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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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236 王が見た第78

 第78アルデバラン王国の国王は、クラディエールと言った。


 農業と紡織、製鉄を始めとする金属加工で国民は生計を立てているそうだ。


 王宮での話を終えたカイゼルたちは、アリサの案内で町を歩いていた。


 カイゼルが見ているのは要塞ではない。


 城壁でも、兵士の数でもなかった。


 まず目についたのは道路だった。


 広く、平らに整えられている。


 人が歩くだけではなく、大量の物資を運ぶことを前提にしているように見えた。


 その道路を、大きなゴーレムが歩いている。


 荷台には袋や木箱が積まれていた。


 別のゴーレムも反対側からやってくる。


「ゴーレムで荷物を運んでいるのか?」


「はい」


 アリサが答える。


「たくさん運べますから」


 カイゼルはそれ以上聞かなかった。


 ゴーレムそのものより、何をさせているのかを見る。


 荷物を運ぶ。


 それによって店や工房へ物が届く。


 道があり、その上を物流が動いている。


「市場はこちらです」


 アリサが先へ進む。


 市場へ入ったところで、カイゼルは歩調を緩めた。


 食料が多い。


 穀物。


 野菜。


 果物。


 肉。


 魚。


 調味料。


 加工された食品まで並んでいる。


 布や衣服を扱う店もあり、その先には鍋や刃物、農具などの金属製品が並んでいた。


 売られているだけではない。


 人が買っている。


 商品が減れば、新しい荷物が運び込まれる。


 ゴーレムが運んでいた荷物も、こうして町の中へ流れていくのだろう。


「食料が余っているのか?」


「余っているというより、売るだけあるんです」


 アリサが答えた。


「作って、運んで、売っていますから」


「なるほど」


 カイゼルは市場を見回した。


 三十五億人。


 王宮で聞けば、ただ巨大な数字にしか思えない。


 だが、人間は数字では生きられない。


 毎日食べる。


 服を着る。


 道具を使う。


 それを作り、運び、売る仕組みがなければ、三十五億人を保護したところで生活は成り立たない。


 市場を出る。


 通りでは、一人の男が水魔法を使って店先を洗っていた。


 別の場所では土魔法で地面を整えている。


 少し先では火魔法を使っている者もいる。


 誰も見物していない。


「本当に普通に使うのだな」


 カイゼルが言った。


「魔法ですか?」


「ああ」


「便利ですからね」


 アリサにとっては、それだけのことらしい。


 その時、頭上を影が通った。


 軍務卿が空を見る。


 人が飛んでいた。


 さらにもう一人。


 荷物を持ったまま飛んでいく者もいる。


「……飛行まで」


 軍務卿が呟く。


 アリッサが帰国した時には、王宮中が驚いた。


 ここでは誰も空を見上げない。


 飛べることそのものが珍しくないのだ。


 さらに歩く。


 布を運ぶ者。


 金属を加工する者。


 農作物を荷台へ積む者。


 店で客を相手にする者。


 誰もが自分の仕事をしていた。


 カイゼルがアリサに尋ねる。


「彼らの中にも、保護された者がいるのか?」


 アリサが少し不思議そうな顔をした。


「中にも、ではありませんよ」


「何?」


「みんなです」


 カイゼルの足が止まった。


「ここにいる者たちが?」


「はい」


 アリサは自分を指した。


「私もそうです。出身国は違いますけど」


 アイゼルたちも周囲を見る。


 野菜を売っている者。


 荷物を運んでいる者。


 布を扱っている者。


 金属を加工している者。


 魔法を使っている者。


 空を飛んでいる者。


 誰が元被保護民なのか分からなかったのではない。


 全員だった。


