225 狩り
翌朝、アリッサはアリサとともに森へ向かった。
今日は訓練場ではない。
実際の魔物を相手にした教導だった。
二人はレビテーションと風を使って森まで飛び、開けた場所へ降りた。
「まず確認するわよ」
「ああ」
「索敵、捕縛、拘束、窒息。この手順を忘れないで」
アリサは指を折りながら続ける。
「それと、窒息させた後に魔力を解くときは、必ず鑑定で死亡を確認してから」
「なぜだ?」
「まだ生きていたら、魔法を解いた瞬間に呼吸を始めるでしょう?」
「なるほど」
「死んだと思い込むのが一番危ないの。鑑定できちんと確認すること」
「分かった」
「人型の魔物ならテレキネシスで首を捻ってもいいわ。オークでもオーガでもサイクロプスでもね」
アリッサは一昨日のロルフを思い出した。
あれなら肉を傷つけることもない。
「それから、硬い魔物に特に有効なのが窒息よ」
「硬さが関係ないからか?」
「そう。剣が通らなくても、外皮が硬くても、呼吸する魔物なら関係ないでしょう?」
「分かりやすいな」
「じゃあサーチしてみて」
アリッサは魔力循環を続けたまま六属性のサーチを展開した。
森が立体的に把握できる。
木々。
地面。
地下。
飛んでいる鳥。
小さな動物。
そして。
「いる。こっちへ向かってくる」
「何体?」
「十体」
「鑑定してみて」
アリッサは接近してくる魔物へ意識を向けた。
「オーガ。十体だ」
「じゃあ私は見てるから、やってみて」
「ああ」
木々の間から巨大なオーガが姿を現した。
アリッサは剣へ手を伸ばさない。
「バインドバレット」
十発。
拘束の弾が一斉に飛んだ。
オーガたちへ命中し、その身体を拘束する。
「そのまま。動けないことを確認して」
「ああ」
十体すべてが拘束されている。
「ウォーターマスク」
水が十体の頭部を包み込んだ。
オーガたちが暴れる。
だが拘束されているため、水から顔を出すことができない。
アリッサは魔法を維持した。
一分。
二分。
三分。
動かなくなった。
「魔法を解かないで」
「分かっている」
アリッサは一体ずつ鑑定する。
「死亡。死亡……十体とも死亡している」
「なら解除していいわ」
拘束とウォーターマスクを解いた。
「できたな」
「ええ。ちゃんと手順を守れてるわ」
そのとき、アリッサの身体が淡く光った。
「今度は何だ?」
「アイテムボックスが覚醒したわ」
「アイテムボックス?」
「収納よ。オーガを入れてみて」
アリッサは倒れているオーガへ意識を向けた。
収納する。
そう考えると、一体のオーガが消えた。
「入った……」
「残りも入れてみて」
次々と収納する。
十体のオーガがすべてアイテムボックスへ収まった。
「便利だな」
「狩りでは特にね。解体前の魔物をそのまま持って帰れるから」
アリッサは再びサーチを広げた。
しばらく森を進んだところで、新たな反応を捉える。
「前方に二十体」
「何?」
「アーマードリザードだ」
「ちょうどいいわね」
「何がだ?」
「硬い魔物よ。さっき教えたでしょう?」
アリッサは笑った。
「窒息か」
「そう。やってみて」
二十体のアーマードリザードが木々の間から姿を現した。
全身を硬い外皮に覆われている。
アリッサは剣を抜かなかった。
「バインドバレット」
二十発の魔法が飛ぶ。
命中。
捕縛。
拘束。
「ウォーターマスク」
二十体の頭部を水が包む。
「そのままアイスマスクを重ねてみて」
「アイスマスク」
水玉の表面が凍り始めた。
硬い氷となり、アーマードリザードの頭部を覆う。
「なるほど。これなら暴れても水が崩れにくい」
「そういうこと」
アリッサは魔法を維持する。
しばらくすると、二十体の動きが止まった。
「まだ解除しない」
アリッサは自分から言った。
鑑定する。
一体ずつ確認する。
「二十体、死亡を確認」
