228 ローゼンクランツ公爵
ローゼンクランツ公爵は、机の上に広げた地図を見つめていた。
アリッサが第78アルデバラン王国へ向かった頃とは、書き込まれている情報がまるで違う。
国境線。
消えた国名。
新たに確認されたアルデバラン王国。
各地から届いた報告書。
どれも数か月前なら信じなかったような内容ばかりだった。
「アリッサ」
「はい」
「お前が第78へ行っている間に、大陸情勢が変わった」
公爵はそう言って、一枚の報告書を手に取った。
「お前が持ち帰った二千五百万人という数字は重要だ。特に、その者たちが本国で教導を受けたという情報は、こちらでは掴めていなかった」
「はい」
「だが、すでにガルテェニカだけを見ていられる状況ではない」
アリッサは黙って父を見る。
公爵は地図の一点を指した。
「ゼノ・バルト帝国。五百万人」
指が移る。
「灰塵の荒野ヴォルガ。五百万人。神聖アーリア王国、五百万人」
「三国で千五百万人……」
「ああ。そしてガルテェニカ王国、二千五百万人。サンマウ王国、二百七十万人。ヴェロン王国、三百十五万十人。ヴァレキフ王国、十万人」
さらに別の報告書を開く。
「シトラルド王国、百万人。キーシル王国、千五百万人。ウジフラン王国、五十万人。ヘコサ王国、千八百万人」
アリッサの表情が徐々に険しくなる。
だが公爵は止めなかった。
「フネルジア王国、九千五百万人」
「九千五百万人……」
「ジキブス王国、二千万人」
アリッサは言葉を失った。
自分は二千五百万人という数字を聞き、その意味を理解したつもりだった。
だからロルフとの話すら後回しにして帰国した。
ところが父が見ていたものは、それより遥かに大きい。
「確認できているだけで十三国」
公爵は報告書を置いた。
「保護された者は約二億人だ」
「二億……」
「そして、その者たちは現在、第2から第130アルデバラン王国で暮らしている」
アリッサは地図を見る。
そこでようやく、第78という数字の意味が違って見えた。
「第130まで……」
「ああ」
「では、私が滞在していた第78も、その中の一国にすぎないのですか?」
「そう考えるしかない」
公爵は椅子へ深く腰を下ろした。
「我々も当初は、新しく建国された小国がアルデバランを名乗っている程度に考えていた」
「違ったのですね」
「百三十まで増えれば、そうは考えられん」
公爵の視線が再び地図へ落ちる。
「しかも不可解なのは、これだけの規模で人間が移動しているにもかかわらず、大規模な飢餓の報告がないことだ」
アリッサは第78で見た市場を思い出した。
「食料は豊富でした」
「どの程度だ?」
「少なくとも不足しているようには見えませんでした。肉も野菜も普通に売られています。レッサードラゴンの肉まで料理として出てきます」
「二億人を新たに抱えながら、か」
「はい」
公爵は何も言わなかった。
アリッサはさらに続ける。
「ゴーレムによる物流も行われています」
「ゴーレム?」
「大量の荷物を運んでいました。街中で普通に使われています」
「軍用ではなく?」
「少なくとも私が見たものは、物流や作業に使われていました」
公爵が小さく息を吐いた。
「食料を供給できる。物流も維持できる。そして二億人を新たな土地へ定着させることができる」
「さらに教導があります」
「ああ。それだ」
公爵は娘を見る。
「そこに、お前の持ち帰った情報を加えなければならない」
アリッサ自身が数日前とは別人のような能力を持って帰ってきた。
そしてガルテェニカから保護されたロルフも同じ教導を受けている。
そのロルフは料理人でありながら、アリッサと共にレッサードラゴン五十体を同時に狩れる。
「お前は、ガルテェニカの二千五百万人も教導を受けたと聞いたのだな?」
「はい。イメルダ伯爵からそう聞きました」
「ならば考え方を変える必要がある」
公爵は地図の上に置いた指をゆっくり動かした。
第2から第130まで。
