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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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25 超能力

翌朝。


王城の訓練場には七百人の騎士が整列していた。


全員が目を閉じ、静かに魔力循環を続けている。


もはや魔力循環は特別な訓練ではない。


呼吸と同じように、誰もが自然に行えるようになっていた。


「今日は魔力循環の速度を少し上げます。」


アークは穏やかに告げた。


「無理をする必要はありません。」


「一定の速度を維持してください。」


「始め。」


七百人の騎士は一斉に魔力循環を加速させる。


訓練場には静寂だけが流れていた。


誰も喋らない。


ただ魔力だけが身体の中を巡り続ける。


十分ほど経った頃だった。


一人の若い女性騎士の身体が淡く光り始める。


「覚醒だ!」


近くにいた騎士が思わず声を上げた。


その光はすぐ隣の騎士へ伝わるように広がっていく。


「あちらも!」


「こっちも光っています!」


訓練場の至る所で淡い光が灯り始めた。


教導スキルを持つ騎士たちは慌てることなく隊列を整える。


「そのまま魔力循環を続けてください。」


「焦らなくて大丈夫です。」


鑑定スキルを持つ騎士たちも次々と覚醒者のもとへ駆け寄る。


一人の女性騎士を鑑定した騎士が驚いたように目を見開く。


「これは……。」


周囲の視線が集まる。


「どうした。」


騎士団長が尋ねる。


鑑定した騎士は興奮を抑えながら答えた。


「テレキネシスです。」


訓練場がどよめく。


「超能力か!」


「まだあります。」


鑑定を続ける。


「テレパシー。」


「レビテーション。」


次々と新しい能力名が読み上げられた。


「三つも同時に覚醒したのか。」


騎士団長は思わず息を呑む。


その直後だった。


別の場所でも歓声が上がる。


「私もです!」


「テレキネシス!」


「レビテーションを覚えました!」


「あっ、私もテレパシーです!」


鑑定役の騎士たちは次々と能力を確認していく。


「こちらも同じです!」


「三つとも覚醒しています!」


「こっちも!」


覚醒は一人では終わらなかった。


まるで連鎖するように、次々と超能力へ目覚める騎士が現れる。


女性騎士も。


若い男性騎士も。


ベテラン騎士も。


訓練場のあちこちで歓声が響き渡った。


アークは騒ぎの中心へ向かうことなく、静かに全体を眺めている。


その表情に驚きはない。


魔力循環を積み重ねてきた結果として、自然に訪れた成長だからである。


騎士団長は目の前で起きている光景を信じられず、何度も覚醒者たちを見回していた。


「まだ終わりではない……。」


そう呟いた直後、新たな光が再び訓練場を包み始めた。




訓練場のあちこちで歓声が上がっていた。


「レビテーションを試してみます!」


一人の若い女性騎士が静かに魔力を練る。


すると、


ふわり。


両足が地面から離れた。


「浮いた……。」


本人が一番驚いていた。


周囲の騎士たちも思わず息を呑む。


「本当に浮いている。」


「成功だ!」


続いて別の騎士もレビテーションを発動する。


一人。


また一人。


次々と騎士たちの体が宙へ浮かび上がった。


「慌てないでください。」


アークが静かに声を掛ける。


「まずは浮くことだけを意識してください。」


騎士たちは頷き、高さを一メートルほどで維持する。


姿勢を崩す者もいたが、すぐに体勢を立て直した。


「次は風魔法です。」


アークの言葉に、騎士たちは風属性の魔力を纏う。


「前へ進むことだけを考えてください。」


一人の女性騎士がゆっくりと前へ進む。


「動いた!」


その声に続くように、他の騎士たちも挑戦する。


