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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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220 師団毎の采配

 アイクは騎士団本部に若手騎士たちを集めた。


 アギト、ポール、ボーデン、スペンサー、パトリック、チェース、ブレンドン、ジェームソン、シェーン、コルネリズ。


 いずれも実戦と教導を重ねてきた若手の男性騎士だった。


「アギトたちには冒険者ギルドへ行ってもらう」


 アイクが告げる。


「バルド殿に掃討作戦の実施を伝え、協力を依頼してきてくれ」


「冒険者には何を頼むのでしょうか?」


 アギトが尋ねた。


「役割を分ける」


 アイクは今回の作戦を説明する。


「索敵、捕縛、拘束、処理は騎士団が行う。保護までが我々の仕事だ」


 ポールが頷く。


 そこまでは前回と大きく変わらない。


「保護した後を冒険者に任せたい。食事、治療、そして教導だ」


 今回は最大で二十五億人。


 十三億五千万人を保護した前回より、さらに規模が大きい。


 だが、以前と同じ人数を教師として用意する必要はなかった。


「現在、本国の人口は一億人だ」


 アイクは続けた。


「住居も食料も、今のところ余裕はある。だが二十億、二十五億人を長期間抱えるつもりはない」


「早期に自立させるのですね」


「ああ。可能な限り早く教導を進め、自分たちで暮らせるようになった者から独立してもらう」


 追い出すという意味ではない。


 読み書き。


 計算。


 鑑定。


 教導。


 農業、狩猟、調理、治療、建築、土木、行政。


 生きていくために必要なものを身につけ、自分たちで社会を作れるようになれば、保護を続ける理由はない。


「冒険者には教導スキルレベル十の者が百万人いるからな」


 アギトが笑った。


「それならバルド殿も断らないでしょう」


「私もそう思う。頼んだぞ」


「はっ」


 十人は騎士団本部を出た。


 ほどなく冒険者ギルドへ到着する。


 中へ入ると、顔馴染みの職員がすぐに気付いた。


「アギトさん。今日は十人揃ってどうしたんです?」


「バルド殿に話がある」


「少々お待ちください」


 しばらくして十人は奥へ通された。


 ギルドマスターのバルドが迎える。


「珍しい顔触れだな」


「アイク団長からの依頼です」


「聞こう」


 アギトは計画を説明した。


 大陸の広域索敵によって、清算が必要になる可能性の高い国がまだ百か国ほど確認されていること。


 今後、二十億から二十五億人規模の難民が発生すると予測されていること。


 そして騎士団が再び掃討と保護を始めること。


「騎士団が索敵、捕縛、拘束、処理を行います。住民を安全な場所へ保護するところまで我々が担当します」


「その後か」


「はい。食事と治療、それから教導を冒険者ギルドにお願いしたい」


 バルドはすぐに理解した。


「教導スキルレベル十を使うわけだな」


「百万人いますから」


「育てた甲斐があったな」


 バルドは笑った。


 以前なら考えられない人数だった。


 教師を百万人集めるだけでも不可能に近かったはずだ。


 今は違う。


 教わった者が、次の者を教えた。


 その者がさらに別の者を教えた。


 それを繰り返した結果が、百万人の教導スキルレベル十だった。


「食事も問題ない」


 バルドは続ける。


「冒険者なら調理できる者はいくらでもいる。治癒魔法も使える。教導まで任せてもらえるなら、こちらとしてもやりやすい」


「引き受けていただけますか?」


「任せてくれ」


 即答だった。


 アギトたちは顔を見合わせた。


「ありがとうございます」


「礼はいらん。騎士団が二十五億人を保護して、全部面倒を見る方が無茶だ」


「確かに」


 アギトも笑った。


 役割を分ければいい。


 騎士団は危険な場所へ入る。


 犯罪者を見つける。


 捕縛する。


 拘束する。


 必要なら処理する。


 そして被害を受けている人々を保護する。


 安全になった後は冒険者が引き継ぐ。


 食べさせる。


 治療する。


 教える。


