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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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255 安定

 シュタインフェルト王国に保護された難民たちは、少しずつ自立する力を身につけていった。


 森へ狩りに行く者がいる。


 荒野を開拓して畑を作る者がいる。


 工房を開く者もいる。


 教導によって得た力と、それまで自分が持っていた経験を使い、それぞれが生活を始めていた。


 食事を受け取るだけだった街では、もうない。


 自分たちで魔物を狩る。


 芋を育てる。


 必要なものを作る。


 仕事が生まれ、人が動く。


 難民として保護された一千万人は、自分たちの生活を自分たちで支え始めていた。


 変化はそれだけではなかった。


 街が動き始めれば、決めなければならないことが出てくる。


 共同で使う施設をどうするのか。


 街の中で起きた問題を誰が扱うのか。


 住民同士で調整しなければならないこともある。


 シュタインフェルト王国が、そのすべてを王都から決めることはしなかった。


 難民たちは自分たちで話し合い、首長を選び始めた。


 誰を選ぶのかも自分たちで決める。


 選ばれた首長を中心に、街の運営が始まっていった。


 アルデバランから応援に来ていた行政官たちは、その様子を見ながら難民たちへの教導を始めた。


 行政スキル。


 組織スキル。


 街を運営するために必要な能力が授けられていく。


 教導管理システムも使われた。


 人口。


 住居。


 食料。


 施設。


 必要な情報を登録し、確認できるようにする。


 何かを決めるために、遠く離れた王宮の返事を待つ必要はない。


 自分たちの街のことを把握し、自分たちで考え、自分たちで決める。


 分からないことがあれば行政官に聞く。


 やり方を覚えれば、次からは自分たちで行う。


 行政官たちは難民街の行政を代行するために来たのではなかった。


 行政そのものを教えるために来ていた。


 やがて、行政官が横についていなくても街の運営が進むようになった。


 首長がいる。


 行政を担当する者がいる。


 住民の情報を把握できる。


 必要な物資も分かる。


 問題が起きれば、自分たちで対応する。


 難民街は、完全な独立自治ができるまでになっていった。


 難民だったからといって、いつまでも誰かに管理される必要はなかった。


 力を身につければ、自分たちで暮らせる。


 行政を学べば、自分たちで街を運営できる。


 その様子をカイゼルも見ていた。


 一千万人。


 最初に数を聞いたときは、保護するだけでも途方もない人数だった。


 だが、今は違う。


 彼らは食事を待っているだけではない。


 自分で食料を得ている。


 働いている。


 街を運営している。


 自分たちで首長まで選んだ。


 ならば、問題は難民ではない。


 難民を生み出し続けている大陸の状況だった。


 すでに百を超える国が消えている。


 騎士崩れや兵士崩れが各地を荒らし、行き場を失った人々がシュタインフェルト王国へ流れてきた。


 一度救えば終わる話ではない。


 同じ状況が残っている限り、また難民は現れる。


 カイゼルは決断した。


「この大陸を荒らす者共を整理する」


 アイゼルたちがカイゼルを見る。


「そして難民を救う」


 シュタインフェルト王国には、もうその力がある。


 武装集団を制圧できる騎士団がいる。


 難民を受け入れる土地がある。


 食料を作る力がある。


 住居を造れる。


 教導もできる。


 そして保護された者たちは、自分たちで立ち上がれることをすでに示していた。


 カイゼルが選んだのは、大陸を支配することではなかった。


 荒らす者を取り除く。


 行き場を失った者を救う。


 その後は、自分たちで生きてもらう。


 シュタインフェルト王国は、そのために動き始めようとしていた。




 シュタインフェルト王国では、人が増えるにつれて商業も活発になっていった。


 難民街では自立した者が増えている。


 農地では作物が作られ、工房も開かれた。


 国内を走るゴーレム馬車の数も多い。


 人が作り、人が買い、物が動く。


 その流れは国内だけでは終わらなかった。


 第78アルデバラン王国と貿易を行う商人が現れ始めた。


 隣国である。


 しかも、今のシュタインフェルト王国の商人たちは飛行できる。


 アイテムボックスも使える。


 大量の商品を持っていても、それを積んだ馬車を何日も走らせる必要はなかった。


 商品をアイテムボックスへ収納し、そのまま飛んで国境を越える。


 第78アルデバラン王国へ行き、商品を見る。


 価格を見る。


 自分の国で売れそうなものを探す。


 商人にとって、それは当たり前の仕事だった。


 最初に向かった商人たちが商品を持ち帰る。


 それが売れる。


 利益になると分かれば、別の商人も動いた。


 誰かに第78アルデバラン王国と貿易をしろと命じられたわけではない。


 隣国に大きな市場がある。