 保護された人々が教導を受け、仕事を持ち、自分で生活している。


 そして、その者たちが今の第78を作っている。


「……そういうことか」


 カイゼルは静かに呟いた。


 シュタインフェルト王国との違いは大きい。


 だからといって、どちらが優れていると今ここで決めるつもりもない。


 自国には自国の歴史がある。


 第78には第78がここまで来た事情がある。


 カイゼルはただ、目の前にあるものを見た。


 道路がある。


 物流が動く。


 市場には食料がある。


 人々は魔法を生活に使う。


 仕事を持ち、自分で稼いで暮らしている。


 そして、その人々は全員が被保護民だった。


 カイゼルは通りの先へ目を向けた。


「これを百三十カ国でやっているのか?」


 誰も即答できなかった。


 目の前の第78だけでも、一つの国として動いている。


 それが百三十。


 数字として知っていても、その規模を実感できる者はまだいなかった。




 市場を離れても、カイゼルは周囲を見続けていた。


 先ほどアリサが言った言葉が頭に残っている。


 ここで暮らしている者たちは、全員が被保護民だった。


 助けられただけではない。


 仕事を持ち、自分で稼ぎ、自分で生活している。


「アリサさんも、別の国で保護されたと言っていたな」


「はい」


「それから第78へ?」


「仕事で来ました。今は冒険者ギルドの臨時職員もしています」


 カイゼルは頷いた。


 人も国境を越えて動いている。


 先ほど見た物資だけではなかった。


「百三十カ国の間では、人の移動も自由なのか?」


「かなり自由ですよ。仕事で移る人もいますし、商売で行き来する人もいます」


「なるほど」


 国が違っても、人と物が動く。


 第78だけを見ていても、その向こうに百二十九の国が繋がっている。


 前方から荷台を引くゴーレムが近づいてきた。


 大量の穀物を積んでいる。


 軍務卿は道を譲りながら、ゴーレムではなく荷台を見ていた。


 続いてきた二体目にも穀物が積まれている。


 三体目は野菜だった。


「何を見ている?」


 カイゼルが尋ねた。


「輸送量です」


 軍務卿は短く答えた。


「これだけの道路を整備し、ゴーレムを継続して動かしている。市場で見た物資の量にも納得がいきます」


「補給を見るか」


「職業柄です」


 軍務卿は僅かに笑った。


 武国シュタインフェルトで軍務を預かる男だった。


 戦場では、兵士だけでは軍は動かない。


 食料がいる。


 武器がいる。


 衣服がいる。


 それらを運ぶ道も必要になる。


「軍事利用された場合も考えているのか?」


「考えない方がおかしいでしょう」


 軍務卿はゴーレムを見送った。


「ですが、今ここで動いているのは軍ではありません」


「ああ」


「民の生活を支えるために、この輸送力を日常的に使っている。その方が重要です」


 カイゼルも同意した。


 戦争になった時だけ大量の物資を動かせるのではない。


 平時から動いている。


 だから市場に大量の商品が並ぶ。


 カイゼルたちはさらに歩いた。


 頭上を数人の人間が飛んでいく。


 一人は荷物を抱えていた。


 軍務卿は一度だけ空を見上げ、すぐに前へ視線を戻した。


「もう驚かないのか?」


「驚いてはいます」


「そうは見えんが」


「何度驚いても、飛べる事実は変わりませんから」


 カイゼルが笑った。


「それもそうだな」


「それより、あの力を持つ者が兵士ではなく、普通に荷物を運んでいることの方が気になります」


 軍務卿は通りを見る。


 水魔法で店先を洗う者がいる。


 土魔法で道の一部を整える者もいる。


 少し先では、荷物を浮かせて運んでいる者までいた。


「軍事力として数えるだけでは、この国は見誤ります」


「私もそう思う」


 アリサは二人の会話を聞きながら歩いていたが、口を挟まなかった。


 彼女にとっては日常なのだろう。


 一行は冒険者ギルドの前を通った。


 先ほどは国王の来訪を伝えることが先だったため、カイゼルも周囲を詳しく見ていなかった。


 冒険者が出入りしている。