 教わった者が、また別の者へ教える。


 前回の経験から生まれた役割分担だった。


 話を終えた十人は冒険者ギルドを出た。


「戻ろう」


 アギトの言葉に九人が頷く。


 すでに騎士団では出動準備が始まっている。


 最初の対象も決まっていた。


 軍を離れた騎士たちが集団となり、周辺住民や難民を襲っている地域。


 そこから掃討を開始する。


 今回は、以前と同じやり方ではない。


 五つの師団が動く。


 それぞれ十万人。


 合計五十万人。


 師団の下には大隊、中隊、小隊、分隊が置かれ、それぞれの指揮官が自分の担当を判断する。


 アギトたちが騎士団本部へ戻った時には、すでに五十万人の騎士が出動を待っていた。


 アイクが彼らを見る。


「バルド殿は?」


「快諾されました」


「よし」


 アイクは五つの師団へ出動を告げた。


「作戦開始だ」


 次々と騎士たちの姿が消える。


 十万人単位の師団が、それぞれの担当地域へ転移していった。




 最初の対象は、騎士崩れや兵士崩れが難民を襲っている地域だった。


 国が機能しなくなり、給金も食料も失った者たちが武器を持ったまま集団化している。


 食料を奪う。


 金品を奪う。


 抵抗する者を傷つける。


 中には殺人まで犯している者もいた。


 五つの師団は、それぞれの担当区域へ転移した。


 一個師団十万人。


 師団長の下に大隊、中隊、小隊、分隊が配置され、それぞれが担当区域へ散開する。


「索敵開始」


 広域索敵が始まった。


 騎士崩れ。


 兵士崩れ。


 難民。


 それぞれの位置を確認していく。


 同時に事実確認も進められた。


 誰が何をしたのか。


 誰を害したのか。


 何を奪ったのか。


 必要なのはそれだけだった。


「ステルス」


 騎士たちの姿が消えた。


 視認させる必要はない。


 相手に気付かれれば逃走する者が出る。難民を盾にする者が出る可能性もある。


 ならば、何もさせなければいい。


 騎士たちは姿を消したまま接近した。


 騎士崩れたちは何も知らない。


 兵士崩れたちも、近くに騎士団がいることさえ気付いていなかった。


 そして突然、武器が消え始めた。


「アボート」


「アボート」


「アボート」


 アボートの嵐だった。


 剣が消える。


 槍が消える。


 弓が消える。


 盾も消える。


 杖も消える。


 腰に差していた予備の武器まで消えていく。


「何だ!」


「剣が消えたぞ!」


「誰だ!」


 騒ぎ始めた時には、すでに次のアボートが発動していた。


 馬が消える。


 騎乗していた者が地面へ落ちた。


 武器を失った。


 逃走手段も失った。


 それでも相手の姿は見えない。


 次に飛んだのはバインドバレットだった。


 捕縛。


 拘束。


 抵抗しようにも武器はない。


 逃げようにも馬もない。


 何より、誰に攻撃されているのかさえ分からなかった。


 事実確認によって犯罪行為が確認された者から処理されていった。


 騎士だったか。


 兵士だったか。


 どこの国に仕えていたか。


 そんなことは関係ない。


 見るのは行為だった。


 難民を襲った。


 食料を奪った。


 金品を奪った。


 人を傷つけた。


 殺した。


 確認された事実に従って処理する。


 処理後にはアンデッド対策を施した。


 その後、森へ散布する。


 やがて分解され、森へ還る。


「ステルス解除」


 騎士たちの姿が現れた。


 怯えていた難民たちが驚いて周囲を見る。


「もう大丈夫です」


「騎士崩れと兵士崩れは処理しました」


「怪我をしている者からこちらへ」


 難民たちの保護が始まった。


 負傷者。


 子ども。


 老人。


 動けない者。


 順番に安全な場所へ移していく。


 保護したところで冒険者へ引き継ぐ。


 食事。


 治療。


 教導。


 そこから先は冒険者たちの仕事だった。


 騎士団は次の地域へ転移する。


 索敵。


 事実確認。


 ステルス。


 アボート。


 武器を奪う。


 馬を奪う。


 捕縛。


 拘束。


 処理。


 アンデッド対策。


 森へ散布。


 難民を保護する。


