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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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223 冒険者ギルド

 翌日、アリッサ・ローゼンクランツは冒険者ギルドを訪れていた。


 第78アルデバラン王国の冒険者ギルド支部は、まだできたばかりらしい。


 建物は新しく、受付にいる職員も少ない。


 その代わり、何人もの冒険者が受付を手伝ったり、依頼書を整理したりしていた。


 この街そのものが新しいのだから仕方がないのだろう。


 アリッサはそう納得して受付へ向かった。


 そこには一人の女冒険者が座っていた。


「こんにちは」


「ああ」


 アリッサはギルドカードを差し出す。


「私はアリッサ。Cランク冒険者だ」


「今日は依頼?」


「いや。教えてもらいたいことがある」


「何かしら?」


「魔力循環というものだ」


 女冒険者は少しだけ目を丸くした。


「魔力循環を知らないの?」


「外国から来たんだ」


「ああ、それなら知らなくても不思議じゃないわね」


 女冒険者は立ち上がった。


 近くにいた職員へ声をかける。


「私、この人に魔力循環を教えてくるわ」


「お願いします」


「こっちよ」


 アリッサは女冒険者について建物の奥へ向かった。


 広い訓練場へ出る。


 女冒険者は訓練場の地面を指した。


「そこに座って」


「ああ」


 アリッサが腰を下ろすと、女冒険者も向かいに座った。


「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアリサ。Bランク冒険者よ。今は依頼を受けて、この支部で臨時職員をしているの」


