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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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222 第78アルデバラン王国

 シュタインフェルト王国には、ローゼンクランツ公爵家という武家の名門がある。


 王家とのつながりも深く、代々多くの騎士を輩出してきた家だ。


 その第一子として生まれたのが、アリッサ・ローゼンクランツだった。


 アリッサは今、第78アルデバラン王国を訪れていた。


 ここはかつて、ガルテェニカ王国と呼ばれていた土地である。


 シュタインフェルト王国と国境を接していたガルテェニカ王国は、周辺では悪名高い国だった。


 盗賊、傭兵崩れ、人攫い、奴隷商、腐敗貴族、略奪集団。さらに犯罪に手を染める騎士や兵士までが各地に跋扈していた。


 国内だけではない。


 周辺国へ入り込んで人を攫い、物資を奪い、捕らえた人間を奴隷として売る。


 奴隷の数は二千万人に達するという噂さえあった。


 ところが、ある日突然ガルテェニカ王国は滅亡した。


 しかも同時期に、近隣の九か国まで消滅した。


 大規模な戦争が起きたという話はない。


 国境を越えてきた軍勢を見た者もいなければ、巨大な戦闘音を聞いたという話もない。


 ただ、人間がいなくなった。


 戦闘の跡もない。


 大量の死体が残されたわけでもない。


 そして二千万人いると噂されていた奴隷たちまで、いつの間にか姿を消していた。


 アリッサ自身が見たわけではない。


 すべて人から聞いた話だ。


 何が起きたのかは分からなかった。


 そしてしばらくすると、ガルテェニカ王国の跡地に新しい国ができていた。


 第78アルデバラン王国。


 奇妙な名前だった。


 聞けばアルデバラン王国から始まり、第2、第3と同じ名を持つ国が次々と生まれ、今では第130アルデバラン王国まで存在するという。


 だからアリッサは自分の目で確かめることにした。


 公爵家の使者としてではない。


 一人の冒険者としてである。


 ギルドカードも持っている。


 ローゼンクランツ公爵家は武家として長い歴史を持つ。


 アリッサも幼い頃から剣、槍、弓の扱いを学んできた。魔法も使える。


 実戦経験もある。


 自分でも、それなりに強いという自負があった。


 だが、第78アルデバラン王国へ入って最初に驚いたのは、軍事力ではなかった。


「……なんだ、この品数は」


 商店の前で思わず足が止まった。


 新鮮な野菜が山のように積まれている。


 果物、根菜、穀物。


 さらに大量の肉。


 どれも品質がいい。


 しかも安い。


 別の店を覗いても同じだった。


 品物が豊富なのは、一部の大商店だけではない。


 小さな店にも十分な商品が並んでいる。


 街道には荷車が行き交っていた。


 いや、馬車ではない。


「ゴーレム……?」


 荷台を引いていたのは馬ではなくゴーレムだった。


 荷物を運ぶものもあれば、人を乗せて走っているものもある。


 それが珍しいものとして扱われていない。


 住民は当たり前のように利用していた。


「どうなっているんだ、この国は……」


 歩き回っているうちに腹が減った。


 ちょうど目に入った食堂へ入る。


 店内は賑わっていた。


 壁に掲げられた品書きを見る。


 肉の煮込み、スープ、パンが付いた定食がある。


 値段を見て、また驚いた。


「安いな」


 試しに注文する。


 しばらくすると、給仕が大きな皿を運んできた。


 量まで多い。


 まずパンを千切って口へ運ぶ。


「……柔らかい」


 ふわりとした食感だった。


 しかも旨い。


 続いて肉の煮込みを食べる。


 肉は簡単に崩れるほど柔らかく煮込まれている。味もしっかり染みていた。


 スープにも十分な旨味がある。


 気がつけば、アリッサは黙々と食べていた。


「ごちそうさま」


 すっかり満足して椅子にもたれる。


