234 隣国
アリッサからの報告を終えた後も、カイゼル・シュタインフェルト王はローゼンクランツ公爵と重臣たちを残した。
大陸地図が改めて広げられる。
カイゼルは地図の一点へ指を置いた。
「まず、我々は認識を改める必要がある」
重臣たちの視線が集まる。
「アルデバランは、大陸の遠方で急速に拡大している巨大勢力ではない」
指が国境線をなぞった。
「隣国だ」
誰も口を開かなかった。
分かっていたことだった。
だが、三十五億という数字の意味を知った後では、その言葉の重さが違う。
シュタインフェルト王国の人口は約二千万人。
対して、現在確認されている百三十のアルデバラン王国には、約三十五億人が暮らしている。
単純な人口だけでも百七十五倍。
しかも、そのほぼ全てが教導済みだという。
「軍務卿」
「はい」
「軍事的にどう見る?」
軍務卿は少しも迷わなかった。
「正面から対抗するという発想そのものが現実的ではありません」
率直な回答だった。
「我が国の人口は二千万人です。兵力ではありません。老人も子供も含めた総人口が二千万人です」
「ああ」
「対してアルデバランは三十五億人。しかも、そのほぼ全てが教導済みとされております」
普通の魔法使いなら一属性。
二属性でも珍しい。
三属性なら天才。
四属性ともなれば異常。
五属性以上など、実際に目の前で見せられなければ信じられない。
その常識の中で、アリッサは六属性すべてを無詠唱で扱った。
魔力循環と魔力吸収によって、実質的に魔力切れも起こさない。
飛行。
索敵。
鑑定。
テレパシー。
テレキネシス。
身体強化と筋肉強化。
剣と槍。
「アリッサ様一人でも、従来の魔法使いという分類では扱えません」
「それが三十五億人か」
「全員がアリッサ様と全く同じ能力を持つと確認されたわけではありません」
軍務卿はそこを区別した。
「ですが、三十五億人が教導済みであることは確認されています。軍備を増強すれば対抗できるという規模ではありません」
アイゼルが資料へ目を落とす。
「そして、もう一つ考えるべきことがあります」
「本国か」
「はい」
五十四カ国から保護された約十四億人。
さらに清算された国家から保護されたと推測される約二十一億人。
「三十五億人という結果ばかりに目を奪われますが、その人数を教導した側が存在します」
カイゼルの表情が僅かに変わった。
「本国には、それだけの人数を教導できる能力がある」
「そう考えるしかありません」
教導する人間。
場所。
食料。
水。
住居。
移動手段。
それらを短期間で用意し、三十五億人という生活者を成立させた。
単純な軍事力だけを考えても意味がない。
「では」
カイゼルが重臣たちを見渡した。
「我々はアルデバランに服従するしかないのか?」
「いいえ」
アイゼルが即答した。
軍務卿も頷く。
「その必要はありません」
「理由を聞こう」
「侵略されていないからです」
アイゼルの答えは単純だった。
「アルデバランから我が国へ軍が侵入した事実はありません」
「領土を要求されたこともない」
「はい」
「貢納を要求されたことは?」
「ありません」
「服従を求められたことも?」
「一度もありません」
カイゼルは椅子へ深く腰掛けた。
強大である。
だから敵である。
勝てない。
だから服従する。
その考え方自体が間違っているのかもしれない。
「こちらが勝手に恐れて、勝手に敵と決めるわけにもいかんな」
「はい」
軍務卿が答えた。
「むしろ現時点で不用意な軍備増強を国境で行えば、こちらが敵意を示すことになります」
「だからといって、何もしないわけにもいかない」
「その通りです」
アイゼルが地図を見る。
「我々はアルデバランについて、あまりにも知りません」
三十五億人。
百三十の王国。
教導。
それらは知った。
だが、国境の向こうに暮らす者たちがシュタインフェルト王国をどう見ているのかすら分からない。
カイゼルは国境線へ指を置いた。
「遠い国なら、知らないままでも済んだかもしれん」
