224 6属性魔法
アリッサは今日も冒険者ギルドの訓練場にいた。
向かいに座っているのは、昨日に引き続きBランク冒険者のアリサだ。
「魔力循環は続いてる?」
「ああ。寝ている間も止まらなかったと思う」
「いいわね。じゃあ今日は、もっと速く回してみましょう」
アリッサは身体の中を巡る魔力を意識した。
昨日よりも速く。
さらに速く。
魔力が全身を駆け巡る。
「まだいけるわ。もっと速くしてみて」
「ああ」
さらに魔力循環を加速させた。
身体が暖かくなる。
その直後、アリッサの身体が淡く光った。
「ん?」
「そのまま続けて」
アリサに言われ、魔力循環を止めない。
再び身体が光る。
さらに続けて何度も光った。
しばらくアリッサを見ていたアリサが笑顔になる。
「風、土、光、闇、火が覚醒したわ」
「五属性も?」
「ええ。昨日覚醒した水と合わせて六属性ね」
アリサは嬉しそうに手を叩いた。
「おめでとう。あなたは今日から六属性の魔法使いよ」
アリッサは自分の手を見る。
昨日まで水属性すら使えなかった。
それが二日で六属性。
「じゃあ順番に使ってみましょう。まずは風ね」
アリサが立ち上がり、訓練用の的へ手を向けた。
「ウィンドバレット」
風の弾が的を打つ。
「ウィンドカッター」
鋭い風の刃が走った。
「ウィンドマスク」
風が人型の的の頭部を包み込む。
「これも窒息に使えるのか?」
「そうよ。次はウィンドストーム」
強い風が渦を巻く。
「ウィンドシールド、ウィンドアーマー、ウィンドウォール」
風の盾が生まれ、アリサの身体を風が覆い、その前に風の壁ができた。
「ウィンドプレス」
強い風圧が的を押さえつける。
「ウィンドプリズン、ウィンドバインド」
風が的を囲み、別の的へ絡みついた。
「風は攻撃だけじゃないわ。索敵や探索にも使えるし、飛行もできる」
「空を飛べるのか?」
「飛べるわよ。それは後で教えるから、次は土ね」
アリッサはもう驚くのを諦めて、アリサの実演を見ることにした。
「土属性は生活にも使えるから便利よ。ソイルバレット、ソイルカッター」
土の弾と刃が飛ぶ。
「ソイルマスク、ソイルシールド、ソイルアーマー、ソイルウォール」
的の頭部を土が覆い、盾、鎧、壁へと次々に姿を変える。
「ソイルプレス、ソイルバインド、ソイルプリズン」
土が的を押さえ、拘束し、最後には牢まで作った。
「それだけじゃないわ」
アリサが地面へ手を向ける。
土が盛り上がった。
椅子になる。
続いて机。
寝台。
器。
皿。
鍋。
「建屋だって作れるわよ」
「魔法で家を作るのか?」
「土なんだから形を作ればいいでしょう?」
「……そう言われればそうだが」
「石も同じよ」
今度は硬い石が作られる。
「ストーンバレット、ストーンカッター、ストーンシールド」
石弾、石の刃、石の盾。
「ストーンアーマー、ストーンウォール、ストーンプレス、ストーンプリズン」
鎧から壁、重量を利用した圧殺、そして石牢まで作ってみせる。
アリッサは土で作られた椅子を軽く叩いた。
「戦場より、こっちの方が使う機会が多そうだな」
「でしょう? 土属性は便利なのよ」
「次は?」
「光ね」
アリサの手に光が集まった。
「ホーリーバレット、ホーリーカッター」
光弾と光刃が放たれる。
「ホーリーシールド、ホーリーアーマー」
光の盾と鎧が現れた。
「ホーリーライト」
訓練場が明るく照らされる。
「それからヒールバレット、ピュリフィケーションバレット。ピュリファイ」
「治癒と浄化か?」
「そう。精製にも使えるわ。それからホーリーサーチ。索敵と探索ね」
「光も使い道が多いな」
「そうね。逆に火は、実はあまり使い所がないのよ」
「火が?」
「見てて。ファイアバレット」
火弾が飛ぶ。
「ファイアバースト」
炎が激しく燃え上がる。
「強そうだが」
「強いわよ。でも森で使ったら?」
「火事になるな」
「街でも困るでしょう?」
「確かに」