「いいわ。解除して」
魔法を解く。
アリッサはアーマードリザードを次々とアイテムボックスへ収納した。
剣は一度も抜いていない。
魔物の身体にも、余計な傷はほとんどない。
アリッサは腰の剣へ目を落とした。
一昨日ロルフがやっていたことを、今は自分がやっている。
「次を探しましょう」
「ああ」
アリッサは再び六属性のサーチを森全体へ広げた。
狩りはまだ始まったばかりだった。
アリッサは六属性のサーチを広げたまま森を進んだ。
地上だけではない。
木々の向こうも、上空も、地下も探る。
しばらく進んだところで、大きな反応を捉えた。
「いる」
「何がいた?」
「大きいな……五十体いる」
アリッサは鑑定を使った。
「レッサードラゴン。五十体だ」
「ちょうどいいわね」
「五十体でちょうどいいのか?」
「今のあなたなら大丈夫よ。私は見ているから、まず自分で考えてやってみて」
「ああ」
アリッサは周囲を確認した。
レッサードラゴンは一か所に集まっている。
身体は大きく、鱗も硬い。
剣で戦うなら厄介な相手だ。
だが先ほど教わったばかりだった。
硬い相手ほど窒息が有効。
「やってみる」
アリッサは魔力循環をさらに速めた。
五十体がこちらへ気づく。
「バインドバレット」
拘束の弾が一斉に飛んだ。
五十体へ命中する。
だが、相手が大きい。
レッサードラゴンが身体を振ると、拘束が軋んだ。
「一回で足りないなら?」
アリサの声が飛ぶ。
「重ねればいい」
アリッサはすぐに答えた。
「バインドバレット」
二重。
さらに動きの激しい個体には三重に掛ける。
脚。
胴。
翼。
レッサードラゴンたちの動きが止まった。
「拘束を確認」
「次は?」
「窒息」
アリッサは五十体の頭部へ意識を向ける。
「ウォーターマスク」
大量の水が現れ、それぞれの頭部を包んだ。
レッサードラゴンが激しく暴れる。
だが拘束されている。
「アイスマスク」
水玉の外側が凍りついた。
氷が形を保つ。
中の水は逃げない。
「これなら簡単には崩されないな」
「そうね。そのまま維持して」
「ああ」
アリッサは魔力循環を止めず、五十体への拘束と窒息を維持した。
五分が経過する。
動かなくなった個体が多い。
「鑑定する」
一体ずつ状態を確認する。
「死亡……死亡……こっちも死亡」
だが途中で止まった。
「まだ生きているのがいる」
「だったらどうする?」
「続けるだけだ」
「正解」
魔法は解かない。
動かなくなったからといって、死んだとは限らない。
さらに五分。
アリッサはもう一度鑑定した。
一体。
また一体。
順番に確認していく。
「五十体、死亡を確認」
「じゃあ解除していいわ」
アリッサはバインドバレット、ウォーターマスク、アイスマスクを解除した。
巨大なレッサードラゴンが五十体、地面に横たわっている。
「終わったな」
「ちゃんと確認できたわね」
「ああ。動かなくなっただけでは駄目だという意味が分かった」
アリッサは五十体をアイテムボックスへ収納した。
これほど巨大な魔物を次々に収納しているのに、まだ入る。
「アイテムボックスも便利だな」
「狩った後の運搬を考えなくていいものね」
アリッサは再びサーチを展開した。
森の広い範囲を探っていく。
そこで足を止めた。
「……多いな」
「何体?」
「三百」
「種類は?」
鑑定する。
「オークとハイオーク。合わせて三百体だ」
「どうする?」
アリサは答えを教えなかった。
アリッサは周囲の地形をサーチで確認する。
三百体が広がったまま来られると面倒だ。
ならば。
「進む場所を狭める」
地面へ魔力を流す。
「ソイルウォール」
巨大な土壁が立ち上がった。
一本ではない。
左右に長い土壁を作り、オークたちの進路を限定する。
「なるほどね」
「これなら一か所に集められる」