指先は動かない。
「だが、ここだ」
国境を一本隔てただけ。
「知らぬまま隣国でいる方が危険だ」
アイゼルが王を見る。
「では?」
「正式な使節を出す」
カイゼルは決めた。
「服従するためではない。牽制するためでもない」
「目的は?」
「まず知ることだ」
そして少し間を置いた。
「こちらのことも知ってもらう」
国境の向こうにいるのは、倒すべき敵と決まったわけではない。
従うべき主人でもない。
今のところ分かっていることは、一つだけだった。
アルデバランは隣国である。
ならばシュタインフェルト王国が最初にするべきことは、剣を抜くことでも、膝をつくことでもない。
隣国として、話をすることだった。
正式な使節を出す。
その方針が決まれば、次に考えるべきは何を確認するかだった。
「第78へ向かう」
カイゼルが地図上の国境を指した。
「アリッサが実際に滞在した国だ。まずはそこで話をする」
「はい」
アイゼルが頷いた。
第78アルデバラン王国。
シュタインフェルト王国と国境を接する隣国でありながら、今日までその実態をほとんど知らなかった国でもある。
アリッサが数日を過ごしたことで、ようやくその一端が見えた。
市場には商品が豊富に並び、価格はむしろ安価だった。
冒険者ギルドは普通に機能している。
元奴隷だったロルフは料理人として自分の店で働いている。
そして外国から来たCランク冒険者だったアリッサ自身が、教導を受けることができた。
「確認すべきことは多いな」
カイゼルが言った。
「まず、我が国との関係をどう考えているのか」
「これまで侵略された事実はありません」
軍務卿が答える。
「領土要求も、服従の要求もありません」
「だからこそ直接聞く」
「はい」
「正式な国交についても話す必要があります」
アイゼルが続けた。
「国境を接している以上、互いを知らないままというわけにはいきません」
「交易もだな」
財務を預かる重臣が口を開いた。
「アリッサ様のお話では、第78の市場はどの店も品数が豊富だったとのことです。価格についても、高価というより安価に感じられたと」
「ああ」
「食料、衣類、日用品、魔物素材。何がどれほど流通しているのか確認したいところです」
軍務卿が頷く。
「こちらから何を売れるのかも考える必要がありますな」
「そうだ」
カイゼルも同意した。
「我々は援助を求めに行くのではない。隣国として、どのような関係を作れるのかを話しに行く」
そのためには相手を知らなければならない。
何を作っているのか。
何を必要としているのか。
そして、三十五億人という人口がどのように暮らしているのか。
「教導についても確認したい」
アイゼルが言った。
「三十五億人が教導済み。それ自体を否定する材料はありません」
「むしろ、得られている情報は同じ方向を示している」
軍務卿が続ける。
五十四カ国から保護された十四億人。
清算された国家から保護されたと推測される二十一億人。
現在確認されている総人口、約三十五億人。
そしてヴォルガ。
砂漠だった土地が、緑豊かな普通の土地へ変わっている。
「アリッサの説明を当てはめれば、ヴォルガについても説明できる」
カイゼルが言った。
「土魔法で天地返しをする。水魔法で散水する。ヒールバレットとピュリフィケーションバレットを使う」
「一人で足りなければ人数を増やす」
「はい」
二十一億人の保護も同じだった。
索敵で人を探す。
鑑定で状況を確認する。
食料が必要なら森で獲物を探す。
水は水魔法で確保できる。
怪我人にはヒールバレット。
そして、保護した者を教導する。
「否定する材料は?」
カイゼルが尋ねた。
「ありません」
軍務卿は即答した。
「少なくとも、我々が現在得ている情報には」
「ならば疑っているわけではない」
「はい」
「隣国との関係を決める以上、自分たちの目でも確認する。それだけだ」
アイゼルが頷いた。
「教導については、もう一つあります」
「外国人にも教える理由か」
「はい」
アリッサは公爵令嬢だから教導を受けたのではない。