「燃やす必要があるときには便利だけどね」
アリサは炎を消した。
「最後は闇。ダークバレット、ダークバインド」
黒い魔力が的を撃ち、別の的を縛る。
「ダークイレイス、ダークヒール。それから影を使って、シャドウバレット、シャドウバインド。バインドバレット」
アリッサは訓練場を見渡した。
昨日覚えた水だけでも多かった。
そこへ五属性が増えた。
「これを全部覚えるのか?」
「使いながら覚えればいいわよ」
「簡単に言うな」
「まだ終わってないわよ」
「まだあるのか?」
アリサは楽しそうに笑った。
「今度は六属性を合わせるの」
「合わせる?」
「まずはサーチね」
アリサは目を閉じた。
「ウォーターサーチに、風、土、光、火、闇を混ぜるのよ」
「五属性を混ぜる?」
「そう。六属性で探すの」
アリッサは眉を寄せた。
「そんなことができるのか?」
「できるわよ。見てて」
六つの属性を含んだ魔力が、アリサを中心に静かに広がっていく。
攻撃だけではない。
守る。
拘束する。
治す。
探す。
生活に使う。
そして属性同士を組み合わせる。
アリッサは昨日まで、自分は魔法を使えると思っていた。
どうやら自分が知っていた魔法は、その一部に過ぎなかったらしい。
「じゃあ、六属性を合わせてみましょうか」
アリサは訓練場の中央に立った。
「まずウォーターサーチを使って」
「ああ」
アリッサは魔力循環を続けたまま、水属性の魔力を周囲へ広げた。
昨日覚えたばかりだが、魔力操作にはかなり慣れてきている。
「そのまま風属性を混ぜてみて」
「混ぜると言われてもな」
「難しく考えなくていいわ。今広げている魔力に風属性を加えるの」
アリッサは意識を集中した。
水属性へ風属性を加える。
「あ……広がった」
「いいわね。次は土」
土属性を加えた途端、感覚が変わった。
地面。
訓練場の壁。
周囲にある物。
さらに、その下。
「……地下も分かる」
「そうよ。そのまま意識を向けてみて」
アリッサは地面の下へ意識を向けた。
土や石だけではない。
地中に埋まっている物や、小さな空洞まで感じ取れる。
「地下に隠れていても見つけられるのか?」
「サーチの範囲内ならね」
「伏兵にも使えるな。穴を掘って待ち伏せしても分かる」
「そういう使い方もできるわ」
武家で育ったアリッサには、その有用性がすぐに理解できた。
「次は光。そのまま火も混ぜて。最後に闇」
「ああ」
水、風、土、光、火、闇。
六属性を混ぜた魔力を周囲へ広げていく。
「……これはすごいな」
訓練場にいる人間。
受付にいる人間。
建物の外を歩く人々。
上空を飛ぶ鳥。
そして地下。
周囲の存在を立体的に感じ取れる。
「最初から細かく見ようとしなくていいわ。まずは大まかに把握して」
「ああ」
これほど広く魔力を展開しているのに、魔力切れを起こす気配はなかった。
「これなら森で魔物を探すのも簡単だな」
「慣れれば種類や数も分かるようになるわよ」
「一昨日ロルフがやっていたのはこれか」
「ロルフ?」
「ああ。一昨日一緒に狩りへ行った料理人だ」
「料理人と狩りに?」
「店の肉が少なくなったから狩りに行くと言うので、私も同行した」
「へえ」
アリサが少し笑った。
「何だ?」
「何でもないわ」
「変な奴だな」
「はいはい。サーチは一旦しまって」
アリッサは魔力を戻した。
「次は飛行を教えてくれるんだったな」
「ええ。まずレビテーションからね」
「レビテーション?」
「身体を浮かせるの。見てて」
アリサの身体がふわりと浮いた。
足が地面から離れ、そのまま空中で静止する。
「これがレビテーションよ」
「風を使っているようには見えないな」
「使ってないもの。レビテーションは浮くための力。飛行するときは、これに風を組み合わせるの」
「なるほど」
「やってみて」
アリッサはアリサを観察した。
魔力循環を続けながら、自分の身体が浮くところを思い描く。
身体が軽くなった。
