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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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253 難民保護の準備

 シュタインフェルト王国周辺で行われていた騎士崩れ、兵士崩れの掃討作戦が終了した。


 確認されていた十か所すべての武装集団を制圧。


 武器はアポートで回収され、抵抗した者もバインドバレットで拘束されている。


 シュタインフェルト王国騎士団に被害はなかった。


 騎士団長マイケルは教導管理システムで各部隊の状況を確認した。


 十か所すべてが制圧済みになっている。


 逃走者も全索敵で確認され、すでに拘束されていた。


 騎士たちは捕虜を拘束したまま王都へ連れて帰った。


 王宮へ帰還すると、すでに食事の用意が進んでいた。


 掃討作戦に参加しなかった騎士たちが森で狩ってきた、一万体ほどの魔物。


 その肉と内臓が大量の料理へ変わっている。


 捕虜たちは漂ってくる匂いに顔を上げた。


 先日の王都強襲と同じだった。


 彼らの多くは満足な食事を取っていない。


 国を失った。


 仕事も失った。


 食料も尽きた。


 それでも武器だけは手放さず、騎士崩れ、兵士崩れとして集団を作っていた者たちだった。


 だが、今回はすぐに食事を配ることはしなかった。


 人数が多い。


 その中に何が混じっているのか、先に確認する必要がある。


 鑑定が始まった。


 一人ずつ確認する。


 騎士たちは流れ作業のように鑑定を続けた。


 大半は、国を失った元騎士や元兵士だった。


 生きる場所を失い、武装集団へ加わった者。


 食べるために加わった者。


 他に行く場所がなかった者。


 だが、中には明らかに違う者もいた。


 完全悪党。


 鑑定結果が出た者は、その場で別に分けられた。


 拘束は外さない。


 人数が増えていく。


 一方、完全悪党ではないと確認された者たちは拘束を解かれた。


「……いいのか?」


 拘束を解かれた男が、自分の両手を見る。


「食事を取ってください」


 それだけ告げられた。


 男はしばらく動かなかった。


 自分たちは武装していた。


 シュタインフェルト王国騎士団に制圧された。


 捕虜として王都まで連れてこられた。


 それなのに拘束を外され、目の前には温かい食事がある。


 やがて座り、料理を受け取った。


 一口食べる。


 止まった。


 もう一口。


 今度は大きく口へ入れた。


 周囲でも同じ光景が広がっていった。


 魔物の肉。


 ピュリフィケーションで浄化された内臓。


 大量に用意された料理が次々と配られていく。


 黙々と食べる者が多かった。


 食べる速度だけで、それまでどのような生活をしていたのか分かる。


 騎士たちは食事を邪魔しなかった。


 その間にも鑑定は続いている。


 完全悪党は分離。


 それ以外は拘束解除。


 食事。


 そして教導管理システムへの登録。


 氏名。


 出身。


 確認できる情報を一人ずつ登録していく。


 同じ人物を何度も確認する必要はない。


 誰の鑑定が終わったのか。


 誰が完全悪党として分離されたのか。


 誰が拘束を解除されたのか。


 登録された情報を確認すれば分かる。


 先ほどまで武装集団だった者たちが、一人ずつ個人として扱われていった。


 騎士崩れ。


 兵士崩れ。


 その呼び方だけでまとめて処理することはなかった。


 完全悪党ではない者の中には、食事を終えたあとも皿を手にしたまま座っている者がいた。


「これから俺たちは、どうなるんですか?」


 近くにいた騎士へ尋ねる。


「それはこれから決まります」


「そうですか……」


 男はそれ以上聞かなかった。


 少なくとも、今ここで殺されるわけではない。


 それだけは理解できた。


 王宮の一角では、完全悪党と鑑定された者たちだけが拘束されたまま残されている。