身分を隠した、外国から来たCランク冒険者だった。
それでも六属性魔法を教わった。
無詠唱。
魔力循環と魔力吸収。
飛行。
索敵。
鑑定。
テレパシー。
テレキネシス。
それだけの能力を身につけても、忠誠を要求されていない。
帰国を止められてもいない。
「理由は考えても分からんな」
「はい」
「ならば聞けばいい」
カイゼルは簡単に答えた。
ここから先は、王宮でいくら考えても新しい情報は増えない。
「出発の準備を始める」
「いつにいたしますか?」
アイゼルが尋ねた。
カイゼルは即答した。
「今からだ」
誰も異論を挟まなかった。
五十四カ国が消えたという情報すら、すでに古い可能性がある。
さらに百を超える国家が清算された。
シュタインフェルト王国が情報を集めている間にも、大陸の状況そのものが変わっている。
「待つ理由がない」
「その通りです」
軍務卿も即座に同意した。
「アリッサの保護空間を使う」
「はい」
「私とローゼンクランツ公爵、必要な重臣と護衛。人数は必要な範囲に絞る」
「国書と国璽を用意いたします」
「頼む」
「贈答品は?」
「すぐに用意できるものでいい」
次々と決まっていく。
馬車を用意する必要はない。
何日分もの食料も必要ない。
使節団はアリッサのアイテムボックスにある保護空間へ入る。
あとはアリッサが飛べばいい。
アイゼルが僅かに苦笑した。
「今日帰ってきたばかりなのだがな」
「すまんな」
「いえ。娘なら喜んで引き受けるでしょう」
カイゼルは立ち上がった。
「必要なものだけ揃えろ。準備ができ次第出る」
朝には誰も予想していなかった。
アリッサが帰国し、大陸の現状を知り、三十五億人という数字の意味を考え、隣国との関係を協議した。
そして今から、その隣国へ向かう。
情報が古くなるのなら、待たなければいい。
シュタインフェルト王国は、その日のうちに考えることをやめ、確かめるために動き始めた。
決定が下されると、王宮はすぐに動いた。
国書と国璽が用意され、同行する重臣と護衛が選ばれる。
贈答品も、すぐに用意できるものだけが集められた。
五十四カ国が消滅したという情報すら、すでに古い可能性がある。
今は時間をかけて体裁を整えるより、直接確かめることの方が重要だった。
準備が進められる中、アリッサが再び呼ばれた。
「父上?」
部屋へ入ったアリッサは、集まっている顔ぶれを見て足を止めた。
「陛下」
「急ですまんな」
「何かございましたか?」
「第78へ行くことにした」
アリッサが目を瞬いた。
「第78へ?」
「ああ」
「いつでしょう?」
「今からだ」
「今から……」
驚いたのは一瞬だった。
「分かりました」
「話が早いな」
「陛下が決められたのでしょう?」
「ああ。正式な使節として向かう」
アリッサは父を見る。
「父上も?」
「同行する」
「軍務卿もですか?」
「無論です」
軍務卿が答えた。
「では、お連れします」
「頼む」
アイゼルが娘を見る。
「お前のアイテムボックスにある保護空間を使わせてもらう」
「構いません」
それなら移動は簡単だった。
使節団を保護空間へ入れ、アリッサが第78まで飛ぶ。
馬車を用意する必要もない。
アリッサにとっては、つい先ほど飛んできた道を戻るだけだった。
「アリッサ」
「はい」
「第78へ着いたら、お前が利用していた冒険者ギルドへ案内してくれ」
「分かりました」
シュタインフェルト王国は第78と国境を接していながら、王宮への正式な連絡方法すら知らない。
だが、冒険者ギルドならアリッサが実際に利用している。
「そこで、シュタインフェルト王国から正式な使節として来たことを伝える」
「はい」
「その後は向こうに聞けばいい」
軍務卿も頷いた。
「我々が勝手に判断して動くより確実ですな」
「ああ」
カイゼルはアリッサへ視線を戻した。
「それと、王宮だけを見るつもりはない」
「市場ですね」
「そうだ」
「食堂も?」
「見たい」
「農地は?」
「もちろんだ」