「二千五百万人が教導されたことだけでも脅威だ。だが今、私が知りたいのはそこではない」
アリッサにも父の言いたいことが分かった。
「残る人々も、ですか?」
「ああ」
公爵は頷いた。
「約二億人の保護者。そして、その者たちが暮らす百三十の国」
そのすべてに、同じ仕組みが存在しているとしたら。
「我々はまだ、アルデバランの大きさすら正確に理解していない」
公爵は静かに言った。
「二千五百万人という数字に驚いている場合ではなくなったということだ」
ローゼンクランツ公爵は、机の上に広げた地図へ視線を戻した。
「まだある」
アリッサは黙って父の言葉を待った。
「先ほど話した十三国は、個別に比較的詳しい情報を得られた国だ。だが、それだけではない」
公爵は地図の何か所かを指した。
「すでに五十四か国が滅亡している」
「五十四か国……」
「ああ」
アリッサは息を呑んだ。
自分が第78アルデバラン王国に滞在している間にも、大陸情勢が動いていたことは理解した。
だが五十四という数は、想像を遥かに超えている。
「戦争で滅ぼされたのですか?」
「いや」
公爵は首を振った。
「少なくとも、アルデバランが軍を送り込んで征服したわけではない。国によって事情は違うが、圧政、重税、飢餓、治安悪化。民が国を捨て、国家そのものが維持できなくなった例が多い」
「民が……」
「保護を求めた者もいる。自ら国境を越えた者もいる」
公爵は一枚の報告書を取り出した。
「五十四か国から発生した保護亡命者は、我々が把握しているだけで約十四億人だ」
アリッサは動かなかった。
「……十四億人?」
「ああ」
「先ほどの十三国も?」
「含まれている」
公爵は即答した。
「十三国から保護された約二億人も、この十四億人の内数だ。ガルテェニカの二千五百万人も同じだ」
アリッサは椅子へ深く座り直した。
二千五百万人。
その数字を聞いて、自分はロルフとのことを後回しにして帰国した。
だが二千五百万人は、五十四か国から発生した十四億人の一部でしかなかった。
「十四億人が……アルデバランへ?」
「そう見ていい」
「それだけの人間を受け入れたのですか?」
「だから我々も理解できずにいる」
公爵は報告書を置いた。
「十四億人だぞ。通常なら受け入れる側まで崩壊する」
「食料だけでも……」
「ああ。住居も必要だ。衣服も必要になる。水もいる。街道も物流も必要だ。病が広がれば、それだけで大惨事になる」
アリッサは第78アルデバラン王国で見たものを思い返した。
食料は豊富だった。
街は清潔だった。
ゴーレムが荷物を運んでいた。
人々が飢えている様子などなかった。
「第78では、そのような混乱はありませんでした」
「十四億人もの人口移動が起きている大陸の一部とは思えなかったか?」
「はい」
「それが我々には理解できん」
公爵は腕を組んだ。
「そして今日、お前が帰ってきた」
アリッサは父を見る。
「お前は、ガルテェニカから保護された二千五百万人が本国で教導を受けたと聞いた」
「はい」
「その中の一人であるロルフという料理人も、実際に教導を受けている」
「はい」
「六属性魔法、鑑定、索敵、飛行魔法を使い、お前と共にレッサードラゴン五十体を同時に狩った」
「その通りです」
公爵はしばらく黙った。
やがて、十四億という数字が記された報告書を指で叩いた。
「ならば当然、次の疑問が出る」
アリッサにも分かった。
「残りの方々は……」
「ああ」
公爵の声が低くなる。
「ガルテェニカの二千五百万人だけなのか?」
「分かりません」
「それとも、他の保護亡命者にも同じことをしているのか?」
「それも分かりません」
「仮に十四億人が同じ教導を受けているとしたら?」
アリッサは答えなかった。
答える必要がなかった。
武家の公爵家に生まれた人間なら、その意味は分かる。
十四億の兵士がいるという話ではない。
もっと恐ろしい。