「アリサか。よろしく頼む」


「ええ。じゃあ始めましょう」


 アリサは右手を差し出した。


「あなた、詠唱魔法は使える?」


「使える」


「だったら早いわ。まず右手に魔力を集めてみて」


 アリッサは言われた通り、右手へ魔力を集める。


「できてるわね。次はその魔力を腕から肩へ動かして。そこから胸、腹、脚。それから反対側を通って戻してみて」


 アリッサは目を閉じた。


 右手に集めた魔力をゆっくり動かす。


 腕から肩へ。


 胸から腹へ。


 脚を通り、再び上半身へ戻す。


「そう。上手よ。今度は止めないで回し続けて」


 魔力が身体を巡る。


「もっと早くできる?」


 アリッサは循環する速度を上げた。


 何度も繰り返しているうちに、身体が少し暖かくなってきた。


「その感じを覚えて。これをずっと続けるの」


「ずっと?」


「起きている間も寝ている間も。最後には呼吸するのと同じように、意識しなくても続けられるようになるわ」


「寝ている間まで……」


「慣れればできるわよ」


 そのときだった。


 アリッサの身体が淡く光った。


「え?」


 自分の身体を見下ろす。


 アリサは嬉しそうに笑った。


「水属性が覚醒したわね」


「これが?」


「ええ。それにしても早いわ。あなた、かなりセンスがあるわよ」


 アリサは惜しみなく褒めた。


「じゃあ次。私の真似をしてね」


 アリサが片手を伸ばす。


「ウォーターウィップ」


 水が現れ、細長く伸びた。


 鞭のような水が空中で滑らかに動く。


「やってみて」


「ウォーターウィップ」


 アリッサも水を出した。


 だが形が安定しない。


「焦らないで。魔力循環を切らさない。そのまま水の形を整えて」


 アリッサは集中した。


 水が徐々に細長くなっていく。


「そう。上手よ。そのまま維持して。魔力循環をもう少し早くできる?」


「ああ」


「いいわ。安定してきた。そのまま二本目を出してみて」


「二本?」


「できるわよ」


 アリッサはもう一方の手にも意識を向けた。


 二本目の水が伸びる。


「できた……」


「いいわよ。そのまま。そのまま維持しながら、魔力循環をもう少し早くして」


 アリッサは言われるまま続けた。


 一分。


 三分。


 五分。


 そして十分ほど経った。


 二本のウォーターウィップは消えない。


 それどころか――。


「……なんで?」


「どうしたの?」


「魔力が減らない」


 これだけ長時間、魔法を出し続けている。


 普段なら、とっくに魔力の消耗を感じているはずだった。


 だが何ともない。


「いいわ。いったんしまって」


 アリッサが魔法を解除する。


「そのまま魔力循環は続けて。止めないで聞いてね」


「ああ」


 アリサは自分の周囲を指した。


「この世界には、至るところに魔力があるの」


「至るところに?」


「そう。大気にも、大地にもね。魔力循環を続けていると、その魔力を身体に取り込めるようになる」


 アリッサは自分の手を見る。


「だから減らなかったのか?」


「使った分が補填されているのよ」


 アリサは笑った。


「だから魔力循環を続けながら魔法を使えば――」


 そして、あっさりと言った。


「実質、無限魔力ってわけ」


 アリッサは何も答えられなかった。


 昨日ロルフが平然と魔法を使い続けていた理由を、ようやく理解した。




「水属性って使い道が多いのよ」


 アリサは立ち上がった。


「見てて」


 右手を前へ向ける。


「ウォーターバレット」


 水の弾丸が放たれ、訓練場の的を撃ち抜いた。


「ウォーターカッター」


 今度は薄い水の刃が走る。


「ウォーターマスク」


 少し離れた場所に置かれていた人型の的、その頭部を水が覆った。


「これは昨日見た……」


「知ってるの?」


「ああ。オークを仕留めるのに使っていた」


「なら説明はいらないわね。次」


 水が長く伸びる。


「ウォーターウィップ」


 先ほどアリッサも使った水の鞭だ。


「ウォーターバインド」


 水が人型の的に絡みつき、そのまま全身を拘束する。


「それからウォーターベッド」


「ベッド?」


 訓練場の地面に大量の水が集まり、長方形に形を整えた。


 アリサはその上へ寝転がる。


「寝られるわよ」


「……戦闘魔法じゃないのか?」


「誰が戦闘にしか使っちゃいけないって決めたの?」


「いや……」


 確かにそんな決まりはない。


 アリサは起き上がると、水を消した。


「今度は氷ね。アイスバレット」


 氷の弾丸が飛ぶ。


「アイスカッター」


 鋭い氷の刃が続いた。


「アイスシールド。アイスアーマー」


