 声が小さくなる。


 高い天井。


 広い空間。


 真鍮に反射した柔らかな光。


 誰かに静かにするよう注意されるわけではない。


 それでも、ここでは大声を出す場所ではないと感じる。


 厳かな雰囲気が、大聖堂の中にはあった。


 見物のために来た者も、しばらく内部を歩いているうちに足を止める。


 空いている場所へ座る。


 そして周囲を見る。


 そのまま何もせず、しばらく過ごしてから帰る者もいた。


 祈りを目的に訪れる者も増えた。


 国を失った者。


 故郷を失った者。


 家族を失った者。


 新しい生活を始めても、忘れられないものを抱えている者は少なくない。


 そうした人々が大聖堂を訪れ、静かに祈った。


 何を祈るのかは、それぞれ違う。


 神官たちが内容を尋ねることもない。


 ただ祈りたい者には、祈るための場所がある。


 それで十分だった。


 一方で、神官を訪ねる者もいた。


 アリー、アレクサ、ゴルディ、ナターシャ、マックス、リッキー、トレイ、シュー、チャド。


 神官新興貴族たちは、そうした者たちの話を聞いた。


 すぐに答えを出せる話ばかりではない。


 答えなど最初から求めていない者もいる。


 自分が失ったものについて、誰かに聞いてほしい。


 新しい土地で暮らし始めたものの、まだ気持ちが追いつかない。


 以前の国に残してきた者が気になる。


 さまざまな話があった。


 神官たちは、話したい者の話を聞いた。


 それだけで帰っていく者もいる。


 何度か訪れる者もいる。


 大聖堂が何をする場所なのか、細かく決める必要はなかった。


 訪れる者自身が、自分に必要な使い方を選んでいた。


 やがて、大聖堂を見るためだけに来た者が祈って帰ることもあった。


 祈るために来た者が、帰り際にゴーレムガーディアンズを眺めることもある。


 神官に話を聞いてもらったあと、真鍮の大聖堂を見上げながら長く座っている者もいた。


 観光。


 祈り。


 相談。


 休息。


 それぞれが混ざり合いながら、大聖堂を訪れる人は増えていった。


 真鍮の大聖堂そのものも美しい。


 八体のゴーレムガーディアンズも珍しい。


 だが、それだけではなかった。


 誰でも入ることができる。


 何かを強制されることもない。


 静かに過ごすことができる。


 必要なら神官が話を聞いてくれる。


 その居心地のよさも、人から人へ伝わっていった。


 いつしか大聖堂は、シュタインフェルト王国の各地から人が訪れる人気の場所になっていた。


 その周囲では今日も、八体のゴーレムガーディアンズが静かに立っていた。




 大聖堂を訪れる人が増えている頃、王宮では別の仕事が続いていた。


 宰相が調べていたのは、清算された国家の跡地だった。


 教導管理システムに残された記録を確認する。


 現在の状況も調べる。


 かつての国境。


 街や村の位置。


 道路。


 農地。


 河川。


 鉱山。


 そして、そこに現在どれほどの人間が暮らしているのか。


 一つずつ整理されていった。


 国家が清算されたからといって、土地そのものが消えるわけではない。


 街も残る。


 村も残る。


 農地も残る。


 そこに住み続けている者がいれば、その生活もある。


 だから宰相は、誰も統治していないという理由だけで線を引くつもりはなかった。


 旧王家が残っているのか。


 旧貴族が統治を続けている場所はないか。


 行政組織が残存していないか。


 住民たちが独自に自治を始めている場所はないか。


 確認することはいくらでもある。


 調査が進むにつれて、状況は少しずつ見えてきた。


 すでに住民の大半が離れた地域がある。


 集落だけが残っている場所もある。


 わずかな住民が生活を続けている地域もあった。


 同じ清算国家の跡地でも、状況は一様ではない。


 宰相はそれらを分けて整理した。


 シュタインフェルト王国の人口は八千万人。


 一か月で三千万人増えた。


 これまでのように、国内の土地だけを見ていればいい段階ではなくなりつつある。


 だからといって、空いているように見える土地へ勝手に入ることもできない。


 根拠が必要だった。


 宰相は整理した情報を持って、カイゼル王のもとを訪れた。


 アイゼル公爵も同席した。


「清算された国家の跡地について、調査を進めています」


 カイゼルは頷いた。


「どうだ?」


「一括して扱うべきではないと考えます」


 宰相は調査内容を示した。


「統治者が存在しないという点では同じでも、現在の状況が違います。住民がほとんど残っていない地域もあれば、小規模な集落が残っている地域もあります」


「当然、そこに住んでいる者の意思もあるな」


「はい」


 宰相は即答した。


「国家がなくなったからといって、住民までいなくなったわけではありません」


 アイゼルも記録へ目を通した。


「シュタインフェルトが勝手に領土を広げたと見られるのも避けるべきでしょう」


「その通りです」


 カイゼルが答えた。


 今のシュタインフェルト王国に、他国の領土を奪う理由はない。


 欲しいから取る。


 人口が増えたから広げる。


 そんなことを始めれば、これまでしてきたことまで意味が変わってしまう。


 カイゼルは尋ねた。


「では、何を根拠にする?」


「まず、その土地に国家としての統治主体が存在しないことです」


 宰相が答える。


「次に、現在の住民の状況を確認します。自治が成立しているなら、それを無視するべきではありません」


「そうだな」


「住民がシュタインフェルト王国への編入を望むのであれば、それも判断材料になります」


 カイゼルはしばらく考えた。


「人がほとんどいない土地は?」


「旧国家の清算記録、現在の統治状況、居住者の有無を確認した上で判断することになるでしょう」


 簡単ではない。


 だが、急ぐ必要もなかった。


 まだシュタインフェルト王国内には土地がある。


 今日明日にでも領土を広げなければ、人を受け入れられなくなるわけではない。


 だからこそ、調べられる。


 カイゼルは宰相へ言った。


「続けてくれ」


「承知しました」


「併合するための理由を探すのではないぞ」


 宰相は頷いた。


「分かっております」


「併合しても問題がないのか。その根拠を集めてくれ」


「はい」


 それで話は決まった。


 領土拡張が決まったわけではない。


 軍を動かす話でもない。


 誰も統治していない土地があり、一方では国を失った人々が毎日のようにシュタインフェルトへやって来る。


 その二つをどう扱うべきなのか。


 まず調べる。


 確認する。


 整理する。


 その上で選ぶ。


 王宮でそんな作業が続いていることを、大聖堂を訪れる人々は知らない。


 今日も真鍮の大聖堂には人が集まっていた。


 観光に来る者。


 祈りに来る者。


 神官に話を聞いてほしい者。


 その外側では、八体のゴーレムガーディアンズが変わらず静かに立っている。


 八千万人となったシュタインフェルト王国は、人を受け入れながら、少しずつ次の形を考え始めていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。