 その扱いをどうするのか。


 そして、その先にはさらに大きな問題が待っていた。


 五百万人から一千万人近い難民。


 彼らを保護するなら、食事だけ用意すれば済む話ではない。


 衣。


 食。


 住。


 すべてが必要になる。


 その方針を決めるため、カイゼルたちは会議を始めようとしていた。




 王宮では、カイゼル、アイゼル、軍務卿たちが会議を始めていた。


 十か所で行われた騎士崩れ、兵士崩れの掃討作戦は終了している。


 捕虜は王宮へ連行され、一人ずつ鑑定された。


 完全悪党ではない者は拘束を解かれ、食事を取っている。教導管理システムへの登録も進められていた。


 残された問題は二つ。


 完全悪党と鑑定された者たちをどう処分するのか。


 そして、シュタインフェルト王国周辺にいる五百万人から一千万人近い難民を、どう保護するのか。


 カイゼルは教導管理システムの端末に表示された情報へ目を通した。


「完全悪党の処分はどうする?」


 アイゼルが答えた。


「処刑でよろしいでしょう」


 武装集団に加わっていたというだけで処刑するわけではない。


 そのために一人ずつ鑑定した。


 国を失い、行き場をなくした元騎士や元兵士まで同じ扱いにはしていない。


 カイゼルは頷いた。


「分かった。それでいこう」


 次は難民だった。


 こちらの方が規模ははるかに大きい。


「問題は一千万人近い難民だな」


 食料の準備はすでに始まっている。


 掃討作戦に参加しなかった騎士たちは森へ向かい、一万体ほどの魔物を狩ってきた。


 王国内では芋の収穫が続いている。


 広大な農地では大豆、小麦、綿花の栽培も始まっていた。


 以前より食料生産力は大きく上がっている。


 だが、難民を保護するために必要なのは食料だけではない。


 衣。


 食。


 住。


 最低でも、この三つは用意しなければならない。


 アイゼルが口を開いた。


「住居は荒野を開拓して街を作りましょう」


 シュタインフェルト王国には、まだ利用されていない広大な土地が残っている。


 これまでは国土の三割ほどしか十分に利用されていなかった。


 農地を作ったときにも、その荒野が使われた。


 そして今では、シュタインフェルト王国の国民は誰もが土魔法を使える。


 土地を整地するために、一部の土魔法使いを集める必要はない。


 必要な場所へ人を送り、それぞれが土魔法を使えばいい。


 アイゼルは続けた。


「集合住宅を建設します。それだけでは足りません。公衆浴場、治療施設、教導会場も必要です」


 人を集めて住居だけ与えても、街にはならない。


 生活するための施設がいる。


 衛生を保つ場所。


 病人や怪我人を治療する場所。


 そして、難民自身が生活する力を身につけるための場所。


「教導を行いましょう」


 アイゼルは言った。


「アルデバランのように自立させます」


 カイゼルがアイゼルを見る。


「保護して終わりにはしないということだな」


「はい」


 食料を与え続けるだけでは、難民はいつまでも難民のままだ。


 住む場所だけを与えても同じだった。


 最初は助ける。


 衣服を用意する。


 食事を用意する。


 住居を用意する。


 必要なら治療する。


 そのうえで教導する。


 魔法を覚える者もいる。


 技能を身につける者もいる。


 農業を選ぶ者。


 工房で働く者。


 商売を始める者。


 冒険者になる者。


 何をするかまでシュタインフェルト王国が決める必要はない。


 選べるだけの力を渡せばいい。


 軍務卿も頷いた。


「新しく街を作るのであれば、既存の都市へ一千万人を集中させる必要もありません。各地に分散して建設できます」


 シュタインフェルト王国には土地がある。


 ゴーレム馬車もある。


 道路も整備できる。


 国民全員が魔法を使える。


 行政官たちは行政スキルと組織スキルを身につけ、全国の役所を回って教導を続けている。


 以前なら不可能だった規模の受け入れも、今なら準備できる。


 カイゼルは決断した。