 盾が生まれ、続いてアリサの身体を氷の鎧が覆う。


「アイスウォール」


 地面から厚い氷の壁が立ち上がった。


「まだあるわよ。アイスバーン」


 地面が凍りつく。


「これは敵を滑らせるのか?」


「そういう使い方もできるわ」


 続いて巨大な氷塊が現れる。


「アイスプレス」


 氷塊が地面へ落ち、重い音を響かせた。


「アイスボックス」


 今度は四角い箱ができた。


「食材を入れておけるわ」


「……食材」


 アリッサは昨日のロルフを思い出した。


「アイスプリズン」


 人型の的が氷の牢へ閉じ込められる。


「アイスマスク。アイスバインド」


 頭部を氷が覆い、別の的には氷が絡みついた。


「こんなものかしら」


「十分多いと思うが」


「まだよ」


「まだあるのか?」


「ボイルバレット」


 熱湯の弾が放たれる。


「スチームバレット」


 今度は高温の蒸気が勢いよく飛んだ。


 アリッサは呆れていた。


 同じ水属性から、水、氷、熱湯、蒸気まで使っている。


「それだけじゃないわ」


 アリサは自分の腕を示した。


「身体強化」


 身体に魔力が巡る。


「筋肉強化」


「それも水属性なのか?」


「体内の水分を利用するの」


 アリサは強化を解く。


「怪我をしたらウォーターヒール」


 手のひらに柔らかな光を帯びた水が現れた。


「それからウォーターサーチ」


 アリサの意識が周囲へ広がる。


「索敵にも使えるのよ」


 アリッサはしばらく黙っていた。


 水の弾。


 穿つ攻撃。


 刃や斬撃。


 窒息。


 鞭。


 捕縛と拘束。


 さらには寝具。


 氷に変えれば、弾や刃だけではない。


 盾、鎧、壁。


 地面を凍らせる。


 重い氷で押さえつける。


 箱を作る。


 牢や檻にもできる。


「氷ならもっと色々作れるわよ」


「例えば?」


「建屋とか寝台とか、机、椅子、器、食器、鍋とか」


「鍋まで?」


「形を作ればいいだけだから」


 アリッサは氷の箱を見た。


 なるほど。


 氷を自在に成形できるなら、剣や盾だけを作る必要はない。


 必要な形にすればいい。


「水属性というのは、水を攻撃に使う魔法だと思っていた」


「もったいないわね」


 アリサは笑った。


「魔法なんて使い方次第よ」


 アリッサは右手を見た。


 昨日まで持っていなかった水属性。


 今は自分にも使える。


「私にも全部できるようになるのか?」


「練習すればね」


「教えてくれるか?」


「もちろん。そのためにここへ来たんでしょう?」


「ああ」


「だったら次は自分でやってみましょう」


 アリサは訓練場の中央を指した。


「魔力循環は止めないでね」


「分かった」


 アリッサは立ち上がる。


 身体の中では、今も魔力が巡り続けている。


 剣、槍、弓。


 それらを幼い頃から学んできた。


 どれも捨てるつもりはない。


 だが、そこへ新しいものを加えることはできる。


 アリッサは右手を前へ向けた。


 昨日まで知らなかった世界が、急速に広がり始めていた。




### 223 冒険者ギルド 後編①


 アリッサは右手を前へ向けた。


「まずはウォーターバレットからね」


「ああ」


「形を難しく考えなくていいわ。水を出して、それを前へ飛ばす。それだけ」


 アリッサは身体の中を巡る魔力を意識しながら、水を作り出した。


「ウォーターバレット」


 水弾が飛び、訓練用の的に当たる。


「上手よ。次はもっと速く」


 もう一度放つ。


 先ほどより速い。


「いいわね。今度は二発」


 二つの水弾を作る。


 同時に飛ばす。


 二つとも的に命中した。


「できた」


「だからセンスがあるって言ったでしょう。じゃあ四発」


「いきなり増やすな」


「できそうだから言ってるのよ」


 アリッサは苦笑しながら四つの水弾を作った。


 少し形が崩れる。


「魔力循環を止めない。焦らなくていいわ」


「ああ」


 身体を巡る魔力を意識する。


 四つの水弾が安定した。


「そのまま撃って」


 四発が飛ぶ。


 二発は中央へ命中したが、一発は端へ当たり、最後の一発は外れた。


「三発か」


「最初なら十分よ。次はウォーターカッターをやってみましょう」


 アリサが実演する。


 薄く伸びた水が高速で飛び、的に深い傷をつけた。


「水を薄くするの。刃を作るつもりで」


「こうか?」


 アリッサが水を出す。


 だが分厚い。


「もっと薄く。そう、いいわ。そのまま形を維持して飛ばして」


「ウォーターカッター」


 水の刃が飛んだ。


 的に当たり、浅い傷を残す。


「できたな」


「できたわね。威力はこれから上げればいいのよ」