料理人であるロルフですら、あれほどの力を持つ。
つまり農民も、職人も、商人も、教師も、同じ基盤を持っている可能性がある。
「確認が必要ですね」
「当然だ」
公爵は頷いた。
「だが、さらに状況は動いている」
「まだあるのですか?」
「ああ」
公爵は地図の別の場所へ指を移した。
「五十四か国が滅亡して終わったわけではない」
アリッサの視線がその指を追う。
「現在、百を超える国が清算を始めている」
「百以上……」
「国王自ら国を畳むと決めたところもある。行政が維持できず、事実上消滅へ向かっている国もある」
アリッサの表情が険しくなった。
「騎士や兵士はどうなります?」
「そこが問題だ」
公爵は新しい報告書を開いた。
「国がなくなっても武器は消えない。騎士も兵士も消えない。俸給と指揮系統だけを失った武装集団が残る」
「まさか……」
「すでに各地で民が襲われている」
食料を奪う。
商隊を襲う。
村を襲撃する。
抵抗した民を殺す。
公爵は淡々と報告された事実を並べた。
「五十四か国が消え、十四億人が保護亡命者となった。そして今度は百を超える国が清算へ向かっている」
公爵は大陸地図全体を見渡した。
「アリッサ。お前が旅立った頃とは、もう違う」
「はい」
「二千五百万人という情報は重要だ。お前が帰ってきた判断も正しい」
そこで公爵は娘を見る。
「だが今、我々が考えなければならないのは一国の出来事ではない」
五十四か国の滅亡。
十四億人の保護亡命者。
百を超える国の清算。
そして、その大陸の隣に存在する百三十のアルデバラン王国。
「大陸そのものが、別の形へ変わろうとしている」
ローゼンクランツ公爵は、百を超える国が清算へ向かっている地域を順に指した。
「問題は、国がなくなることだけではない」
「騎士や兵士ですね」
「ああ」
アリッサも武家の娘だ。
軍が何によって維持されているかは知っている。
命令系統があり、俸給があり、食料があり、寝床がある。
国家がそれを用意するから、兵士は兵士でいられる。
その国家だけが突然なくなればどうなるか。
「すでに相当数が流出している。清算を決めた国の中には、軍の解散を命じたところもある」
「その後の仕事までは用意できない」
「用意できるなら、そもそも国を清算するところまで追い込まれていない」
公爵の言葉に、アリッサは頷いた。
「故郷へ戻れる者ばかりでもないでしょう」
「当然だ。長く軍にいた者の中には、農地を持たない者もいる。家族を失った者もいる。帰る場所そのものがない者もいる」
公爵は報告書を一枚抜き出した。
「最初は数十人だった。それが数百人になり、別の部隊と合流して数千人になる」
「武器を持ったまま?」
「ああ」
アリッサの顔が険しくなった。
数千人の武装した人間。
指揮する国家はない。
補給もない。
食料もない。
そして周囲には、戦う力を持たない民がいる。
「放置すればどうなるかは明白ですね」
「すでに答えは出ている」
公爵は報告書を娘へ渡した。
「村を襲った元兵士がいる。商隊から食料を奪った者もいる。抵抗した住民を殺した例も確認された」
アリッサは報告書へ目を落とした。
「元騎士まで……」
「いる」
「騎士が民を守る立場だったのは、国があったからですか」
「そういう者もいるということだ。肩書だけで人間まで変わるわけではない」
公爵は別の書類を取り出した。
「だが妙なことが起きている」
「何でしょう?」
「犯罪集団になった者たちが、次々と消えている」
アリッサが顔を上げた。
「消える?」
「文字通り行方不明という意味ではない。捕縛されている」
「誰が?」
「冒険者だ」
「冒険者ギルドですか?」
「そのようだ」
公爵は報告書を指で叩いた。
「国境を越えて活動できる組織だからな。国が消えようと、冒険者ギルドまで同時に消えるわけではない」
アリッサは第78で訪れた冒険者ギルドを思い出した。
そこで自分は教導を受けた。