 短時間で往来できる。


 大量の商品を持ち運べる。


 ならば商売をしない理由がなかった。


 国内の生産も増えていた。


 各地に建設された紡織工房では布が作られている。


 アンジェラたちから教導を受けた者が働き、さらにそこで覚えた者が生産へ加わっていった。


 栽培されている綿花も使われた。


 綿花から糸を作る。


 糸から布を作る。


 布から被服を作る。


 それぞれの工程がシュタインフェルト王国内で行われるようになっていた。


 難民街でも被服の生産が始まった。


 保護された一千万人の中には、以前から紡織や縫製に携わっていた者もいる。


 教導を受けて新しく覚えた者もいる。


 最初は衣服を与えられていた者たちが、今度は自分たちで作り始めていた。


 生産された布や被服は街の中だけで使われるものではない。


 王都へ運ばれる。


 地方の街へも運ばれる。


 商人が扱う商品にもなった。


 国内で作られるものが増える一方、第78アルデバラン王国から入ってくるものも増えていった。


 調味料だった。


 これまでシュタインフェルト王国ではあまり使われていなかった調味料が店に並び始めた。


 料理をする者たちは、それを試した。


 肉に使う。


 芋に使う。


 煮込み料理にも加えてみる。


 同じ食材でも味が変わる。


 気に入ればまた買う。


 店も売れるものを仕入れる。


 使い方が広がれば、さらに需要が増えていった。


 酒も輸入された。


 第78アルデバラン王国から持ち込まれた様々な酒が、王都や各地の店に並ぶ。


 飲食店でも扱われるようになった。


 仕事を終えた者が酒を飲む。


 気に入った酒を買って帰る者もいる。


 以前のシュタインフェルト王国にも酒はあった。


 だが、選べる種類が増えた。


 食事も同じだった。


 食べられればいいという状態ではない。


 大量に収穫される芋がある。


 魔物の肉や内臓もある。


 新しい調味料が加わる。


 料理の種類も増えていく。


 衣服も作られている。


 店に並ぶ商品も増えた。


 商人は隣国へ飛び、商品を持ち帰る。


 また別の商品を持って向こうへ行く。


 国内ではゴーレム馬車が生産地と街を結んでいる。


 国外では飛行とアイテムボックスを使った交易が始まっている。


 食料が足りる。


 衣服が足りる。


 その先に、味を選ぶ余裕が生まれた。


 着るものを選ぶ余裕も生まれた。


 酒を楽しむ余裕も生まれた。


 生きるために必要なものを確保するだけではなく、その中から自分の好みで選べるようになっていく。


 シュタインフェルト王国は、確実に豊かになっていた。




 シュタインフェルト王国が少しずつ豊かになっている間にも、大陸全体が安定したわけではなかった。


 カイゼルが予想していた通りだった。


 広域索敵を続けていた王国騎士団が、新たな人の集団を確認した。


 難民だった。


 それも一か所ではない。


 国を失った者。


 住んでいた街を離れざるを得なかった者。


 騎士崩れや兵士崩れを避けて移動してきた者。


 再び、多くの人々がシュタインフェルト王国を目指していた。


 だが、今度は受け入れる側に戸惑いはなかった。


 一度、一千万人を保護している。


 何が必要なのかも分かっている。


 騎士団が難民の位置を確認し、教導管理システムへ登録する。


 受け入れ可能な街と住居を確認する。


 数万人単位で保護が始まった。


 ピュリフィケーションバレットで浄化する。


 怪我や身体の不調を治療する。


 食事を取ってもらう。


 住居へ案内する。


 休息した者から順に教導を始める。


 最初に保護した一千万人のときと同じだった。


 違うのは、受け入れを手伝う者が増えていることだった。


 かつて難民として保護された者たちも、自分たちの街を運営している。


 行政を行える者もいる。


 食料を作る者もいる。


 狩りをする者もいる。


 布や被服を生産する者もいる。


 新しく来た者を、シュタインフェルト王国の元からの国民だけで支える必要はなくなっていた。


 それでも難民は増えていった。


 先に造られていた難民街には余裕がある。


 三千万人規模まで受け入れられるよう、最初から広く造っていたからだ。


 集合住宅へ人が入る。


 公衆浴場が使われる。


 治療施設が動く。


 教導会場にも新しく保護された者たちが集まり始めた。


 さらに必要になれば、新しい街を造ればよかった。


 シュタインフェルト王国の国土は広い。


 まだ使われていない荒野も大量に残っている。


 土魔法が使われた。


 荒野が整地される。


 道路が造られる。


 集合住宅が建っていく。


 共同トイレ。


 下水処理システム。


 公衆浴場。


 治療施設。


 教導会場。


 一度造った経験がある。


 必要な施設も分かっている。


 教導管理システムには既存の街の情報も残っている。


 何をどれだけ用意すればいいのか、一から考え直す必要もなかった。


 ゴーレム馬車が資材を運ぶ。


 建設する者たちは、自分の担当する場所で作業を進める。


 荒野だった場所に道路が通り、建物が並んでいった。