オークとハイオークの群れが土壁に阻まれ、狭められた場所へ集まってくる。
アリッサは足元を狙った。
「アイスバーン」
地面が一気に凍結した。
先頭のオークが滑る。
後ろから来たオークがぶつかる。
次々と足を取られ、三百体の隊列が崩れた。
「今だな」
「そうね」
「アイスバインド」
氷が一斉に伸びた。
脚を捕らえる。
腕を縛る。
胴を拘束する。
倒れた個体にも氷を重ねた。
オークたちが暴れるが、逃げられない。
「捕縛、拘束を確認」
アリッサは落ち着いて次へ進む。
「ウォーターマスク」
三百の水玉が現れた。
オークとハイオークの頭部を包み込む。
アリッサはその状態を維持した。
一分。
三分。
五分。
森が静かになった。
だが、アリッサは魔法を解かなかった。
「鑑定」
三百体を順番に確認していく。
「死亡……死亡……」
最後の一体まで確認する。
「全数、死亡を確認」
「いいわ。解除して」
魔法を解いた。
アリッサはしばらく三百体の魔物を見ていた。
剣は一度も抜いていない。
槍も弓も使っていない。
それでも三百体を仕留めた。
「……こういう戦い方もあるんだな」
「狩りよ」
アリサが訂正した。
「今日は魔物と勝負をしに来たんじゃないでしょう?」
アリッサは一瞬黙り、それから笑った。
「そうだった。狩りだったな」
必要なのは勝負ではない。
安全に仕留めて持ち帰ることだ。
アリッサは三百体を次々とアイテムボックスへ収納していった。
三百体のオークとハイオークをアイテムボックスへ収納し終えると、アリッサはもう一度サーチを広げた。
「周囲に危険な反応はない」
「なら今日はここまでにしましょう」
「まだ狩れるぞ」
「狩るだけが仕事じゃないわ。持ち帰った魔物を解体しないと」
アリッサはアイテムボックスの中身を思い出した。
オーガ十体。
アーマードリザード二十体。
レッサードラゴン五十体。
オークとハイオーク三百体。
「三百八十体か」
「そういうこと。帰るわよ」
「ああ」
二人はレビテーションで身体を浮かせ、風を使って上空へ飛び上がった。
アリッサは飛行しながら六属性のサーチを展開する。
眼下の森。
木々の間にいる魔物。
上空を飛ぶ鳥。
さらに地面の下まで分かる。
『このまま真っ直ぐか?』
テレパシーで尋ねる。
『ええ。真っ直ぐでいいわ』
風を切って飛んでいても普通に意思を伝えられる。
『テレパシーは飛行中にも便利だな』
『大声を出さなくていいでしょう?』
『ああ。サーチで見つけたものも、そのまま伝えられる』
『使い方が分かってきたみたいね』
やがて第78アルデバラン王国の街並みが見えてきた。
二人は冒険者ギルドへ戻り、解体場へ降りる。
「アイテムボックスから出して」
「ああ」
アリッサは狩った魔物を次々と取り出した。
大量の魔物が並ぶ。
「改めて見ると多いな」
「あなたが狩ったのよ」
「分かっている」
アリサは一体のオークの前へ移動した。
「じゃあ解体を教えるわね」
「ああ」
アリッサは周囲を見た。
「刃物は使わないのか?」
「使わないわ」
「使わない?」
「ウォーターカッターかウィンドカッターで解体するの。わざわざ刃物を使う必要がないでしょう?」
アリサがオークへ手を向ける。
「ウォーターカッター」
細い水の刃が走った。
腹部を開き、内臓を傷つけないように切り分けていく。
「刃の長さも太さも変えられる。研ぐ必要もないし、刃こぼれもしないわ」
今度は風の刃を出す。
「ウィンドカッター」
大きな部位を切り離した。
「細かいところなら細くする。大きなところなら長くする。使いやすい方を使えばいいわ」
「なるほどな」
「やってみて」
アリッサは別のオークの前にしゃがんだ。
一昨日、ロルフに教わった手順を思い出す。
「ウォーターカッター」
細い水の刃を作った。
「そこから腹部を開いて」
「ああ」