「よし。それでいい。アイゼルは部隊を率いて取り掛かってくれ」


 アイゼルが頭を下げた。


「御意」


 方針は決まった。


 完全悪党は処刑する。


 難民には衣食住を用意する。


 荒野を開拓して街を作り、集合住宅、公衆浴場、治療施設、教導会場を整える。


 そして保護した者たちを、ただ養うのではなく、自分の力で暮らせるようにする。


 一千万人近い難民を迎えるための準備が動き始めた。




 会議で方針が決まると、すぐに動き始めた。


 完全悪党と鑑定され、別に拘束されていた者たちには処刑が決定された。


 騎士崩れや兵士崩れだったからではない。


 同じ武装集団にいた者でも、完全悪党ではない者はすでに拘束を解かれている。


 一人ずつ鑑定したうえで分けた結果だった。


 処刑は速やかに執行された。


 一方、アイゼルは難民保護の準備に取り掛かっていた。


 一千万人近い人間を受け入れる。


 既存の街へ入れるには多すぎる。


 向かったのは、これまでほとんど利用されていなかった広大な荒野だった。


 シュタインフェルト王国には土地がある。


 農地として使われ始めた場所を除いても、まだ開拓できる場所は広く残されていた。


 アイゼルは部隊を率いて現地へ到着した。


 まず必要なのは土地だった。


 土魔法が使われる。


 荒れた地面が均されていく。


 大きな石が取り除かれ、起伏が整えられる。


 道路になる場所が作られ、その両側に建物を建てるための区画が次々と確保されていった。


 特別な土魔法使いを待つ必要はない。


 シュタインフェルト王国では、すでに誰もが土魔法を使える。


 それぞれが自分の担当する場所へ入り、作業を進めていった。


 広大な荒野の各所で同時に地形が変わっていく。


 整地された場所では、集合住宅の建設も始まった。


 一千万人近い難民を受け入れる以上、一軒ずつ家を建てていては土地も時間も必要になる。


 まずは多くの人間が生活できる集合住宅を作る。


 土魔法で基礎を作り、建材が運び込まれる。


 ゴーレム馬車が何台も荒野へ入り、必要な資材を運んできた。


 荷を降ろした馬車は再び王都や各地の工房へ戻り、次の資材を積んでくる。


 建設されるのは住居だけではない。


 別の区画では公衆浴場の建設が始まっていた。


 大量の人間が生活するなら、衛生環境は欠かせない。


 さらに治療施設。


 教導会場。


 必要な施設を置くための土地も確保されていく。


 道路も同時に延びていった。


 人が住める建物だけを並べても、生活は成り立たない。


 人と物が動けなければならない。


 ゴーレム馬車が通れる幅を確保しながら、街の中を結ぶ道が作られていく。


 さらに外部へ続く道も整備された。


 食料を運ぶ。


 衣服を運ぶ。


 建材を運ぶ。


 人も移動する。


 難民を受け入れた後も使い続ける道路だった。


 建設は一か所だけではなかった。


 一千万人近い人間を一つの街へ集める必要はない。


 利用できる荒野は広い。


 複数の場所で同じ作業が始められていた。


 教導管理システムには、それぞれの建設状況が登録されていく。


 どこまで整地されたのか。


 集合住宅がどれだけ完成しているのか。


 公衆浴場、治療施設、教導会場はどこに作られているのか。


 離れた場所で作業していても、進捗を確認できる。


 必要な資材も把握できた。


 足りないものがあれば工房へ伝わり、ゴーレム馬車で運ばれてくる。


 荒野だった場所に道路が伸びる。


 その周囲に集合住宅が並び始める。


 公衆浴場が作られる。


 治療施設が形になっていく。


 教導会場も建ち始めた。


 難民が到着してから慌てて用意するのではない。


 来る前に作る。


 住む場所を作る。


 身体を清潔にできる場所を作る。


 治療を受けられる場所を作る。


 そして、自分で生活する力を身につける場所を作る。


 まだそこに難民の姿はない。


 だが、何もなかった荒野には、すでに新しい街の形が現れ始めていた。




 難民を受け入れるための街造りには、アレクサンドたち二百万人の応援団も加わった。