 素材らしきものを運び込む者もいた。


「冒険者ギルドはシュタインフェルトにもある」


 カイゼルが言った。


「はい」


 アイゼルが答える。


「ここは我が国と変わらない部分も多そうですな」


「そうだな」


 何もかも違うわけではない。


 冒険者が仕事をする。


 商人が商品を売る。


 職人が物を作る。


 農民が食料を作る。


 人間が暮らす以上、必要になるものは大きく変わらない。


 違うのは、その方法だった。


「アリサさん」


「はい」


「第78で足りないものが出た場合はどうする?」


「他の国から運びますよ」


「逆もある?」


「もちろんです。第78で余裕があるものを、必要としている国へ送ることもあります」


 カイゼルは先ほどのゴーレムを思い出した。


 百三十カ国。


 それぞれが完全に独立して生産し、国境で流れを止めているわけではない。


 足りなければ運ぶ。


 余裕があれば送る。


「三十五億人という数字ばかり見ていたな」


 カイゼルが呟いた。


「陛下?」


「いや」


 その三十五億人がどう暮らしているのか。


 ようやく、その一部が見えてきた。


「次は農地だったな」


「はい。もう少しです」


 アリサが前方を指す。


 建物が少なくなり、その向こうに広い農地が見え始めていた。


 農業。


 クラディエールが第78の主要産業として最初に挙げたものだった。


 カイゼルは歩みを止めない。


 市場に大量の食料があった。


 次は、それを作っている場所を見る。


 シュタインフェルト王は、まだ第78を評価しようとはしていなかった。


 まず見る。


 自国との違いを考えるのは、それからだった。




 町を抜けると、広大な農地が見えてきた。


 穀物、野菜、果樹。


 区画ごとに作物が分けられ、多くの人が働いている。


 土魔法で畑を耕す者がいる。


 水魔法で作物へ水を与える者もいた。


 収穫された作物は次々と荷台へ積まれていく。


 カイゼルが農地を見ている横で、軍務卿は別のものを見ていた。


 荷台だった。


 ゴーレムが引く荷台が農地から道路へ入り、同じ方向へ向かっている。


「アリサ殿」


「はい」


「集積地はどこにありますか?」


 アリサが前方を指した。


「この先に卸市場があります」


「やはりあるのか」


 軍務卿が頷く。


「これだけの量を、農地から直接それぞれの商店へ運ぶはずがない」


「卸市場に集めてから仕分けします。町の市場や商店、食堂へ送るものもありますし、他の地域へ送るものもあります」


「備蓄は?」


「倉庫がありますよ」


「見せてもらえますか?」


「もちろんです」


 カイゼルが軍務卿を見る。


「気になるか?」


「当然です」


 軍務卿は即答した。


「食料は作っただけでは意味がありません。集め、保管し、必要な場所へ必要な量を送らなければならない。三十五億人を抱えているなら、なおさらです」


「そうだな」


 一行は農地を抜け、そのまま卸市場へ向かった。


 市場とは規模が違った。


 大きな建物が並び、その間を何体ものゴーレムが行き交っている。


 運び込まれた穀物や野菜が降ろされる。


 別の場所では仕分けが行われていた。


 箱や袋が積まれ、行き先ごとに分けられている。


 荷台へ積み替えられ、再び運び出されていく。


 軍務卿の目が細くなった。


「ここから各地へ?」


「はい」


「第78の中だけではないな?」


「他国へ送るものもあります」


 アリサが答える。


「逆に、第78で足りないものがあれば他国から届きます」


 軍務卿は黙って卸市場を見る。


 何体のゴーレムが動いているのか。


 一度にどれほど運べるのか。


 道路はどこへ続いているのか。


 倉庫の規模。


 荷物が滞留している様子はないか。


 カイゼルは邪魔をしなかった。


 武国シュタインフェルトで軍務を預かる男が何を見ているのか、分かっていたからだ。


「どうだ?」


 しばらくしてカイゼルが尋ねた。


「よくできています」


 軍務卿は短く答えた。