「そう。そのまま」
さらに意識を集中する。
足が地面から離れた。
「……浮いた」
「上手よ。もう少し高く」
アリッサはゆっくり高度を上げた。
一メートル。
二メートル。
そこで止まる。
「これだけでは移動できないのか?」
「レビテーションだけなら浮くだけね。ここから風を使うのよ」
アリサが空中で前へ進んだ。
「後ろから風で押せば前へ進む。左右も同じ。速度を上げたいなら風を強くする」
「やってみる」
アリッサは背後に風を起こした。
身体が前へ動く。
「おお!」
「最初から速くしないでよ」
「分かっている」
右へ。
左へ。
上へ。
下へ。
レビテーションで浮遊を維持しながら、風を使って移動する。
何度か繰り返すうちに動きが滑らかになってきた。
「面白いな!」
「初めてにしては上手よ」
アリッサは高度を上げた。
訓練場の壁を越える。
第78アルデバラン王国の街並みが眼下に広がった。
街道をゴーレム馬車が走り、その向こうには広大な農地が続いている。
「すごいな……」
そこでアリッサは思いついた。
空中に浮いたまま六属性のサーチを広げる。
「使える」
地上。
建物の中。
上空。
そして地下。
自分が空にいても問題なく感じ取れた。
「これでは隠れるのが難しいな」
「慣れればもっと範囲も広がるわよ」
アリッサはすぐに別のことを考えた。
「空から敵の配置を探れる。森の中も地下も分かる。それに弓との相性がいい」
「やっぱりそっちを考えるのね」
「当然だろう」
「槍も持って飛びそうね」
「それも試したい」
アリサが笑った。
「本当に武器が好きなのね」
「幼い頃から剣も槍も弓も習ってきたからな」
アリッサはゆっくり地上へ降りた。
剣も槍も弓も捨てる必要はない。
身体強化と筋肉強化。
六属性魔法。
サーチ。
そしてレビテーションと風を組み合わせた飛行。
これまで鍛えてきた武技へ、新しい力を加えればいい。
「さて」
アリサが手を叩いた。
「飛べたから終わりじゃないわよ」
「ああ。まだ覚えることがあるんだろう?」
「たくさんあるわ」
アリッサは笑った。
「続きを頼む」
身体の中では、今も魔力が高速で巡り続けていた。
「じゃあ今度は、自分で使ってみましょう」
アリサは訓練場に並んだ人型の的を指した。
「まず風から。ウィンドバレット」
「ああ」
アリッサは魔力循環を続けたまま右手を向ける。
「ウィンドバレット」
風の弾が飛び、的へ命中した。
「いいわ。次はウィンドカッター」
風を薄く鋭く整える。
「ウィンドカッター」
放たれた風の刃が的を斬った。
「水より見えにくいな」
「そこも風の利点ね。ウィンドバインドもやってみて」
風が伸び、人型の的へ絡みついた。
最初は形が崩れかけたが、魔力操作を意識すると安定する。
「上手よ。そのまま維持して」
「ああ」
しばらく拘束してから解除した。
「次は土ね。ソイルバレットを撃ってみて」
「ソイルバレット」
土の弾が高速で飛び、的へ命中する。
アリッサは的を見て眉を寄せた。
「……削れているな」
「よく気づいたわね」
アリサが的の傷を指す。
「ソイルバレットは土や砂でヤスリをかけるように削れるの。だから硬い魔物にも有効よ」
「硬い魔物に?」
「甲殻や硬い鱗を持っている魔物ね。剣が通りにくくても、表面を削っていけるでしょう?」
アリッサは傷を指でなぞった。
「なるほど。硬いものを無理に斬る必要はないのか」
「そういうこと」
「先にソイルバレットで削ってから、そこを剣で狙ってもいいな」
「もちろん。魔法だけで戦う必要はないわ」
「気に入った」
アリッサは素直に頷いた。
「次はソイルウォール」
地面が盛り上がり、大きな土壁になる。
「矢を防げる。敵の進路を塞ぐこともできるな」
「そうね。でも土属性は生活にも使えるわよ。椅子を作ってみて」
「椅子か」
アリッサは土を盛り上げ、座面と背もたれを作った。
腰を下ろしてみる。
「硬いが、普通に座れるな」