 同じ流れが各地で繰り返された。


 一日でおよそ二億人を保護した。


 処理される犯罪者は五百万人を超えた。


 翌日も続いた。


 三日目も続く。


 五つの師団はそれぞれの担当区域を判断し、自分たちで動いていった。


 アイクが一個分隊の動きまで指示することはない。


 師団長が判断する。


 大隊長が判断する。


 中隊長が判断する。


 小隊長、分隊長も現場を見て判断する。


 十日間。


 作戦は途切れることなく続いた。


 結果、保護した難民は二十億人以上。


 処理した犯罪者は五千万人以上。


 前回より規模は大きかった。


 それでも作業は以前よりスムーズに終わった。


 経験がある。


 役割分担もできている。


 そして、現場で判断できる者が育っていた。


 保護された難民たちも滞留しなかった。


 先に保護された者から教導する。


 先入れ先出しだった。


 教わった者に教導スキルが発現する。


 その者が次の者を教える。


 さらに教導できる者が増える。


 農業。


 狩猟。


 調理。


 治癒。


 紡織。


 鍛冶。


 建築。


 土木。


 行政。


 物流。


 生活を維持するための技能が次々と広がっていった。


 やがて自分たちで生活できると判断した者たちが、独立を申し出た。


 一国五千万人。


 四十か国。


 第131アルデバラン王国から始まり、新しい国が次々と建立された。


 第150アルデバラン王国。


 第160アルデバラン王国。


 そして第170アルデバラン王国。


 報告を確認したオーキスは何も言わなかった。


 クレインも何も言わない。


 百三十か国が百七十か国になった。


 今さら四十か国増えた程度で、二人とも何を言えばいいのか分からなかった。


 ただ一つ。


 妙なことだけは確認されていた。


 二十億人以上の保護者。


 その全員に、


 《アルデバラン国民》


 が発現していた。


 オーキスは黙っていた。


 クレインも黙っていた。


 その理由は、やはり誰にも分からなかった。




 二十億人以上の保護と五千万人以上の犯罪者の処理。


 十日間に及んだ大規模な作戦は終了した。


 だが、騎士団の仕事そのものが終わったわけではない。


 アイクはアッシュ、ロックウェルとともに、作戦結果を確認していた。


「五つの師団から報告が揃った」


 アイクが言った。


 今回の作戦では、師団ごとに担当地域を割り振った。


 さらに師団長が大隊へ。


 大隊長が中隊へ。


 中隊長が小隊へ。


 小隊長が分隊へ。


 必要な範囲を割り振り、それぞれが現場で判断した。


 以前のように細かな判断を上へ確認することはほとんどなかった。


「大きな問題はなかったな」


 アッシュが言う。


「ああ」


 ロックウェルが頷いた。


「むしろ以前より早かった」


 アイクも同意する。


「五十万人を一つの部隊として動かそうとしなかったのが良かった」


 五つの師団。


 五十万人。


 その人数をアイク一人が直接動かすなど不可能だった。


 だが、そんな必要は最初からなかった。


 師団長には師団長の仕事がある。


 大隊長には大隊長の仕事がある。


 中隊長、小隊長、分隊長も同じだった。


 索敵によって状況は確認できる。


 念話も使える。


 必要なら転移もできる。


 その上で、自分の担当区域を見て判断する。


 それだけだった。


「次からもこの形でいいだろう」


 アッシュが言った。


「そうだな」


 アイクは頷いた。


「ただし、編成を固定する必要はない。相手によって変えればいい」


「今回は騎士崩れや兵士崩れが中心だったからな」


 ロックウェルが答える。


 武器を持った集団が難民を襲っている。


 それなら騎士団が先に入る。


 索敵する。


 ステルスで接近する。


 アボートで武器と馬を奪う。


 捕縛、拘束。


 事実を確認した上で処理する。


 難民を保護する。


 そこから冒険者へ引き継ぐ。


 役割が明確だった。


 だが、いつも同じとは限らない。


「相手が魔物なら?」


 アッシュが聞いた。


「狩る」


 アイクが即答した。


「食えるなら食料だ。素材が取れるなら資源にする」


「盗賊なら?」