 アリッサは右手を見る。


 面白い。


 剣なら、握り方、足運び、間合い、体重移動まで身体へ叩き込むのに長い時間が必要だった。


 魔法も簡単ではない。


 だが、目の前で見せてもらい、使い方を教えてもらうと、自分でも形にできる。


「次はウォーターバインド」


 アリサが水を伸ばし、人型の的へ巻きつける。


「相手を倒す必要がないときに便利よ」


「捕縛か」


「そう。やってみて」


 アリッサも水を伸ばした。


 最初は一本。


 的の胴体へ巻きつける。


「そのまま締めて。逃げられないように」


「こうか?」


「そう。次は腕も」


 別の水を伸ばす。


 両腕を拘束した。


「いいわよ。魔力循環を続けていれば長時間維持できるから」


 アリッサは拘束した的を見る。


 敵を斬らずに無力化する。


 これも剣とは違う使い方だった。


「じゃあ、ウォーターマスクもやってみる?」


「ああ」


 昨日、ロルフがオークを仕留めた魔法だ。


 アリッサは人型の的の頭部へ水を集めた。


 だが、水が流れ落ちる。


「形を維持して。相手の顔を包む感じ」


 もう一度。


 今度は水が頭部を覆った。


「そう、それでいいわ」


「これで窒息させるのか」


「そういう使い方もできる。でも人を捕まえるだけなら、バインドで十分なことも多いわよ」


「使い分けか」


「そういうこと」


 昨日ロルフから聞いた話と同じだった。


 目的に合わせて手段を選ぶ。


 倒す必要があるなら倒す。


 捕らえるなら拘束する。


 肉が必要なら傷つけない。


 アリッサはウォーターマスクを解除した。


「次は何だ?」


「ずいぶん乗り気になってきたわね」


「知らない技を覚えるのは面白い」


「武器を使う人って、そういう人が多いわよね」


 アリサは笑った。


「じゃあ身体強化をやってみましょうか」


「身体強化か」


「剣を使うなら、こっちの方が気に入るかもしれないわよ」


 アリッサの目が変わった。


「教えてくれ」


「いいわ。まず魔力循環はそのまま。今度は身体の中へ意識を向けて」


 アリサは自分の腕を示した。


「全身へ魔力を行き渡らせる感じで、身体そのものを強くするの」


 アリッサは言われた通りにする。


 身体を巡っていた魔力を、筋肉や骨まで染み込ませるように意識した。


 足。


 腰。


 背中。


 肩。


 腕。


 身体が軽くなる。


「その状態で少し走ってみて」


「ああ」


 アリッサは地面を蹴った。


「なっ――」


 一歩目から違った。


 想像以上の勢いで身体が前へ出る。


 慌てて速度を落とし、訓練場の端で止まった。


 振り返る。


「今のが身体強化か?」


「そうよ」


 アリサは笑っている。


 アリッサは自分の脚を見る。


「これで剣を使ったら……」


「速くなるでしょうね」


「槍も」


「もちろん」


「弓は?」


「引く力も強くなるわよ」


 アリッサの顔に笑みが浮かんだ。


 剣を捨てる必要などなかった。


 むしろ逆だ。


 これまで積み重ねてきた技術へ、魔法を加えられる。


「アリサ」


「何?」


「筋肉強化も教えてくれ」


「もちろん」


 アリッサは再び訓練場の中央へ戻った。


 身体の中では魔力が巡り続けている。


 まだ魔力切れの兆候はない。


 昨日ロルフを見て感じた驚きが、少しずつ別のものへ変わっていた。


 自分にもできる。


 ならば、どこまでできるのか。


 武家の名門で育ったアリッサにとって、それを試さずに帰るという選択肢はなかった。




「じゃあ筋肉強化ね」


 アリサは自分の右腕を軽く叩いた。


「身体強化と似ているけど、今度は筋肉を意識して。腕だけじゃなくて全身よ」


「分かった」


「魔力循環はそのまま続けてね」


 アリッサは目を閉じた。


 身体の中では魔力が巡り続けている。


 その魔力を全身の筋肉へ流すように意識する。


 腕。


 肩。


 背中。


 腹。


 腰。


 そして脚。


「いいわ。そのまま維持して」


 アリッサは立ち上がり、右手を握った。


 力が入る。


 それも今までとは明らかに違う。


「剣を振ってみてもいいか?」


「いいわよ。ただし最初は軽くね」


 アリッサは腰の剣を抜いた。


 いつも使っている剣だ。


 幼い頃から何万回と繰り返してきた基本の斬撃を放つ。


 剣が空気を切った。


「……軽い」


 もう一度。


 今度は少し力を入れる。


 速い。


 剣そのものが軽くなったように感じる。


「どう?」


「これはいいな」


 アリッサの顔に笑みが浮かぶ。


 剣術が別のものになったわけではない。