 そのとき、厨房から声が聞こえた。


「肉がもう少ないな。明日、狩りに行ってくるよ」


 アリッサの耳が動いた。


 厨房を見る。


 声の主は若い料理人だった。


 体格も悪くない。


 アリッサは立ち上がると、料理人のところへ向かった。


「少しいいか?」


「ん?」


 アリッサはギルドカードを取り出した。


「アリッサだ。冒険者をしている」


「ああ」


「明日、狩りに行くと言っていたな?」


「行くよ。肉が必要だからな」


「私も同行していいか?」


 料理人がアリッサを見る。


「この街へ来たばかりで、周辺のことがまだ分からない。狩場の様子を見ておきたいんだ」


 アリッサは腰の剣を軽く示した。


「腕には自信がある。迷惑はかけない」


 料理人は少し考えたあと、あっさり頷いた。


「ああ、いいよ」


「本当か?」


「明日の朝、この店に来てくれ」


「分かった」


 アリッサは笑った。


 目の前の若い料理人が男前だったことも、少しだけ気になった。


 だが、このときのアリッサはまだ思っていた。


 明日は、この国の狩場を見せてもらうだけだと。


 そして自分の腕なら、料理人一人くらい十分に守れるだろう、と。




 翌朝、アリッサが食堂を訪れると、昨日の料理人はすでに店の前で待っていた。


「おはよう」


「ああ、おはよう。時間どおりだな」


 料理人は普段着に近い格好だった。


 腰に剣はない。槍も弓も持っていない。防具すら身につけていなかった。


 アリッサは眉をひそめた。


「武器は?」


「持ってないよ」


「……狩りに行くんだろう?」


「そうだけど?」


 料理人は不思議そうな顔をしている。


 アリッサは自分の装備を確認した。


 剣に短剣。革鎧。最低限の野営道具。


 対して料理人が持っているのは、食材を入れるためらしい大きな袋だけだった。


「魔法使いなのか?」


「魔法も使うよ」


 それなら分からなくもない。


 アリッサ自身も魔法を使える。ただし魔力には限りがある。狩りでは剣を主体にして、必要な場面だけ魔法を使うのが普通だった。


「行こうか」


「ああ」


 二人は街を出た。


 街道を歩きながら、アリッサは周囲を観察した。


 農地が広い。


 昨日市場で見た大量の農産物がどこから来るのか、少し分かった気がした。


 畑では多くの人が働いている。


 水路も整備されていた。


 遠くではゴーレムが土を運んでいる。


「ずいぶん農地が広いんだな」


「まだ増やしてるよ」


「まだ?」


「人も増えてるからね」


 料理人は何でもないことのように答えた。


 やがて街道を外れ、森へ向かう。


 アリッサは自然に周囲への警戒を強めた。


 森に入るなら魔物との遭遇に備えなければならない。


 ところが料理人の歩き方は変わらない。


「警戒しなくていいのか?」


「してるよ」


「そうは見えないが」


「索敵してるから」


 アリッサは足を止めかけた。


「索敵?」


「ああ」


「魔法か?」


「索敵スキル」


 また知らないものが出てきた。


 アリッサは質問しようとしたが、料理人が森の奥へ顔を向けた。


「オークがいるな」


「どこだ?」


「この先。六体」


 アリッサには何も見えない。


 物音すら聞こえなかった。


「本当に六体なのか?」


「うん」


「なら私が先に行こう」


「いいのか?」


「そのためについてきたようなものだ」


 アリッサは剣を抜いた。


 武家の名門ローゼンクランツ公爵家の娘として鍛えてきた。


 料理を馳走になった礼くらいはしてもいい。


 少し進むと、本当にオークがいた。


 数も六体。


 アリッサは思わず料理人を見た。


「本当にいたな」


「言っただろ?」


「そうだな」


 アリッサは気持ちを切り替えた。


 剣を構える。


「三体は私がやる。残りは任せていいか?」


「いいよ」


 料理人は相変わらず武器を持っていない。


 オークたちがこちらに気づいた。


 一体が棍棒を振り上げる。


 アリッサは地面を蹴った。