ふわり。


すうっと前へ滑るように移動する。


「飛べる!」


「本当に空を飛んでいる!」


訓練場には歓声が広がった。


最初は恐る恐るだった騎士たちも、少しずつ速度を上げていく。


浮き上がり。


止まり。


方向を変える。


その動作を何度も繰り返しながら感覚を掴んでいく。


教導役の騎士たちも各班を回る。


「視線を進行方向へ。」


「魔力を急に強めないでください。」


「落ち着いて。」


助言を受けるたびに飛行は安定していった。


女性騎士たちは特に習得が早かった。


風魔法との連携も滑らかで、高度を維持したまま旋回まで成功させる者も現れる。


「すごい……。」


騎士団長は空を見上げた。


訓練場の上空では、多くの騎士が静かに飛行を続けている。


まるで鳥の群れのようだった。


鑑定役の騎士が次々と報告する。


「レビテーション習得者、さらに増えています!」


「こちらの班も全員覚醒しました!」


「飛行成功者も増加しています!」


時間が経つにつれ、空へ舞い上がる騎士はさらに増えていく。


やがて集計役の騎士が団長のもとへ駆け寄った。


「団長!」


「現在、約三百五十名が飛行可能です!」


「半数か……。」


騎士団長は驚きを隠せなかった。


わずか一日の訓練で、王国騎士団の半数が飛行能力を身につけたのである。


その様子を静かに見ていたアークが口を開く。


「団長。」


「飛行部隊を組織できますよ。」


騎士団長は思わずアークを見つめた。


空を自在に飛ぶ騎士団。


それは王国の歴史に存在しなかった、まったく新しい戦力だった。


団長は再び空を見上げる。


青空には、およそ三百五十人の騎士たちが風を纏い、整然と飛行を続けていた。


その光景は、王国騎士団が新たな時代へ踏み出した瞬間を物語っていた。




「では、次の訓練です。」


アークは飛行する騎士たちを見上げながら静かに告げた。


「飛ぶだけでは意味がありません。」


「隊列を組みます。」


騎士たちは空中で頷いた。


「五人一組です。」


「間隔を保ってください。」


教導役の騎士たちが次々と指示を出す。


「もう少し右です。」


「前へ出過ぎています。」


「高度を合わせてください。」


最初は互いの距離が揃わず、列も乱れていた。


しかし何度も繰り返すうちに、五人一組の隊列が徐々に整い始める。


「その調子です。」


「視線は前。」


「慌てず一定の速度で。」


飛行している騎士たちは風魔法を調整しながら、高度と速度を揃えていく。


やがて一組、また一組と、美しい隊列が完成した。


地上から見守る騎士たちから感嘆の声が漏れる。


「空でも隊列が組めるのか。」


「地上訓練と同じだ。」


騎士団長は腕を組みながら頷いた。


「見事だ。」


「これなら命令も伝えやすい。」


アークは続けて言う。


「次は速度を変えます。」


「ゆっくり前進。」


飛行部隊が一斉に前へ進む。


速度を合わせたまま隊列は乱れない。


「停止。」


全員がほぼ同時に静止する。


「右旋回。」


五人一組の隊列が円を描くように向きを変えた。


「左旋回。」


再び滑らかに方向を変える。


訓練を重ねるたびに動きは洗練され、隊列の乱れはほとんど見られなくなっていた。


教導役の騎士たちも空へ上がり、自ら見本を示す。


「間隔はこれくらいです。」


「旋回するときは外側が少し速度を上げます。」


実際に飛びながら教えることで、他の騎士たちもすぐに理解していく。


騎士団長は副団長へ視線を向けた。


「教える者が空でも育っている。」


副団長は笑みを浮かべる。


「誰か一人に頼る必要がありません。」


「覚えた者が、そのまま教師になります。」


訓練場では飛行できない騎士たちも空を見上げていた。


悔しそうな表情を浮かべる者もいる。


アークはその様子に気付き、静かに言った。


「焦る必要はありません。」


「魔力循環を続けてください。」