外国人だからと拒絶されることもなかった。
「ただし、ここにもアルデバランが絡んでいる」
「どういうことです?」
「犯罪者を捕縛している冒険者の中に、異常な能力を持つ者が多数確認されている」
アリッサの目が細くなる。
「教導……」
「私も今、同じことを考えている」
公爵は娘を見る。
「お前は外国人でありながら、第78の冒険者ギルドで教導を受けた」
「はい」
「ならば、冒険者にも広く教導が行われていると考える方が自然だ」
「そうですね」
「国が消える。軍が解散する。元兵士の一部が犯罪者になる。ところが、その犯罪者を国境に関係なく冒険者が捕らえていく」
公爵は地図を眺めた。
「アルデバランは領土を奪っていない」
「はい」
「滅びた国へ王を送り込んでもいない」
「はい」
「それでも結果だけ見れば、アルデバランの周辺から無秩序が消えていく」
アリッサはしばらく考えた。
「お父様は、アルデバランが大陸を支配しようとしていると?」
「分からん」
公爵は即答した。
「だから厄介なのだ」
支配するつもりなら、軍を出せばいい。
十四億人もの保護亡命者を抱えられる国力がある。
教導によって、料理人ですらレッサードラゴン五十体を同時に相手にできる。
それほどの力がありながら、征服したという報告がない。
「私が見た第78でも、他国を征服しようとしているようには見えませんでした」
「だろうな」
公爵は腕を組んだ。
「だが、意思がないことと、結果として脅威にならないことは別だ」
「……はい」
「仮にアルデバランが一度も侵略しなかったとしても、周囲の国が自ら崩れ、民がアルデバランへ移り続ければどうなる?」
アリッサは答えられた。
「アルデバランだけが大きくなります」
「そうだ」
公爵は地図上のシュタインフェルト王国を指した。
「我が国は今のところ民を飢えさせていない。国も機能している。だから明日にでも崩れるとは思わん」
その指が、周囲に並ぶアルデバラン王国へ移る。
「だが隣には、十四億人を受け入れてなお飢えず、外国人にまで教導を行い、料理人がレッサードラゴン五十体を狩れる国々がある」
公爵は娘を見る。
「民がそれを知ったとき、我々は何をもってシュタインフェルトに留まってくれと言う?」
アリッサは言葉を失った。
軍事侵攻だけが国家にとっての脅威ではない。
戦わなくても、人は移動できる。
そして人がいなくなれば、国は残らない。
「陛下にお会いする」
公爵は静かに告げた。
「これは軍備を増やせば済む話ではない」
アリッサにも、その意味は分かった。
アルデバランと戦う方法を考えるのではない。
まず、何が起きているのかを知らなければならない。
シュタインフェルト王国がこれからどうするのか。
その判断を下せるのは国王だった。
ローゼンクランツ公爵は、机の上に散らばった報告書を集め始めた。
「陛下には、こちらで把握している情報をすべてお持ちする」
「はい」
「お前も同行しろ。第78で実際に見た者の話が必要になる」
「承知しました」
アリッサも立ち上がった。
だが公爵はすぐには部屋を出なかった。
十四億人の保護亡命者。
五十四か国の滅亡。
百を超える国の清算。
百三十のアルデバラン王国。
そして教導。
これまで別々に届いていた情報が、娘の帰国によって一つに繋がり始めていた。
「アリッサ」
「はい」
「第78で、兵士を多く見たか?」
突然の問いに、アリッサは記憶を辿った。
「いいえ。少なくとも軍人ばかりが目立つような国ではありませんでした」
「騎士団は?」
「私は見ていません」
「城塞や軍事施設は?」
「特に印象には残っていません」
公爵は眉間に皺を寄せた。
「やはり分からんな」
「何がでしょう?」
「これほどの力があるなら、普通は守る」
公爵は地図を指した。
「十四億人もの保護亡命者を受け入れた土地だ。周辺情勢も安定していない。百を超える国が清算へ向かい、武装した元兵士まで流出している」
「はい」