「深く入れすぎないで。内臓を傷つけないようにね」
刃を浅く入れる。
腹部を開き、内臓を取り出す。
「上手よ」
「一昨日もやったからな」
「ロルフに教えてもらったの?」
「ああ」
「またロルフなのね」
「何がおかしい?」
「何でもないわ」
アリサが笑っている。
アリッサは気にせず作業を続けた。
皮を剥ぐ。
肉を部位ごとに分ける。
骨を切り離す。
大きく切るときはウィンドカッター。
細かく切るときはウォーターカッター。
数体を終える頃には、かなり手際が良くなっていた。
「テレキネシスも使ってみたら?」
「そうか」
アリッサは次のオーガへ意識を向けた。
巨体が浮き上がる。
横へ倒す。
向きを変える。
必要な位置で固定する。
「これは楽だな」
「重い魔物を人力で動かす必要もないでしょう?」
「ああ」
アリッサはテレキネシスでオーガを固定したまま、ウォーターカッターを走らせた。
解体がさらに速くなる。
次はアーマードリザードだった。
「皮を傷つけないようにね」
「素材になるからか?」
「ええ。硬くて丈夫だから売れるわよ」
アリッサは慎重に水の刃を入れた。
硬い外皮と肉の境目を切り離していく。
やがて大きな外皮が綺麗に剥がれた。
「なるほど」
アリッサはそれを眺める。
「何?」
「窒息で狩った意味だ。剣で斬っていたら傷が入っていた」
「そういうこと」
魔物を倒すだけなら、方法はいくらでもある。
だが素材として持ち帰るなら話が変わる。
肉を取るなら肉を傷つけない。
皮が欲しいなら皮を傷つけない。
硬い魔物だからといって、硬い外皮をわざわざ斬る必要もない。
「狩り方で売れるものまで変わるんだな」
「当然でしょう?」
「ああ。考えれば当たり前だ」
次はレッサードラゴンだった。
テレキネシスで巨体を浮かせる。
必要な角度で固定し、ウォーターカッターとウィンドカッターを使い分ける。
鱗。
皮。
肉。
骨。
魔石。
使えるものを順番に分けていく。
アリッサは黙々と作業を続けた。
剣を抜くことはない。
解体用の刃物を探すこともない。
必要な刃は魔法で作ればいい。
「ずいぶん速くなったわね」
「同じことを何度もやっているからな」
アリッサは次の一体へ向かった。
三百八十体。
数は多い。
だが狩って終わりではない。
仕留める。
運ぶ。
解体する。
素材にする。
肉を食べる。
一昨日までアリッサが考えていた「魔物を倒す」とは、ずいぶん違う。
魔物との勝負ではない。
これが狩りなのだと、ようやく分かり始めていた。
解体を始めてから、かなりの時間が経っていた。
最初は一体ごとに確認しながら作業していたアリッサも、今では手順をほとんど覚えている。
テレキネシスで魔物を持ち上げる。
向きを変える。
ウォーターカッターで細かな部分を切り分け、ウィンドカッターで大きな部位を切断する。
皮。
肉。
骨。
内臓。
魔石。
素材になるものを次々と分けていく。
「次」
「まだやるの?」
「当たり前だ。自分で狩ったんだからな」
アリサが笑った。
「その調子なら大丈夫そうね」
アリッサはオークを浮かせた。
すでに何体目なのか数えていない。
同じ作業を繰り返しているうちに、魔力操作も細かくなっていた。
ウォーターカッターを一本だけ使う必要もない。
三本。
五本。
複数の水刃を同時に動かす。
「ずいぶん器用になったわね」
「一体ずつやっていたら終わらない」
「それに気づいたのなら上出来よ」
アリッサはさらにテレキネシスを使った。
複数のオークを並べる。
同じ部位を順番に切り分けていく。
切り離した肉や素材もテレキネシスで分類した。
「これなら速い」
「魔力操作の練習にもなるでしょう?」
「ああ。戦っているときより細かい操作が必要だな」
アリサは頷いた。
「だから解体までやるのよ」
アリッサは納得した。
狩りの後始末ではない。