「覚醒の時期には個人差があります。」


その言葉を聞いた騎士たちは力強く頷いた。


飛べなかった者も再び魔力循環を始める。


飛べる者は飛べない者へ経験を伝える。


「肩の力を抜くんだ。」


「風魔法は押し出すのではなく支える感覚だ。」


「浮くことを怖がらなくていい。」


教導は自然と広がり続ける。


アークは空を舞う飛行部隊と、それを見上げながら学ぶ騎士たちを静かに見つめていた。


飛行魔法を習得したこと以上に価値があるのは、その技術を仲間へ伝え、自ら組織全体を成長させていることだった。


王国騎士団は、地上だけではない。


空においても、自ら学び、自ら教える新たな集団へと着実に変わり始めていた。




夕暮れが近づき、訓練場を黄金色の光が包んでいた。


空では飛行部隊が整然と隊列を組み、ゆっくりと旋回を繰り返している。


地上では飛行できなかった騎士たちも魔力循環を続けながら、その光景を見つめていた。


「魔力循環を止めないでください。」


アークが静かに声を掛ける。


「焦る必要はありません。」


「覚醒には個人差があります。」


騎士たちは力強く頷き、再び魔力循環へ意識を集中させた。


その時だった。


一人の男性騎士の身体が淡く輝き始める。


「覚醒だ!」


鑑定役の騎士が駆け寄る。


「テレキネシス。」


「テレパシー。」


「レビテーション。」


「三つとも覚醒しています!」


歓声が上がる。


覚醒した騎士は恐る恐るレビテーションを発動した。


ふわりと身体が浮き上がる。


「浮いた!」


その姿を見た周囲の騎士たちから拍手が起こった。


まるで合図だったかのように、別の場所でも光が灯る。


「こちらも覚醒しました!」


「私もです!」


鑑定役の騎士たちは休む間もなく駆け回る。


「テレキネシス!」


「テレパシー!」


「レビテーション!」


次々と報告が響いた。


教導役の騎士たちは、新たに覚醒した仲間へ飛行の基本を教え始める。


「まずは浮くだけでいい。」


「慌てなくて大丈夫。」


「風魔法を少し纏ってみて。」


覚えたばかりの騎士が、今度はさらに後から覚醒した仲間へ教える。


教導は自然と連鎖していった。


騎士団長はその様子を静かに見つめる。


「今日だけで、ここまで増えるとは……。」


集計役の騎士が駆け寄ってきた。


「団長!」


「飛行可能者は三百五十名を超えました!」


騎士団長は驚きながら空を見上げた。


王都の空には、数百人もの騎士たちが整然と飛行している。


その姿は、まるで王国を守る翼のようだった。


アークは騎士団長の隣へ歩み寄る。


「団長。」


「飛行部隊は独立した部隊として運用できます。」


「索敵。」


「伝令。」


「救助。」


「輸送。」


「地上では困難な任務もこなせるでしょう。」


騎士団長は深く頷いた。


「王国の戦い方そのものが変わる。」


副団長も静かに続ける。


「敵が空を想定していなければ、大きな優位になります。」


アークは空を舞う騎士たちを見上げた。


飛行そのものよりも価値があるのは、人が人を育てる仕組みが完成しつつあることだった。


超能力を覚えた者が仲間へ教える。


飛行を習得した者が見本を見せる。


教えられた者は、次の教師になる。


その循環は途切れることなく広がっていく。


騎士団長は力強く宣言した。


「飛行可能者を中心に、新たに飛行部隊を編成する!」


「教導役も選抜し、全騎士の飛行習得を目指す!」


「はっ!」


訓練場に七百人の声が響く。


空を飛ぶ者も、まだ飛べない者も、その返事には同じ決意が込められていた。


アークはその光景を静かに見つめ、小さく頷く。


王国騎士団は地上を守るだけの集団ではなくなった。


空を駆け、仲間を育て、自ら進化し続ける新しい騎士団が、今ここに誕生したのだった。





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