「それだけか?」


「まだ一カ所を見ただけです」


 カイゼルが僅かに笑った。


「もっともだ」


 軍務卿は卸市場から農地へ続く道路を見る。


「ただ、一つだけ分かりました」


「何だ?」


「先ほど市場で見た大量の商品は、豊かさを見せるために集めたものではありません」


「ああ」


「日常的に、あれだけの物資を動かせる仕組みがある」


 軍務卿はそれ以上言わなかった。


 軍事に置き換えればどうなるか。


 カイゼルにも分かる。


 だが、今ここで口にする必要はなかった。


 目の前で行われているのは軍事輸送ではない。


 三十五億人の生活を支える物流だった。


 一行は次に紡織を行う区画へ向かった。


 建物の中では糸が作られている。


 布を織る者。


 染める者。


 裁断する者。


 縫製する者。


 完成した衣服を箱へ詰める者。


 ここでも工程が分かれていた。


「これも卸市場へ?」


 カイゼルが尋ねた。


「一度まとめてから各地へ送るものが多いですね。直接取引しているところもあります」


「食料だけではないわけか」


「はい」


 次に向かったのは金属加工を行う区画だった。


 製鉄から加工までが行われている。


 農具。


 刃物。


 鍋。


 建築用の金具。


 市場で見たものと同じ品が次々と作られていた。


 軍務卿は今度は製品だけを見ていなかった。


 原料が運び込まれる場所。


 燃料。


 完成品を運び出す経路。


 働いている人数。


 それらを順番に見ている。


「軍務卿」


「はい」


「先ほどから随分静かだな」


「見るものが多すぎます」


 軍務卿は素直に答えた。


「兵士の数なら数えれば済みます。騎士の練度なら訓練を見ればいい。ですが、これは国そのものです」


 カイゼルは工房を見る。


「食料を作る」


「はい」


「衣服を作る」


「はい」


「道具を作る。そして運ぶ」


「それを日常的に行っています」


 軍務卿はそこで初めてカイゼルを見る。


「陛下。この国の軍事力だけを調べても、意味はありません」


「同感だ」


「戦う者だけが国力ではない。ここを見ればよく分かります」


 カイゼルは静かに頷いた。


 飛行。


 六属性魔法。


 ゴーレム。


 それらだけでもシュタインフェルトの常識から外れている。


 だが、目の前にあるものはもっと単純だった。


 作る。


 集める。


 蓄える。


 運ぶ。


 売る。


 そして人々が働き、自分の生活を維持する。


 三十五億人という数字を支えているのは、その積み重ねだった。


 軍務卿はもう一度、荷物を運び出していくゴーレムを見た。


「これを百三十カ国で繋いでいる……」


 独り言に近かった。


 誰も答えなかった。


 まだ第78の一部を見ただけだった。




 金属加工の区画を出た一行は、再び町へ向かった。


 来た時と同じ道路を、ゴーレムが行き交っている。


 農地から卸市場へ。


 卸市場から市場や商店へ。


 工房から完成した製品が運び出され、逆に原料が運び込まれる。


 一度仕組みを理解すると、同じ光景が違って見えた。


「止まらないのだな」


 カイゼルが呟く。


「何がですか?」


 アリサが尋ねる。


「物の流れだ。先ほどから見ているが、常に何かが運ばれている」


「必要なものがありますから」


 アリサにとっては当たり前のことだった。


 カイゼルもそれ以上は聞かなかった。


 町へ戻る途中、一人の女性が空から降りてきた。


 抱えていた箱を店の前へ置き、店主と二言三言話すと、再び浮かび上がる。


 少し離れた場所では、男が荷物を浮かせたまま歩いていた。


 その横を子供たちが通り過ぎていく。


 誰も気にしていない。


 軍務卿は黙って見ていた。


「今度は何を考えている?」


 カイゼルが尋ねる。


「動員です」


 軍務卿は答えた。


「飛べる者、荷物を浮かせられる者、土を動かせる者、水を出せる者。これだけでも災害が起きた時の対応は大きく変わります」


「戦争ではなく?」


「戦争にも使えるでしょう」