解体そのものが教導の一部なのだ。
やがて最後のハイオークを解体し終えた。
「終わった……」
「三百八十体、全数終了ね」
アリッサは大きく息を吐いた。
魔力切れはしていない。
身体の中では今も魔力が巡り続けている。
疲れてはいるが、魔力が枯渇した疲労ではなかった。
「これだけ魔法を使っても、本当に魔力がなくならないんだな」
「魔力循環を止めてないでしょう?」
「ああ」
「だったら使った分が補填されるもの」
アリッサは解体された素材を見る。
「これをどうする?」
「ギルドに売ればいいわ。素材と魔石は買い取ってもらえるから」
「肉は?」
「肉も売れるわよ」
「いや」
アリッサは少し考えてから首を振った。
「肉はいらない」
「いらないの?」
「ああ。素材と魔石だけ売る」
「じゃあ肉はどうするの?」
「ロルフにやる」
アリサが黙った。
「何だ?」
「別に」
「また変な顔をしているぞ」
「してないわよ」
「している」
アリサは笑いを堪えながら、解体された大量の肉を見る。
「これ、かなりの量よ?」
「店で使えばいいだろう」
「オーガもアーマードリザードもレッサードラゴンも?」
「ああ。オークとハイオークもだ」
「全部?」
「全部だ」
アリサはとうとう笑った。
「何がおかしい?」
「あなた、随分気前がいいのね」
「素材と魔石を売れば十分だろう」
「そうね」
アリッサは肉をアイテムボックスへ収納した。
素材と魔石は冒険者ギルドへ持ち込む。
職員たちが種類ごとに確認していった。
「オーガ十体、アーマードリザード二十体、レッサードラゴン五十体。それからオークとハイオークが三百体ですね」
「ああ」
「素材と魔石をすべて買い取りでよろしいですか?」
「頼む」
査定には時間がかかるらしく、精算は後で受け取ることになった。
アリッサはギルドカードを受け取る。
「今日はありがとう」
アリサへ頭を下げた。
「どういたしまして。随分覚えたわね」
「ああ。まだ覚えることは多そうだが」
「焦らなくてもいいわよ」
「分かっている」
そう答えたアリッサは冒険者ギルドを出た。
そして迷うことなく歩き始める。
向かう先はロルフの食堂だった。
店へ入ると、厨房にいたロルフが顔を上げる。
「いらっしゃい。今日は狩りだったのか?」
「ああ」
「どうだった?」
「三百八十体狩った」
ロルフの手が止まった。
「……ずいぶん狩ったな」
「解体も終わらせたぞ」
「それは大変だったな」
「それで」
アリッサはロルフを見る。
「肉を持ってきた」
「肉?」
「ああ。素材と魔石はギルドに売った。肉は全部持ってきた」
「全部?」
「オーガ、アーマードリザード、レッサードラゴン、オーク、ハイオークだ」
さすがにロルフも目を丸くした。
「そんなに貰っていいのか?」
「構わない。私には使い切れない」
「それなら助かるけど……」
「一昨日、狩りを見せてもらった礼もある」
アリッサはそう言った。
嘘ではない。
実際、あの日に見たものがなければ、魔力循環を学ぼうとも思わなかったかもしれない。
「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
「ああ」
それだけの言葉だった。
だがアリッサは妙に満足していた。
「腹は減ってるか?」
「減っている」
「じゃあ何か作るよ」
「頼む」
いつもの席へ座る。
ロルフが厨房へ戻っていく。
アリッサはその背中を見てから、ふと考えた。
三百八十体も狩る必要はなかった。
肉を全部ロルフへ渡す必要もなかった。
素材と一緒に売れば金になった。
それくらいは分かっている。
それでも持ってきた。
「……まあ、いいか」
理由を考えるのをやめた。
しばらくすると厨房から、肉を焼くいい匂いが漂ってきた。
アリッサは自然と笑っていた。