カイゼルは三十五億人という数字を知ってから、そこを考え続けていた。
王宮を見れば、為政者の暮らしは分かる。
軍を見れば、軍事力の一端も分かる。
だが、それだけでは三十五億人がどのように生活しているのかは分からない。
「ロルフのお店にも行かれるのでしょう?」
「ああ」
アリッサが笑った。
「驚くでしょうね」
「ロルフが?」
「はい。突然、シュタインフェルト王が店に来るのですから」
「それは仕方ない」
「先に知らせますか?」
「いや」
カイゼルは首を横に振った。
「国王が来ると知れば、普段とは違うものを用意するかもしれん」
「それは……するかもしれません」
「私は普段の料理が食べたい」
「分かりました」
特別な晩餐ではない。
国賓を迎えるために用意された料理でもない。
ロルフがいつもの客に出している料理。
それを食べる。
「市場も同じだ」
カイゼルが続ける。
「私が来るから商品を並べてもらっては意味がない」
「普通の第78をご覧になりたいのですね」
「ああ」
アリッサが数日前から見ていたもの。
豊富な商品。
安価な食事。
普通に働く人々。
元奴隷だったことを知らなければ、ただの料理人にしか見えないロルフ。
その光景を自分の目で確かめたい。
「陛下」
王宮の者が入ってきた。
「国書、国璽、贈答品の準備が整いました」
「早かったな」
「必要なものだけとのご指示でしたので」
「それでいい」
カイゼルが立ち上がった。
アイゼルも軍務卿も続く。
アリッサが帰国してから、まだ大して時間は経っていない。
だが、その短い間にシュタインフェルト王国が知った情報はあまりにも多かった。
二千五百万人。
五十四カ国の消滅。
百を超える国家の清算。
十四億人。
二十一億人。
そして三十五億人。
さらに、そのほぼ全てが教導済み。
情報を一つ知るたびに、アルデバランという隣国の姿が変わった。
「行こう」
カイゼルが言った。
アリッサがアイテムボックスの保護空間を開く。
カイゼルをはじめ、使節団が次々と中へ入っていった。
最後にアイゼルが娘を見る。
「また第78だな」
「つい先ほど帰ってきたところですが」
「すまんな」
「二十分ほどですから」
アリッサは気にした様子もなく答えた。
アイゼルが保護空間へ入る。
準備は終わった。
アリッサは王宮の外へ出た。
飛行。
身体が地面から離れ、一気に高度を上げる。
目指すのは第78アルデバラン王国。
遠い大国ではない。
二十分ほど飛べば着く、国境を接する隣国だった。
つい先ほどまで報告書と地図の上で語っていた三十五億人の世界へ。
今度はシュタインフェルト王国の側から、会いに行く。
アリッサは第78へ向けて飛び始めた。
アリッサは第78へ向けて飛び続けた。
つい先ほど帰国する時にも通った空だった。
行き先も分かっている。
飛行にも慣れている。
使節団はアイテムボックスの保護空間にいる。
アリッサがすることは、第78まで飛ぶことだけだった。
やがて見覚えのある土地が見えてくる。
「もう着いたわね」
飛び始めてから二十分ほど。
アリッサは速度を落とし、高度を下げた。
第78アルデバラン王国。
数時間前まで自分がいた国だった。
地上へ降りると、アリッサはアイテムボックスを開いた。
保護空間からカイゼル、アイゼル、軍務卿、重臣、護衛たちが出てくる。
カイゼルは周囲を見回した。
「ここが第78か」
「はい」
アリッサが答える。
「町はあちらです」
カイゼルが視線を向けた。
道が延びている。
その先には建物が並び、人が行き交っていた。
遠くには農地も見える。
「行こう」
一行は町へ向かった。
カイゼルは歩きながら周囲を見る。
大陸の異変を調べ、三十五億人という人口を知った。
そのほぼ全てが教導済みであることも知った。
ヴォルガの変化や二十一億人の保護についても、アリッサが得た能力からその方法を推測した。
その情報の一つ一つは、シュタインフェルト王国の常識から大きく外れている。
だが、目の前にある景色は違った。
人が歩いている。