 軍務卿は否定しなかった。


「ですが、普段から使っている技術です。命令を受けて初めて使う兵士とは違います」


 カイゼルが頷く。


 道路が壊れれば直せる。


 水が必要なら出せる。


 物資を運べる。


 空から移動することもできる。


 それをできる者が軍の中だけにいるのではない。


 町の中で普通に働いている。


「民そのものが国を維持する力を持っている、か」


「そう見えます」


 軍務卿はそれだけ答えた。


 一行は再び冒険者ギルドの前まで来た。


 朝から何度も見ている建物だった。


 冒険者が出入りしている。


 素材を持ち込む者がいる。


 依頼を受けて出ていく者もいる。


 カイゼルは入口の前で少し足を止めた。


「ここから始まったのだったな」


 アイゼルが娘を見る。


「アリッサにとっては、そうですな」


 アリッサが第78へ来た。


 冒険者としてギルドを訪れた。


 アリサと出会い、教導を知った。


 帰国した。


 その結果、シュタインフェルト王国の国王までここにいる。


 カイゼルはアリサを見る。


「改めて考えると、不思議なものだな」


「何がです?」


「そなたが一人の冒険者に教導のことを教えた。それが我々の国まで届いた」


「私は聞かれたことを教えただけですよ」


「そうだったな」


 カイゼルは笑った。


 それ以上は言わない。


 一行はそのまま歩き出した。


 市場では相変わらず多くの人が買い物をしている。


 食料を買う者。


 布を見る者。


 鍋を選ぶ者。


 誰も国王一行を見るために生活を止めてはいない。


 カイゼルが見たかったのは、まさにその光景だった。


 特別に用意されたものではない。


 普段の第78。


「陛下」


 アイゼルが声をかける。


「どうだ?」


「何がだ?」


「実際にご覧になって」


 カイゼルはすぐには答えなかった。


 道路を見る。


 その上をゴーレムが進んでいる。


 市場には商品が並ぶ。


 頭上を人が飛んでいく。


 店先では魔法が使われている。


 働いている者たちは、かつて保護された人々だった。


「違うな」


「シュタインフェルトと、ですか?」


「ああ。だが、人が暮らしていることに違いはない」


 カイゼルは市場へ目を戻す。


「我が国にも農民がいる。職人がいる。商人がいる。冒険者もいる」


「はい」


「ここにもいる」


 違うのは、持っている力。


 物流の方法。


 国同士の繋がり。


 そして、被保護民を自立させる仕組みだった。


「だからこそ、見に来てよかった」


 カイゼルは静かに言った。


 知らなければ、三十五億という数字だけを恐れていたかもしれない。


 あるいは、六属性魔法や飛行だけを見て、巨大な軍事国家だと考えたかもしれない。


 実際に見えたのは、それとは違うものだった。


 三十五億人が暮らすための仕組みだった。


「アリサさん」


「はい」


「ロルフの店は、この先か?」


「はい。もう少しですよ」


 アリッサは何も言わなかった。


 だが、アイゼルには分かる。


 先ほどまでより、ほんの少しだけ娘の視線が前へ向いている。


 公務中であることを忘れてはいない。


 それでも、会いたい相手にもうすぐ会える。


 父親にはそれくらい分かった。


 アイゼルは何も言わなかった。


 カイゼルはそんな二人に気づかず、歩きながら軍務卿へ声をかける。


「帰国したら忙しくなりそうだな」


「はい」


 軍務卿は即答した。


「見るべきものが増えました」


 真似をするかどうかは、その後で決めればいい。


 まず知る。


 自国で使えるものがあるなら調べる。


 それがシュタインフェルトへ持ち帰る最初の仕事になる。


 一行の前方に、飲食店の並ぶ一角が見えてきた。


 その中にロルフの店がある。


 次にカイゼルが見るのは制度でも物流でもない。


 一人の元奴隷が、自分の仕事で暮らしている姿だった。





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