「次は机」
机を作る。
続いて皿、器、鍋。
形を意識すれば、それほど難しくなかった。
「建屋も作れるわよ」
「寝台も作れば野営が楽になるな」
「石でも同じことができるわ」
「便利な属性だな」
「でしょう?」
続いて光属性を試す。
「ホーリーライト」
光が周囲を明るく照らした。
「ピュリファイも使ってみて」
アリサが水の入った器を置く。
アリッサは光属性の魔力を流した。
「これで浄化できたのか?」
「ええ。浄化だけじゃなく精製にも使えるわ」
「治癒もできるんだったな」
「ヒールバレットね。離れたところにいる人も治療できるわよ」
「戦闘だけじゃないんだな」
「魔法は生活でも使うものよ」
次は火属性だった。
「ファイアバレット」
火弾が的へ飛ぶ。
「ファイアバースト」
炎が広がり、アリッサはすぐに消した。
「確かに使う場所を選ぶな」
「森で使ったら危ないでしょう?」
「街でも同じだ。火事になったら洒落にならない」
「燃やしたいときには便利なんだけどね」
「使い分けか」
「そういうこと」
最後は闇属性だった。
「まずダークバレット」
黒い弾が飛び、的を打つ。
「ダークバインド」
今度は闇が伸び、人型の的へ絡みついた。
「次はダークイレイス。これは少し注意してね」
「分かった」
アリッサは別の的へ手を向けた。
「ダークイレイス」
闇が触れた部分が消えた。
「……消えた」
「闇には消す使い方もあるの。生き物に使うときは特に気をつけて」
「ああ。これは気軽に使うものじゃないな」
「ダークヒールなら治癒に使えるわよ」
「闇でも治せるのか」
「できるわ」
アリサが今度は的の足元を指した。
「影も使えるわよ。シャドウバレット」
アリッサが真似すると、影から弾が飛び出した。
「シャドウバインド」
影が伸び、人型の的の両脚へ絡みつく。
「面白いな」
「最後にバインドバレット」
「バインドバレット」
放たれた魔法が人型の的へ命中した。
直後、拘束が展開され、的の動きを封じる。
アリッサはその様子をじっと見る。
「これは使いやすい」
「拘束したい相手に撃ち込めばいいからね」
「斬る必要がない相手なら、こっちで十分だ」
「あなた、拘束系が気に入ったみたいね」
「使い道が多いからな」
アリッサは腰の剣へ手を置いた。
「剣が必要なら剣を使う。硬い魔物なら先に土で削る。捕らえるなら拘束する。それでいいんだろう?」
「そうよ。使えるものを使えばいいの」
アリッサは笑った。
一昨日、ロルフがオークを狩ったときも同じだった。
肉が欲しい。
だから傷つけずに仕留めた。
目的が先にあり、そのための手段を選ぶ。
自分は長い間、剣、槍、弓を磨いてきた。
それを捨てる必要はない。
使える手段が増えただけだ。
「次は何をやる?」
アリッサが尋ねると、アリサは少し呆れたように笑った。
「まだやる気なの?」
「当然だ。せっかく六属性が使えるようになったんだ」
「分かったわ。じゃあ次は、複数の属性を同時に使ってみましょう」
「合わせ技か?」
「そういうこと」
アリッサは再び訓練場の中央へ向かった。
身体の中では、今も魔力が高速で巡り続けていた。
「次は複数の魔法を同時に使ってみましょう」
アリサは訓練場に並んだ三体の人型の的を指した。
「別々の的に違う魔法を使うの。できそう?」
「やってみる」
アリッサは魔力循環を続けながら三体の的を見る。
一体目には土。
二体目には風。
三体目には闇。
「ソイルバインド」
一体目の脚を土が拘束した。
「ウィンドプレス」
二体目が風圧で押さえつけられる。
「シャドウバインド」
三体目の影が伸び、手足へ絡みついた。
「そのまま維持して」
「ああ」
三つの魔法を同時に維持する。
最初はそれぞれに意識を向ける必要があったが、しばらくすると安定してきた。
「もっと魔力循環を速くしてみて」
アリッサは身体を巡る魔力をさらに加速させる。