 振り下ろされた棍棒をかわし、懐へ入る。


 一閃。


 オークの腹を斬った。


 すぐに横へ跳び、二体目の攻撃をかわす。


 剣を返して腕を斬り、体勢を崩したところで首へ刃を入れる。


「二体!」


 三体目が迫る。


 アリッサは正面から剣を合わせず、横へ回り込んだ。


 脚を斬る。


 倒れたところへ剣を突き立てた。


「よし!」


 息を整えながら料理人を見る。


 これなら少しは腕を見せられただろう。


 そう思った。


「そっちは――」


 言葉が止まった。


 残り三体のオークは、すでに地面へ倒れていた。


「……え?」


「終わったよ」


 料理人は同じ場所に立っている。


 剣も持っていない。


 服にも血がついていなかった。


「何をした?」


「一体は首を捻った」


「首?」


「テレキネシスで」


 料理人は倒れたオークを指した。


 首が不自然な方向へ曲がっている。


「もう一体はバインドバレットで拘束して、ウォーターマスク」


「ウォーターマスク?」


「顔の周りを水で覆ったんだよ」


 つまり窒息させたらしい。


「最後の一体は?」


「同じ」


 アリッサは倒れているオークを見る。


 傷がない。


 血もほとんど流れていない。


 対して、自分が倒した三体を見る。


 腹を斬った一体。


 首を斬った一体。


 脚を斬り、剣を突き立てた一体。


 当然、血まみれだった。


 料理人がオークの前にしゃがみ込む。


「こっちの三体は綺麗だな」


 アリッサは眉を寄せた。


「綺麗?」


「肉を傷つけてないから」


「……肉?」


「俺、肉を取りに来たんだぞ?」


 言われて、アリッサは自分が倒したオークを見た。


 腹を大きく斬った一体から、血が流れ続けている。


 料理人は責めるでもなく言った。


「まあ、そっちも食えるところは十分あるよ」


 アリッサは返事をしなかった。


 自分は三体を倒した。


 剣士としてなら、悪くない戦いだったはずだ。


 だが今日は討伐依頼ではない。


 狩りだ。


 食材を取りに来たのだ。


「……私の方が、肉の価値を落としたのか?」


「少しはね」


 料理人はあっさり答えた。


 アリッサは剣についた血を見た。


 勝った。


 間違いなく自分も勝った。


 それなのに、初めてだった。


 魔物を倒したあとで、自分の剣の使い方に疑問を持ったのは。




 料理人は倒れたオークの前にしゃがみ込んだ。


「じゃあ、解体するか」


「ここでやるのか?」


「その方が楽だからな」


 料理人がオークに手を触れる。


 次の瞬間、アリッサは目を見開いた。


 オークの身体が見る間に解体されていく。


 皮、肉、内臓、骨、魔石。


 必要な部位が綺麗に分けられていった。


「……何をした?」


「解体」


「それは見れば分かる」


 アリッサは思わず声を強くした。


「どうやったのかと聞いている」


「解体スキルだよ」


「そんなスキルがあるのか?」


「あるよ」


 料理人は当然のように答え、次のオークへ手を伸ばした。


 また同じことが起きる。


 アリッサは自分が倒したオークを見る。


 武家の人間だから、魔物の解体を見たことくらいある。自分で簡単な解体をした経験もあった。


 だが、これは違う。


 速い。


 しかも無駄がほとんどない。


 料理人は六体を次々と解体していった。


「やっぱりこっちの方が状態がいいな」


 並べられた肉を見ながら料理人が言う。


 傷をつけずに倒した三体と、アリッサが剣で倒した三体。


 並べられると違いが分かった。


 アリッサは少し悔しくなった。


「剣で魔物を倒すことが間違っているわけではないだろう?」


「もちろん」


 料理人は即答した。


「討伐なら倒すことが優先だし、危ないときに肉の状態なんか気にしてられないだろ」


「なら――」


「でも今日は食材を取りに来たからな」


「……そうだな」


 反論できなかった。


 目的が違えば、最適な戦い方も違う。


 そんな単純なことに、今まで気づかなかった。


「もう少し狩るのか?」