 新しい難民が到着する頃には、そこで生活を始められる。


 保護する。


 休ませる。


 教導する。


 自立した者が街を動かす。


 そして次に来た者を受け入れる。


 最初の難民保護で作られた流れが、そのまま次の保護にも使われていた。


 新しく保護された者の中からも、教導を終えた者が動き始める。


 自分で食料を得る。


 仕事を始める。


 街の運営にも加わる。


 保護する人数が増えれば、それと同時に働ける人数も増えていった。


 シュタインフェルト王国の人口は増え続けた。


 三千万人を超えた。


 さらに新しい難民が保護される。


 街が増える。


 畑が増える。


 働く者も増える。


 そして、シュタインフェルト王国の人口は五千万人に達した。


 短期間で、以前の二千万人から二倍以上になったことになる。


 だが、五千万人が王都へ集中しているわけではない。


 広い国土に新しい街が生まれ、それぞれで生活が始まっていた。


 首長を選び、独立自治を始めた街も増えている。


 シュタインフェルト王国は、難民を抱えて膨れ上がっているだけではなかった。


 受け入れた者が自立し、その者たちが次の生活を作る側へ回る。


 その繰り返しによって、五千万人の国民を抱える国へ変わっていた。




 人口が五千万人に達しても、シュタインフェルト王国で食料不足は起きなかった。


 むしろ生産量は人口の増加を上回っていた。


 食料充足率は百五十パーセント。


 必要量を確保したうえで、さらに余裕がある。


 以前のシュタインフェルト王国は飢えていたわけではない。


 だが、誰もが十分に食べ、それでも余るほどの生産力はなかった。


 今は違う。


 広大な荒野が次々と農地へ変わった。


 芋。


 大豆。


 小麦。


 各地で作物が栽培されている。


 教導を受けた者たちは土魔法で土地を整え、水魔法で水を与え、ヒールバレットとピュリフィケーションバレットを使って作物を育てる。


 森へ狩りに出る者もいる。


 狩った魔物は肉だけでなく、内臓まで浄化して食材にしていた。


 生産された食料はゴーレム馬車で各地へ運ばれる。


 王都。


 以前からある地方都市。


 新しく造られた街。


 必要な場所へ食料が流れていった。


 五千万人の国民がいても、食べるものに困らない。


 それだけではなかった。


 各地に公衆浴場がある。


 仕事を終えれば身体を洗える。


 衣服も国内で生産されるようになっている。


 ピュリフィケーションも使える。


 清潔な衣服を着て、十分な食事を取り、安心して眠ることができる。


 難民としてシュタインフェルト王国へ入ってきた者たちにも、その生活が広がっていた。


 だが、王国の外まで安定したわけではない。


 王国騎士団長マイケルは騎士団を率い、周辺の広域索敵を続けていた。


 新たな騎士崩れや兵士崩れが確認されれば、騎士団が向かう。


 相手が数万人の武装集団であっても、やることは変わらない。


 全索敵で位置と人数を把握する。


 飛行で接近する。


 武器はアポートで回収し、そのままアイテムボックスへ収納する。


 抵抗する者はバインドバレットで捕縛する。


 逃げても全索敵から消えることはない。


 以前なら大規模な戦闘になっていた人数でも、今のシュタインフェルト王国騎士団を相手に数の多さは役に立たなかった。


 制圧された者たちは一人ずつ鑑定された。


 騎士崩れだから殺すわけではない。


 兵士崩れだから処刑するわけでもない。


 国を失った者もいる。


 食料を失った者もいる。


 生きるために武装集団へ加わった者もいた。


 完全悪党と鑑定された者だけが分離された。


 処刑されたのは、その者たちだけだった。


 それ以外の者には食事が与えられた。


 教導管理システムへ登録され、シュタインフェルト王国の国民として受け入れられていく。


 教導も行われた。


 武器を持って各地をさまようしかなかった者にも、別の生き方を選べる力が与えられた。


 農業を始めてもいい。


 職人として働いてもいい。


 森へ狩りに行ってもいい。


 以前の仕事を再び始める者もいる。


 何をするのかは自分で決めればよかった。


 騎士団が掃討を続けるほど、シュタインフェルト王国周辺を荒らす武装集団は減っていった。


 そして、制圧された者の中からも新しい国民が増える。


 殺して数を減らしているのではない。


 完全悪党だけを取り除き、それ以外の者には生活を立て直す場所を与えていた。


 大陸はまだ安定していない。


 百を超える国が消えた影響は大きかった。


 新しい難民が現れる可能性もある。


 騎士崩れや兵士崩れも、まだ各地に残っている。


 すべてが片付いたわけではなかった。


 それでも、以前とは違う。


 五千万人の国民が食べていける。


 新しく来た者を受け入れられる。


 街を造れる。


 教導できる。


 自立した者は、自分たちで街を運営できる。


 騎士団は周辺の危険を一つずつ取り除いている。


 まだ安定したとは言えない。


 だが、少しずつ安定していく兆しは、確かに見え始めていた。





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