「今回と同じだ」


「病なら?」


「俺たちより治癒のできる者を先に送る」


 アッシュが笑った。


「分かりやすいな」


「何でも騎士団で解決しようとする方がおかしい」


 アイクはそう言って、作戦結果を閉じた。


 騎士団には騎士団の役割がある。


 冒険者には冒険者の役割がある。


 行政官には行政官の役割がある。


 料理人には料理人の役割がある。


 必要な者が、必要な場所で動けばいい。


 今回、それが二十億人以上という規模でも機能することが確認できた。


 一方、冒険者ギルドではバルドも忙しく動いていた。


「次の五千万人、教導終了しました」


「独立準備へ回してくれ」


「はい」


「新しく保護された者は?」


「食事と治療が終わった者から教導へ入っています」


「先に来た者から順番だ。滞留させるな」


「分かりました」


 保護された者を長期間養い続けることが目的ではない。


 食べられるようにする。


 身体を治す。


 教える。


 自分で暮らせるようになったら、次へ進んでもらう。


 五千万人が独立すれば、その分だけ受け入れる余裕が戻る。


 さらに独立した国でも教師が育つ。


 そこへ次の保護者を送ることもできる。


 百三十一番目から百七十番目までのアルデバラン王国は、建国した直後から動き始めていた。


 農地を作る。


 住居を建てる。


 食料を生産する。


 狩りへ行く。


 行政を整える。


 必要な仕事を自分たちで分担する。


 すでに教導を終えている。


 誰かが一から教え直す必要はなかった。


 バルドはその様子を確認して笑った。


「もう俺たちが行く必要もないな」


 職員が尋ねる。


「様子を見に行かなくてもいいのですか?」


「困ったら向こうから言ってくるだろう」


「確かに」


 助けたからといって、いつまでも面倒を見る必要はない。


 自分たちでやれるなら任せればいい。


 その頃、王宮ではオーキスが第170アルデバラン王国まで増えた国名を眺めていた。


「クレイン」


「はい」


「百七十だそうだ」


「はい」


「余は何かしたか?」


 クレインは少し考えた。


「アイク殿に作戦立案を命じられました」


「それだけか」


「それだけでございます」


 オーキスはしばらく黙った。


「そうか」


「はい」


 二人の視線の先には、もう一つの情報が表示されていた。


 二十億人以上。


 《アルデバラン国民》発現。


 オーキスはそれについて聞かなかった。


 クレインも説明しなかった。


 聞いたところで、分からない。


 それだけは二人ともよく分かっていた。




 五つの師団による掃討作戦が終わって数日後。


 エミリーとエミリアは王宮を訪れていた。


 オーキス、クレイン、アイク、アッシュ、ロックウェルが二人を待っている。


「それで、どうなった?」


 オーキスが尋ねた。


「清算が必要になると予測される国は、かなり減りました」


 エミリーの答えに、オーキスが僅かに眉を上げた。


「ようやく減ったか」


「はい。前回は百か国前後と予測していましたが、今回の掃討と二十億人以上の保護によって状況が大きく変わっています」


 エミリアが続ける。


「人口流出が続いている国はあります。ただ、以前ほど急激ではありません」


「理由は?」


「為政者側も気付いたのでしょう」


 エミリーが答えた。


「民を害し続ければ、人がいなくなると」


 すでに実例がいくつもある。


 徴税を増やす。


 徴発する。


 兵士を送り込む。


 逃げようとする民を止める。


 それを続けた国から、人がいなくなった。


 残った生産者へさらに負担をかければ、次の者が逃げる。


 最後には国家そのものを維持できなくなる。


 それを目の前で見た国も多かった。


「学習したということか」


 アッシュが言った。


「少なくとも、同じことを続ければ同じ結果になることには気付いたようです」


 エミリアが答えた。


 オーキスは椅子にもたれた。


「それならよい」


 国を清算すること自体が目的ではない。


 民が害されなくなるなら、それでいい。


 アイクが尋ねる。


「犯罪組織の方は?」


「そちらも大きく減りました」


 エミリーが答えた。