「ならば国境へ兵を置く。街を城壁で囲む。騎士団を増強する。それが普通だ」
アリッサは少し考えた。
「必要がないのでは?」
公爵が娘を見る。
「なぜそう思う?」
「第78では、冒険者ギルドで私にも教導が行われました」
「ああ」
「ロルフも料理人です。それでも戦えます」
アリッサは自分の手を見る。
「私も数日前までは空を飛べませんでした。今なら索敵もできますし、六属性魔法も使えます」
「つまり?」
「兵士だけが国を守る必要がないのではないでしょうか」
公爵の表情が止まった。
アリッサ自身、口にしてからその意味に気づいた。
ロルフは料理人だ。
だがレッサードラゴン五十体を前にして逃げる必要がない。
冒険者は教導を受けている。
そしてアリッサのような外国人にすら、その力を与えている。
「……民そのものが戦えるのか」
「可能性はあります」
「兵士の数を調べても意味がないということか」
「少なくとも、アルデバランの力を知るには不十分だと思います」
公爵は椅子へ戻った。
集めたばかりの報告書を再び机へ置く。
「我々は軍事力を測るとき、騎士団の数を見る」
「はい」
「兵士の数を見る。魔法使いの数を見る。将の能力を見る」
「普通はそうです」
「だが、料理人がレッサードラゴン五十体を相手にできる国では、その物差しが使えない」
アリッサは黙って頷いた。
「農民は?」
「分かりません」
「商人は?」
「分かりません」
「職人は?」
「それも」
「分からないことばかりだな」
「申し訳ありません」
「責めているのではない」
公爵は首を振った。
「むしろ逆だ。お前が戻ったことで、何を知らないのかが分かった」
公爵は一枚の紙を取り出した。
「陛下には、推測と事実を分けて報告する」
そこへ自ら書き始める。
五十四か国が滅亡。
保護亡命者、約十四億人。
第2から第130アルデバラン王国を確認。
百を超える国が清算中。
元騎士、元兵士による犯罪が発生。
冒険者による犯罪集団の捕縛。
ここまではシュタインフェルト側で把握している。
その下に線を引いた。
「ここからがお前の情報だ」
「はい」
ガルテェニカ王国から保護された約二千五百万人。
本国へ移送。
教導を実施。
元奴隷の料理人ロルフも教導済み。
六属性魔法、鑑定、索敵、飛行魔法を使用。
レッサードラゴン五十体を同時に狩猟。
アリッサ自身も第78で教導を受け、短期間で複数の能力を習得。
公爵はそこで筆を止めた。
「そして、ここから先は推測だ」
別の欄を作る。
「十四億人にも教導が行われている可能性」
「はい」
「一般の国民にも教導が広がっている可能性」
「あります」
「アルデバランの軍事力を、常備軍の規模では測れない可能性」
アリッサの表情が引き締まった。
公爵は最後の一行を書かず、しばらく考えた。
「もう一つある」
「何でしょう?」
「これだけの力を持つアルデバランが、なぜ五十四か国を征服しなかったのか」
アリッサは答えられない。
「十四億人を受け入れられる。犯罪集団も処理できる。百三十の国を成立させている。それでも旧国家の領土を奪いに行かない」
「私にも分かりません」
「そこが一番重要かもしれん」
公爵は最後に書き加えた。
――アルデバラン王国の目的、不明。
「陛下にお願いするのは軍の動員ではない」
公爵は立ち上がった。
「まず情報を集める。そして可能なら、直接話を聞く」
「アルデバランと?」
「ああ」
公爵は書類をまとめた。
「これほどの隣国を、噂と推測だけで敵にも味方にもできん」
アリッサは深く頷いた。
「参りましょう」
公爵が扉へ向かう。
アリッサもその後に続いた。
彼女が持ち帰ったのは、二千五百万人という一つの数字だった。
だがその数字によって、ローゼンクランツ公爵が集めていた大陸中の情報は、まったく別の意味を持ち始めていた。
そして、その判断はこれからシュタインフェルト王へ委ねられることになる。