 シュタインフェルト王国へ来てから、各地で教導を行っていた者たちである。


 二百万人が一か所へ集まったわけではない。


 建設が進められている各地へ分かれ、それぞれ必要な作業に参加した。


 荒野の開拓速度が一気に上がった。


 土魔法で地面を均す。


 道路を造る。


 集合住宅の基礎を造る。


 建材を加工し、建物を組み上げる。


 シュタインフェルト王国の者たちも同じように作業している。


 アルデバランから来た者だけが街を造るのではなかった。


 すでに教導を受けたシュタインフェルト王国の者たちと一緒になって、広大な荒野を街へ変えていく。


 集合住宅の建設が進む一方で、生活に必要な設備も整えられていった。


 共同トイレが各所に造られる。


 大量の人間が生活する以上、排泄物をそのまま放置するわけにはいかない。


 地下には下水を流すための設備が造られ、下水処理システムも配備された。


 公衆浴場も増えていく。


 治療施設。


 教導会場。


 食事を用意する場所。


 大量の水を使う場所には給排水設備も必要になる。


 建物だけを大量に並べるのではなく、人が実際に生活できる環境が整えられていった。


 ゴーレム馬車が絶えず行き来していた。


 建材が運び込まれる。


 設備に必要な資材も届く。


 食料を保管する場所も作られていく。


 道路は街の内部だけでなく、シュタインフェルト王国の既存の街道へ接続された。


 教導管理システムには建設状況が次々と登録されている。


 集合住宅。


 公衆浴場。


 治療施設。


 教導会場。


 共同トイレ。


 下水処理設備。


 道路。


 完成した場所が増えるたびに、受け入れ可能な人数も増えていった。


 アレクサンドは上空から建設中の街を見ていた。


 広い。


 それでも、ここへ来る難民は一千万人近い。


 しかも、周辺にはすでに百を超える国がなくなっている。


 今回確認された難民だけで終わるとは限らない。


 アレクサンドは地上へ降りた。


 アイゼルも建設状況を確認していた。


「アイゼル卿」


「はい」


 アレクサンドは周囲に広がる建設現場を見た。


「今後も保護難民は増えるのではないか?」


 アイゼルは少し考えた。


 現在確認されているだけでも五百万人を超える。


 広域索敵の範囲を広げれば一千万人近くになる可能性がある。


 そして、それで終わる保証はない。


「増えるでしょう」


「ならば、三千万人規模の難民街も今作ればよかろう?」


 アイゼルは建設中の街へ目を向けた。


 確かにその方がいい。


 一千万人を受け入れたあと、さらに難民が現れてから新しい土地を探し、住居を造り始める必要はない。


 土地ならある。


 シュタインフェルト王国には、まだ広大な荒野が残っている。


 人手もある。


 二百万人の応援団がいる。


 シュタインフェルト王国の者たちも魔法を使える。


 ゴーレム馬車も大量にある。


 今なら最初から余裕を持って造ることができる。


「お願いする」


 アイゼルは答えた。


 それだけで十分だった。


 建設する範囲がさらに広がった。


 新たな土地が整地される。


 道路が延びる。


 集合住宅を建てる区画が増えていく。


 公衆浴場、治療施設、教導会場、共同トイレ、下水処理設備を配置する場所も確保された。


 一千万人を収容するだけの場所ではない。


 さらに二千万人が来ても受け入れられる規模へ。


 街造りは拡張された。


 今すぐ三千万人の難民がいるわけではない。


 だからといって、来てから慌てる必要もなかった。


 土地があり、造る力があり、必要になる可能性が高い。


 ならば今のうちに造っておけばいい。


 荒野の各所で土魔法が使われている。


 ゴーレム馬車が資材を運んでいる。


 二百万人の応援団とシュタインフェルト王国の者たちが街を造り続けている。


 難民保護の準備として始まった街造りは、三千万人を受け入れられる規模へと広がっていった。





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