「ああ。六体じゃ少ないからな」


 料理人が立ち上がる。


 再び森を歩き始めた。


 しばらくすると、料理人が足を止める。


「今度は八体」


「また分かるのか」


「索敵してるからな」


 やがて本当に八体のオークが現れた。


 アリッサは今度は剣を抜かなかった。


「見せてもらっていいか?」


「いいよ」


 料理人が右手を軽く上げた。


「バインドバレット」


 詠唱らしい詠唱もない。


 光が走り、八体のオークの動きが止まった。


「八体同時……」


 アリッサが呟く。


 続けて水がオークたちの頭部を包んだ。


 暴れている。


 だが拘束されているため逃げられない。


 しばらくすると、一体、また一体と動かなくなった。


 八体すべてが倒れる。


 料理人は平然としていた。


「終わり」


「待て」


「どうした?」


「今ので、どれだけ魔力を使った?」


「さあ?」


「さあ?」


「気にしたことないな」


 アリッサは料理人を凝視した。


「魔力切れは?」


「しないよ」


「そんなわけがあるか」


「魔力循環してるから」


 また知らない言葉だった。


「魔力循環とは何だ?」


「魔力を循環させるんだよ」


「それでは説明になっていない」


 料理人は困ったように頭を掻いた。


「俺、教師じゃないから説明は上手くないんだ。教導を受けたときに覚えたんだよ」


「教導?」


「知らない?」


「知らない」


「そうか。外国から来たんだったな」


 料理人はそれ以上説明せず、倒れたオークの解体を始めた。


 アリッサはその様子を黙って見ていた。


 索敵。


 テレキネシス。


 バインドバレット。


 ウォーターマスク。


 魔力循環。


 解体。


 そして教導。


 どれも自分は知らない。


 それを目の前の男は当たり前のように使っている。


「お前は……この国では有名な魔法使いなのか?」


「俺?」


 料理人が笑った。


「料理人だよ」


「それは知っている。そうではなくて、魔法使いとしてだ」


「別に普通だと思うけど」


「普通?」


「ああ」


 アリッサは言葉を失った。


 昨日、街で見た人々を思い出す。


 商人。


 農民。


 ゴーレム馬車を利用していた住民たち。


 もし、この男が本当に特別ではないのなら。


「……この国では、皆がこんなことをできるのか?」


「人によるよ」


 料理人は解体を終えた。


「覚えてるスキルも違うし、得意なことも違うからな」


 否定はしなかった。


 アリッサは背中に奇妙な寒気を覚えた。


 ローゼンクランツ公爵家は武家の名門だ。


 幼い頃から剣を振り、槍を学び、弓を引き、魔法まで修めた。


 そのことを誇りに思っている。


 だが目の前にいるのは料理人だ。


 武器すら持たず森へ入り、オークを傷つけることなく仕留め、魔力切れも起こさず、瞬く間に解体する。


「腹減ったな」


 料理人が突然言った。


「……何?」


「昼飯にしよう」


 そう言うと、料理人は先ほど解体したばかりの肉を取り出した。


「せっかくだから、焼いて食おう」


 アリッサは呆然とその姿を見ていた。


 まだ何かあるのか。


 そんな予感だけがしていた。




 ロルフは解体したオーク肉の中から、脂の具合がいい部分を選んだ。


「ここで料理するのか?」


「ああ。腹も減ったしな」


「調理道具は?」


「持ってきてるよ」


 ロルフが手を動かすと、鍋や鉄板、包丁、まな板、皿、調味料が次々と現れた。


「アイテムボックスか」


「ああ」


 それくらいならアリッサも知っている。


 ロルフは地面を魔法で平らにすると、鍋を置いた。


 水を出して鍋へ入れ、切り分けた骨と肉を加える。


 だが、薪を集めようとはしなかった。


 火も起こさない。


 そのまま鍋へ魔力を流す。


 しばらくすると鍋の中から湯気が立ち始めた。


「……火を使わないのか?」


「使わないよ。魔力で加熱してる」


 ロルフは別の肉を切り分け、鉄板へ並べた。


 今度は鉄板へ魔力を流す。