「多少の混乱はありましたが、盗賊団、人攫い集団、奴隷商集団。いずれも活動が確認できなくなっています」


「処理したのか?」


「いいえ」


 エミリアが首を振った。


「少なくとも騎士団が処理した者ではありません」


 アイクは黙って続きを待った。


「逃げたのでしょう」


「逃げた?」


「はい。勝てないと悟ったのだと思います」


 エミリーはこれまでの変化を確認する。


 犯罪組織を作る。


 人を襲う。


 騎士団に発見される。


 索敵される。


 ステルスで接近される。


 武器を奪われる。


 馬を奪われる。


 捕縛される。


 逃げることも抵抗することもできない。


 それが各地で繰り返された。


「相手からすれば、どう戦えばいいのか分からないでしょう」


 ロックウェルが言った。


「こちらの姿を見る前に武器がなくなるからな」


「そういうことです」


 エミリアが頷く。


「犯罪組織側にも情報は伝わります。仲間が戻らない。別の集団も消えた。さらに別の地域でも同じことが起きる」


「それなら逃げるか」


 アッシュが納得した。


「はい。ただし、逃げた者たちがどこへ行ったのかは確認できていません」


 オーキスが尋ねる。


「ならば、まだ犯罪者として活動している可能性があるのではないか?」


「その可能性を考えて調べました」


 エミリーが答えた。


「ですが、集団としての活動は確認できません」


 エミリアも続ける。


「それどころか人数そのものが減っています」


 アイクが二人を見る。


「どういうことだ?」


「同士討ちがあったのではないかと考えています」


 しばらく沈黙した。


 クレインが尋ねる。


「根拠は?」


「逃走前に確認されていた人数と、その後に確認できた人数が一致しません」


 エミリーが答えた。


「騎士団による処理ではありません。大規模な魔物被害も確認されていません」


「なら、内部で争った可能性が高いと?」


「はい」


 食料。


 金。


 逃走先。


 誰が指揮を執るのか。


 それまで人から奪うことで成立していた集団が、追われる側になった。


 奪う相手がいなくなれば、持っている者同士で奪い合う。


「断定はできません」


 エミリアが付け加えた。


「ですが、状況から見れば同士討ちが起きた可能性は高いと思われます」


 オーキスはしばらく考えた。


「逃げた者は追うのか?」


 アイクが答える。


「犯罪を続けるなら索敵で見つけます」


「やめたなら?」


「何もしません」


「そうか」


 それで話は終わった。


 過去に盗賊だったから追い続けるわけではない。


 今、人を害しているなら止める。


 害していないなら、騎士団が動く理由はなかった。


 エミリーが最後の情報を表示する。


「大陸全体で見れば、清算が必要になる国も、犯罪組織も確実に減っています」


 アッシュが息を吐いた。


「やっと終わりが見えてきたか」


「まだ終わってはいません」


 エミリアが答えた。


「ですが、以前とは違います」


 アイクは大陸全域の情報を眺めた。


 赤く示されていた場所が、明らかに減っている。


 誰かが大陸を征服したわけではない。


 すべての国へ命令した者もいない。


 それでも、人を害して利益を得ることが少しずつ難しくなっていた。


 大陸は、確実に変わり始めていた。




 大陸各地で騎士団の掃討作戦が行われていた頃、王子たちの学びも続いていた。


 リヴィア、レックス、イヴァン、コールの四人が次に訪れたのは、第14アルデバラン王国だった。


 四人を迎えた国王マルキースは、早速研究施設へ案内した。


「第14アルデバラン王国では、魔法研究を行っています」


 施設内には様々な魔道具が並んでいた。


 照明。


 加熱器具。


 冷却器具。


 温度を一定に保つもの。


 水を送り続けるもの。


 風を起こすもの。


 生活に使う小さな魔道具だけではない。


 農業、食品加工、建築、鍛冶などに利用するための魔道具も研究されていた。


 レックスが一つの魔道具を手に取る。


「魔法を使えば同じことができますよね?」


「できます」


 マルキースはあっさり認めた。


「では、なぜ魔道具にするのですか?」


「誰かがそこに立って、ずっと魔法を使う必要がなくなるからです」