 自分が長年鍛えてきた技術を、そのまま使える。


 ただ身体能力が底上げされている。


「身体強化と筋肉強化を同時に使えるか?」


「できるわよ」


「やってみる」


 アリッサは魔力循環を続けながら、身体強化と筋肉強化を重ねた。


 再び剣を構える。


 踏み込む。


 一気に間合いを詰め、訓練用の的へ剣を振り下ろした。


 剣が深く食い込む。


「おお」


 思わず声が出た。


「やっぱりあなた、武器の扱いには慣れてるわね」


「幼い頃からやっているからな」


「じゃあ相性がいいわ。身体強化も筋肉強化も、元々持っている技術が消えるわけじゃないから」


「ああ」


 アリッサは剣を鞘へ戻した。


 これは大きい。


 剣も槍も弓も、今まで学んできたものが無駄にならない。


 むしろさらに使える。


「次はウォーターヒールをやってみましょうか」


「治癒までできるのか」


「水属性は使い道が多いって言ったでしょう?」


 アリサは自分の腕に小さな傷をつけた。


「見てて。ウォーターヒール」


 水が傷を包む。


 しばらくすると傷が塞がった。


「やってみる?」


「怪我をしていないぞ」


「それなら私に使ってみて」


 アリッサはアリサの腕へ手を向けた。


 傷はすでに治っている。


「治っているじゃないか」


「小さな擦り傷くらいならあるわよ。冒険者だもの」


「適当だな」


「練習なんだからいいの」


 アリッサは苦笑しながら水を出した。


 アリサの腕を包む。


「魔力を強くぶつけるんじゃなくて、優しく流す感じ」


「こうか?」


「そうそう。上手よ」


 しばらく続ける。


「いいわ。次はウォーターサーチ」


「索敵だな」


「そう。最初は近くでいいわ。水属性の魔力を周囲へ広げる感じ」


 アリッサは目を閉じた。


 自分を中心に魔力を広げる。


 最初は何も分からない。


「もっと力を抜いて。全部を見ようとしなくていいから」


 言われた通りにする。


 すると少しずつ周囲の気配が分かり始めた。


「……人がいる」


「何人?」


「訓練場の外に……六人。いや、七人か?」


「正解」


 アリッサは目を開いた。


「これが索敵……」


「まだ狭いけどね。慣れればもっと広げられるわよ」


 昨日ロルフが森へ入ってすぐ、オークの数まで言い当てた理由が分かった。


「面白いな」


「でしょう?」


「ああ」


 アリッサは素直に頷いた。


 気がつけば、かなり長い時間が経っていた。


 それでも魔力は尽きていない。


 身体の中では魔力循環が続いている。


「今日はこれくらいにしましょうか」


「もう終わりか?」


「一日で詰め込みすぎても仕方ないでしょう」


「まだできるぞ」


「分かってるわよ」


 アリサは笑った。


「だから明日も来ればいいの」


「明日も教えてくれるのか?」


「私がここにいる間ならね」


「なら来る」


 即答したアリッサに、アリサは楽しそうに笑った。


「本当に好きなのね」


「何がだ?」


「新しいことを覚えるのが」


「ああ。知らないままにしておく理由がないからな」


 アリッサは立ち上がった。


「今日はありがとう」


「どういたしまして」


 訓練場を出る。


 冒険者ギルドの受付へ戻ったアリッサは、そのまま外へ出た。


 身体の中では今も魔力を巡らせている。


 止めない。


 起きている間も。


 寝ている間も。


 呼吸するように続ける。


 アリッサは歩きながら右手を握った。


 昨日とは明らかに違う。


 水属性。


 魔力循環。


 魔力操作。


 身体強化。


 筋肉強化。


 治癒。


 索敵。


 一日で覚えたことが多すぎる。


 そして、ふと足が止まった。


「……そうだ」


 昨日の食堂へ向かう。


 教導についてロルフに聞きたいことがある。


 そう自分に理由をつけた。


 食堂へ入ると、厨房にいたロルフがアリッサに気づいた。


「お、教導はどうだった?」


「面白かった。魔力循環もできるようになったぞ」


「早かったな」


「ああ。それから水属性も覚醒した」


「よかったじゃないか」


 それだけだった。


 驚きもしなければ、大げさに褒めもしない。


 アリッサはなぜか、それが心地よかった。


「何か食う?」


「ああ」


「昨日のオークがあるぞ」


「それを頼む」


 アリッサはいつの間にか笑っていた。


 教導について聞きたいことがあったはずなのだが。


 席についてから考えてみると、何を聞くつもりだったのか思い出せなかった。





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