三つの魔法を維持しているにもかかわらず、魔力が減っていく感覚はない。
「これなら何人いても一人ずつ相手にする必要がないな」
「慣れればもっと増やせるわよ」
「そうか」
アリッサは三つの魔法を解除した。
その直後、身体が淡く光った。
「ん?」
アリサが笑顔になる。
「鑑定が覚醒したわ」
「鑑定?」
「人や物、魔物なんかを調べられる能力よ。私を見て使ってみて」
「ああ」
アリッサはアリサへ意識を向けた。
調べる。
そう思っただけで情報が頭へ入ってくる。
「アリサ。Bランク冒険者……」
「できたでしょう?」
「ああ。これが鑑定か」
「知らない魔物を見つけたときにも便利よ。素材なんかを調べることもできるわ」
アリッサは訓練場に置かれていた剣を見る。
鑑定してみる。
何で作られているのか。
どの程度の品質なのか。
先ほどまで分からなかったことが読み取れた。
「これは便利だな」
「でしょう?」
そのとき、再びアリッサの身体が光った。
「あら」
「今度は何だ?」
「テレパシーが覚醒したわ」
「テレパシー?」
「声を出さずに相手へ言葉を伝えられるの。私に話しかけるつもりでやってみて」
アリッサはアリサを見る。
『聞こえるか?』
『聞こえてるわよ』
アリッサは目を見開いた。
「本当に声を出さなくても話せるのか」
『そういうこと』
アリサの口は動いていない。
それでも声が伝わってくる。
『これなら離れた仲間にも情報を伝えられるな』
『できるわよ』
『サーチと組み合わせれば、見つけた魔物の位置を仲間へ伝えられる』
アリサが笑った。
「やっぱりそういう使い方を考えるのね」
「便利だからな」
さらにアリッサの身体が淡く光った。
「テレキネシスも覚醒したわ」
「それは何ができる?」
「手を触れずに物を動かせるわ。そこにある椅子を見て」
アリッサは訓練場の端に置かれた椅子へ目を向けた。
「持ち上げるつもりで」
意識を向ける。
椅子が浮いた。
「おお……」
「右へ動かして」
右へ。
椅子が動く。
左へ。
今度は反対へ動いた。
回す。
空中で椅子が回転する。
「なるほど」
アリッサは椅子を地面へ戻した。
そして腰の剣を見る。
「剣も動かせるのか?」
「もちろん」
剣を鞘から抜く。
手を離す。
落ちる前にテレキネシスで支えた。
剣が空中に浮かぶ。
前へ。
後ろへ。
横へ。
思った通りに動く。
「これは面白い」
「剣を飛ばすつもり?」
「それもできるな」
アリッサは剣を手元へ戻した。
そこで一昨日の光景を思い出した。
「そうか」
「何?」
「ロルフがオークの首を捻ったのもこれだ」
「テレキネシスで?」
「ああ。触りもしなかった。オークの首がいきなり捻れた」
「料理人なのよね?」
「料理人だ」
アリッサは笑った。
あのときは何をしたのか分からなかった。
今なら分かる。
自分にも同じ力がある。
「だったら私にもできるのか」
「できるでしょうね」
アリッサは人型の的へ意識を向けた。
頭部をテレキネシスで掴む。
捻る。
的の首が横を向いた。
「できた」
「力加減には気をつけてね」
「ああ」
アリッサは手を離した。
六属性。
魔力循環と魔力操作。
身体強化と筋肉強化。
サーチ。
レビテーション。
鑑定。
テレパシー。
テレキネシス。
昨日まで知らなかったものが、次々と自分の力になっていく。
「今日はこれくらいにしましょう」
「まだできるぞ」
「明日もあるでしょう?」
アリッサは少し考えてから頷いた。
「分かった。今日はここまでにする」
冒険者ギルドを出る。
外は夕食時だった。
アリッサは通りを歩く。
しばらくして気づいた。
昨日と同じ道を歩いている。
その先にあるのはロルフの食堂だ。
「……腹が減ったからな」
誰に聞かれたわけでもないのに呟いた。
一昨日も食べた。
昨日も食べた。
今日も行く。
別におかしくはない。
旨い店なのだから。
アリッサはそう納得して、そのまま食堂へ向かった。