 肉の焼ける音が響き、脂が弾けた。


 香ばしい匂いが森の中に広がっていく。


 アリッサは黙ってその様子を見ていた。


 魔法を戦いに使うことは珍しくない。


 だが、目の前の男は料理にも当たり前のように魔力を使っている。


 しかも疲れた様子がない。


 先ほど八体のオークを魔法で仕留めたばかりだ。


「本当に魔力切れしないんだな」


「しないよ」


「これだけ使い続けても?」


「ああ」


 魔力循環。


 先ほどロルフが口にした言葉を、アリッサはもう一度思い出した。


「焼けたぞ」


 ロルフが肉を皿へ盛った。


「食ってみて」


 アリッサは一切れ口へ運ぶ。


「旨い」


 焼きたての肉は柔らかく、脂にも甘みがあった。


 昨日食堂で食べた煮込みも旨かったが、狩ったばかりの肉をその場で食べるのも悪くない。


「こっちも食うか?」


 もう一枚の皿が差し出された。


「何が違う?」


「そっちは、あんたが剣で倒した方」


「私が?」


 アリッサは食べてみた。


「……普通に旨いぞ」


「同じオークだからな」


「では、何が違うんだ?」


「剣で傷つけたところは少し撥ねた。その分、取れる肉が減ったくらいだよ」


 アリッサは納得した。


「なるほど」


 腹を斬った個体も、首を斬った個体も、食べられなくなったわけではない。


 傷ついたところを取り除けばいい。


 ただ、最初から傷をつけずに仕留めれば、その分だけ無駄が少なくなる。


「私の狩り方だと、少し価値が落ちるわけか」


「肉を取るならな」


「討伐なら?」


「倒せばいいだろ」


 ロルフはあっさり答えた。


「危ないときに肉の状態なんか気にしてられないしな」


「確かにそうだ」


 アリッサは笑った。


 剣が劣っているわけではない。


 ただ、目的が違う。


 魔物を討伐するための戦いと、食材を得るための狩りでは、適した方法も違う。


 今まで考えたことがなかった。


 やがて鍋から濃い香りが漂い始めた。


「スープもできたぞ」


 器を受け取って口をつける。


 骨から出た旨味が濃い。


「これも旨いな」


「店で出す料理人だからな」


「そうだった」


 アリッサは笑いながら、もう一口飲んだ。


 剣も槍も持たずに森へ入り、オークを狩る。


 その場で解体し、魔力で調理する。


 それで本人は料理人だと言う。


「ロルフ」


「何だ?」


「さっき言っていた教導というものだが、それを受ければ私も魔力循環を覚えられるのか?」


「やってみないと分からないけど、俺は教えてもらって覚えたよ」


「索敵も?」


「ああ」


「無詠唱の魔法も?」


「それも教わった」


 アリッサは少し考えた。


「誰に頼めばいい?」


「冒険者ギルドへ行けばいいよ。教導できる人を紹介してくれる」


「そうか」


 ならば行ってみる価値はある。


 知らない技術がある。


 しかも自分にも習得できる可能性がある。


 武家の人間として、興味を持たない方がおかしい。


「明日、冒険者ギルドへ行ってみる」


「そうすればいいよ」


 食事を終えると、ロルフは調理道具を片づけた。


 解体した肉も次々と収納していく。


「これだけあれば、しばらく店も困らないな」


「もう帰るのか?」


「ああ」


 二人は街へ向かって歩き始めた。


 アリッサは隣を歩くロルフを横目で見た。


 男前だ。


 料理も旨い。


 狩りもできる。


 そして自分が知らなかったことを、いくつも当たり前のように知っている。


「ロルフ」


「ん?」


「明日も店にいるのか?」


「いるよ。今日の肉を仕込まないといけないからな」


「そうか」


 アリッサは前を向いた。


 冒険者ギルドへ行く。


 教導というものを受けてみる。


 そのあと、またあの食堂へ行こう。


 第78アルデバラン王国には、まだ知らないものがたくさんある。


 そしてどうやら、もう少し知りたいと思う相手までできてしまったようだった。





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