「ああ」


 レックスはすぐに納得した。


 魔力循環がある。


 魔力切れを心配する必要はない。


 だが、人間の時間まで無限にあるわけではなかった。


 水を流し続けるだけのために一人を配置する必要はない。


 一定の温度を維持するだけなら、魔道具に任せればいい。


 リヴィアが尋ねる。


「第12王国の物流ゴーレムと似ていますね」


「考え方は同じです。人がやらなくてもいいことを道具に任せています」


 マルキースは一つの小さな照明器具を四人の前に置いた。


「では、作ってみましょう」


 教導が始まった。


 まず構造を理解する。


 どこから魔力を受けるのか。


 どこへ流すのか。


 何を発動させるのか。


 どうすれば安定するのか。


 四人は簡単なものから作り始めた。


 リヴィアの最初の照明は光らなかった。


「……失敗ね」


「ここです」


 マルキースが一か所を指した。


「魔力の流れが途切れています」


 修正する。


 もう一度魔力を流す。


 今度は光った。


「できたわ」


 レックスたちも次々と完成させていく。


 加熱。


 冷却。


 送風。


 散水。


 作っているうちに、四人の身体が淡く光った。


 リヴィアが鑑定する。


「魔道具作成スキルが発現したわ」


「僕もだ」


「俺も」


「私もです」


 四人全員に魔道具作成スキルが発現していた。


 マルキースが満足そうに頷く。


「これで教わったものを作るだけではなく、自分たちで考えることもできます」


 リヴィアは完成した照明をアイテムボックスへ収納した。


「持って帰ってもいいですか?」


「自分で作ったものですよ」


「そうでした」


 リヴィアが笑った。


 四人はマルキースに礼を言い、第14アルデバラン王国を後にした。


 次に向かったのは、第15アルデバラン王国だった。


 国王ラルキムが四人を迎える。


「お待ちしていました。こちらへどうぞ」


 案内された場所には、大量の樽や容器が並んでいた。


 穀物。


 果実。


 芋類。


 様々な原料も置かれている。


 空気には独特の香りが漂っていた。


「ここでは酒造と醸造を行っています」


 コールが樽を見ながら尋ねる。


「酒を作っているのですか?」


「酒だけではありません。醸造で作れるものはいろいろありますよ」


 ラルキムは発酵の状態が異なるものを順番に見せた。


 同じ原料でも、使うものや温度、時間によって結果が変わる。


「発酵なら以前にも習いました」


 イヴァンが言った。


「なら話は早いですね」


 ラルキムが笑った。


「今日はそこから酒造と醸造へ広げましょう」


 四人は実際に仕込みを体験した。


 原料を処理する。


 種麹を使う。


 種酵母を使う。


 温度を調整する。


 状態を鑑定しながら変化を確認する。


 リヴィアが容器の中を見た。


「生きているみたいね」


「実際、扱いを間違えれば結果が変わります」


 ラルキムは小さな容器を用意した。


「これを持っていってください」


「これは?」


「種麹と種酵母です」


 四人分が用意されていた。


「いいのですか?」


「もちろんです。自分たちでも作ってみるのでしょう?」


 レックスが笑った。


「やります」


 四人は種麹と種酵母を受け取り、それぞれアイテムボックスへ収納した。


 その直後だった。


 四人の身体が淡く光る。


「まただ」


 コールが自分を鑑定した。


 酒造スキル。


 醸造スキル。


 四人全員に二つのスキルが発現していた。


 イヴァンが笑う。


「これで酒も造れるな」


「飲むためだけに覚えたわけではないでしょう?」


 リヴィアが呆れる。


「もちろん」


「今、一瞬考えたでしょう」


 四人の笑い声が響いた。


 第14アルデバラン王国では魔道具作成。


 第15アルデバラン王国では酒造と醸造。


 王子たちが学ぶものは、また増えた。


 それでも、まだ第15アルデバラン王国だった。


 現在、アルデバラン王国は第170まである。


 四人の旅は、まだまだ先が長かった。





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