荷物を運んでいる者がいる。
農地で働いている者もいる。
どこにでもありそうな、人が暮らす土地だった。
「アリッサ」
「はい」
「お前が来た時も、このような様子だったのか?」
「そうですね。特に変わっていないと思います」
「そうか」
カイゼルはそれ以上聞かなかった。
町へ入る。
そこで財務を預かる重臣が足を緩めた。
通りの両側に店が並んでいた。
野菜。
果物。
肉。
衣類。
日用品。
店先には様々な商品が並べられている。
「陛下」
「ああ。見えている」
一軒だけではない。
その隣にも商品がある。
さらに先にも店が続いている。
荷物を運び込んでいる者がいる一方で、商品を買って帰る者もいる。
「アリッサ」
「はい」
「ここが市場か?」
「違います」
「違うのか?」
「普通の通りです。市場はもう少し先です」
カイゼルが店の並ぶ通りをもう一度見た。
「これで普通の通りか」
「はい」
財務を預かる重臣は商品だけでなく、掲げられている価格にも目を向けていた。
「後ほど、詳しく見てもよろしいでしょうか」
「そのために来た」
「ありがとうございます」
今すぐ立ち止まって調べ始めることはしない。
まずは正式な使節として訪問したことを伝える必要がある。
「冒険者ギルドはこちらです」
アリッサが先頭に立った。
歩いている間にも、カイゼルは人々を見ていた。
こちらを見ている者はいる。
見慣れない一団なのだから当然だろう。
だが、怯えて逃げる者はいない。
護衛を見て道の端に平伏する者もいない。
商人は商売を続け、客は商品を選び、子供たちは歩いている。
「陛下」
軍務卿が小声で呼んだ。
「何だ?」
「武器を持った者がいます」
「ああ」
カイゼルも気づいていた。
冒険者らしい者が歩いている。
珍しいことではない。
だが、今のカイゼルたちは別の情報を持っている。
「教導済みかどうかは、見ただけでは分からんな」
「はい」
六属性魔法。
飛行。
索敵。
鑑定。
それだけの能力を持っていたとしても、歩いていれば普通の人間にしか見えない。
アリッサがそうだった。
ロルフもそうだった。
「兵士かどうかを見る意味がない、か」
軍務卿が呟いた。
カイゼルは答えなかった。
まだ確認していない。
だが、王宮で考えたことを思い出すには十分な光景だった。
「ここです」
アリッサが足を止めた。
冒険者ギルド。
数時間前まで、アリッサが普通に出入りしていた場所である。
扉を開ける。
中では冒険者たちが依頼を確認し、職員が仕事をしていた。
受付にいた職員がアリッサに気づく。
「あら、アリッサさん」
「こんにちは」
「帰国するって言ってなかった?」
「帰りました」
職員が一瞬止まった。
「帰ったのよね?」
「はい」
「じゃあ、どうしてここにいるの?」
「また来ました」
職員が首を傾げる。
アリッサは何でもないことのように答えた。
「飛べば二十分ほどですから」
「ああ、そういうこと」
職員は納得した。
カイゼルとアイゼルが顔を見合わせる。
シュタインフェルト王国では、国境を越えることにはそれなりの時間がかかる。
ここでは二十分飛んで帰ってくることが、すでにアリッサにとって普通になっている。
「それで、今日はどうしたの?」
「お願いがあります」
「何?」
アリッサが一歩横へ移動した。
「シュタインフェルト王国から正式な使節が来ています」
「使節?」
「はい」
職員の視線がアリッサの後ろへ移る。
「こちらが、カイゼル・シュタインフェルト国王陛下です」
「……国王?」
周囲にいた冒険者たちも振り返った。
カイゼルが一歩前へ出る。
「突然の訪問ですまない」
職員が慌てて姿勢を正した。
「シュタインフェルト王国国王、カイゼル・シュタインフェルトだ」
そして続けた。
「第78アルデバラン王国と、正式に話をしたくて参った」
シュタインフェルト王国と第78アルデバラン王国。
国境を接しながら、互いをほとんど知らなかった二つの国。
その最初の正式な接触は、冒険者ギルドの受付から始まった。




